幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

132 / 243
昨日の深夜にハロウィン短編を投稿してます


第104話 イベントリザルト

「はぁ………」

 

 イベント最後の緊急メンテが開け、通常のログインができるようになった翌日。俺はまだ閑散としているギルドで、盛大な溜息を吐いていた。

 

「どしたの? ユキくん、なんか嫌なことでもあった?」

「まあ、そんな感じ。ほら」

 

 心配して話しかけてくれたセナに、通常ネット経由で開いた某有名動画投稿サイトのページを見せた。動画のタイトルは『極振りが爆破をオススメするようです』。つまりはこの前のアレを、録画していたザイードさんが動画化してアップしたやつだ。

 そこまでは予定通りだった。だが、やつはバズった。某SNSで謎のバズりを引き起こした結果、なんか異様なまでに再生数が伸びているのである。

 ついついそこで見てしまったコメント欄で、まあ色々なコメントを見たわけで。更に、無駄に拡散されたせいで、リアルの学校でも注目を集めるわけで……ちょっと、疲れてしまったのだ。

 

「あぁー……これは。おつかれ?」

「はぁ……」

 

 なんでUPO界隈以外の方まで、反応が波及して行ってるんですかねぇ……訳がわからないよ。

 

「ユキくん、火薬漏れてるよ火薬」

「ん、ああ、ごめん」

 

 気がつけば手から垂れ流しになっていた火薬を、適当に収納欄に投げ込んで回収しておく。いくら無制限に作れるとはいえ、勿体ないからね。

 

「そんなに疲れてるんなら、ゲームやめて休んでたら? 付き合うよ?」

「いや、寧ろゲーム内の方がまだストレス発散できるから……」

 

 隣に座ったセナがそう言ってくれるけれど、実際そうなのだ。リアルに戻っても別のゲームをやるくらいしか、ストレスの解消は出来る気がしない。だったら、UPOの中で爆破してた方がまだ楽しい。今はこう、なんかその気力も湧かないだけで。

 

「そ、それじゃあさ。幸いお客さんもまだいないし、ちょっと話そうよ。最近、あんまりユキくんと話せてなかったし」

「まあ、それもそっか」

 

 最近は確かに先輩たちとしか絡んでなかった気がする。あの超天変地異みたいな日常も悪くないけど、やっぱりこの安心できる空気が一番だ。

 

「いいよー。何話す?」

「高難度イベント! あれって、私たち挑戦者側にはメリットだらけだったけど、ボスやってた側って何かメリットあったの?」

「あったよ、ほんと色々」

 

 まあ約2名の挑戦者がほとんど来なかった塔に関しては、メリットはかなり少なくなってしまったようだったけれど。それは自業自得ということで。

 

「まずはレベルがかなり上がったかな。一気に62まで」

「えっ。どうしよ、私追いつかれそう……」

 

 微妙に固まってしまったセナにステータス画面を見せたら、うわぁという表情をされてしまった。そりゃあまあ、大体8くらい一気にレベルが上がったのだから、さもありなんといったところか。

 

「他には、挑戦者の人数とか倒した人数、トラップを使わせた回数とか色々な要素でポイントが手に入ってね。それでアイテムとか交換できるものもあったかな」

 

 俺の場合はポイントはそれなりで、上位3人に比べたら雲泥の差だった。それでも良いものが手に入ったから個人的には満足だけど。

 

「ユキくんはどんなのを交換したの?」

「これ」

 

 そう言って俺が操作したのは、数が跳ね上がった魔導書群。今朝ザイルさんに100万Dポンと渡したら、5分くらいで完成させてくれた新しい装備だった。

 

「……ねぇユキくん。なんか数、増えてない?」

「11個から20個まで増やしたからね!」

「馬鹿なの?」

 

 呆れたような目で見られたけど、今回ばかりはそうかもしれない。障壁300枚と魔導書20冊を同時操作すると、その場から一切動けなくなったし。

 

「いや、まあそう言われても仕方ないけど……この前セナたちに負けたから、強くならなきゃと思って」

 

 顔見知りで戦法が分かりきっている相手に、たった1パーティ相手に負けてしまったのだ。今の場所で胡座をかいて待つのではなく、精進しようと思うことの何が間違いなのだろうか。

 因みに、防御性能は跳ね上がったし、色々考えてた攻撃方法とかも練習中だ。完成すれば、初めて火力の(少しは)ある代償なしの遠距離攻撃が出来るはずなのだ。瞬間的に構築できるよう練習しなければ。

 

「トップギルドのパーティを軽く殲滅出来るのに、まだまだ上を望むとか……」

「トップギルド、ねぇ」

 

 困惑気味のセナを他所に脳裏によぎるのは、同じボスを務めていたヤベー奴しかいない先輩方の姿。現状俺が勝てそうなのは、ザイルさんくらいか。ボス戦で使ってたようなヤベースキルは今はないとのことだし。

 

「普通、個人でうちのギルドとか、バイク艦隊のところとか相手できるのって、それこそ化け物なんだからね?」

「はっはっは、そんなまさか」

「私が1人で、んー……例えば、バイク艦隊の人たちを全滅させられると思う?」

「無理でしょ」

 

 セナなら半分くらいは倒せそうな気がするけど、全滅となると、こう、難しいとしか答えようがない。逆に自分だとどうだろう……やってみなきゃ分かんないなぁ。

 考えてみてから気がついた。これ、勝てると僅かでも考えた時点で異常だ。なるほど、セナが言いたかったのはそういうことか。

 

「それが普通だから。その、ユキくんはもう十分強いと思うよ! だから元気出して」

「そう、らしいね。元気出たかも」

 

 そう考えるとちょっと元気が出てきた。ヤバイ奴らと比較してたから弱く見えてただけで、強い方なのか俺って……

 

「よかった。そういえば、交換したのってその本だけなの?」

「いや、仕込み刀の予備として【無垢なる刃】2本は取ったよ。交換したのは本当にそれだけ」

 

 あまりポイントがなかったから、それだけでもうポイントが尽きてしまったのだ。7冊くらいクトゥルフ系の魔導書を増やしたから、というのが一番の理由だろうけどそれは秘密である。

 

「ふーん、それじゃあボス側のリターンって結構少なかったんだ」

「俺の場合はそうだけど……どうだろ。上位3人は結構リターン大きかったっぽいよ」

 

 アキさんが俺と同じ【無垢なる刃】を取得して、にゃしいさんが同系列の【無垢なる杖】を取得して、火力が跳ね上がったとか何とか。

 耐久値的に一撃で壊れるから、そうそう使えないのが唯一の救いだ。【死界】の反転効果があるからこそ、俺は連続して使えてるわけだし。じゃなきゃStr・Int30,000付近とかいう化物が爆誕するからね、仕方ないね。

 

「嫌な予感しかしないんだけど……」

「たかが火力カンストくらいだろうし、多分何とかなるよ」

「ならないよ……!」

 

 元からデュアルさんが即死レベルの火力だし、きっと何も変わらないと思うんだけど。

 

「あれ、でもそしたらもう1人は? トップ3って言うんだから、最後の人も何か凄いもの貰ったんでしょ?」

「あぁ、最後の1人ね。翡翠さんって言うMin極振りの人なんだけど……なんか、個人所有できる土地を買ったとか聞いたよ」

 

 なんか、レストランを作るとか言ってたような気がする。具体的な場所は聞いてなかったけど、近づかないでおこうとは思っている。

 

「そっか。なら1週間、暇にはならなそうだね」

「1週間?」

 

 あの翡翠さんがレストランを作るのだから、その程度で騒ぐとは思えないのだけれど。実際前回の高難度イベじゃ、最初から最後まで行列が出来てたし。

 

「1週間後、新マップとかが解放されるんだって。あとは私の『舞姫』とかユキくんの『爆破卿』と同じ、ユニーク称号も実装されるとか」

「楽しそうだけど、1週間虚無かぁ」

「ちょっとは休みになるから、それはそれでいいんじゃない?」

「それもそっか」

 

 あの動画による好奇の視線も、きっとそれまで我慢すれば治るだろう。練習してたら1週間なんてあっという間だろうし、希望が出てきた。

 

「それじゃあ、メンテ明け記念にパーっとどっかで一狩りして来ようよ」

「ごめん、ちょっと予定があるから無理」

「ふぇ?」

 

 ワクワクしていたセナの顔が、露骨に悲しそうに変わっていく。それにとても申し訳なくなってくるけど、先に約束しちゃったことは覆せない。

 

「因みに何の予定?」

「ん、藜からビットの操作を練習したいって言われてて。俺も自分の練習がてら付き合おうと思ってて」

 

 昨日の夜に、リアルの方で連絡貰ったのだ。多分、UPO内で一番ビット使ってるの俺だからだろう。教えられるかと言われるとアレだけど、まあ精一杯頑張ろうとは思っている。藜さん、何気にビット使うの上手かったし、きっとすぐコツは掴めるだろう。

 

「えー! ズルイよユキくん!」

「いや、そう言われても……セナって特にビット持ってないじゃん?」

 

 確か俺の記憶では、セナはそんな装備は持っていなかったはずだ。しかもこのビット装備、ネット情報じゃまだ3〜4個しか発見されてないっぽいし。ザイルさんが製法を秘匿してるって噂もあったっけ。

 もしかしたら、ビット系装備の解放も1週間後の更新内容だったり? 新しい街の解放もご無沙汰だしあり得そう。

 

「うぅ……探してくる!!」

「多分まだ実装されていないよ!?」

 

 凄まじい速度で飛び出して行ったセナに声をかけてみたけれど、どうやら届いていなかったらしい。あっという間にその姿はどこかへ消えてしまった。

 

「おまたせ、しました」

 

 そうして挙げた手を下ろす暇もなく、後ろからそんな声がかけられた。振り返れば、くぁと欠伸をしている藜さんの姿があった。

 

「いえ、そんなに待ってはいないですよ」

「だったら、良かった、です。でも、朝、早いん、ですね」

「今日はまあ、ちょっと現実から逃げたくて」

 

 藜さんが?マークを浮かべて首を傾げているけれど、まあ詳しく話す必要はあるまい。練習中、話題がなくなったときにでも話せば良いだろう。

 

「まあ、いいです。よければ、話してください、ね?」

「ええ、今日はかなり一緒にいることになりそうですし」

「そう、ですね!」

 

 嬉しそうに藜さんが浮かべた笑顔は、とても眩しかった。その笑顔を直視できず、思わず顔をそらしてしまう。

 

「どうか、しました?」

「いえ、なんでもないです」

 

 その日は結局、殆ど一日中藜さんと一緒に行動したのだった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。