幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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今回これ半分くらい戦力説明会ですね()


第118話 ミスティニウム解放戦

 来たる【ミスティニウム解放戦】当日。戦闘区域となる第6・第7の街勢力圏には、剣と魔法が全盛であるとは思えない光景が広がっていた。

 

 平らに均された路面に鎮座する、巨大な装甲飛行船。

 その周囲に留まっている、4機の武装ヘリ。

 跳ね橋が降りたら進軍可能なよう、アイドリング状態で戦列を組む20輌の戦車。

 第6の街後方には、敷かれた線路に堂々と巨大な列車砲が鎮座している。

 視線を動かしフルトゥーク湖の方に向ければ、戦艦の威容が否応にも目に飛び込んでくる。

 

 いつかのようにバイク艦隊の面々は存在しないが、それでも鉄色の軍勢はゲーム内に異様な空気を漂わせていた。第6の街寄りに集まっているプレイヤーも事前に知ってはいても、目の前にするとどうしようもないらしい。普段よりも、明らかに口数が少なくなってしまっていた。

 

 そんな面々が対峙するのは、巨大な川の中州に鎮座する1つの街。霧に包まれ、ボヤけて見える第7の街。狙撃などを行う目が良いプレイヤーであれば、彼の街の周囲に多数のモンスターが整列している様が見えるだろう。

 

 街の上空を旋回する竜の群れ、地上で騒ぐ得体の知れない姿の化け物達。その奥にある、要塞化している第7の街。本来であれば機械文明に特化した第6の街と対照的に、魔法文明に特化していた第7の街の名残はそこにはない。完全に、占領されモンスターの根城と化していた。

 

 張り詰める緊張感の中、何処からかボーンボーンと低い音が鳴った。それは前回のレイドボスイベントと同じ、運営からのメッセージの合図。2度目ではあっても騒めきが起きる中、運営からの音声メッセージが響いた。

 

《これより、UPO内部時間の加速倍率を2倍から10倍に変更し、イベント【ミスティニウム解放戦】を開始します。本イベント開始後に第6の街【グルーウェド】に到達した場合でも、イベントに参戦は可能です》

《イベント中に死亡した場合、通常のデスペナルティに加えイベント中、その時点のステータスの1/3を喪失します》

 

 場所は変わって飛行船のブリッジ。そこはそんな外の空気とは違い、喧騒に包まれていた。

 

「MP供給開始、飛行船『試製アドミラル・グラーフシュペー』出航!」

「動作安定、上昇します」

「レーダーに感なし、地上型モンスターのアクティブレンジから離脱します」

 

 運営のアナウンスが響く中、ゴウンゴウンと低い音を轟かせ装甲飛行船が上昇を始めた。開戦まで飛行可能時間を消耗しないように地上で待機していたが、遂に空へと昇るのだ。さらに言えば、これが初の実戦投入。十数名の乗組員は、皆誰もが興奮してた。

 

「アクティブレンジ離脱完了、空中型モンスター未だ来ず」

「了解した。声を流せ!」

 

 レーダー役のプレイヤーの言葉に、艦長役のプレイヤーがノリノリで指示を飛ばした。それに応じて、外部に取り付けられた拡声器から声が響く。

 

『これより我が艦は先行し、作戦を実行する。繰り返す。これより我が艦は先行し、作戦を実行する』

 

 『試製アドミラル・グラーフシュペー』は、航空系ギルド【我らが科学は世界一チイイイイ!! 】の保有する最大戦力だ。

 運用に必要な搭乗人数は10名。MP負担率が最も多い艦長が1名、周囲の索敵を行うレーダー役が2名、火器管制役が2名、各部ギミックの操作を行うプレイヤーが2名、舵と高度管理が1名、MPタンク兼サポート役が2名。全員がMPを消費することで起動して、飛行可能時間は1時間。

 

 そんな装甲飛行船が、今回の作戦『オペレーション・メテオ』の核を担っていた。

 

「艦長、刻限です。イベントが開始します!」

「了解、前部ハッチ解放。彼らを出撃させろ!」

「前部ハッチ解放確認。カタパルト展開完了。

 You have Control!」

 

 艦長の指令でギミック担当が告げた言葉は、手元の菅を通り目的地である前部ハッチ内部にある格納庫へと届けられた。

 

「I have Control!」

 

 巨大なその空間には、漆黒の5機の戦闘機が僅かにズレた縦列で存在していた。流石にゲーム内とは言え完全にそのままとはいかなかったのか、それとも合体しているギルドメンバーの趣味か。100%そのものではないが、見る人が見ればここに存在する機体は区別出来るであろう完成度を誇っていた。

 

 1番機は、かつてもUPOの空を舞ったF-15イーグル

 2番機は、先駆者に憧れ空を舞うF-22ラプター

 3番機と4番機は、2機揃ってA-10サンダーボルト

 5番機はサーブ39グリペン

 

 1、2番機がギルド【クロイカラス】、3、4番機がその支部、5番機が本部と支部の空き人員が合体した姿だった。大体1機7人が合一する仕様だ。

 

 無論、そんな高コストな分スペックはそれ相応以上に高い。

 先ずはHPだが、機首、胴体、右翼、左翼、艦尾、エンジンの6箇所にそれぞれ設定されている。その数値は合一した全員分の和を1.5倍にした後、均等に均した分である。

 次にMPは、HPと同様合一した全員分の1.5倍だがそれが全体の総量となっている。

 その他ステータスは、単純に合一した全員分の合計値。並の攻撃を受け付けない装甲を持ち、並のボスを圧殺できる火力を持ち、何だかんだ極振りと追いかけっこができる速度を持っている。

 しかもペットやアイテムの使用、スキルの使用は合一した人がそれぞれ使用可能である。攻撃動作も、核となる1人が主導権を持つ戦闘機側に加え、当然のように各員が独立して自スキルを使用可能なのだ。

 難点と言えば、大型故の小回りの効かなさと、閉所への適性のなさ、範囲攻撃や状態異常を人数分受けることだろうか。

 

「1番機《マナマスター》、出撃する!」

「2番機《ディアボロⅠ》、行きます!」

「3番機《シュヴァルツⅠ》、出る」

「4番機《シュヴァルツⅡ》、発進する」

「5番機《ザイン》、出撃します!」

 

 話は戻り、飛行船の前部格納庫。

 並んだ5機の戦闘機は、勢いよくカタパルトから射出される。そうして彼らは、再現されたエンジン音を轟かせ大空へと飛び出した。

 

 綺麗なV字に編隊を組み、ハッチを閉め上昇していく装甲飛行船を尻目に、グングンと彼らは加速していく。その行き先は占領された第7の街上空。イベント開始により、敵モンスターの出現が始まった空間。

 

 

マナマスター『さて、5機での本格的な戦闘だ。変に気張らず、張り切って俺たちの力を見せつけてやろう』

 

ディアボロⅠ『俺たちが制空権を確保しないと、後の作戦が詰まっちゃいますからね』

 

シュヴァⅠ『とにかく撃てれば良いのですが』

 

シュヴァⅡ『自由に空爆がしたいです』

 

ザイン『話してる間に、敵が出揃ってきましたよー』

 

マナマスター『了解した。各員、ぶち飛ばしていくぞ!』

 

『『『Jawohl!』』』』

 

 

 チャット欄での会話が終わり、戦闘区域に侵入した直後。5機が散開しバラバラの方向へ向け、先程までとは桁の違う速度で飛翔した。

 

 周囲に出現しているモンスター群は、それぞれレベル80程度。その種類もドラゴン、ドラゴンライダー、グリフォンなどを始めとして、極めて強力な……所謂中ボス格の奴らばかりだ。が、しかし彼らを止めるに能わず。空を駆け抜けた5機の軌跡の周囲に、幾重にも幾つもの爆炎の花が咲いた。

 

 それは射出されたミサイルによる一掃による範囲攻撃であったり。

 それはヴーーッ!という極めて特徴的な音を伴う、圧倒的なガトリング掃射による敵を蒸発させる一閃であったり。

 それは投射した燃料気化爆弾を撃ち抜いたことによる、変態的な大規模爆殺であったり。

 

 爆風の後には、HPがゼロになり消滅したことによる、モンスターの消滅エフェクトのみが空には残っていた。その圧倒的な戦果に、地上からそれを見ていたプレイヤーから歓声が上がる。明らかにボス格の敵を秒殺、しかも複数したのだから当然だ。

 

 が、しかし。ここまでは当然、運営サイドにとっても想定内の戦果である。どっかの変態ども(ユニーク称号持ち)馬鹿ども(極振り達)と違って、あくまでこの戦闘機は逸般向けではなく、一般向けコンテンツ。スペック、軌道、戦果、何もかもがシュミレートが可能な範囲内だ。

 ……約1機、想定を打ち超えて行く変態が混じってはいるがそれはそれ、ご愛嬌だ。燃料気化爆弾の威力を設定した運営の1人(女性)が、白目を剥いてガクガク痙攣しているが些細なことである。その姿を肴に、いつもの面子(極振り対策班)が電脳ビールで一杯やってるのだが、些細なことである!!

 

 

ディアボロⅠ『あれ、俺たちって思ったより強い……?』

 

シュヴァⅡ『戦闘機ですし当然では? それより早く空爆』

 

シュヴァⅠ『落ちろカトンボ! フィーヒヒヒ!』

 

マナマスター『あって良かった念の為の爆装。頂き物の500kg爆弾はまだ使えないが、投げつけて起爆は楽しいなぁ!』

 

ザイン『盛り上がってる所悪いですが、雑魚POPが減った代わりに1匹、ヤバイのが出てきましたよ』

 

 

 そんな5機が蹂躙する空域に、空間の壁を破るように景色をヒビ割れさせながら、あるものが出現した。それは腕。黒い装甲板に光を反射させる、鋭い三爪に野生的なシルエットを持つ腕が、空を踏みしめて本体を引き摺り出そうとしている。

 変身・変形前の攻撃は御法度、なんてものは無視してミサイルが殺到するが無傷。もう1つの腕も出現し、引き摺り出す様にしてその姿を晒した。

 

 それは生物と機械が融合した様な、異形のドラゴンだった。

 メカニカルな光が灯る、命を感じさせない瞳。後方に向け反る双角。そのシンプルな鋭いフォルムとは対照的に、機械で固められているが生物的な口からは鋭い牙が覗いている。ぬるりと伸びた首はドラゴンにしては短いものだが、鬣がわりに複数の機銃が設置されている。逞しい胴体は装甲に覆われ、立派な四肢からは機械的な駆動音が響き渡る。広げられた双翼には、長大な砲身と翼膜代わりに電磁的な光が灯っている。伸びた長い尾には、同じように砲身と鋼の刃が接続されていた。

 

 表示された名前は【Dragon : Prototype 003】

 以前メガロドンとクトゥルフを悪魔合体させたり、サメとタコを超融合させたりしていた運営とは思えないほど真っ当なボスだった。

 




※極振り対策班がバックアップのみのため、今回のボスは担当がまともでした。当然レベルは90です。


因みに作者は、ルーデルとかそういう話を抜きにしてA-10が好きです。フォルムといい何もかもカッコいいですよね

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