幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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ここまで読んでくれた人なら分かると思うけど、一部不快に感じるシーンがあるだろうから注意をですね? 一応しないと思いまして。

(執筆 : 翡翠組に身体を乗っ取られた作者)



閑話 極振り大トリ戦(vs翡翠)

 極振りの1人、翡翠が創り出したダンジョンは何もかもが異質だった。ダンジョンの構成も、フロアの難易度も、ボスとしての立ち位置も、そしてその挑戦者さえも。

 

 1階層は食堂

 敵もトラップも宝箱もなく、調理器具と調味料だけは極めてふんだんに存在しており、1フロアが丸々食堂になっている。偶にボスである翡翠ちゃん自身が降りてきて、食材を調理して美味しそうに食べている姿が目撃されている。一応この場で戦闘することも出来るが、ボス部屋という縛りも何もない場所であるため勝利は非常に困難である。

 

 なお、この階層は『部位欠損が発生した場合、再生させない限りパーツはその場に残留する』特殊な状態となっており、翡翠ちゃんに挑む場合は食べられることを考えた方が良いだろう。

 

 また、この階層は『プレイヤーに味が設定されている』『食材(プレイヤー含む)を調理したい放題』等のことに気付き、実践しだしている中々にヤバイプレイヤーがたむろしている。同好の士の集まりである為、基本的に民度は恐ろしい程高い。

 それでいてかつ、端的に言えば翡翠ちゃんが大好きな連中である為、翡翠ちゃんのお楽しみ中に攻撃しようものなら即刻隣のプレイヤーに叩き潰されること間違いなしである。ア゛マ゛ソ゛ン゛ッ!!されてハンバーグにされたり、脳を吸われたり、頭部をバッサリやられない為には、ルールを守るか10層に行くことが推奨される。

 

 2階層から4階層は、全く同じ構成となっている

 この階層は10m×10m×10mの立方体空間が幾つも組み合わされて形作られており、5分毎に道の繋がる先、天候、ポップする敵、敵のレベルがランダムにチェンジする。

 何もかもがランダムであり、本当に運が良ければ2つ目の部屋が次層の階段だったりもする。運が悪ければ、1時間近く彷徨っても階段が見つからないこともザラである。そういう時は、諦めて1階層のパーティにでも参加すると気が紛れるだろう。

 

 5階層はボス部屋

 ただし、第3の街付近にあるダンジョンの最下層に出現するレアモンスターとの連戦である。レベル50の中ボスラッシュだが、近くの連中に攻略法を聞けば特に問題なく倒せるだろう。肉叩きや刺身包丁、その他諸々の調理道具がモチーフのボスで、元々『キルされる以外解除不能の状態異常をそれぞれかけてくる』以外特に強くもない為だ。翡翠ちゃんの優しさが伝わってきて感謝の気持ちが溢れる。

 

 6階層は真っ白な砂漠

 風と砂と自分と仲間の音しかしない中で、前情報を知らないと気が狂いそうになりながら延々と探索することになる。敵もトラップも存在しないが、付着した白い砂はダンジョンを出ない限り落ちることはない。因みに砂を飲み込むと最大HPが増えるバフが付く。

 次の階層に進むためには、流砂に巻き込まれてフワフワな砂塗れになる必要がある。

 

 7階層は白い雨の降る市街

 無味無臭の白濁した雨が降りしきる中、黒胡椒が吹き出るトラップ以外存在しない空間を歩き続けることになる。設置されてる宝箱からは最高級の食材アイテムが出現する。ここで付着した雨も、ダンジョンを出ない限り落ちることはない。砂と合わせて中々に不快な気分になってくるが、雨を飲むと最大HPが増えるバフが付く。

 次の階層に進むためには、屋外を一定時間探索する必要がある。個人差はあったが、必要時間は大体5〜10分程度。

 

 8階層は暖かい猛吹雪の山

 前2つの階層と違って特に雪を食べてもバフはかからないが、相変わらず雪は付着するとダンジョンを出るまで落ちない。お腹には溜まる。高低差のあるフィールドで、配置されている宝箱からは野菜系統の高級アイテムがドロップする。崖から滑落する以外死亡する要因もなく、山を登頂すれば次の階層に進むことができる。

 

 9階層は黄金の雨が降る一本道

 なんとなく良い匂いがする雨を一身に浴びながら、上層へ向かうための螺旋階段を上っていくことになる。本当にそれだけの階層だが、階段で足を滑らせて落ちれば死亡する。

 

 そう、ここまでの道のりを通ってきた皆々様はお気付きのことだろう。自分たちが明らかに、注文の多い料理店と同じ状況に陥ってることに。

 実際に、10階層で待つ翡翠ちゃんが放つ炎魔法に触れると、特殊な『天麩羅化』の状態異常が発生する。一定時間行動不能、スリップダメージ、部位損傷後パーツ残留、デス後パーツ残留etc……あと揚がった場所から良い匂いがする等の、それなりにキツイデバフが発生する。

 

 だが、こんな時こそ逆に考えるのさ。食べられるのが嫌だではなく、食べられちゃってもいいさと。

 

 

 翡翠塔10階層、ボス部屋に入る手前の空間。そこでは今、1つのパーティが程よく衣をつけられた状態で円陣を組んでいた。

 赤いピラニアの擬人化の様なプレイヤー、緑のトカゲを擬人化したようなプレイヤー、天然痘の擬人化その2人を足して2で割ったような容姿の青いプレイヤー。全員が腕輪と特徴的なベルトを装備したその集団は、いつかのスレッドで騒いでいたギルド【アマゾンズ】のメンバーに他ならなかった。円陣を組む残り3人である、全身に薔薇の意匠が散りばめられた男性プレイヤー、クラゲの意匠が散りばめられた女性プレイヤー、白衣を纏い象の様な頭部装備をつけたプレイヤーも、同好の士であることは間違えようもなかった。

 

 全員の共通の悩みとして、慈善事業をしても助けたプレイヤーが逃げ出すというものがあったりする。初心者狩り(イチゴ味)をア゛マ゛ソ゛ン゛クッキングした影響なのだが、彼らは一切気づいていない。

 

「おいみんな! 食材は持ったか!」

「「「イエッサー!」」」

「下味は十分か!」

「「「イエッサー!」」」

「では、イクゾ-!」

 

 デッデッデデデン、カ-ンなんてBGMが流れそうな勢いで、扉を開けて彼らはボス部屋へ突入していく。そうして施錠された扉は、凡そ10分程度で開かれた。

 最近黎明卿似の仮面を手に入れたらしい某爆破卿がビルの爆破をデイリーミッションとしている様に、彼らは翡翠に挑戦するのが日課となっているのだ。できるならば打倒を、無理なので食べて貰うために。誰も彼も正気じゃないのだ。

 

「よし、ようやくここまで来れたな」

 

 次に現れた集団は、先程の様に一致した特徴のない不思議なメンバーだった。

 1人は濃紺と黒の配色の重装甲を身に纏い、十字に動く単眼のヘルメットを装着し、大きなバズーカと黄色い刃の刀剣を担いだプレイヤー……ぶっちゃけ、某ツィマッド社の傑作モビルスーツそのままの姿だった。

 1人は、ヤンキー風の格好をした女性プレイヤー。金属バットの様な杖を持っていることから、魔法をメインにしていることがわかる。その胸は、平坦であった。

 1人は、近未来的な装甲を身に纏い、単発式の銃と短刀を構えてる男プレイヤー。

 1人は、いつか掲示板でお祭りを起こしたプレイヤー。

 1人は、金属バットが腐った様な武器を持つ男性プレイヤー。

 そして最後の1人は──ニンジャ! 燻んだ緑色のニンジャ装束に身を包み、そのメンポには狂気を煽る字体で「翡」「翠」の2文字がレリーフされていた。

 

 要するに、全員が手遅れな奴らだった。因みに彼らは、上から順に「しろくまアイス」「松茸」「鯨肉」「調味料」「腐った饅頭」「チョコミント」の味が設定されている。

 

「縁も所縁もなかった私たちだが」

「その心はただ1つ」

「ヴォン」

「日本語でどうぞ」

「スシを食べている」

「お爺さん、この場にスシ味はいないでしょ」

 

 そんな風に協調性がカケラもない様に見える6人だが、何だかんだここに来れる辺り実力は高く、先に突入した奴らと何ら変わりない心情を持っていた。

 

「ま、何でもいいからイクゾー!」

「のりこめー!」

「わぁい」

 

 掲示板のノリと殆ど変わらないママ乗り込んだ翡翠のボス部屋は、常人では長時間は耐えられない様な場所だった。白、白、白、どこを見ても白。天井から見える空の曇天を除き、一面の白のみがそこには広がっていた。

 そんな空間の中ポツンと、中央に女の子が立っていた。クリーム色のフワッとしたセミロングくらいの髪に、限りなく白に近い菫色の目、腰の装甲がついた長いスカート以外は普段着の様な装備で、低い背。それだけを見ればおっとりとした雰囲気が伝わってくるが、その実態は極振りの中でも最もヤベー奴であった。

 

「こんにちは、それじゃあ始めましょう」

 

 そして、両者の間に10のカウントが出現した。常連である6人には最早不要な説明はカットされ、最速で最短で一直線に戦闘が開始される。

 

「《アポルオン》《終焉の杖(レーヴァテイン)》」

 

 戦闘が開始された直後、灰色が炸裂した。テレビの砂嵐の様な色彩が爆発的に広がっていき、白の世界が灰色に塗り替えられた。そんな世界に、蛍光グリーンの光が降り注ぎ始めた。

 スキル《アポルオン》によって発動する、特殊天候【終末】。2秒毎にHP・MPからその時点のHPの5%を削り、武装の耐久値を削り、ランダムに状態異常を付与し、属性ダメージを低下させ、発動時天候を強制的に切り替え、それでいてその効果が一定時間残留するもの。それが《終焉の杖》スキルによって、効果が倍化しつつ余計なダメージフィールドまで展開されていた。

 

「いってください、ひーこー」

「ひよ」

 

 それに躊躇なく突入する挑戦者を前に、移動の制限をかけられている翡翠は動けない。しかし、その代わりという様にペットが姿を現した。

 髪の中からひょっこりと姿を現した、七色に色が変化し続けるひよこ。それを見た瞬間、ニンジャと近未来装備の2人が音もなく即死した。レベルは45を超えていたものの、運悪くペットのスキルに引っかかってしまったのだ。

 残った4人も、無事とは言い難い状態となっている。既に堕ちた初心者の子は両足が灰色になり痩せ細り転倒し、ドムの人も突如肥大化した身体が装甲からはみ出ている。

 魔法使いの人は目の焦点が合っておらずその場に蹲ってしまい、暫く正気度喪失によって行動は出来ないだろう。

 

 多数の洗礼から無事に生き残ったのは、金属バットが腐った様な武器を構えるプレイヤー1人だけ。いや、そのプレイヤーも正確には無事とは言えない。何せそのステータスには既に『攻撃力減少』『火傷』『猛毒』の3種の状態異常アイコンが点灯しているのだから。

 

「覚悟!」

「うーん、あんまり美味しくないんですよね……あなた」

 

 振り下ろされたバットは、透明な六角形の板に受け止められていた。それは、ユキのスキルの方の防壁と同質の盾。しかも、ユキと同等の硬度で長時間展開できるものだった。小回りや汎用性で言えばユキ、継続的な防御のコスパで言えばこちらが上回る。

 

「まあいいです」

 

 そして、動きを止められた腐食バット君の周りに防壁が展開し、筒の様なカゴを形成する。そうなってしまえば、長物である得物を十分に使うことはできず──

 

「《ナパームアウト》」

 

 焼かれるだけだった。一応最高位の炎魔法が短い筒状の空間内でのみ炸裂し、腐食バット君のHPをガリガリと削っていく。数秒間炎に晒された後の底には、こんがりと揚がった腕っぽいナニカしか残っていなかった。

 

「ひーこー」

「ひよ」

 

 己のペットが蹴り飛ばして来たそれに、翡翠ちゃんは躊躇なく噛み付いた。まるでトウモロコシでも食べる様に1分程で食べきった後、涙目で舌を出して、うぇぇと翡翠ちゃんは変な声を漏らした。

 当然だろう。腐った饅頭味なんて、綺麗に揚がっても美味しくないなんて誰でもわかる。けれど、お残しはしない主義の方が上回ったのだ!

 

「ひーこー、口直し」

「ひよ」

 

 直後、分身した七色に光るひよこが1匹、開けられた翡翠ちゃんの口に飛び込んだ。直後翡翠ちゃんのHPが半分まで減少したが、とても美味しいものを食べたような、満足気な表情となった。お気に召す味だったらしい。

 

「さて、これで動けます」

 

 そしてHP減少により、範囲制限されていた【終末】と翡翠自身の移動不能が解除される。それは、もう全員が逃げることが出来なくなったことを意味していた。

 

「確かこの方、松茸なんですよね。楽しみです」

 

 今日も翡翠塔は、どこまでも平常運転だった。

 




ひーこーのスキル判定
【殺戮の宇宙】(即死スキル)
ドム→(成功)
魔法→(成功)
近未来→(失敗 : 死亡)
初心者→(成功)
腐食バット→(成功)
ニンジャ→(失敗 : 死亡)

【遺伝子感染】(身体のパーツ異常化スキル)
ドム→(ファンブル! : 肥大化)
魔法→(失敗 : 盲目)
初心者→(ファンブル! : 両足萎縮)
腐食バット→(成功)

【感染拡大】(状態異常付与スキル)
ドム→(失敗 : 麻痺)
魔法→(成功)
初心者→(成功)
腐食バット→(失敗 : 火傷)

【異次元の色彩】&【正気喪失】(SANチェック2/2d6)
ドム→一時的発狂
魔法→一時的発狂
初心者→一時的発狂
腐食バット→2減少の正気

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