幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

143 / 243
第112話 邂逅

 なんだかんだで、家出に関する話がある程度まとまった翌日。空さんは学校を休むようだったけど、俺と沙織はそうもいかず。軽く話した結果、まあ問題ないだろと俺たちは登校することになった。

 

「それじゃあ、私たちは学校に行ってくるから」

「留守番、お願いしますね」

「私と、しては、2人がここから、登校するのが、不思議、なんです、けど……」

 

 困惑顔の空さんを背に、何故か昨日、いつも通り泊まっていった沙織と一緒に玄関を潜った。いつも通りの日常、いつも通りの風景。もしかしたら来年は、電車通学なら空さんもここに加わるのだろうか……あ、ダメだそれ、完全に俺が刺される。nice boatしちゃう。楽しそうなのは間違いないけど。

 

 そんなことを考え沙織と駄弁りつつ、普段と変わらない通学路を歩いている時のことだった。近くの路地に繋がる道、そこに不審な人影を見つけた。何のつもりかサングラスをかけ、こちらをずっと見ている人影を。

 

「沙織、警戒」

「ん、どしたの?」

「不審者。サングラスを掛けてて、ずっとこっちを見てる」

「え……?」

 

 件の人物を探そうとした沙織を、手を握り止める。今気づかれたら、ちょっと面倒なことになるし。

 普通なら気付くようなものではないけど、流石に数分間ずっと移動しつつ見られたら分かるというものだ。でもって、だ。こちらを見てるということは、狙いは俺みたいな一般人ではなく十中八九沙織だろう。

 

「とりあえず、合図したら学校まで。ダメそうならそこら辺の民家にでも逃げ込んで」

「とーくんは?」

「いつも通りどうにかする」

 

 昔から、ごく稀にだけどあったことだ。全裸コートの変態とかの通報案件の襲来は。なにせ、普段のらりくらりとかわしてはいるけど、事実沙織は可愛い。すごく。美少女って言って過言じゃない。

 だからこそ、そういうのが狙うよねという話。高校に入ってからは初めてだけど、まあもう慣れたものである。いつも通り無事に済むかはともかくとして。

 

「行って」

「分かった!」

 

 パタパタと走っていく沙織に合わせて、俺はその姿に背を向ける。そしていつでも110番できるようポケットの携帯を開きつつ、恐らく歳はほぼ同じ不審者に声をかけた。

 

「さっさと出てきたらどうです? バレバレなんですよ」

 

 ゲーム内と同じレベルまで素で集中して、姿を現した人物を観察する。体格は同等。足運びは一般人……でも、どこか慣れている。手を握り締めて、眉間にシワが出来てるから怒っていると推測。

 

 総括、危険人物と推定。

 

「死ねぇ!」

 

 そこまで判断出来ていたから、いきなり殴りかかられても対応できた。ゲーム内の誰と比較しても遅すぎる拳を、いつも通り回避する。ゲーム内より寧ろよく動く身体に感謝しつつ、足を掛けて転ばせようとする。

 

「いきなり往来で『死ね』とは穏やかじゃないですね。通報しますよ?」

「お前、誘拐犯の分際で……」

「はぁ?」

 

 こいつは何を言っているのか。まるで訳がわからんぞ。一切集中を切らさず、その挙動も読み取るため少し距離を取る。無論、沙織が追われないような方向に。

 

「人違いじゃないですか? こちとら普通の高1のガキですけど」

「間違いない。お前がユキとかいう奴だろう!」

「別人なんですけど……」

 

 指を指してそう言われても、誰が好き好んでリアルバレなんかするもんか。呆れて返すも、この御仁は話を聞くつもり自体無いらしい。

 

「いいや間違いない。お前が空を、妹を誑かした犯人だな!」

 

 この時点で、狙いが沙織でなかった安堵と共に、空さんの元家族への評価が地の底へ落ちたのは言うまでもあるまい。だからポーズを決めてる自称兄を無視して、スマホを取り出した。

 でもって沙織にSNSで『何も問題ない』と連絡。次に、電話帳から我が家の番号を選択して──

 

「あ、もしもし警察ですか?」

「なっ──」

 

 自称兄が絶句してるけど知ったことか。突然殴りかかってくるやつに、表面上だけでも遠慮はいらない。

 

『えっと、幸村、です』

「事件です。私のことを誘拐犯だと決めつける、謎の自称兄と名乗る人物が、突然道端で殴りかかってきました」

 

 空さんの息を飲む音が聞こえた。色々訂正したいことはあるけど、警察に電話しているようにみせる為に少し我慢。それよりも、推定空さんの兄がリアル義兄である確認を取らねば。

 

「髪は黒、身長は160台後半から170前半、太ってはいません。服装はジーパンにポロシャツ、灰色のパーカーを羽織ってます」

「ちょっ、ちょっと待て!」

 

 伸ばされた手を払い、いつも通りの足捌きで躱しつつ電話を続ける。初対面の人間に暴力を振るうような相手、まともに相手するに値しない。

 

『友樹、さん。それ、多分、兄、です』

「そうですか、分かりました。どうすれば良いですか?」

「電話を、やめろ!」

 

 この時間だし、そろそろ何とかしたいところだ。というか、今の状況わかってるんだろうかこいつ。

 

「この、二股野郎が!」

「そもそも、俺は誰とも付き合ってないですって」

 

 どうしよう、本当に110番してやろうかこいつ。あとなんで空さんも驚いてるんですかねぇ。もし、もし俺が誰かとそんな関係にあったら、そも空さんのことを泊めないでしょうに。

 

「嘘をつくな!」

「嘘なんて言ってないんですが……」

 

 自意識過剰の可能性は大きいけど、好意に気づいてないとは口が裂けても言わない。それでも、いやだからこそ、俺は一切手を出してない。押し倒されても手を出さない自信がある。

 

「さっきのを見て、信じられるとでも思ってるのか!」

「幼馴染ですが」

「お前みたいな奴に、大切な妹を任せておけるか!」

 

 黙ってしまっている空さんの心配をしつつ、適当に目の前の奴をあしらってるとその言動から気づいた。この自称兄って、もしかしたらただシスコンでしかないのでは?

 いや、ないかと首を振って否定する。道端で突然殴りかかってくるやつがそんな訳ない。シスコンならこう、ランさんみたいにあるべきだ。妹の為なら物理法則をブッチする勢いで動くような。

 

『友樹さん、変わって、ください』

 

 そんなことを考えていると、通話先から冷え切った声が聞こえた。単純に「あっ、これヤベェ」としか判断できない声が。

 

「す、スピーカーフォンでも?」

『問題ない、です』

 

 聞き終えると同時、電話のモードを切り替えて目の前にかざした。

 

『兄さん』

「空か!」

『帰れ。2度と、顔、見せるな』

 

 吐き捨てるような冷え切ったその言葉は、俺のどんな言葉より効いたらしい。自称兄は、凍りついたかのように固まってしまった。確かにこれは、俺も言われたらキツイわ……

 

「だ、だがな」

『ユキさんの家まで来たら、本当に通報する』

 

 心なしか普段よりも饒舌な空さんの声は、完全に自称兄の精神を粉砕しているように見えた。崩れ落ちてるし。

 

『もういい、ですよ、友樹さん』

「ん、ああ、はい。それでは」

 

 バッサリと切り捨てた空さんの意外な一面を覚えつつ、俺は通学路に崩れ落ちた変人を見なかったことにした。沙織にも心配かけただろうし、早く学校行こう。

 

 うん、今日ここでは何もなかった!!

 

 

 帰りには何事もなく下校し、1日ぶりにログインしたUPO。リビングからのログインだけに、多少の不安はあるが少しゲームにinしたい理由があった。

 

「と、言うことで。そんななんちゃって義兄が出たんですよ。ランさんとしてはどう思います?」

「論外だな。仮にも兄であるなら、何をおいても妹を優先するべきだ」

「ですよね」

 

 これがシスコンというものだろうと、内心しきりに頷きながら答える。うん、やっぱりシスコンってのはこうであって、朝見たアレはただの変質者だったのだろう。間違いない。

 

「だが、そういう奴は簡単に手は引かないだろうな。必ずまた、自分の意見を押し付ける為どこかで接触してくるだろう」

「粘着ですか……面倒ですよね。ストーカーにもちゃんと、警察動いてくれればいいのに」

「なんだ、経験があるのか?」

「ええまあ、昔ちょっと」

 

 ついでに高校入ってから、セナと親しくしてるからか俺が付き纏われたりしてるし。実害がないから、どうしようもないんだよなぁ……

 

「とりあえず、これから暫く警戒して──む」

 

 そんなことを話していた時だった。外からこのギルドに向けて、何かが物凄い勢いで迫ってくるのを探知した。またそこで寝てる人(カオルさん)への来客だろうか? そう思っていた俺の耳に届いたのは、予想外の声だった。

 

「ここに極振りのユキはいるか!」

 

 入り口に立ちそう宣言した人物の声は、今朝聞いたものと同一のそれだった。噂をすれば影とはこのことかと思いつつ、即座にステルスしながらその訪問者を観察する。

 体格はほぼ同一、髪の色は黄緑が一番近い感じ、装備は1/3くらいが既製品とその強化品っぽい。乗り換え前提なら確かにそっちの方が安上がりだし性能そこそこだから、まあそこは普通か。

 

「はいはい、ここにいますよ」

 

 少しだけ普段とは声を変えて答えた。同時に鑑定と看破の複合(11個目の)スキルで、少しだけステータスをすっぱ抜く。成る程、Lv57で【剛槍術】持ち……藜さんとは違うタイプの槍使いっぽい。

 本職じゃないのとステータス不足でほぼ見えないけど、武器か魔法スキルくらいはすっぱ抜けるのだ。現実での動きがアレなのは、ゲーム内の動きに慣れてるからだろう。

 

「俺とデュエルしろ!」

「別に良いですけど……いつやります?」

 

 その提案を断る理由は特にない。あの高難度イベント以降、それなりにPvP申し込まれる機会が増えたのだ。最初は断っていたけど、最近はちゃんと受けるようにしているし。

 

「今すぐにと言いたいが、明日の午後6時でどうだ」

「特に予定ないし良いですよ」

 

 それにここ最近、厄介ごとばかり舞い込んできて鬱憤晴らしをしたいのだ。勝つにしろ負けるにしろ、作業ゲー染みた戦闘以外を久しぶりにやりたい。そんな魂胆を抱いていると、推定自称兄……推定自称兄ってなんか気持ち悪いな。PN(プレイヤーネーム)レウスとやらはニヤリと笑みを浮かべた。

 

「勝った方は、互いのギルドから1人移籍してもらおうか」

「は?」

 

 相変わらず意味のわからないことを言う。いや、藜さんをうちから切り離したいんだろうけど。

 

「いや、こっちに受けるメリットが微塵もないんですが。それにそもそも、俺ヒラ団員なんで決められませんし」

「は……?」

 

 今度は向こうが固まる番だった。え、いや、もしかして俺がギルドのマスターとかサブマスと思ってたとか? 最初からずっとヒラ団員なんですけど。

 

 固まった空気の中、何処かで烏が鳴いた気がした。

 

 どうしよう……そう思っていると、視界の端でムクリと今の今まで寝ていたカオルさんが起き上がった。そしてこちらを見ると、目を見開いて叫ぶ。

 

「サブマス3号じゃないですか!」

「えぇ……」

 

 予想外のところで、2つの問題が重なった。世間って、こんなに狭かったっけ……?

 




書けてなかったリハビリリハビリ


推定自称兄(話をする気がない)
ユキ(話されないから聞かない)
ファイッ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。