幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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閑話 それぞれの極振り戦(雑談)

 極振りの1人、もう1人のAgl極振りであるザイードが創造したダンジョンは、全極振り中最もトラップの多いダンジョンとなっていた。とは言っても致死性のものはそう多くなく、防具に破損テクスチャを張ったり自身のHPが見えなくなったり、そういう地味にウザいものが大半を占めている。

 何故ならば、その方がゲームらしい良いスクリーンショットが撮れるから。因みに運営からの監査が入るため、あまりにアレな写真は即刻削除される安心設計だ。ボス戦前に頼めばデータを貰えるので、其処彼処に配置されている監視カメラにポーズを決めることも楽しみ方の1つとなっている。

 

 そんなダンジョンの1F、2Fは吹き抜けを通し繋がったダンスホールのような構造となっている。

 敵の平均レベルは1Fは35、2Fは40。それよりも大変なのはトラップ。あからさまな赤い線や、気づきにくい場所に貼られたワイヤーを始めとして、最初からプレイヤーをイラつかせてくる。

 

 3Fは拷問部屋。

 2Fのトラップを使い、シャンデリアの上方にある隠し扉からそこには辿り着く。敵の平均レベルは45。暗い、汚い、(血生)臭いの3Kが揃ったその階層にも、いい加減にしろよと言いたいほどのトラップが仕掛けられている。見てはいけないものを見てしまったような感じに囚われていると、即刻モンスターが群がってきてリスポンの憂き目にあうだろう。

 

 4Fは崖と屋敷のセット

 崖の上からスタートし、屋敷の中にある優雅なマネキンの背中に、同じ屋敷の中で見つける短剣を突き刺すと上層へ進むことが出来る。敵の平均レベルは50となっている。

 但し、屋敷の中も外も大量のトラップが仕掛けられており、全てを回避するには奇妙なダンスのような動きをしなければいけない。その中には振り出しに戻らされるトラップや、モンスターハウスもありプレイヤーをイラつかせること間違いなしである。

 

 5Fはボス部屋

 薄暗い部屋の中、白い仮面を付けただけの人型が大量に出現する。一体一体の強さは大したことないので、他愛なく倒せることだろう。

 

 6Fは薄暗く、霧の出ている樹海

 うんざりするほど大量のトラップ、アイテムを盗んでいくタイプの敵、透明化している上攻撃と同時にアイテムを盗んでいく紫トカゲ……その他諸々の要因に邪魔され、誰もその全容を把握出来ていない。ただ分かっているのは、樹海中央がゴールということだけである。

 

 7Fは森の中にある、花畑のような場所

 敵性mobはおらず、レベルも1。猫とリスのような生き物が沢山いる不思議空間となっている。花畑中央の光の柱に乗れば、すぐさま8層へ行くことができる。偶に湧く紫トカゲも、基本は丸まって寝ているだけなので問題ない。

 ……そんな優しい場所に思えるが、実態はまるで違う。擦り寄ってくる猫はアイテムを強奪していき、リスはアイテムを強奪していき、紫トカゲもこっそりアイテムを拝借していく。素寒貧になった後の絶望顔をスクリーンショットするあたり、感情の鮮度がよく分かっていると評判だったりする。

 

 8Fは雰囲気が一転し、霧深い高山。

 天候の特性として運動機能半減・属性効果増加(水・風・氷・炎)が付与された状態で、探索することになる。

 敵の平均レベルは60で、大体の敵が気配を殺して襲ってくる。序でに付いてきたように、猫とリスと紫トカゲは湧いてくる。

 

 9Fは何もない霊廟

 厳かに鐘の音だけが鳴り響き、一直線の道をプレイヤーは進むことになる。とてもスクリーンショットを撮られる。

 

 そうして辿り着く10F。星明かりのない夜空を仰ぐそこは、気がつけば死んでいるキリングゾーンとなっている。

 

 

 極振りの1人、Vit極振りであるデュアルが創造したダンジョンは、本人同様前半後半でガラリと変わるものだった。

 

 前半となる1〜4Fは、武家屋敷というか日本の城風の構造を持つダンジョン。トラップは少なく、硬く経験値をよく落とす敵が大量に出現する階層となっている。後半になると物理無効の幽霊が出現するが、それさえ除けば比較的楽で効率も良いダンジョンとなっている。

 

 5Fは他のダンジョンと変わらずボス部屋

 単純に高スペックの、巨大なラーテルがボスとして鎮座している。防御力が物理・魔法共に高く、HP・耐性も十分にあり、攻撃力も高い難敵だ。けれどまあ、牙の鋭い方が勝つから問題ないはずだ。

 

 後半となる6〜9Fは、前半とは真逆で金ピカの西洋風の城風の構造を持つダンジョン。トラップは少ないが、全体的に敵の強度が若干脆くなっている。が、敵として出現する黄金の骸骨は、幾ら倒しても復活してくるためかなり厄介。一部検証班の証言によると、ヨーロッパにある某城とほぼ同じ構造をしているらしいが、定かではない。

 

 さて、そんなダンジョンの主人であるデュアルだが、極振りの中で一番最初に黒星が付けられてしまっている。本人ではなくNPCではあるが、それでも十分な戦果を挙げられてしまったと言えるだろう。

 

 拘束で移動を封じられ、壁によって貧弱な遠距離攻撃を封じられ、近接攻撃も高速で封じられる。そんな状況の中、延々と蒸し焼きにされた為仕方がないと言えないこともないが……本人にとっては、断じて納得がいくものではなかった。

 

【討伐までは何マイル? 道成寺ごっこしようぜ! お前安珍な!】

 

 そんなふざけたタイトルの、しかもPart48まで延々とデュアルを拘束しつつ焼き上げる動画。そんなあまりにも動きのない攻略動画は、某動画投稿サイトにアップされそこそこの再生数を稼いでいた。当然そんなものを見せられてしまえば、気合いも入るというものだった。

 

 

 しかし、だ。

 片や、防御貫通攻撃や高火力の魔法攻撃でしかダメージを与えられず、必殺技で全回復も完備しているVit極振り。しかも鎧を剥がした場合、跳ね上がったStrによる暴力が待っている。

 片や、ステルスしながら超高速で移動し、ダガーの投擲で状態異常を大量に付与した後写真術で動きを止め、ペットによる高確率の即死攻撃を仕掛けてくるAgl極振り。しかもボス戦の暗いフィールドも相まって、もしステルスを暴いても単純に見つけにくい。

 

 前者はNPCでの撃破報告こそあるものの、そんな相手と戦おうと思うプレイヤーがどれだけいるだろうか? その答えは、否である。

 

『とても恐ろしい 集団心理である……』

 

 挑戦者!! 挑戦者はまだかーー!!!

 なぜ来ないー!!! 一体どうなってるんだーー!!!

 挑戦者が!! 遅すぎるぞォォーーーー!!!

 早く……来てくれ……ダンジョンが……

 

『なぜなら!!! もうお分かりだろう!!!』

『誰も・・・ 挑戦をしようとしないのである!!!』

 

 例の消防車コピペの改変。それを書き上げたメモページを今、ザイードはデュアルに見せつけていた。お互い、ボス部屋までプレイヤーが来てくれないダンジョンマスター同士、何か考えがあってのことだろう。

 

「それで、私にどうしろと言うのです?」

「余りにも、暇で……」

 

 第3の街にある極天ギルドホームでは、2人のプレイヤーが哀愁漂う雰囲気でコップを傾けていた。中身はお酒、飲んでなきゃやってられないのである。デュアルは装甲悪鬼な鎧を脱ぎ神父姿に、ザイードも普段纏う衣を脱ぎ捨てた状態で。因みに双方20歳を超えているので問題ない。

 

「そうですか……飲みます?」

「はい……」

 

 既に消費された酒アイテムは一升瓶3本。電子世界である故現実の身体は酔わないが、2人はもう既に出来上がっていた。

 

「幾つか固定のパーティーは来てくれるんですよ、でも新規の人が来ないんですよ……」

「私なんて、既に飽きられてボス部屋に来てくれる人すらいませんよ……」

 

 その原因は、他のダンジョンに比べて極めて挑戦者が少ない現場だった。ザイードのダンジョンは特定プレイヤーが周回する以外挑戦者がおらず、デュアルのダンジョンは経験値効率の良い下層だけが賑わっていた。

 

「何が悪かったんでしょうね……」

「他の人たちと、変わらないはずなんですがね……」

 

 にゃしいが居たら即座に爆裂させられそうな陰気な雰囲気の中、トクトクとお酒が注がれる音だけが静かに響く。

 

 現状、一番挑戦者が多いのはセンタのダンジョン。2番手がにゃしい、3番手が翡翠となっている。どこも個性が強いダンジョンで、自分たちが作ったものとそう違わない筈なのに何故……そう疑問に思うのも当然だった。

 人気がない理由は、デュアルに関しては単純に倒す労力と倒したことによるメリットが釣り合っていないから。ザイードに関しては倒せるわけねぇだろという諦め、そして挑戦者になるプレイヤーに一番近くで実力を見せつけたことがあるから。しかし2人とも、酔いが回ってそこまで考えが巡っていなかった。

 

「やることないですし、一戦やります?」

 

 お猪口を傾けていたザイードが、白の仮面を若干赤く染めて問いかけた。明らかに酔っ払った演出だが、謎原理である。先程から仮面の目の部分に空いた穴も変形しているとか、コレガワカラナイ。

 

「構いませんが……私と貴方のビルド、相性最悪じゃありませんでしたっけ?」

「なぁに、お互いここまでべろんべろんなら関係ないですよ」

「それもそうですね!」

 

 そう一頻り笑った後、立ち上がった2人は既に千鳥足となっていた。重ねて言うが、現実の身体には一切の影響はない安心設計である。

 

「場所はどこにします?」

「いつも後輩が爆破してるあそこでいいでしょう、どうせ爆破するんですからね!」

 

 路地裏でそんな会話が交わされた数十分後、第3の街にあったビル街は綺麗さっぱりと消滅することになった。

 

 その後、デイリー消化のため意気揚々とやってきたユキが、その惨状を見て『これが人間のやることかよぉぉぉ』と嘆くのが戦闘終了から10分後。街中で警察とカーチェイスを繰り広げるのが15分後。捕まって牢に入れられるのが20分後。札束ビンタで脱出したのが30分後のことだった。

 




>生命の粉塵を盗まれました<
>秘薬を盗まれました<
!ああっと!
アリアドネの糸を盗まれてしまった!

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