幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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このクソ真っ当なボスの味は、以前の奴とは味付けの違うこんがり上がったフライドチキンです


第119話 ミスティニウム解放戦②

 現れたボス……言うなれば機竜の動きは、その巨体にしては俊敏なものの、プレイヤーから見れば緩慢なものだった。まるでまだ状況把握が出来ていないかのように、周囲を飛ぶ戦闘機たちと戦場を見渡しているだけ。

 

 表示されているHPバーは当然のように5段。このタイミングで現れたこと、パッと見からも相当の強さであることは見当がつく。

 それは普通なら、一旦撤退して様子見などをする相手ということだ。だがしかし、現状においてそれを実行するわけにはいかない。何せ後ろが詰まっている。いかに戦闘機より燃費の良い装甲飛行船とはいえ、そう長く飛ぶことはできない。時間をかけることはできないのだ。

 

 

ディアボロⅠ『様子見する時間はあると思いますか?』

 

ザイン『ぶっちゃけジリ貧ですよ。雑魚のpopはかなり減ってはいますけど、そもそも物量で負けてる以上長引けば長引くとほど我々の不利ですねー』

 

シュヴァⅠ『世紀末ヒャッハースマイル』

 

シュヴァⅡ『そろそろ空爆の発作が』

 

マナマスター『それしか言えないのかお前ら……まあ、とりあえず《マナマスター》《ディアボロⅠ》《シュヴァルツⅠ・Ⅱ》の4機でボスに当たる。《ザイン》は周りの雑魚敵の相手と、何かあった時は頼む。オーバー』

 

 

 その通話の直後、ボスを中心にして旋回していた5機が一斉に動き出した。1機は編隊から大きく外れ残敵掃討へ、残りの4機はそれぞれ《マナマスター》《ディアボロⅠ》と、《シュヴァルツⅠ・Ⅱ》に分かれて機竜に向けて左右から挟撃した。

 

 片面から迫るのは、ガトリングが奏でる特徴的な発砲音の二重奏。さらに追撃として放たれる多数のミサイル。

 もう片面から迫るのは、所謂サーカスが出来そうな量乱射されたミサイルの軍勢。

 

 すれ違うように4機が離脱した直後、その全てがほぼ同時に機竜に直撃した。爆発と銃撃の固定ダメージ、そこに上乗せされる元々の高火力、一応存在するバックアタックと先制攻撃によるボーナス、合体しているメンバーによるスキル、その全てが融合した絨毯爆撃。

 

 具体的に数値化するならば、第6・7の街に辿り着くためのボスである【水竜戦車・ミズチ】が2〜3匹蒸発する廃火力。それが直撃して減少した機竜のHPは……たった1本も削ることが出来ていなかった。1本目の8割程まで減少してはいるものの、たったのそれだけである。

 

『システム : スキャンモード』

 

 そして一度攻撃してしまえば、非活性状態のモンスターであろうと活性化する。それもまた、ゲームとしてのシステムだった。

 爆炎の中、一対の緑眼が光を発した。同時に戦場全域に、同心円状の波動が広がった。一切の害は存在しないそれだが、それこそがボスが動き始める合図だった。

 

『システム : 戦闘モード

 目標の脅威判定が更新されました

 AWAKENING : System - Lethal』

 

 炎が晴れていくにつれて、覗いていた緑眼の色が真紅に染まっていく。そして爆煙が晴れていくと同時に、その巨体がヌルリと空を泳ぐように滑り動いた。

 

 狙われたのは、より多くのダメージを与えていたA-10組のシュヴァルツⅠ・Ⅱ。機体の全速よりも速い動きで接近した機竜が、その双爪を勢いよく2機に向けて薙いだ。

 対する2機の行動は回避。機体を起き上がらせ急激に減速、機竜を追い抜かせて爪を躱し、そのまま左右に別れて離脱した。現実では不可能な挙動であろうとここはゲーム、ステータスさえあれば可能なのだ。

 

 さらには2機の離脱直後、再度機竜にミサイルが殺到した。それが戦闘機として持つ、最大火力にして最高精度の攻撃であるから。

 だが、2度も同じ手を無防備に食らう機竜ではない。

 発生したのは紫の雷壁。翼膜として展開していたそれが拡大し、大半のミサイルを誘爆、またはあらぬ方向へと逸らした。それでもすり抜けた群れによって与えられたダメージは大きく、今度こそ1段目のHPバーが綺麗に消失した。

 

 

ザイン『報告ですー。今すぐその空域から逃げて防御姿勢取った方がいいですー。ビームが来ますよー』

 

 

 周囲から警戒していたザインからの報告が届くとほぼ同時。今まで沈黙を貫いていた、機竜の鬣に存在する機銃群がその身を起こした。まるでイソギンチャクの様に蠢いた、それら1つ1つの銃口に仄暗い光が灯る。

 

『Lock-on』

 

 そして4機それぞれをロックオンした直後、光が解放された。狙う者と狙われる者の立場が逆転する。闇色の光線が幾条も空を走り、己を傷つけた主を仕留めんと空を駆ける戦闘機に迫った。

 

 その攻撃に、会話する余裕もなく4機は動いた。

 《マナマスター》はキラキラと光る金属片と火球を撒き散らしながら、機体を横滑りさせて直角に回避するという意味不明な挙動で回避し、

 《ディアボロⅠ》も同様にチャフとフレアを巻きながら回避しようとしたが、数発被弾してしまう。現実と違い誘爆こそないものの、バランスを崩して大きく高度を下げてしまった。

 残り2機はそれぞれ緊急回避の直後、半数以上の直撃を受けてしまう。しかし、異常な耐久性である元となった機体の特性を引き継ぎ、爆発の1つもなく健在だった。

 

 

シュヴァⅠ『流石A-10だ』

 

シュヴァⅡ『なんともないぜ!』

 

ザイン『それより、上から作戦司令降りてきましたよー。プランBを打診する、だそうです』

 

ディアボロⅠ『わかった。じゃあプランBで行こう……プランBは何だ?』

 

マナマスター『あ? ねぇよそんなもん』

 

シュヴァⅠ『あ? ねぇよそんなもん』

 

シュヴァⅡ『あ? ねぇよそんなもん』

 

ディアボロⅠ『あ? ねぇよそんなもん』

 

ザイン『割とピンチと見てますけどー、なんで皆さんそんなに余裕あるんですかねー?』

 

 

 そんなふざけた内容の通信が飛んではいるものの、実際にはちゃんとプランBは存在している。その内容は『戦闘機で対応出来ない存在が出現した場合、更なる火力で押し潰す』というもの。つまりは脳筋作戦だった。

 その作戦の実行を、マナマスターが上空に浮かぶ不吉な名前の装甲飛行船へ送信する。そうして伝えられた直後、雲に刻まれるように極大の紋章が展開された。

 

 

「さて。久し振りに使ったけどこれ、やっぱり庇護下の人には便利だよね絶対」

 

 そんなことを呟きながら、俺は飛行船の甲板での踊りを辞めた。同時に、眼下で戦闘機群の動きがあったのを確認した。俺とザイルさんで作った、某狩ゲーの単発式拘束弾と某ロボアニメのウミヘビを合体させたようななんちゃって拘束武装。

 4機合わせて20秒強相手を拘束可能なそれが、あの機竜に絡まって動きを拘束する。同時に空には俺が展開した、固定された大儀式術によるバフの極大紋章。つまり、固定された距離が測定できる指標。ここまで揃えば、何が起こるのか想像するに難くない。

 

「ユキくん、そこにいたら危ないよ! 次の作戦の要なのに、紙装甲なんだから!」

「いや、大丈夫だよセナ。それより、現状だとセナの方が危ないかも」

 

 ハッチからセナが顔を出し、そんなことを言った瞬間だった。大気を劈く爆音が、戦場全体に響き渡った。流石にかなり距離が離れているからダメージはないけど、内臓にまで爆音が染み渡る。偶には、こういうタイプの爆発も乙なものだね。

 

「ちょっ!? 何今のユキくん!」

「見てれば分かるよ」

 

 機竜が拘束されてから現時点で8秒。ちょっと間に合わなそうだし、少しだけ俺が後押しする必要がありそうだ。

 

「ほら、見えてきた」

 

 それは、回転する金属の塊だった。正確に言うならば、馬鹿みたいに巨大な弾丸。もっと正確に言うのであれば、第6の街後方に鎮座する『試作列車砲 No.81』が発射した800mm弾頭だった。

 その狙いは、照準を付けているのがザイルさんだけあって正確。既に第2射の音が聞こえたのは、装填をセンタさんが行なっているから。そして火力は、発射機構の一部ににゃしいさんが魔力を込めているから最大級。

 ダメージの発生は確認している以上、現在行える最大火力の砲撃だ。だが、引き金を引く人物だけ別なことか、風によるブレなのか、機竜の中心からは数cmほど軌道がズレていた。

 

「《加速》《加速》《加速》」

 

 スキル全開の感覚で捉えたその弾頭に、規約に抵触しないほどの紋章を使用する。行うのは軌道の微調整。属性エンチャントはダメージ0になるが、加速陣なら問題なかったのは当然確認済みである。

 加速した弾頭が通り過ぎたことによる暴風で、マントをはためかせながら銃の形にした指を拘束された機竜に向ける。

 

「フフッ」

 

 ああ、このセリフ1回は言ってみたかったんだよね。どうせ聞いてるのはセナと……気配的に藜さんもいるか。まあ、2人になら聞かれても良いだろう。どうせ同じ屋根の下で過ごした2人だし。

 

Hit(当たり)!」

 

 直撃を観測。直前で機竜が身を捻ったせいで、僅かに胴体を撃ち抜くルートから弾が逸れてしまった。が、金属を無理やり引き千切る音と共に、その背の翼が1つネジ切れる様に吹き飛んだ。

 

「うわぁ……」

 

 序でに機竜を撃ち抜いた弾頭は、直下にあった街の外縁部に着弾し爆発。地形を変える大きなクレーターを作成した。流石どっかの少佐曰く、『都市区画ごと木端微塵に粉砕した時など絶頂すら覚える』威力だ。

 下を覗くセナと、いつのまにか出て来てた藜さんが素で引いてるけど、まあ気にしないでいいと思う。

 

「《加速》《加速》《加速》」

 

 直後聞こえて来た第2射の飛来音。機竜の拘束は解けてしまっているけど、空を飛ぶ手段を失った相手の狙いを外すなんてない。墜落しているけど、軌道予測なんて見てれば出来る。

 先程と同様、加速陣によって軌道を微調整+加速によるダメージ増量をかける。結果、弾は機竜に吸い込まれる様にして──

 

Jackpot(大当たり)!!」

 

 先程の第1射とは違う、致命的な場所を撃ち抜いた激音。それが届くと共に、機竜のHPが0になったのが確認できた。序でにもう一箇所、街に巨大なクレーターが発生する。おまけに、動力炉でも爆発したのか機竜の残骸が降り注ぐサービス付き。

 ああ、なるほどこれは気持ちがいい。うっかり追撃で手持ちの爆弾を落としたくなる。

 

「ま、流石にやめておきますか」

 

 恐らくアレを撃破した以上、空にはもう大ボス格は出てくるまい。それが確認でき次第、次の俺も動員される作戦が実行される。あまり時間はないのだ。でも──

 

「なんで、いきなり、指揮、始めたん、です?」

「えーっと、確か……あった。

 音楽を奏でている、戦場音楽を……誰も……邪魔出来ない。指揮をしておられる、戦争音楽……! 我々は楽器だ! 音色を上げて咆えて這いずる一個の楽器だ」

 

 疑問符を浮かべる藜さんに対し、セナはなんとなく察したのだろう。ちょちょいとメニュー欄を弄って、例の台詞を言ってくれた。完璧……いや、この場合はこうか。

 

「パーフェクトだ、セナ」

「むぅ……」

 

 がっつりサムズアップをセナと交わしていると、付いてこれなかった藜さんが不満気に頬を膨らませていた。……おふざけが過ぎたらしい。

 

「やりたいことも済みましたし、戻って準備に移りますかー」

 

 というか、次の作戦こそが本命。この『オペレーション・メテオ』における要。ああ、楽しみだ。

 




戦艦「えっ、私は? まだ? そう……」

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