幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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IKEAのサメかわいいよね


第113話 殴り合ってから考えよう

 元々受けるメリットもなく、断ろうとしていたこのPvP。けれど断る直前、カオルさんが発した言葉で流れが変わった──

 

「サブマス3号じゃないですか!」

「ん、ああ、ここにいたのかお前」

 

 なんてことはなかった。少し驚いたようにはしつつも、それだけで推定自称兄はこちらに向き直った。うん、まあ、今は関係ないしそうなるか。妙な納得とともに、俺もそれに倣う。

 それにしても、温まった場の空気を平常時まで落とすなんて流石ですわ。多分これからは、もう少し落ち着いた交渉になるだろう。

 

「ちょぉぉっと待ったぁぁ! なんで! ボクを! 無視するんですかぁ!」

 

 そうして言葉を発しようとした瞬間、カオルさんが割って入ってきた。物理的に、スライディングをしながら。

 

「ぴぎゃぁ!?」

 

 そしてそのままカウンターに足をぶつけ、死にそうな声を上げてその場に崩れ落ちた。なんだこれ……なんだこれ?

 

「折角貴方のギルドから逃げてる私を見つけたのに、何ですかそのアッサリとした反応は!」

「そもそも、俺は何も追うまでは必要ないと思っててな……」

 

 そう渋い顔をして、推定自称兄さんは言った。うん? リアル凸には驚いたけど、もしかしたらある程度話が通じる常識人なのでは。

 

「それならそれで、ボクもこの話1枚噛ませてもらいますよ!」

 

 いいですよね、とカオルさんがこちらを睨みつけてきた。まあ、あんまりにもアレなら介入すれば良いだけだし、とりあえず頷いておく。

 

「ふふーん。おっけーも貰いましたし、そっちが理不尽な要求をするなら、ボクだって1つ要求させて貰いますよ!」

「あ、ああ」

「ボクも爆破卿サイドで参戦します。そして勝ったら、もう追ってくるのは金輪際やめて貰います!!」

 

 ドヤァと、決まったとでも言いたげに、推定自称兄を指差したポーズでカオルさんは言い切った。まあ、便乗して要求するには問題ないくらいのことなんじゃないだろうか。その後どうなるかはさておき。

 

「構わないが、多分お前が関わるとなるとギルド総がかりになるんだが……」

「ハッ、称号持ち2人を相手にするんです。それくらいで丁度ですよね、爆破卿!」

「えぇ、まぁ、そうですけど……」

 

 こっち側の趣旨がブレるけど……まあ、誤魔化せそうだしいっか。最悪、その後もう一回やりゃあいいんだし。

 

「あー……訂正だ。デュエルの日、明後日にしてもいいか?」

「俺は構いませんよ」

「すまん……」

 

 カオルさんの介入によりもうなんか、さっきまでの雰囲気は那由多の向こうへと消え去ってしまっていた。仕切り直し、とても大切。

 

「え、なんです? なんですかこの空気? ボクが悪いんですか!? ボクは何も悪くへぶ!?」

 

 とりあえず、事態をさらにややこしくしてくれやがったカオルさんは爆破しておいた。いろいろ相談の余地は残ってるとはいえ、結局やることになったし……やるからには、全力で勝ちに行こうか。

 

 

 翌日はリアルもゲームでも何事もなく、至って平穏な時間が流れた。こういう決闘騒ぎは稀によくあることだし、せいぜいがあの時ギルド内にいた人だけの話で終わった。

 

「先ずは、この状況を謝る。俺は1対1で決着を付けたかったんだが、ギルドの方針は止められなかった」

 

 時間は進みデュエル当日。決闘場所として指定された第5の街周辺の草原で、俺は推定自称兄に頭を下げられていた。その理由は、推定自称兄の後ろに控える30人のプレイヤー。

 昨日目一杯の謝罪文とともに送られてきた『デュエルの仕様変更』に書かれていた通りの状況だった。

 

「昨日のメールでそれは散々聞きましたので、別に構いませんよ」

 

 仕様変更の内容は、PvPの内容をバトルロワイヤルに変更すること。それに伴い、実質このPvPはギルドvsギルドになるだろうこと。そしてカオルさんの参戦が確定した為、開始時間が22時にズレたこと。勝利条件は、最後まで残っていたプレイヤーがいた組の勝ち。

 

 お互い頭の冷えた状態で、関係者を交えて話し合った結果の条件だから、否応もない。どうやら、カオルさんがいることが分かった時点で、サブマスじゃどうしようもないギルド全体の意識が……という流れらしい。一応止めようとはしてくれたっぽい。

 

 ちなみにその後軽く話すことで、自称兄は話が通じる人と分かったのだけど、それはそれ。お互い血が上った勢いで、もう引くに引けなくない状況になってしまってる。

 

「でも、こうもあからさまになるとは思いませんでした」

 

 彼我の戦力差は、数字だけでいえば31vs3である。1人で10人くらい倒せばいける、マルス理論の通り何も問題はない。が、それでもよくそんなに集めたと言いたい。

 

「別にボクと爆破卿、それに藜ちゃんまでいれば負けることはないと思いますけどね!」

「ぶっ潰し、ます」

 

 それに対して、こちらは俺とカオルさん、そして藜さんのみ。

 セナは「私までいるとオーバーキルになるから」って言って辞退して、れーちゃんは眠気に負けてログアウト、つららさんとランさんは「お前がいるなら余裕だろ?」と、れーちゃんと一緒にログアウト。そうして残ったのがこの惨状というわけだった。

 

「分かった。俺が言えた立場じゃないのは重々承知しているが、言わせてくれ。せめて、悔いのない勝負にしよう」

「ええ。良いバトルにさせて下さいね?」

 

 そう言って、送られてきたデュエル申請を承認した。直後、この場にいる全員の中心に、カウントの数字が浮かび上がる。

 

「爆破卿、事前の作戦通りに行きますよ」

「ええ、有象無象と邪魔する奴は、俺たちに任せてください。だから」

「私が、アレと、直接やります」

 

 夜空に浮かび上がる数字が減っていく中、俺たちはそんな会話を交わした。

 散開して武器を構える31人に対し、俺とカオルさんが水平に並び一歩下がった場所に藜さんがいる。そんな即席の陣形だったけど、この分だとまあ問題ないだろう。

 

磁装・蒐窮(エンチャント・エンディング)

「蒸気、充填開始」

 

 戦闘開始5秒前

 

 俺が何時もの通り抜刀術の構えを取る隣で、カオルさんもその奇怪な武器を腰溜めにして構えた。俺の仕込み刀と違って、その形状は正真正銘の刀だ。

 1つのタンクから歯車と配管が這うように広がるその鞘は、柄を握るゴツい籠手は、夜空の光を鈍く反射するそれらは、何処か男の子のソウルを刺激する。

 

 4秒前

 

 紋章を展開していくこちらに対し、カオルさんは機械っぽい装備のある部分から白い蒸気を噴き出していく。

 事前に聞いた話では、カオルさんは基本抜刀術メインで少し魔法も使うタイプのスタイルらしいかった。しかも俺やアキさんと違って、攻防一体のちゃんとした。

 

 3秒前

 

 後ろで藜さんが、既にペットを召喚・合体した状態で大きく後退する。それは逃走ではなく助走。俺とカオルさんで有象無象を吹き飛ばした後、一騎打ちに持ち込む為のものだ。

 

 2秒前

 

 こちらの準備が完了した直後、カオルさんの足元からズドンと重い音が響いた。見れば、一部から蒸気を噴出する靴から、地面に向けて杭が打ち込まれていた。いいなぁ、それ。

 

 1秒前

 

 こちらが何をするつもりなのか、分かったプレイヤーがいたのだろう。だがもう遅い。推定自称兄がいる線を除き、そこは全て射程圏内だ。

 

 0秒

 

電磁抜刀(レールガン)──(まがつ)!」

「蒸気抜刀──紫電一閃!」

 

 戦闘開始と同時、解放された2つの抜刀術の技が炸裂した。

 

 片や、紋章の力で爆発的に加速された、稲妻を纏う一撃

 片や、蒸気の力で爆発的に加速された、紫電を纏う一撃

 

 ともにプレイヤーが受ければ即死する火力の、威力増大により範囲攻撃と化した圧倒的な指向性を持った暴力。それらが草原を砕き、抉り、切断し、吹き飛ばしながら、直進していく。

 

 それぞれの一撃は、大きく地形に2条の線を深く深く刻みつけた。そして合流した電撃を纏った威力は、混ざり合ってヴォルテックスを形成する。25人、それが巻き込まれて蒸発したプレイヤーの数だった。

 

 俺の方の火力は、加減したこともあって大体500万くらい。それから比較してみるに、カオルさん方は100〜200万くらいはありそうだ。流石は称号持ちかつ、その力が一番発揮される時間である。

 

「いやぁ、我ながら壮観ですね」

「やっぱり夜のボクの抜刀術は最強ですね!」

 

 中々に危ないカオルさんの発言は無視して、お互いにサムズアップをする。

 

「では」

「約束通りに」

「行き、ます!」

 

 そしてその中間を、羽撃きと共に藜さんが突撃していった。多分これで、邪魔が入らなければ話し合うくらいは出来るだろう。俺も推定自称兄も、1日経って頭も冷えたし。運良く残った4人も、多分藜さんなら問題なく倒せるだろう。

 同時にカオルさんが大きく飛び、俺から距離を取った。まだ探知圏内にはいるし、いつでも援護はできる態勢である。

 

 そんなことをした理由は何故か。決まっている。あの斬撃を自主的に躱した2名の邪魔を、一切入れさせないためである。

 

「さて、噂には聞いてますよ。ケッテンクラートに乗った、紅茶決まったヤベー奴がいるって」

 

 そう言って、俺は目の前に着地した異形のバイク……ケッテンクラートに乗ったソイツに話しかけた。

 

「いやはや、私も先駆者と対面出来て満足だよ」

 

 そう語るのは、鹿撃ち帽とインバネスコートを纏い、マスケット銃を担ぎパイプを咥えたプレイヤー。先輩方が話していた、シルカシェンという名の準極振りのプレイヤー。それも、ステータスはStrとLukの2極だという。

 

「それにしても、私は貴方があのギルドの味方をするとは思いませんでした。話を聞く限り、思考回路は先輩方に近いようでしたので」

「カジノに出禁を食らってから、些か懐が寂しくてね。分かるだろう?」

「ええ、とても」

 

 俺も同じく、カジノから国外追放を受けた身だ。あんな手早くお金をポンポン稼げる場所から、普通の狩場で何かをするとなるとかなりキツイ。

 

「故に、だ。200万Dポンとくれた奴らに、気紛れに味方することにした。装備の維持費がな、嵩んで仕方なくてな……」

「同じバイク持ちですし、そこも痛いほど分かります。金かかりますもんね……」

 

 お互いに深くため息を吐き、同類なのだと認識した。バイクの維持費、消耗品の購入、武器の整備、やり出したらお金はすぐに飛んでいく。普通はレベル上げでもすれば採算は付くが、極振りだとそうもいかない。

 まあ、俺の場合お金には困ってないのだけど。5000万Dを超えて、まだ増え続けてるし。貯蓄も500万D分くらいはある。あと制作系のスキルもあって、最低限それが使えてるのも大きい。

 

「でも、今はそんなこと置いておきましょう」

「こちらとしても、幸運極振りの先駆けと戦えるのを楽しみにしていましてね」

「俺も、自分以外の幸運振りと戦うなんて初めてで、楽しみです」

 

 そう言ってから、何時ものようにカッコつけることなく愛車(ヴァン)を召喚する。そして、目の前のケッテンクラートに対抗するかのように吹かす愛車に乗り込み、こちらも【新月】を構える。

 

「やりますか」

 

 夜の草原に、エンジンが吼える爆音が響き渡った。

 


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