あのデュエルが決着した後、交渉は思った以上にトントン拍子で進んだ。何せ現ギルマスも含まれていたという、最初に俺とカオルさんが斬滅した20余人。その全員がショックなのかなんなのか、無言で棒立ちしたままになっていたのだから。
「いやぁ、久し振りに良い仕事をしました」
「こちらこそ、あそこまで正確な爆破は初めて見ましたよ」
カーンと勢い行くコップを打ち合わせ、力負けして弾かれながら中身を一気に飲み干す。
「ハッハッハ」
「フッフッフ」
そう言葉を交わすここは、ほんの2時間前に完成した新ギルド【ボクと団長と酒と愉快な仲間たち団】。名前はふざけ切ってるが、称号持ちとそれに比肩する実力者が2トップの強ギルドである。
というか正確に言うと、上手くあのギルドから離脱したカオルさんと元団長だったというブランさん。そしてブランさんがサブマスとして率いていた元々の団員、ついでに藜さんの自称義兄の計8名で作られたギルドだ。
「それにしても、俺より多く弾幕を展開する人に初めて会いましたよ」
「こっちもまさか、600発展開したのに500発防がれるとは思いませんでした」
その経緯というものは割と簡単だ。結局こちらが勝利したことにより得た、ギルメンの1人引き抜き権限。こちらとしては誰も要らないので無用の長物であったそれを、体良く利用した形になる。
こっちが引き抜いたのは、今ハイテンションで飲み交わしている元ギルマスだった人。この人の「今のギルドとおさらばして、新ギルド立てちまおうぜ」という計画に乗ったのだ。
「「ははははは!」」
ブランさんとは、思ったより話が合ったし弾んだ。互いに弾幕、互いに固定値、長杖がメイン武器、共通点がかなり合ったからか。それとも、互いに傾けている
まあなんにせよだ。話が合えばテンションが上がる、テンションが上がれば話が弾み、雰囲気に酔い始めたらもう手がつけられない。酔っ払いは怖いのだ。何するかわかんねぇから。それに素面で付き合う奴も怖いのだ。何するかわかんねぇから。
例えばなんとなく気分が良くなったので、例のギルドをサブマス公認で発破解体するくらいには。
「汚い花火でしたねぇ」
「地上の星でした」
そんなことが起きた理由は、本当にテンションでしかない。ただなんとなく爆破したくなり、元ギルマスがそれを承認した、元サブマスも承認した。それだけの話である。
無論、遊びだけど真剣なので手は抜かない。藜さんの自称義兄の手引きにより、ギルドの物理破壊無効設定を解除、各所に爆弾を仕掛け、サブマス権限でギルド内に発破を通達。直後に発破した。爆弾魔を手引きした罪状で自称義兄はギルドを脱退、ついでとばかりに転がり込んだというわけだ。
決して、どこかで見たことあるちょくちょくちょっかい掛けてくる金髪が現ギルマスだったからとか、ギルド名が【m9(^Д^)】だったから煽られた気がするとか、だから爆薬を増量したなんて事実はない。ないったらない。存在しない(メタルマン)我々の勝利だ(大本営発表)
「イェーイ!」
「うっうー!」
スパァンと快音を奏でてハイタッチ。腕が後方に勢いよく吹き飛んだけどモーマンタイ。圏内だから千切れない。
「んぅ……ユキさぁん!」
「ギルマスぅ! 飲んでますかぁ!?」
そんなことを思いつつお酒(未成年フィルターでただの苦めの水)を飲んでいると、向こうのギルマスと全くの同タイミングで絡まれた。
向こうには100%酔っ払っている酒瓶を持ったカオルさんが、俺には雰囲気で酔ってる藜さんが。確かにこう、8人くらいが酒飲んでドンチャン騒ぎしてるから分からないこともないけど。
かく言う俺も、【酩酊】の状態異常アイコンないのに気分がフワッフワしてるし。マイ火薬美味しい、胡椒味。
「全然飲んでないじゃないですかギルマスぅ! ボクと一緒にもっと飲みましょうよ!」
「ガボボボボボ」
目の前で、口に一升瓶の口を突っ込まれて溺れ始めるブランさん。あれさっきカオルさん口つけてたけど、こんな状況じゃ気にしている暇はないのだろう。
待てよ、このテンション俺にも向くのでは。一気に頭が冷えた。向こうは推定だけど成人同士、対してこっちは未成年同士。前者はセーフでも後者はやらかしたらBANである。決してぶち飛ばしていくぜなんて出来ない。
「なんで! 5日も、同棲してるのに、少しも手を、出して、来ないん、ですかぁ! 頑張って、アピールしてたん、ですよ!」
「ははは……」
そんなことを考えてる俺も、BAN以外にも割と余裕はない。
リアルならこうやってポカポカと叩かれるくらいなんの問題もないけど、ここはゲームの中。数値的に見れば、1000倍近くの力を持つ相手にポカポカされてるのだ。圏内だからダメージは発生しないけど、衝撃はそのまま貫通する。障壁で一々合わせて防御しないと、吹き飛ばされること請け合いである。
「リアル世界に離脱したい……」
切実にそう思うが、少なくとも藜さんが冷静さを取り戻すまでは俺は帰れない。だって今のこのテンション、ゲームシステム性の状態異常じゃない高揚みたいだし。であればきっと、これはリアルの方にも引き継がれるだろう。それはその……ちょっと困る。
「ゆーきーさーん!」
「はいはい。今のうちに、寝たら自動ログアウトに設定変えておいてくださいね?」
「むー!」
軽く溜息を吐きながら、ペシペシとこっちを叩こうとする藜さんを冷静に対処する。いっそ酔えたらいいのに……そんなことを考えつつ、こんなカオスな状態になってしまった現状に大きく溜息を吐くのだった。
◇
と、そんなことをユキたちがやっている頃。第6の街【グルーウェド】では1つの動きが起こっていた。
それは、いつまで経っても渡ることの出来ない第7の街への通行ルート開拓。つまり、メインストーリー進行クエストの探索。第6の街に到達したプレイヤーが合同で、霧深い蒸気の街を練り歩いていた。
当然そのメンバーの中には、とっくに到達していた上位ギルドの面々も含まれている。しかし、その結果は不発。ボスモンスターの情報どころか、次の街へ進む手がかり1つ見つけることは出来なかった。極振りも複数名参戦し、称号持ちも半数が参戦しているのにもかかわらず、だ。
全くの同時に実装された街として、それは明らかな異常である。プレイヤーを先に進ませる気のない街なんて、ゲームとして破綻しておりクレーム案件でしかない。そして何より、つまらない。
そうして過ごすことになった1週間。なんの反応も示さない運営に、既にプレイヤー側のフラストレーションは限界に達しようとしていた。そんな中誰かが「今日も空振りか」と呟き、現実の時計の針が0:00を示したその時だった。
ーーWARNING!ーー
ーーWARNING!ーー
ーーWARNING!ーー
けたたましいサイレン音を伴いそれは出現した。ログイン中の全プレイヤーの前に、黒と黄色の警告表示に囲われた
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【運営からのお知らせ】
このメールは全プレイヤーに送信されています
解放予定だった第7の街【ミスティニウム】が、設置していたエリアボス及びエリアボスの率いるモンスターにより完全占拠されました。これにより【ミスティニウム】は完全圏外となり、街としての機能が一切消失しました。
よって11月4日(日)の正午より、イベント【ミスティニウム解放戦】を実施します。
クエスト参加可能対象者は【グルーウェド】に到達した全プレイヤーとなります。
時間加速は通常時の2倍から10倍にまで増加します
【備考】(※重要)
戦力バランスの調整のため、前回イベント『十の王冠、不敗の巨塔』にボスとして参加したプレイヤー9名は、【ミスティニウム解放戦】において戦闘行為へ参加することは出来ません。街への侵入は可能ですが、敵のターゲッティング自体は通常と変わりません。
『戦闘行為の種類』
・パーティへの参加
・ダメージを与える行為
・味方のデバフ、ダメージを引き受ける行為
・配置オブジェクトの破壊行為
・ターゲットの引き付け
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【ミスティニウム解放戦】推奨Lv 90
第7の街ミスティニウムが、モンスターたちに占領された。
余計な言葉を語るつもりはない。目標はただ1つ、ミスティニウムをプレイヤーの手に取り戻せ!
このクエストは、メインターゲットを達成した時点でクリア扱いとなります。サブターゲットの達成数に応じて、報酬が変動します
戦域 : 第6・第7の街勢力圏全て
勝利条件 : ミスティニウムの解放
敗北条件 : 第6の街【グルーウェド】の陥落
報酬 : 1〜500,000D、SSレアスキル取得チケット
経験値 1〜500,000
メインターゲット
・『??????』の討伐 0/1
・街内のモンスターの全滅 0/1
・魔物発生装置の破壊 0/1
・街内の浄化 0/1
・人質の救出 0/1
サブターゲット
・市壁の無力化 0/100
・市壁の破壊 0/100
・司令塔の破壊 0/10
・『?????』の起動 0/20
etc……
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前回のイベントを鑑み、運営が下した決断は極振りの出禁。
その条件の下開催される、現在のプレイヤー最大レベルが80(記録者 : センタ)のところ開催される、推奨レベルが90というクエスト。
極めて一部のプレイヤーしか経験のない市街戦。
一部のプレイヤーのみが経験した防衛戦。
全プレイヤーが経験したことのない制圧戦。
確実にプレイヤーを巻き込む、大きな大きな嵐はすぐそこまで迫っていた──
が、しかし!
運営は1つだけ、重大な見落としをしてしまっていた。
どうして極振りを封じた程度で、プレイヤーの動きを封じることが出来るだろうか。否、断じて否である。
例えばそれは、バイクをこよなく愛する者たち
例えばそれは、戦車をこよなく愛し走る者たち
例えばそれは、愛する戦闘機と1つになった者たち
例えばそれは、牙を抜き死力を尽くした生産者たち
今まで極振りの影に隠れて表に出ることのなかった、手のつけられない愛すべき馬鹿ども。彼らとて決して、