幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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クリスマス番外編は4話に移動しました


第108話 ナイトシーカー②

 俺の必死の弁明と知っている限りの情報を吐いたお陰で、連行されきる前に2人は俺のことを離してくれた。そうして誤解が解けたことに安堵しつつ戻れば、そこではカオルさんがカウンターの1つを占領して寝こけていた。

 寝息が静かなお陰か邪魔にはなっていないようだが、好奇の視線を集めているのは間違いなさそうだ。VR空間で寝てもリアルの身体が休まるわけじゃないので、ゲーム中に堂々と寝ているプレイヤーが珍しいのだろう。

 

 ログアウトしてしまったのか、確認してみればランさんはオフラインとなっていた。同時にれーちゃんもオフラインになっており、ピークの時間が過ぎていなければ営業が危ぶまれていたことだろう。

 しかし、お客さんからの要望もあってお店部分を拡張した結果、手は足りない。故に俺は、戻ってきて早々バックヤードで魔導書を飛ばすことになったのだった。

 

「それで、結局ユキくんは、なんでうちにあの子を連れてきたの?」

「追われてるって、話、でしたけど」

 

 裏手で作業しながら、同じく作業中のセナたちが話しかけてきた。

 

「いや……だってぶっちゃけ、一時避難所として最適じゃん?」

 

 そもゲームの中で逃げるというのが無理がある。フレンドなら場所を追うことくらい出来るし、違う場合でも聞き込みすれば大体分かる。であれば、見つかっても容易に手を出せない場所に行くしかない。

 

「流石に先輩方の所とか、某レストランには連れていけないし……だったら、初心者からヤベー奴まで入り乱れてるうちならって思って。俺も気兼ねなく爆破出来るし」

 

 個人単位で追っていようがギルド単位で追っていようが、こんなプレイヤーが入り乱れる場所で嫌がるプレイヤーを連れていった場合、評判はガタ落ちする。そして迷惑行為なので、ことを起こした瞬間お帰り頂ける。完璧な作戦だった。

 

「んー……確かにそうだけど、最終的に【すてら☆あーく】に加入させて解決って訳にはいかないよ?」

「外聞が、悪い、です」

「まあ、それくらいは分かってるよ」

 

 すでに【すてら☆あーく】は6人中4人がユニーク称号を持っている。新たにそのメンバーが称号を獲得するならともかく、新たに称号持ちのメンバーを加えるとなると批判が殺到するだろう。

 例えば『称号持ちを独占する気か』とか『ズル』『チート』『買収』とかいう言葉が投げ掛けられるのは、想像に難くない。例え新たに加入するプレイヤーがどんな事情を背負っていようが、こちらもあちらにも良いことが1つも存在しない。

 

「あと、こういう問題持ち込むなら、一言相談が欲しかったかも」

「ごめん……」

 

 それを言われると立つ瀬がない。そうだよなぁ……このギルドのマスターはセナなんだし、一言相談すべきだった。お店の経営権はれーちゃんと俺で大半を独占してるとは言え。

 

「でも、あのh」

 

 そう何か言葉を発しようとした藜さんの姿が、いきなり消え去った。そして藜さんが居た場所に、黒と黄色の警告模様で彩られた《回線緊急切断》と書かれたプレートが現れ、数秒間存在を誇示したのち消滅した。

 

「私、緊急切断って初めて見た」

「同じく」

 

 確か緊急切断は、『電源の切断』『ネットワークの切断』『VR機器を第三者が外す』『装着者の異常状態』等の原因でしか発生しなかった筈の機能だ。それが起こったということは、確実に何かあったということだろう。

 万が一ということが頭をよぎったと同時に、俺はある1つのことを思い出した。

 

「あっ……そういえば朝の天気予報で、夕方辺りから嵐って言ってたかも」

 

 なんか台風とか言ってた気がする。となれば、雷でも落ちたのかもしれない。流石に2駅分も離れてれば変電所が違うだろうけど……そう考えると俺たちも、実は緊急切断の危険が迫っているのかもしれない。

 

「ごめんユキくん、ちょっと私もログアウトしてくる。手遅れかもだけど」

 

 俺がボソッと呟いた言葉を聞いたセナが、何か重大なことに気がついたような顔をした。

 

「洗濯物?」

「うん。多分お母さんまだ帰って来てないし。じゃあ、後は任せるよユキくん!」

 

 そう言ってセナも、ログアウトして行ってしまった。つららさんはそもそもいないし、任された以上はやるしかなさそうだ。そもそもの目的でもあった訳だし。

 

 そんな感じの自己弁護を重ねつつバックヤードから出ると、今の今までワイワイとしていた雰囲気が一瞬だけ凍りついた。いつも通りの光景を無視して、俺は寝こけているカオルさんの隣の席に座り──

 

 そのまま普通の爆竹を爆破した。

 

 当然、障壁で周りへの被害は完全にシャットして。

 

「ぴぎゃぁ!?」

「Guten Morgen」

「ひぃ、悪魔ぁ!?」

 

 椅子から転げ落ちて、俺を指差し震えるカオルさんを見て、店内の雰囲気がいつものソレに戻った。最近、店内で爆破しても驚かれることがなくなって実に寂しい。

 

「起こして早々質問なのですが──」

「ゲームだからって何してもいい訳じゃないんですよぉ!?」

「街の中はダメージ発生しないし、いい目覚ましでは」

「ダメだ、この人頭おかしい……」

 

 目の前で、orzの体勢になってしまったカオルさんを見下ろしつつ言葉を続ける。

 

「目も覚めたでしょうし質問なのですが──」

「ああ、いいですよ答えますよ!」

「今貴方は元ギルドのメンバーに追われてるそうですが、その経緯を教えてくれませんか?」

 

 そう言った瞬間、カオルさんの雰囲気が切り替わった。今までの言ってしまえばアホの子的な雰囲気から、目を細めてよく見るガチ勢に相当する雰囲気へ。

 

「それを聞いてどうするんですか?」

「単に俺個人だけが協力するか、ギルド単位で協力するか、周りの人達も巻き込めるかですね」

 

 そう俺が言葉にした直後、シンとお店が静まり返った。その雰囲気に気圧されることなく、カオルさんは滔々と語り始めた。

 

「ことの発端は、ボクの【ナイトシーカー】の称号が示す通り、ボクがこのUPOをプレイしている時間です。今日は有給取ってinしてますけど、普段は深夜しかプレイできなくて……まあ、ギルドの人たちと全く噛み合ってなかったんですよ」

 

 無言で頷いて続きを促した。うちのギルドの場合は全員学生だから問題ないけれど、他のギルドではそういう問題もあるのだろう。

 

「それで1週間くらい前に、メンテ明けにお前は除名するって宣告くらいましてね。20人いる中でボクだけ完全にプレイ時間が外れてて、新しく入りたいって人の邪魔だったんだそうです。それで貸してたアイテムとかお金を回収しつつメンテに入って……まあ、この【ナイトシーカー】のユニーク称号を得まして。もう未練はなかったのでサヨナラしようとしたら、謝りもせず『どうか行かないでくれ』とか懇願されたんですけど……」

「1回放逐宣言されてるのに、戻ってやる義理はないですよね」

 

 お前が邪魔だ→お前が欲しいなんて、手のひらジクウドライバーかよ。しかも謝罪なしだとしたら、尚更戻ってやる義理はないだろう。俺が【すてら☆あーく】を去ることなんて無いだろうけど、もし俺が同じことされたら街ごと爆破して埋める。

 

「そうなんですよ! それなのにアイツらってば、ボクのことを執拗に追い回してギルドに戻ることを要求してきて……訳わかんないです。そう思いませんか!?」

 

 今までの真面目な雰囲気とは打って変わって、出会った時のようなアホの子モード全開でカオルさんが店内に問いかけた。そして、店内に声が轟いた。カオルさんの意見に賛同する声が。

 

「女の人を集団で。力尽くで意のままにする……まるで強姦魔の所業ですよ!」

 

 そうだそうだとヤジが飛び、場に熱が波及していく。カオルさん、中々に扇動の才能……いや、経験がある? この分だと、手助けは一切必要なさそうだ。

 

「で、そこの極振りさんはどうなんです?」

「俺自身は協力するって言ってるじゃないですか。ギルドについては……ログインしてるのが平メンバーの俺だけなので、今すぐには。でも協力はしてくれると思いますよ」

 

 今聞いた通りの話でかつ全てが真実なら、セナたちは快く協力してくれることだろう。使えないクソ雑魚の頃の俺も受け入れてくれたくらいだし。

 

「ということで、しばらくカウンター1つ指定席にしていいですよ。どうぞ存分に寝てて下さい」

「ええ! 存分に寝ますよ! 貴重な休日貴重な有給、睡眠時間も2倍ですからね!!!」

 

 そう言って俺は席を立った。後ろからそんな大声が聞こえた気がするけれど、すぐに寝息に変わったから気にしないでおく。これから、少々忙しいけど楽しくなりそうだ。

 外から店を覗き見た相手を爆破したし、ちょっと黄金の蜂蜜酒を使ったけど俺は悪くない。

 

 

 UPOからログアウトした時、外は天気予報通りの嵐が訪れていた。時期外れの台風だとかなんとか言ってた気がするけれど、朝のニュースなんて一々覚えてないから記憶が確かではない。

 

「とりあえず、夜ご飯作り始めよ」

 

 ゲームにログインしていた時間はそれなりなのに、現実ではまだ夕方。時間加速は実に便利な機能である。これを実装した運営は、普段はアレなクセに本当に有能としか言いようがない。

 なんてことを、思っていた時のことだった。

 

 ピンポーンと、チャイムの音が鳴った。

 

「誰だろ、こんな日に」

 

 ガスを止め、長杖代わりのクイッ○ルワイパーを持って玄関に向かう。我が家に来る人物なんてうちの親と沙織、沙織の親くらいのもの。沙織の親御さんはこんな時には来ないだろうし、沙織も合鍵がある以上チャイムは鳴らさない。

 つまり、今玄関先にいるのは、不審者の可能性が高いのだ。爆弾がないのは心許ないけれど、110番も待機してるし準備は万全である。

 

「どちら様ですか?」

 

 そう言ってチェーンを掛けたまま、玄関扉を開く。そんな俺の目に入ったのは不審者などではなく、しかし衝撃的な人物の姿だった。

 

「あの、家出、して、来ちゃいました……」

 

 何せそこにいたのは、大きなリュックを背負い、全身ずぶ濡れで立ち尽くす藜さんだったのだから。

 




【ナイトシーカー】
条件:ログイン時間が8割以上夜、かつ夜間のログイン時間がプレイヤー中最長
効果:夜間全基礎ステータス2倍、昼間全基礎ステータス半減(イベント参加時は夜間の効果を適用)
称号報酬:処女の生き血(特殊アイテム)
効果
※一日に三回のみ使用可能
・夜間使用時、全ステータス+10%、HPMPリジェネ5s/10%。効果60s
・昼間使用時、称号の効果を夜間のものに変更。効果600s

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