どんちゃん騒ぎのあった翌日。名残惜しそうにしながら、空さんは我が家から帰って行った。
数時間後、無事問題は解決した旨の連絡を空さんから、沙織からはお母さんがマジやばかった旨の連絡を貰ったから安心である。義兄の方からの情報漏洩は、事前に否定しきってるからセーフだろうし。あんな騒動にまで発展した割には、呆気ない幕切れだった。
大切なことだったけど、それはそれとして。
目下最大の問題は、次回イベントで極振りメンバーが実質出禁なことだ。運営からのクエスト発生ではないもう1つのメールに、『イベント終了後、報酬が確定した時点で補填も決定する』って感じのことが書いてあったけど……正直、やってくれたなとは思う。どっちの意味でも。
先ず、面倒臭いことをしてくれたと思う。戦闘と破壊行為が禁止されたのなら、出来ることがグッと減る。爆破もできないから魅力が半減だ。
でも同時にこうも思う、運営はよくやったなと。今回のイベントは街の攻略だ。であれば、街をマッキーパンチしてしまう廃火力持ちは規制して当然だろう。そんな奴らを野放しにしてたら、企画倒れになってしまうし。
だからこそ、今回のイベントはゆっくり出来るかなと思っていた。そう、思っていたのだが……
「ユキもっと火薬だせ!」
「いやいやいやいや、これで全開ですって!」
現在地は、第3の街にあるギルド【極天】地下。ザイルさんの工房で俺は、弾薬の製造に着手していた。材料提供係として。
周囲に存在しているものは、その全てが弾薬。銃弾砲弾に始まり、ミサイルや馬鹿でかい砲弾まで存在している。ザイルさん曰く、稼ぎ時に仕事をしないでどうすると。どうせ暇な俺も巻き込まれた形だ。
「あんな面白いものが見れるって言うんだから、生産者として手加減するわけにはいかねぇよなぁ!?」
「テンションおかしいですよザイルさん……それで、面白いものってなんなんです?」
「ん、ああ言ってなかったか。戦闘機、戦車、飛行船、戦艦、列車砲、色々だよ」
「……はい?」
弾薬を製造する手を止めず、さもなんでもないことの様にザイルさんは言った。
ちょっと待って。戦闘機と戦車は分かる。この目で見たこともあるし、使い手の数名はゲーム内のフレンドでもあるし。でも他の存在、コレガワカラナイ。
「ギルド【クロイカラス】を中心とした、戦闘機を再現した数ギルドの連合から戦闘機が5機と、装甲飛行船が1機、武装ヘリが4機。
ギルド【戦車はいいぞ】を中心とした、戦車乗り数ギルドの連合から戦車が合計20両。
ギルド【アルムアイゼン】中心の商業系の連合が、まだ調整中とのことだが列車砲を1両。川からはダウンサイズしてるが、大和ベースの戦艦を突撃させるらしい。
後は確か【モトラッド艦隊UPO支部】の奴らが、『今こそ地球浄化作戦実行の時』とか張り切ってたから、何か隠し球はあるんじゃないか?」
「冗談みたいな戦力ですね」
最早笑うしかなかった。運営は、この頭のおかしい戦力を把握しているのだろうか? しかも今回のイベントは、前回と違って区域封鎖はなく初期配置は(第7の街内部を除き)自由なのだ。
第7の街【ミスティニウム】は、フルトゥーク湖から続く超巨大な川の中州に配置されている街だ。当然戦車が進むための陸地も、戦艦が通れるのかは知らないけど川に周囲を囲まれている。侵入方法は推定だけど、対岸に巨大な跳ね橋が上がっているのが目撃されている。
第6の街【グルーウェド】からはそれなりに離れているけど、道はすでに【アルムアイゼン】の人達が舗装してたから完璧だ。線路は確か、グルーウェドの勢力圏ギリギリまでは来ている。
要するにアレだ。ただの案山子ですな。
「因みに、これが現時点で決まっている街攻めの戦力だ。防衛組はまた別にいるぞ?」
「ファッ!?」
「《大天使》のイオが率いる、ギルド【空色の雨】
《牧場主》のしぐれが率いる、ギルド【わんにゃんぱらだいす】
後は有名どころだと、個人で《ラッキー7》のシルカシェンと、うちからアキが参戦するって話だ」
「うわぁ……」
イオくんのところはいいとして、しぐれって人は初耳の人だった。けど、《牧場主》のユニーク称号持ちってことは相当強いのだろう。シルカシェンさんは、あの時は初っ端に武器破壊出来たから一方的だったけど、普通に考えるなら真面目に強い。
「でも、アキさんって戦えないはずじゃ……」
「そうでもないらしいぞ。極振りサイドもペットは参戦OKらしくてな。アイツのペットは、なんというか付喪神みたいなアレで、武器に宿ってるんだ」
「それって、確かユニーク称号について来た装備のです?」
「ああ、それだ」
俺の【無尽火薬】と同じ分類で、確か名前は【装刀オリハルコン】。装填した武器の性能を強化して使う刀型の武器だ。そしてその武器には今、7本全てに【無垢なる刃*1】が装填されているとのこと。
「普段はやらないが、ペットだから自律行動できるんだよ」
「うわぁ……」
手に持っていても抜刀術のスキルを使わなければ、判定としては自律行動なのだとか。普段の単発で数万〜数十万の火力と比べれば型落ちだけど、1万ダメージはほぼ確定な時点で火力は十二分である。
「あ、すみませんちょっと手を止めますね」
そんなことを考えていると、メールを受信した音が鳴った。一応断りを入れてから片手で操作すれば、差出人は珍しくセナだった。確か今日は、藜さんとつららさんと一緒に何処かに行くって聞いてたけど。
えっと内容は……『ユキくんって、同時に撃たれた銃弾何発くらいなら止められる? 範囲は探知できる限界ギリギリの場所で、質量はプレイヤー1人くらい』というもの。
「うーん……」
探知範囲の限界ギリギリってことは、後方も含めると視界外もだし……確実に安全に止めるってなると、そこまで多くはやりたくない。拳銃弾サイズなら500はいけるけど、大きさがプレイヤー並みでしょ? 障壁大きくしなきゃいけないし、MP温存と回復も考えると……
「まあ、これくらいかなっと」
『完全に勢いを殺せるのは50、割と雑になっていいなら100くらいは出来るかも』と返信しておいた。まあ、これでもMPは半分切るだろうけど。あ、もう返信来た。『20個くらいならどう?』って?『それくらいなら目を瞑ってでも出来る』けど……
「はぁッ!?」
「どうかしたのか?」
「いえ、ちょっとギルマスから作戦司令が来ましてね……」
セナが思いついたものなのかは知らないけど、どうなんだろうこれは。理にかなってはいるけど、運営の胃壁をガリガリ削る気しかしないんだけどこれ。
「これは……いいな、面白い」
なんて思っていると、作戦が書かれたメールの内容をザイルさんも読み終えたようだった。見られていいようにしていたから問題ないけど、よく鏡文字なのに読めるよね……
「ザイルさん、折角だから爆弾作りません? 具体的に言うと500kg爆弾を」
「爆装か! 実質タダで儲けられる、完璧だな」
「「フッフッフッ!!」」
何処ぞの天竜人崩れの国王みたいに笑いながら、明らかに過剰な火力の武装が量産されていく。しかしそれに歯止めをかける者は、誰1人としていないのであった。
◇
場所は変わって、復興した第4の街にある会議室。そこに集まっている各ギルドの代表の中で、手元に開いていたウィンドウを閉じてセナが言った。
「ということで、さっきの作戦は問題なく出来ると思います」
その言葉に、円卓に座っているメンバーが口の端をニヤリと歪めた。
「極振りだけが危険でないことを、油断しきった運営に教えてやろう」
「レイドボス戦で味わった屈辱は、我々に限界を超えさせたことを教えてやりましょう!」
「うちらのとっておき、目に焼き付けたるさかい」
「街1つ程度、焼き尽くすのに1時間もいらない」
「なんで皆さん、そんな好戦的なんですか……僕も、加減する気はないですけど」
「この作戦は、先行突入する20人と1人の動きで全てが決する。内部で出来ることさえ終われば、我々の全力を振るうことができるのだから」
先行突入組に課せられた任務は3つ
・人質の救出
・司令塔の破壊
・橋の開閉装置の破壊
これらをこなすことができれば、情け容赦のない鉄の雨が降る。
極振りの陰に隠れていたヤベー奴らが動き出す。
剣と魔法が優勢な世界でも、なんら機械が劣ることはないのだと証明するために。
各々が作り上げた、夢の結晶が歴史の表舞台に現れる。
誰に馬鹿にされようと、それこそが己の誇る最優だと示すために。
忘れ去られた過去の遺物が、データの世界に蘇る。
かつて夢を見せてくれた思い出を、再び現実とするために。
もう止まらない、誰にも止められない。人ではない機械の軍団が、襲い掛からんと全身に力を込め、唸り声を上げている。
「作戦名オペレーション・メテオ、やり遂げるぞ!」
極振り封じによって焚きつけられた、プレイヤーたちのやる気は天井知らず。運営の明日はどっちだ!
運営は己を知ってても敵を知らなかった