幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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第121話 ミスティニウム解放戦④

 城の中庭に降り立ったメンバーの号令は、どうしようもないくらいにバラバラだった。けれどそのことと、どれだけそこから動けるかというのことは別の話になる。

 そしてその動きは実際、機敏。思わずゴウランガ!と忍殺語が出そうなほど、彼らは俊敏に且つ破壊的に動いた。

 

多重照準(マルチロック)……《ボウ・オブ・オティヌス》!」

「吹っ飛べ!」

 

 跳ね橋破壊役のメイド服を着た2人が、役割を果たす前の準備運動とでも言うかのように斬撃と多重射撃で壁をぶち抜いた。一瞬で跳ね橋が見える程度に、中庭は無残な光景になってしまった。なんということでしょう、悲劇的ビフォーアフター間違いなしである。

 

「れーちゃん!」

「ん!」

 

 同時にれーちゃんがイルカのぬいぐるみ……ペットを掲げてスキルを発動。確かれーちゃんのレベル×10m半径が地図記録範囲内だから、効果範囲はこの城1つを余裕で覆っている。しかもそれは、既存のシステムでこの場の全員に共有された。運営は泣いていいと思う。

 

 しかし当然、ここまで派手に動けば敵も動く。半鐘の音が鳴り響き、通路ごとぶち抜かれた部分や中庭に無数の敵が出現する。が、その全てが秒で経験値へと変わった。

 

 無言で処理したアマゾンズ所属の5人。城の一角ごと凍結させたつららさん。ガトリングの掃射で高所に現れた敵を撃ち落としたランさん。いつのまにか、さっきまでモンスターだったものが辺り一面に転がるSereneさん。以上8人で雑魚は全滅。

 

 次に中ボス格。空から降りて来ようとしたヤギ頭は、ブランさんの固定値の嵐により消滅。花畑の中から出現した醜悪な……例えるなら、某ゲームのモルボルだろうか? それはカオルさんの、城ごと切断した抜刀術により即死。そして今、最後に残った最も強い鎧騎士がセナと藜さんにより消滅した。咄嗟だったけど、加速と障壁の足場でサポートするくらい見なくてもできる。つまりは秒殺だった。

 

 最後に残った、極振りの先輩方。レンさんとザイードさんは、既にその姿はどこにも存在しない。けど遠くから嵐のような音がする為、既に街中へ出撃したと推測できる。翡翠さんは……結界を残して姿が見えないし、2人のどっちかに連れて行って貰ったっぽい。最後にデュアルさんは、ガイナ立ちで結界を展開していた。見た目装甲悪鬼なのに。

 

「作戦開始!」

 

 再度訪れた静寂の中で、セナが良く通る声でそう告げた。

 そして再び戦場は動き出す。この場に残っていたメンバーの内、跳ね橋破壊役の3人と、アマゾンズの5人は大穴から街へ向けて飛び出した。デュアルさんは動きがなく──

 

「みんな行くよ! ユキくんは掴まってて!」

「「「「了解」」」」」

「ん!」

 

 こちらはこちらで、全員揃って行動を開始した。いつも通りれーちゃんとつららさんをランさんが背負い、隣をセナと藜さんが並走するスタイル。今回俺は、流石にバイクは使えないので、走行しているランさんの左手に座らせて貰っている。

 

「速いなぁ……」

 

 それにしても速い。れーちゃんのお陰で丸裸になったマップを、人質が集まっていると思われる大部屋目掛け、最速で最短で走り抜けているのだ。それに加えて、つららさんが凍結や暴発させてトラップを処理し、一応俺が他の通路を障壁で封鎖して不意の遭遇を潰しているせいで、ここまで一切の戦闘がない。

 モンスタートレインになるかと思いきや、単純に敵に追われる範囲からすぐに離脱している為トレインにはならず、たまに居る延々と追跡してくるタイプもつららさんとれーちゃんが処理していく。

 

 自分の作ったダンジョンを爆速で攻略された時も似たような感じだったけど、実際に攻略側として体感するとまるで違って見える。例えるなら、こう、RTAしている気分だ。しかも、俺がいてもいなくても誤差程度しかタイムが変わらないパターンのやつ。うわっ……俺の存在意義、低すぎ。

 

「うん、多分ここら辺でいいかな」

 

 しばらく黄昏ていると、ふとセナがそんなことを言って歩みを止めた。全員が合わせるように動きを止めたここは、どうやら食堂のような場所らしい。テーブルクロスの掛かった長机や、壁にある燭台からそんな感じの雰囲気を感じる。

 

「ん、んー、ん!」

「『ここから2階分下に穴を開けると、丁度人質の部屋の前に着く』だそうだ」

「ありがとうランさん、つららさんやれる?」

「うーん、ちょっと厳しいかも。れーちゃんも一緒なら、多分届くかな?」

「ん!」

 

 つまり、ここから2階分ぶち抜いて、直接人質の救出に向かうらしい。……多分、ダンジョンの床が破壊不能じゃなかったら似たようなことやられてたんだろうなぁ。

 

「……そうだ。ユキくん、紋章で威力ブースト!」

「了解」

 

 爆破が出来たらまた違ったんだろうけど、今の俺に出来るのはそれくらいしかない。だからその役割を全うすることにしよう。

 つららさんとれーちゃん双方にInt上昇と水・氷属性の威力上昇バフ、床にMin低下と水・氷の耐性弱化デバフを掛ける。無論、一階下の床にも同様に。

 

「せーの! 《アイシクルフォール》!」

「ん!」

 

 そうして放たれた、普段より倍近い威力となった魔法。降り注ぐ氷柱によって目論見通り床は砕け──予想以上の火力によって、部屋ごと崩落した。

 

 

 侵入組がそんなことになってる一方その頃。迎撃と街の防衛を行う側でも、戦闘が勃発していた。いや、正確にはそれを戦闘と呼ぶことは適切ではないなもしれない。なにせそれは、戦闘と呼ぶにはあまりにも一方的なのだから。

 

「ウソ見たいだろ? これ、剣と魔法の世界のゲームなんだぜ……?」

「俺らの方が単純火力は高い。けど、なぁ?」

 

 数多のプレイヤーが呆然とする先。湧き出た敵を打ち破り橋のすぐ近くまで迫ったそこに広がっているのは、剣と魔法なんてほぼ残っていない光景だった。

 

 地上を進むは、20輌からなる戦車隊。機銃によって敵の足を止め、主砲が唸りを上げて大地を抉る。舞い上がった敵モンスターや土は、数輌編成されているSF戦車の放つ光線が薙ぎ払う。

 空を舞うのは、全4機のうち半分の武装を満載にしたヘリコプター2機。鉄の羽根が空気を叩く音を響かせ、無数のミサイルと弾丸が凄惨な音楽を奏でている。魔法攻撃という辛うじて息をするファンタジー成分も相まって、一匹の取り逃がしもなくモンスターが消滅していく。

 

 そちら(運営側)が物量作戦を取るなら、こちら(プレイヤー)もやることをやるまで。言外にそう告げるような、圧倒的な殲滅戦だった。

 

『8号車損傷軽微、戦闘続行に問題ありません』

『16号車被弾! 被害甚大、一度後退します!!』

『4号車カバー入れ! その分の処理はこっちが引き受ける!』

 

 とは言うものの、いかな戦車とは言え限界というものは存在する。長時間の戦闘で砲身の耐久値が限界を迎えてたり、砲撃を突破してきた敵によって被害を受けたり、そもそも運動能力の低さから長距離攻撃をモロに受けたり。そんな限界が、ヒシヒシと迫ってきていた。

 

『隊長! 《初死貫徹》殿! まだ進軍してはいけないのですか!』

『まだだ! 迂闊に跳ね橋に侵入して、橋を上げられでもしたら全滅する!』

『くっ……!』

 

 そんな半分怒号と化している通信が飛び交う中、それは霧の奥から姿を現した。

 メカニカルな光が灯る、命を感じさせない瞳。前方に向け反る双角。空に現れた物と比べて、遥かに凶暴な顔と鋭い牙の生え揃った巨大な顎門。翼はないが、代わりに全体のシルエットが最低でも2回りは大きくなっている。大木の様な四肢には無数の刃が連なり、胴には空の物と同様に銃器が無数に備え付けられている。そして何より特徴的なものはその尾。連接剣の様に、刃と刃を接続した様な蠢くそれが光を鈍く反射していた。

 

 表示された名前は【Dragon : Prototype 002】

 城の上空に現れた機竜と同様のボス。タイプ分けするのであれば、あちらは空戦型、こちらは陸戦型と言うべきか。先程までの雑兵とは、明らかに格の違うボス格の登場に、戦車隊に緊張が走る。

 

『待て。まだアイツはアクティブじゃない。落ち着いて後退し、十分に距離を──』

『う、くそ、死ねぇ!』

 

 そう隊長が指示を飛ばすより早く、1輌の戦車が周囲を観察していただけの機竜に向け砲撃した。結果、砲弾は回避され、ノンアクティブであった状態は終わりを告げた。

 瞳の色を紅に染め、咆哮しながら機竜は跳躍する。そして宙でその身を回し、伸びた刀尾が遠心力のままに薙ぎ払われる。機竜にとっての味方であるモンスターごと放たれた一閃は、5輌の戦車を巻き込み爆散させた。

 

『くっ……全車砲撃しつつ後退!』

『正気ですか!? それじゃあ勝ち目なんてないですよ!』

 

 そんな通話をしている間に、大きくその顎門を開いた機竜の口に赤色の光が収束していく。見る人が見れば、レーザー系統の砲撃の前準備だと分かるその光景を前に、一台の戦車がその動きを止めた。

 隊長……つまり《初死貫徹》の称号を持つプレイヤーが乗る、SFスタイルの戦車だ。こちらもまた同様に、砲身の先に青白い光を収束させていく。通せば間違いなく、街に致命的な被害が発生する一撃だ。妨害するのは当然だが、相殺の為に放つのはたった一度のみ放てる切り札だ。

 

『これから先、こちらはもう動けない。だが、それでも同志の皆ならやってくれると信じている!』

 

 その通信の直後、双方の砲撃が衝突した。機竜の放つ真紅の閃光、戦車が解放した青白い閃光。殆ど同等の出力のそれらはせめぎ合い、混ざり合い、堪えきれなかったかの様に大爆発を引き起こした。紫色の爆発の後に残ったのは、ひしゃげた戦車と対照的に無傷な機竜の姿。

 

『もう、だめだ……おしまいだ……!』

『勝てるわけがない、やっぱり俺らは極振りとは違うんだ!』

 

 絶望の空気が広がる。列車砲の砲撃は間に合わず、戦艦の砲撃は範囲が広すぎ、手持ちの火力ではこのボスを突破できない。

 

「いいや、まだだ」

 

 そんな空気を吹き散らすように、軍服を翻し1人のプレイヤーが姿を現した。金に輝く頭髪と、腰に佩いた計7本の刀剣。その特異な姿は見間違えよう筈もない。

 封じられた筈の最大戦力が、極振りが、威風堂々と参戦した。

 




機竜001は出番もなく秒殺された模様

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