実際短時間だったのに60件オーバーって一体どういうことなの……?(困惑)
取得条件を拡大解釈したり、名前を英語っぽくしたのもあるけど許して[懇願]
極振りがボスを務めたイベントも終わり、なんか唐突に敷設された鉄道のことも相まって。運営がついでにとでも言わんばかりに発生させた、大型アップデート。事前告知されたその内容は、大体このようなものだった。
・第6及び第7の街解放
・各種スキルの(大)から(極)への進化実装
・一部スキルの進化先実装
・新ユニーク称号10種実装
・プレイヤーが敷設した鉄道の公営化
・一部不正行為を行ったプレイヤーのアカウント停止
ユニーク称号については後ででいいとして、公式が初めて行った垢BAN報告にネットは騒然となった。当然極振りは誰1人としてBANなんぞされなかったのだが、どうやら挑戦者側にチーターが複数名紛れ込んでいたらしい。
言われてみれば、なんかシャゲダンみたいな動きとかゲッダンみたいな動きしてる人とか、異様に耐久力がある人がいた気がしないでもない。けど、ぶっちゃけセナたち含めたガチ勢の方々の方がよっぽど強かったし……
先輩方にも掲示板で聞いてみたけれど、変な動きしてた奴らしか覚えてないそうだった。ああそういえば、翡翠さんは『生ゴミみたいな臭いと味でした』とか言ってたっけ。なんでそんなもの判別できたんだろ本当に。
「というわけで。特にチーターは活躍することもなく、ボス側の印象に残るのは数名しかいなかったみたい」
「うわぁ……」
メンテも終わり、かなり変化したスキルを整理して表に出てきて早々のことだった。一番身近な極振りということで、俺はセナに垢BANチーターについて根掘り葉掘り話を聞かれていた。
因みに、藜さんはまだスキルの調整中、れーちゃん・つららさん・ランさんも3人で半ばリビルド中らしい。
「いや、そんな引かないでよ」
「だって、ユキくんこれで公式チートってことじゃん」
「俺だけじゃなくて、先輩方もね。でもネット上でも言われてたけど、なんでほんとそうなるの……」
そう。そんなことがあったせいで、極振り全体にそんなあだ名が追加されたのだ。曰く、『チーターよりチート』『PSオバケ』『チートやチーターや! ビーターや!』『公式チート』などなど。俺自身はそこまでではないと思うけど、PSオバケくらいしか当てはまってないと思う。
「だって、全ステータス10000とかいう相手勝てるわけないよ!」
「いや、爆弾の火力って固定値だし。真っ直ぐにしか動かないから、冷静に当てれば、ね?」
プレイヤースキルの伴ってない高ステータスの相手なんて、記憶にも残らないレベルの雑魚でしかない。だから、適当に足止めしつつ600の固定ダメージを連発で勝ち確なのだ。固定値は裏切らないってそれ一番言われてるから。
「でも、速度10000なんて、ユキくんからしたら1000倍くらいだろうし見えないんじゃ……」
「セナさんや、自分の最大バフ時の速度覚えてます?」
「うん。えっと、確か10000と……あっ」
そこでセナがハッとした表情になった。ぶっちゃけ万くらいなら、極めて身近にいるからなんとも思わないのだ。
「それに、反応して防御するだけならAgl30万までなら……ギリギリいけるかな。見るだけなら60万」
「ユキくんもやっぱり、極振り側の人間だったと」
「否定できないのが辛い」
先輩方に比べたらクソ雑魚でしかないけど、皆に色々と言われてそこら辺は一応認知している。そこまで強くはないけど、異常側。そのせいか最近距離を取られることが増えてきたけど、変わらず接してくれるギルドの皆には感謝しかない。
「俺としてはそんなことより。改めて、うちのギルドがほぼトップギルドってことを実感したよ」
「どゆこと?」
「だってほら──」
と、そう言葉を続けようとした時のことだった。扉が開く音と共に、藜さんが表のスペースに現れた。噂をすれば影というか、なんとまあ。
「藜さんにれーちゃんと、またうちから2人ユニーク称号取得者が出たじゃん」
「ふふん。ついに、セナさんと、並び、ました!」
「むぅ」
同じテーブルに着いた藜さんが、笑顔でそう言った。これでギルド【すてら☆あーく】は、6人中4人がユニーク称号を持っているという、 魔境じみた環境になった。
「藜ちゃんの称号ってどんなのだっけ?」
「【オーバーロード】、です。多分、過負荷とか、そっちの意味、です」
オーバーロードの取得条件は確か、全プレイヤー中最大の連撃数だったっけ。双剣使いとかじゃなくて槍メインの藜さんが選ばれたのは驚きだけど、それ故に純粋に凄いと思う。
「確か効果は、『1戦闘にアクティブスキルをそれぞれ一度ずつ、消費をn倍にしてスキルの効果をn回分重複させることができる。また、パッシブスキルの効果を連撃数が10増える毎に0.5%強化する』でしたっけ」
「はい! 扱いづらい、ですけど、楽しみな、能力です!」
「私とユキくんとかの第1段と比べて、藜ちゃんのも含めて第2段のユニーク称号って、確かに玄人向けな感じだよねー」
「確かに」
セナがぽろっと言ったその言葉に、言われてみればと頷いた。
レア泥最多が条件の【ラッキー7】
魔法ヒット回数最多が条件の【マナマスター】
連撃数最多が条件の【オーバーロード】
移動距離最長が条件の【限定解除】
防御抜き回数最多が条件の【初死貫徹】
敵討伐数最多が条件の【スローター】
捕食回数最多が条件の【頂点捕食者】
夜間ログインに関する諸々が条件の【ナイトシーカー】
ペット関連の諸々が条件の【牧場主】
取引金額最多が条件の【大富豪】
公開された情報によれば10人中7人と顔見知りだったけど、まあそれはそれとして。第1段は【爆破卿】を筆頭にして曲者揃いだったけど、こっちもこっちでピーキー揃いだった。
「あれ? そういえば、藜ちゃんって『火力下げてヒット数を倍にして、クリティカル威力を上げる』感じのアクティブスキル持ってなかったっけ?」
「消費が、重い、ですけど、10回くらいは、重複できる、です」
2の10乗倍ヒットとか、最低1024ヒットとかちょっと止められる気がしない。あ、いや、確か3連突きがあるから3072ヒット?
「特殊装備で、16ヒットに、出来るので、もっと、ですよ?」
「ひぇっ」
「それ、とんでもない組み合わせなんじゃ」
今計算したところ、藜さんの槍は一撃で最大で49,152ヒットする。そんなの極振りでも聞いたことの無いヒット数だ。連撃することを重視した人が居ないのも理由だけど、逆にそれはヒット数だけで言えば極振り級ということである。
つまり──
「ワンチャン、藜が原因のサーバーダウンが発生する……?」
「えっ」
「もしくは、同じ座標にものが重なり過ぎてバグるとか? ユキくんが第四の町を爆破した時みたく、破壊不能オブジェクトが砕けるとか」
「えっ」
気まずい沈黙が場を満たした。個人的には鯖落ちなんて慣れ……てはいないけど経験済みだから、そんなに衝撃的ではないけど普通はこうなるということなのだろう。
「ん!」
「すまない、遅れた」
「ちょっと3人でやってたら、思った以上に白熱しちゃって」
そうして新ユニーク称号マジやばくね?と、脳内のドラゴンっぽいものが騒ぎ始めた頃だった。奥の方から、調整が終わったと思しき3人が出てきた。
「うわぁ」
コッソリ鑑定してステータスを覗いてみたけど、どうしようこれ。多分現時点だと、俺もう1人で自分のギルドに勝てないんですけど。寧ろ普通に戻れた……のか?
「ん!」
悲しめばいいのか喜べばいいのか、微妙に分からないまま固まってると、れーちゃんが満面の笑みで右手を掲げた。その手には、燦然と輝く黒いクレッジットカードの様な物体が。
「えっと、『みんなでお祝いしたい』?」
「ああ。俺とつららは取り残された形になったが、祝うべきことだろう?」
「なんかそう言われると、ちょっとズルしたみたいな気分になるね……」
ランさんが言った言葉に、申し訳なさそうな顔をしてセナが答えた。そう言われてしまうと、確かになんかちょっと気分が良くない。しかしそうは言っても、ユニーク称号なんてそうそう手放せるものでもないし……
「大丈夫よ。私もランも、次の機会には取れるように色々頑張る予定だから」
「それって、例えば、どんなの、です?」
「私は、マップ1つくらい凍結させてみようかなって」
さらっとそんなことを言うあたり、つららさんも“こちら側”というか、ガチ勢側の思考回路らしい。でも、マップ1つ焦土にしたりキャンプファイアーなら前例があるけど、凍結だと前例もないしいける気がするから怖い。
「俺はまだ考え中だがな」
「RPとの兼ね合いもありますからね」
なんでもやりたい放題な代わりにスタイルを一から決める必要のあるプレイヤーと違って、最初から方針が決まっているRPプレイヤーはキャラを逸脱したくない為行動が縛られる方向にある。先輩方は例外だけど。
RPなんて愛がないとやれないのだし、例えすぐにやれることがあっても飛びつくわけにはいかないのだろう。
「もう復讐に固執することもなく、愛する者は隣にいて、大切な妹も元気だからな。中々に難しい」
「もう?」
どことなく嬉しそうにそう言ったランさんの言葉に、思わず反応してしまった。理解こそできるけどれーちゃん語のこともあるし、何かあるだろうと踏んでいたのに。
「ああ、“もう”だ。なんだ、興味でもあるのか?」
「いえ、別に。思わず反応しちゃっただけなので、気にしないでください」
過去は過去と割り切れる人もいるけど、寧ろ出来ない人の方が多い……と思う。だから、何かあったと思われる過去なんて進んで聞くものじゃない。
「気を使う必要はないんだがな。ありふれた話でしかないのだし」
「ははは……」
「ん、んー、ん!!」
そんな話をしていると、れーちゃんが間に割り込んできてそう言った。翻訳すると、『そんな話してないで、折角パーティするんだから、楽しもう』みたいな感じだろうか。久しぶり過ぎて、随分直訳っぽくなっちゃったけど。
「そうだな」
「折角のお祝いなのに、辛気臭い話しててもアレですしね」
「ん!」
そんなこんなで、新たに2人ユニーク称号持ちが増えたことをお祝いするパーティが始まったのだった。なお、未だにれーちゃん語を理解できるのは、うちのギルドではランさんと俺だけだった模様。
>49152ヒット!<
>クリティカル火力オバケ!<
>デュアルでも溶ける!<
>まじ
運営A「うせやろ……」
運営B「これだから突貫工事は!」
運営C「ここにも、エラッタの波が……」
運営B「この話は早くも終了ですね」
運営A「神の才能が欲しい」
運営C「死のデータ注入したろかテメェ?」