幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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第122話 ミスティニウム解放戦⑤

 少し時間は巻き戻り、ミスティニウム上空にて【Dragon : Prototype 003】が撃墜された直後。他の場所よりは幾分かファンタジーをしていた、第6の街周辺。そこでも同様に、変化が起こっていた。

 

「全員、街に敵を近づけるな! 入れたら一巻の終わりだぞ!」

「総員、一斉射!」

「ハイマットフルバースト!」

 

 戦場に煌めくのは魔法の輝き。炎、風、水に氷、土から雷を始めとしてその種類は無数。十人十色に煌めく魔法が、街から放たれ周囲を埋め尽くしていた。

 そうまでして攻撃をしなければならない理由はただ1つ。急激に敵の出現速度が上昇したことにある。この場のプレイヤーは知る由も無いが、それは機竜が1機撃墜されたことによって、イベントが進行したことを示していた。

 

 そんな飽和攻撃で侵攻を凌いでいる街の周辺より、僅かに離れた地点。そこでもプレイヤーはパーティを組み戦っているのだが、4箇所ほど討伐速度が桁違いの場所が存在していた。

 

「ヌルい、この程度!」

 

 1箇所は、パイプに紅茶を詰め始めたケッテンクラート乗りのヤベー奴。彼が愛銃を一振りする度に、10を超える敵が致命的なダメージを負って宙を舞い、ピンボールのように敵中を跳ね回っていた。

 すでに弾薬は尽きかけているものの、単純な暴力と足の速さは健在。準極振りという王道からはかけ離れた暴力が、《ラッキー7》というユニーク称号持ちの旗を建て、無双という結果を伴い燦然と輝いてた。

 

「全員、何かにしがみ付きや!」

「主砲、発射します」

 

 2箇所目は、第6の街後方に鎮座する列車砲周辺。当然1ギルドの最大人数を超えて乗員がいる暴力装置は、それだけで十分な迎撃能力を誇っている。それに加え、自動攻撃する設定の機銃などが複数設置されているのだから言うまでもない。

 そして特筆すべきは、その口径800mmという規格外も規格外の巨砲。当たれば中ボスすら即死させる廃火力の一撃は、プレイヤーのスキルという後押しを受け、列車砲の周囲に五月雨の如く鉄の雨を降らしていた。その殲滅速度たるや、突出した4点の中でも最速。リロード時を除けば、リポップ直後に敵が即死する極めて狂った破壊力を示していた。

 

「ッ!」

 

 無言で剣を振るうのは、たった一人のプレイヤー。金に輝く頭髪と、腰に佩いた計7本の刀剣が特徴的な極振り(アキ)は、縦横無尽に戦場を駆けていた。本来の力は格段に制限されているが、その輝きは衰えを知らず並いる敵をボス格ごと両断していく。

 ああ何せ、システム上の制限を彼はユキと同等に受けていないのだから。

 スキルの抜刀術が使えない?──知ったことか。そもそも主武装の極光斬からして、紋章術の強化の産物でしかない。

 自身の攻撃ではダメージを与えられない?──なら愛刀に勝手に攻撃して貰えばいい。

 敵の攻撃がかすりでもしたら死亡する?──なら攻撃される前に殲滅すればいい。

 ロクなダメージがそれでは入らない?──笑止、筋力極振りとその能力を基準としている愛刀に何を説く。ただの通常攻撃であろうと、数百万のダメージ程度が最低値だ。

 その程度の障害で止まるほど、彼のRP愛は脆くない。乱戦だというのに常時HPを1から増減させることなく敵を薙ぐその姿は、筋力極振りという事実を忘れさせるほど個の戦力として逸脱している。その姿は、正しく《裁断者》の称号をしていた。

 

「ふふ。皆さん、もっともっと増えてくださいね。そして、敵さんを喰らってしまいましょう」

 

 そして最後の1箇所。ここが最も異様だった。

 どこを見ても黒、黒、黒、黒、偶に茶色、あと赤。他の4点では複数の敵が存在していたというのに、この場所では大半の空間を黒色が占めているのだから。薄々気付いた人も、気付かない人もこの場を見れば、空間の支配者は一目瞭然だった。

 即ち、蟲。地表には蜈蚣の群れが、低空には蝗の軍勢が、中空には蜜蜂型と雀蜂型の2種の蜂が。高空には、鱗粉振りまく黒アゲハ、線の細い蜻蛉、音を掻き鳴らす蝉の群れが。

 無数の昆虫の群れが敵を見つけるや突撃し、圧倒的物量で蒸発させては数を増やしている。

 

 その黒の波濤の中心に立つのは、その光景とはあまりにも場違いな女性だった。ベージュの短髪に絵描き帽を被り、全身を鎧とセーラー服が融合したような不思議な衣装で身を包んでいる。手に武器は持っておらず、薄荷色の瞳を写り込ませる眩い銀のフルートを鳴らしていた。

 

 彼女こそ、しぐれと呼ばれるユニーク称号《牧場主》の持ち主。普段は犬や猫、栗鼠を始めとした可愛い動物に囲まれ、第3の街で動物カフェを営んでいる少女だった。

 フルートの音によって、一律で動き出す蟲の軍勢。普段の可愛さ全振りの子たちは出せない為引っ張り出してきた彼女の虎の子は、領域制圧という面では他の誰よりも抜きんでていた。何せフルパーティ分に加え、ユニーク称号でペットが2体分参戦できるのだ。単純に、物量が違う。

 

 

 そして、ここで問題だ。

 

 未だ他の戦闘区域に出現していない【Dragon : Prototype 001】は、当然この第6の街付近に出現する予定だった。翼竜をベースに空を戦場とした003、西洋竜をベースに地上を戦場とした002、ならばこの001は?

 コンセプトは東洋の竜。地中を進み奇襲を仕掛け、戦場を混乱させることだ。いや、だった。本来ならば、そのようなトリッキーな戦闘を行う予定だったのだ。

 

 だが、最初に顔を出した場所が、この四人の近くであった場合どうなるか? 結果は、他のボスより悲惨な末路という結果で現れた。

 

「金の竜か。相手にとって不足なし!」

 

 始めに【Dragon : Prototype 001】が顔を出したのは、《ラッキー7》が駆け巡っていた戦場だった。黄金のボディを惜しげも無く晒し、登場演出として天高く機竜001は咆哮する。そう、してしまう。プログラムからは逃られないのだ。例え目の前に、紅茶の香りを漂わせた英国面のヤベー奴が迫っていたとしても。

 

「はぁッ!」

 

 速度は十分、威力は元から十二分、スキルの火力も大盛りで、クリティカルも発生した。そんな一撃をモロに食らった結果、機竜のHPバーは1段目の6割を消失するという結果を迎えてしまぅた。

 

『Error!Error!Error!』

 

 あまりの大損害に、Errorと叫びながら機竜は逃走した。けれど嗚呼悲しいかな、プログラムには逆らえない。戦場をかき乱すべく、あからさまな暴力が満ちたその場所に、機竜は顔を出してしまった。

 

 地中から浮上した直後機竜を出迎えたのは、爆音と鉄の雨だった。最悪のタイミングで顔を出したことにより、列車砲という化け物から放たれたスキルという魔弾が直撃する。

 地面に叩きつけられるように、鋼の豪雨が容赦なく機竜の身体を打ち付ける。与えれた被害はまたも甚大。今度こそ、5段あったHPバーの一段目が綺麗に消失した。

 

『Error!Error!Error!』

 

 悲鳴のようにErrorを叫びながら、残り2箇所のモンスターが劣勢の空間に機竜は設定された通りに顔を出す。

 

「あら、いらっしゃい。今日だけはワンちゃんたちじゃなくて、虫さんと一緒なの。楽しんでいってね?」

 

 瞬間、金が黒に穢された。

 顔を出した機竜に虫の群れが取り付いては攻撃、攻撃、攻撃攻撃攻撃。ユキのペットである朧同様、分裂体の虫達が特攻と自爆を繰り返していく。蜈蚣が装甲をかじり自爆、蝗が装甲を食い破り自爆、蜂達が内部に入り込んで自爆、蝶がデバフを撒き終え神風、蜻蛉が蜂の開けた穴に突撃して自爆。

 そして傷つけた内部から、機竜のリソースを喰らって再誕する虫の軍勢。ペットを率いて戦闘することに特化しているしぐれによって、敵がいる限り無限に増える悪夢の軍勢がここに存在していた。

 

 戦闘……否、蹂躙の結果は言うまでもない。

 一撃一撃の威力は低くとも、塵も積もれば山となるように、攻撃する暇もなく機竜のHPは削れていく。数え切れないほどの状態異常を、繰り返し繰り返し付与されながら。

 

『Error!Error!Error!』

 

 内部を黒の軍勢に食い尽くされながら、再度機竜は逃亡する。HPバーは既に2段と半分、最後に命令を果たそうと、自爆を前提に機竜が最後に出現する。街のすぐ側は飽和攻撃で近寄れない、そう判断して出現してしまったそこは──

 

「そうか。最後が俺か」

 

 アキの目の前だった。光を纏う二刀を構えた、金髪の偉丈夫。その眼に射抜かれた瞬間、機竜は偶然か否か敗北を直感した。当然吐き出されるErrorは何ら変わることはない。

 

「そのまま虫に食い尽くされるのは屈辱だろう」

 

 けれどどこか、機竜は安心したような気持ちをトレースして……

 

「安らかに眠るといい」

 

 一閃。二閃。三閃。四閃。五閃。六閃。七閃。

 スキルに寄らない抜刀術による神速の斬撃が、機竜のHPを3秒で0へと叩き落とした。

 

 

 チン、と憐れなボスにトドメを刺した刀を納刀し、アキは戦場を一望した。落ち着いて見れば、あまりにもプレイヤー側に有利な戦況がそこには広がっていた。

 

「街が気がかりではあるが、奴らがいれば問題ないだろう」

 

 今もその領域を広げ続ける黒の軍勢に、ピンボールのように敵を排除するラッキー7、固定砲台であるが圧倒的な火力を誇る列車砲。戦力としては、十分以上と言うものであろう。

 

「ならば、向こうの加勢として俺は動くべきか」

 

 視線をずらせば、見えるのは劣勢に陥っている戦車部隊。今しがた幕を下ろした機竜とは別型の機竜の登場により、ボス以外には圧倒的な殲滅力を誇る戦車部隊は壊滅の危機に陥っていた。

 

「間に合うか? いや、間に合わせる!」

 

 言葉の直後、地面を爆発させながらアキは駆けた。その姿はまさしく、地表を進む煌めく流れ星。

 そうして駆ける先、機竜と戦車がそれぞれ放った砲撃が衝突した。機竜の放つ真紅の閃光、戦車が解放した青白い閃光。殆ど同等の出力のそれらはせめぎ合い、混ざり合い、堪えきれなかったかの様に大爆発を引き起こす。

 

 そこから始まるのは、明確な潰走の流れ。隊長を失ったことによって、流れ始める絶望の空気。戦況としては良くないことだが、壁が高ければ高いほど俄然気合いは入ると言うもの。ならばこそ、ここで口にするべき言葉は1つしかありえない。

 

「いいや、まだだ」

 




ユニーク称号《牧場主》の保有者、しぐれさんについてのちょっとした説明。

普段は本編で書いた通り、第3の街で動物カフェを営んでいる女性。実は動物アレルギー持ちなので、VRをやってる第1目標はそこだったりする。ただし普段連れ歩いているワンニャンコ達は、可愛さ優先で強さは全く無い。

戦闘スタイルは、自身が補助をしつつテイミングモンスター(5体)とペット(2体)の組み合わせて変化する。今回は戦闘区域が非常に広域ということから、一番ヤバい奴らを引き連れてきた。

基本的にはいたって優しい普通の子

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