幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴
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第120話 ミスティニウム解放戦③

 機竜が撃墜される少し前に時間は戻る。

 戦闘機が出撃してからの飛行船ブリッジでは、ある1つの作業が継続して行われていた。

 

「レーダーに感なし、ハズレです」

「こちらにも感なし、人質見つかりません」

「クソ! 一体どこに人質がいると言うんだ……」

 

 それは、勝利条件の1つである人質の捜索。それさえ達成し、解放してしまえば後方に控えている暴力を情け容赦なく振るう事ができるのだ。その為にも上空から捜索しているが、未だ成果は出ていなかった。

 

「お困りのようですね」

「ひっ」

 

 直前まで憤っていた艦長が、悲鳴を上げて振り向いた。

 振り返った先にいたのは、1人の小さな女性プレイヤー。クリーム色のフワッとしたセミロングくらいの髪に、限りなく白に近い菫色の目、腰の装甲がついた長いスカート以外は普段着の様な、パッと見おっとりとした雰囲気を発している。

 

 つまりは翡翠であった

 

 笑みを浮かべて言う翡翠の頬には、持ち込みのお弁当を食べた直後だからかご飯粒が付いている。この場面だけを切り取れば至って普通のプレイヤーだ。だが、その実態を知る艦長が逃げ出したのは当然だった。

 

「失礼ですね。私はただ、助言しに来ただけですよ」

 

 少し不機嫌そうにそう言った翡翠は、腰が引けている艦長を無視して人質を探している方のレーダー担当の元へ歩いていく。そして、目の前のバツ印が大量に刻まれたモニターの一点を指差して言った。

 指差した先は、街の中央にある城。それっぽい街にある施設を完全に無視して、ただ一点そこを華奢な指が指していた。

 

「敵は人外です、つまりはご飯です。ご飯は手元にあります。つまりここ以外ありえません」

「え、は、え……?」

 

 怒涛の勢いで告げられた言葉に、そもそもの驚愕が抜けていなかったのかレーダー担当は動きを止めてしまった。

 翡翠が言いたかったことは、『敵は人外だから、NPCの扱いはご飯でしかない。ご飯はいつでも手を伸ばせば届くところにあるのが理想で、であればボスの手元……つまりは城以外にありえない』ということなのだが、どうやら伝わることはなかったらしい。誰もが「ん」一言で会話できるれーちゃんや、それが理解出来る人のようにはいかないのだ。

 

「いいから調べてください」

「わ、わかりました。だから、食べないでください……」

「食べませんよ」

 

 そんなどこかのアニメを彷彿とさせる会話をしながら、レーダー担当は震える手で探知を実行した。

 

「えっ、嘘、本当に反応が……」

 

 そうして返って来た反応は、人質と思われる集団の発見。街の中央に鎮座する城の最下部、そこに複数のまとまったNPCの反応があるとレーダーには映っていた。

 

「蛇の道は蛇……」

「……やっぱり美味しそうですね、あなた」

「ヒィッ!?」

 

 そんな予想外の発見と変わらぬ恐怖に、ブリッジが騒然とする中のことだった。突如として赤色灯が回り、艦内にアラートが響き渡った。

 同時にブリッジ前方に配置されたスクリーンに、大きく下空の状況が映し出された。暴れる機竜と逃げ惑うように見える戦闘機達、明らかにプレイヤーサイドが押されている光景だ。

 

「プランB発令、戦闘機側に打診だ!」

「了解!」

「戦闘機隊から返答あり。『どうぞどうぞ』とのことです!」

「はい! 列車砲に通信飛ばします!」

 

 目の前に大型肉食獣(翡翠ちゃん)がいるのに指示を出せたことは立派と言うべきだろう。幾らパニックになっていても、最低限役割を果たせれば次に繋がるのだから。

 あっさりと敗北した機竜戦の裏側では、こんなパニックが起こっていたりしたのだが、当事者以外知ることはないのだった。

 

 

 甲板から後部ハッチに繋がる倉庫に戻ってきた時には、まだ集まっている突入班のメンバーはいくつかの集団に分かれ盛り上がっていた。

 

 まずは我らがギルドである【すてら☆あーく】。探索重視のれーちゃんと、保護者兼範囲制圧担当のつららさんとランさん。単純火力最強格の藜さんに、オールラウンダーなセナ。斬り込み役兼人質までの案内をするらしい。

 

 次にザイードさん、レンさん、デュアルさん、誰かの腕を食べてる翡翠さんの極振り組。と、何故かそこに混ざっているカオルさんと、ブランさん。酒盛りをしているこの面子は、防衛担当だとかなんとか。

 

 その奥にいるのは、普段から市街戦をしているということで参戦している、ギルド【アマゾンズ】の面々。Ωからネオαまでヤベー奴が5人揃っている。コワイ。遊撃担当だと聞いている。

 

 そして、最後の面々。ボスをしている時に見かけたメイド服のヤベー奴らと、もう1人の女性プレイヤー。跳ね橋の破壊役の人たちだ。前者の2人はコンビで極振り塔をボス以外全制覇した猛者だから知っているけど、最後の1人にだけ見覚えがなかった。

 

「気になりますかな、ユキ殿」

「ええまあ。こう話してくるってことは、ザイードさんと何か関係が?」

 

 一瞬のうちに背後に立ってたザイードさんにそう返事をした。とは言いつつも、見知らぬプレイヤー……名前はSereneというらしい……の格好から、ある程度想像はついている。褐色の肌に鮮やかな紫の髪、多分下の格好がアレだからかザイードさんのと同じ黒衣を纏っている。ということは、白い髑髏の仮面が連想されるのは必然だ。

 

「ええ。まさか私以外にも、ハサンのRPをする人が出てくるとは」

 

 仮面をしていても分かりやすいほど、ザイードさんの言葉からは喜びが感じられた。念願の後輩だし、分からないこともない。俺の場合は、後輩なんて生まれないプレイスタイルだけど。

 

「見た感じだと静謐の? もしや極振りだったりします?」

「そうですなぁ。ですが、元の我らやユキ殿の様に極振りではないですぞ。IntとDexの準極振り、珍しく我らと近いタイプですな」

「へぇ、そんな感じなんですか」

 

 察するにプレイスタイルは、毒とか呪いとかそっち系等。アイテムの投擲もありそうだ。相手にするとしたら、状態異常は死界装備で反転できるから完封出来るかもしれない。けど、普通の相手だったら相当強そうだ。

 なんか笑顔で手を振られたから、ザイードさんと一緒に振り返しておく。今更ながら、ザイードさんペット装備状態だからか腕でっかいな。減速計算し直さないと。っと、それで思い出した。

 

「そういえばザイードさんって即死特化ですよね。今回通じるんですか?」

「問題なく。あくまで攻撃ではなく、状態異常ですからな」

「うわぁ……」

 

 これは酷い。俺が紋章関連を自由に使えるままだから薄々察してはいたけど、敵モブは出会い頭に即死する未来しか見えない。多分翡翠さんも全開だろうし……運営が用意してる抜け道、ガバガバすぎない?

 

《敵ボスの再出現、及び敵増援は現時点で未確認。制空権を確保したと判断します》

《繰り返します。敵ボスの再出現、及び敵増援は現時点で未確認。制空権を確保したと判断します》

 

 と、そんなことを話しているうちに、そんな艦内にアナウンスが流れた。それはつまり、ここにいる21人の出番が漸く回ってきたということだ。

 

《現在地はシステム限界高度。降下目標地点は敵城中心部の中庭。目標達成後は、最後まで好きなようにやって良いとのことです》

 

 その言葉に、空気が一変する。宴会のようだったソレから、戦闘前のソレへ。それもそうだ、何せ「どうせ更地にする」と言質を得たのだから。気合いも入るというものだ。

 

《後部ハッチ解放。では、ご武運を》

 

 倉庫の中に光が差し込む。風が吹き荒れる。雲1つない青い、青い空が一面に広がった。やることなんて、もうお分かりだろう。

 

 街に地上からの侵入は、正攻法で時間を多大にかけねば不可能。

 水路からの侵入は、人数と人質救出の観点から不可能。

 ならば空は? そこからなら、なんの問題もありはしない。

 

 この場に集まっていた全員が、所定の位置へ移動する。それぞれの役割通りに分かれ、カタパルトに足を乗せた。

 

「ギルド【すてら☆あーく】」

「ギルド【極天】」「とボク達!」

「ギルド【アマゾンズ】」

「私たちとセレちゃん!」

「「「「「行きます!(出る!)」」」」」

 

 そしてそれぞれのリーダーが宣言すると共に、カタパルトから空に射出されていく。つまりこの作戦は簡単だ。超高空から精鋭がスカイダイビングして、人質を救出しつつ暴れ回る。

 作戦立案をしたらしい人は本当はHALO降下をしたかったらしいけど、結局こんなものに落ち着いたんだとか。まあ何にしろ、俺は俺のやるべきことをやるだけである。

 

「パラシュート役兼弾除け担当ユキ、出撃する!」

 

 ワンテンポ遅れて、俺もカタパルトから空に射出された。

 そうして眼下の20人を見ながら、処理能力を全開にする。俺の役割は、あるかもしれない対空防御の対応と、地表ギリギリでの完全な減速。扱いが半分道具だけど、それ以降は自由だし何よりも、参加できないよりは圧倒的にましである。

 

 だからこそ、あんまり舐めないで欲しい。

 

 爆破爆破言われ続け、運営からも《爆破卿》の称号を貰ったけれど、本来の俺はサポート特化型の極振りだ。だから、たった30門の対空兵装程度、1発たりとも誰にも当てさせるわけがないだろう。

 

「俺が参加するのは予想できたろうに。銃火器とは舐めてくれる!」

 

 それに、殺到してきた銃撃は、突入のそもそもの性質上大半が見当違いの場所をすり抜けていく。高速落下してくる人型サイズの相手を狙って撃ち抜くなんて無茶もいいところだ。だから直撃コースにある弾なんて100と少ししかないし、その程度なら片手間で対応できる。

 

「もし本当に対策したいなら、この倍は持ってこい!」

 

 そう挑発した直後、視界に入った砲台全てに障壁を展開する。砲身内部に食い込むように展開したせいで、いつもの銃より規模が大きな暴発が発生する。それが引火でもしたのか、一斉に砲台は大爆発を起こした。

 

 ははーん。さてはこのイベント、いつもの(極振りに対応している)人たちがあんまり関わってないな? 普段の縛りに比べて、幾ら何でも対策がおざなりに過ぎる。

 

「計算完了、調整、《減退》多重展開!」

 

 でも、それならそれで都合が良い。案の定なんの妨害もなく、紋章で勢いを殺しきって全員が乗り込むことに成功した。半数以上のメンバーが、当然のようにスーパーヒーロー着地で。

 

「狩り、開s「カワイイボク、参j「ヤシャスィー「総員、突撃ーー!!」」」

 

 そして、やはり考えることは同じだったらしい。全員がポーズを決めながら、それぞれ高らかに何かを宣言した。混ざりに混ざってなんだか分からなかったけど。

 

「めちゃくちゃだなぁ……」

 

 出撃と同様ワンテンポ遅れて着地しながら、思わずそんなことを呟くのだった。

 



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