幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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閑話 それぞれの極振り攻略戦(vsアキ)

 極振りの1人、Str極振りのアキが創造したダンジョンは、他の物と比べても単純明快で、それでいて異質だった。1層から本人が待つ10層まで、全てがボス部屋。それでいて大抵のボスが群体や複数体ではなく単体で、高レベルに揃っている。

 そして、本来ギミックなどに使うべきリソースをモンスターに全投入した為、ボス部屋と階段以外存在しない勝ち抜き戦形式のダンジョンになったのだった。

 

 1階層のボスレベルは40

 攻略に来る猛者にとっては、軽く倒せる相手だ。

 

 2階層のボスレベルは45

 まだ余裕と言って差し支えない程度の相手だ。

 

 3階層のボスレベルは50

 

 4階層のボスレベルは55

 

 5階層のボスレベルは60

 漸くここで、現行の常設ボス【機天・アスト】にレベルが追いつく。ボスの特殊行動も増え、なかなかキツくなって来る。

 

 6階層のボスレベルは65

 

 7階層のボスレベルは70

 ここで、中途半端な気持ちで挑んだプレイヤーは振り落とされる。膨大なHPと高い防御と攻撃性能。更に特殊行動の増加で、プレイヤーは篩にかけられる。

 

 8階層のボスレベルは75

 更にボスが強化され、現時点では1パーティでは攻略不能とされている。

 

 9階層のボスレベルは80

 この塔特有の10PT同時参加が前提の難易度で、少しでも戦線が崩壊すれば敗北は免れないクソ難易度。

 

 だが、それでも突破して来る変態(ガチ勢)は沢山いる。それはつまり、他の趣向と嫌がらせを尽くしたダンジョンに比べれば、プレイヤーとの接敵も撃破される可能性も高くなる。それに加え、最大60人のプレイヤーを1人で相手にしなければならない。事実、全極振り中アキは最も早くプレイヤーとの戦闘を開始している。

 

 しかし、未だ無敗。

 

 イベント期間も折り返しを過ぎ、ユキは本体が【すてら☆あーく】に、デュアルがNPCをそれぞれ撃破された今も、本人もNPCも黒星をつけられてはいなかった。

 

 

「急いで戦車を出せ! 60秒以内に潰さない限り、俺たちに勝ち目はないぞ!」

「了解!」

「弾は焼夷榴弾だ! 少しでも継続ダメージで可能性を増やせ!」

「了解!」

「圧裂弾を……出せ!」

「誰だ今の!?」

 

 中央に空のポッドが配置され、鋼鉄の床と配管の通ったドーム状の屋根になっているボス部屋。そこで今、大勢の人間が忙しなく動いていた。

 プレイヤー29人による7台の戦車。プレイヤー7名による戦闘機1台。そして12人の遠距離武器で固めたプレイヤー。12名の脱落者を経て、たった1人のボスを倒す為だけにこの数のプレイヤーが集まっていた。

 

「なあ、おい。本当にいいのかよ」

「ああ、構わん。俺は、ここまで来た猛者達と本気の戦いを望んでいる。それに、勝つのは俺だ」

 

 アキを取り囲んでいたプレイヤーの1人が問いかけ、アキが堂々とそれに答えた。それはボスとしては、間違いのない確かなものなのだが……当然、不満に思う者もいる。

 

「けっ、自分が強いからって嫌味ったらしい。見下しやがって」

「見下す? 冗談を言うな。ここまで来たお前たちを尊敬することはあれ、見下すことなどあり得ない」

「これだから極振りは」

 

 あまりにも強い力。運営からボスにされる信頼。その他諸々特別と判断できる何かを妬み、僻み、貶そうとする者は尽きない。

 

「この力は、あくまで俺がゲーム内で、システムの範疇で鍛えたものだ。何も恥じることはない」

 

 けれど、それくらいは弾き返してこその極振りだった。何か1つの能力だけに特化して、それしか使えないなんて正気じゃやっていられないのである。正気でしかいられない奴は極振りを辞め、発狂に適合した変態だけが生き残るのだ。

 

「おい、そこの! そんな場所にいたら即死するぞ!」

「はいよ」

 

 そうこうしている間に、挑戦側の準備が整ったらしい。アキを包囲して、集中砲火で消し飛ばすような配置が完成していた。

 

「準備は整ったようだな」

 

 その配置を見渡して、アキは7つある鞘から2本だけ刀を抜き放った。その片方には複数の分割線が存在し、もう片方は通常より僅かに短い形状だった。同時に、戦車とアキの間にカウントが出現する。

 

 5

 4

 3

 2

 1

 

 カウントが0になった瞬間、爆炎と魔法の嵐が現出した。火を噴く銃、炸裂する魔法、戦車砲が作り出す鏖殺の地獄。並のガチプレイヤーなら10度殺しても十分お釣りがくる大火力。

 

「さあ、ここに始めよう。最後の戦いを。

 創生せよ、天に描いた星辰を──我らは煌めく流れ星」

 

 やったか?と安心したプレイヤーの頭上から、全プレイヤー中最強の火力を降臨させる詠唱(ランゲージ)が紡がれた。

 遂に極振りの全身全霊が、かつては億にすら届いた力が、レイドボスではなく矮小なプレイヤーに向け解放される。

 

「巨神が担う覇者の王冠。太古の秩序が暴虐ならば、その圧政を我らは認めず是正しよう」

 

 砲撃の嵐を避けた方法は簡単。単純に、飛び上がっただけだ。けれどそれを、10,000を軽く超えるStrで行えばどうなるか。それは、並のプレイヤーを置き去りにする速度となる。ロスを考えるとしても、その最高速度はAgl換算で7,500に達する。力1つを突き通し、突き抜けてなお進むからこそ到達した境地だった。

 

「勝利の光で天地を照らせ。清浄たる王位と共に、新たな希望が訪れる」

 

 当然、そんな無茶を行うには莫大な代償が必要となる。現に、アキのHPは既に残り1。発動準備中の《特化紋章術》の効果である『特殊効果によるダメージ無効』で生き長らえているに過ぎない。

 加えて言えば、攻撃力+2000%などというふざけた効果の代償に、毎秒1000ダメージと自ら痛覚減少レベルを下げたことによる痛みさえ伴っている。具体的には普通のプレイヤーが感じる痛みがプラシーボ効果のようなものに対し、アキがスキル中に受ける痛みは箪笥の角に小指をぶつけた程度。それが毎秒、連続して全身を襲うのだ。極振り以外はやることのないそれを、アキは気合と根性だけで耐え実行している。

 

 故にこそ、それは、至高。

 それは、最強。

 それは、究極。

 それ以外に、形容すべき言葉なし。

 

「百の腕持つ番人よ、汝の鎖を解き放とう。鍛冶司る独眼(ひとつめ)よ、我が手に炎を宿すがいい。大地を、宇宙を、混沌を──偉大な雷火で焼き尽くさん」

 

 退避地にされた空を舞うF15擬きが、プレイヤーごと17に分割された。

 地を駆ける戦車が、銃火器を乱射していたプレイヤーが、戦車から逃げ出したプレイヤーが。落下してきたアキが振るった、日本刀型の蛇腹剣に触れた瞬間砕け散った。

 

「聖戦は此処に在り。さあ人々よ、この足跡へと続くのだ。約束された繁栄を新世界にて齎そう」

 

 そして生まれ出ずるのは、闇を滅ぼすような圧倒的な光だった。爆発直前の超新星のように、刀が収まった鞘がカタカタと揺れその僅かな隙間から、他の追随を許さない黄金光が溢れ出す。

 

特化付与(オーバーエンチャント)──閃光(ケラウノス)

 

 戦闘開始から60秒。遂にスキルが完全発動する。

 Str以外全てを代償に生まれた、己の敵を余さず全て焼き払う絶対の炎。アキが憧れRP(ロールプレイ)を目指す、某ゲームの光の英雄。総統閣下の超新星。至るべく、掲げる永遠の目標。その名は──

 

超新星(Metalnova)──天霆の轟く地平に(Gamma-ray)、闇はなく(Keraunos)

 

 アキの持つ刀が、蛇腹剣と小太刀から双方耐久値が皆無なガラスの刃に変わる。瞬間、刀剣が纏っていた僅かな輝きが爆発的に膨れ上がった。

 あのレイドボス戦の中。絶望の渦中にいたプレイヤーたちが仰ぎ見た、キチガイどもが放った埒外の力の1つ。参戦していたプレイヤーが記憶に刻んだ、その中でも一際印象に残る黄金光。それが今、自らを滅ぼす光となって襲来した。

 

「全員退避! 掠っただけで、残機があっても消し飛ばされるぞ!」

 

 戦車のキャタピラが唸る。乗り捨てたプレイヤーが逃げ惑う。僅かな希望を込めて放った攻撃は、自動的に鞘から抜け出た刀剣が迎撃した。

 そうして放たれた極光斬は、戦車3台を蒸発させた。同時に、空間に残った残滓に触れたプレイヤーが4人HPを0に、斬撃の余波を浴びた8人のプレイヤーが蒸発した。

 

「たった一撃で、殆ど全員吹き飛ばしやがった」

 

 40名以上いたプレイヤーの数は、現時点で残り13。

 しかもHPが即死直前に陥ったことで、無敵・回避・()()貫通という単純明快な必殺技が発動している。60秒以内に倒さない限り勝てない、挑戦プレイヤーの指揮官が言っていた言葉の理由がこれだった。

 

「吹き飛べ! 極振り!」

 

 誰もが諦める中、指揮官……近未来的な戦車に乗る、レイドバトルにも参戦していたプレイヤーが叫んだ。直後、アキに向けて極太の青白い光が照射された。それは、最大50万ダメージの多段ヒット攻撃。しかも残り12人のプレイヤーのうち6名の乗り込んだ、戦車による護衛兼壁付き。

 

「そうくると思っていた。だからこそ、まだだ!」

 

 ニヤリと笑みを浮かべたアキが、もう一度刀を振るった。

 結果、青白い光の砲撃と、絶光の斬撃が正面からぶつかり合う。ほんの僅か、コンマ数秒の単位でそれらは拮抗し──すぐに絶光の斬撃が全てを飲み込んだ。更に横薙ぎの斬撃に飲み込まれプレイヤーがほぼ全員、直撃・余波・残滓に触れて消滅する。

 

「そうだな、まだだ!」

 

 そんな中、黒い制服の少年がアキに飛びかかった。右手に短剣を握り、空中を蹴り飛びかかる。オーバーヒート前提の砲撃を行った戦車の戦車長だ。レイドバトル時には殆ど活躍はなかったが、即座に戦車を乗り捨て攻撃範囲から脱し、剰え反撃を入れるその動きは紛れもなくトッププレイヤーだった。

 

「ああそうだ、だからこそお前は面白い!」

 

 アキの両手の剣は、既に反動で砕け散っている。故に、本来であれば反撃の手立てはないが……あいにく、アキの持つ剣は通常のものではない。ユニーク称号のおまけとして手に入れた、武器を装填し続け損耗を無視するという異質な武器だ。

 結果、反撃が間に合う。再装填されたガラスの刃が、振り下ろされた短剣を両断して砕け散る。それによりダメージ計算が発生し、戦車長のHPが吹き飛ぶことは確定した。

 

「プッ」

 

 しかしその計算が発生する直前、戦車長の口から鉄球が発射された。超至近距離で放たれたそれは、狙いを過たずアキに直撃しそのHPを奪い去る。

 

「さあ、道連れだ!」

 

 そして置き土産として、戦車長の胴体に巻かれていた大量の手榴弾が炸裂した。それはペットの犠牲により復活した直後のアキを襲い、再びそのHPを0に落とすかに思えた。

 

「次回を楽しみにしている」

 

 確実に手榴弾が直撃したはずのアキだが、そのHPは不動。確率で1耐え、よくゲームである根性スキルの効果だった。最低、あと1回。それがアキを倒すために必要な討伐回数である。

 




因みにアキの使ってるスキルに関しては、登場人物紹介を参照してくれよな!

【必殺技】
《英雄出撃》
HP10%以下で発動
相手の無敵状態・攻撃回避状態を無視する
相手が復活又は蘇生手段を付与していた場合、その効果発動後のHPを現在のHPに含めてダメージ計算を行う。

《???》

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