幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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古戦場から逃げるな(逃げられない)


第123話 ミスティニウム解放戦⑥

 颯爽と雄々しく、ピンチに現れるヒーローのように現れたアキだが、彼とてあくまでルールの中活動する1プレイヤー……やれることには限りがある。今回に限っては、さらに活動が縛られているのだから尚更だ。

 

 と、普通は考える。

 

 だが、だがだ。その程度で止まるほど、極振りとして歩んできた経験は安くないし、RPの重さだって軽くはない。さらに言うのであれば、アキのプレイの根底にあるのはやはり気合と根性。それで通る道理であるなら、出来ないなんてことこそあり得なかった。

 

「!!」

 

 そしてアキを視界に入れた瞬間、猛威を振るっていた最後の機竜がその動きを止めた。まるで蛇に睨まれた蛙のような勢いで、全ての活動を止め、アキただ一人に向けて己の最大の武器である尾の狙いを定めた。

 

特化付与(オーバーエンチャント)──閃光(ケラウノス)

 

 アキも同様に、先程の戦闘終了に伴い切れていた付与を掛け直す。同時、引き抜かれるのは極光を纏いし二刀。普段の1/10程度にまで制限されて尚必殺の威力を誇る双刀は燦然と輝き、臆することのないアキの姿は真っ向からそれに相対することを言外に語っていた。

 

「来るがいい、機竜よ」

 

 そして、静まり返った戦場にアキの声が響き、機竜がその場で旋回した。機竜が選んだのは横薙ぎ。目の前のコレは倒せないと判断して、せめて他の敵を撃滅しようという一手。

 機械的判断としては何も間違っておらず、実際伸びた蛇腹剣尾の速度はAgl換算にして4000オーバーの超速の範囲攻撃だ。

 

「そうか、残念だ。止まって見えるぞ?」

 

 しかし、あわよくばアキの撃破を狙ったことが間違いだった。最速の一撃が届くより速く、振るわれた尾は空を千切れ飛んでいた。

 一撃目で難なく尾剣を切断、二撃目で後方へかち上げた。言葉にするとただそれだけの行為で、機竜の必殺撃は打ち破られていた。

 

『GA、GAGAa!?』

 

 ならばと機竜が顎門を開き砲撃態勢へ移った瞬間、集中し始めていたエネルギーが口元で爆散した。否、よく見ればその口腔には一振りの刀剣が突き刺さっていた。それはよく見れば、離れた場所に立つアキが先程まで握っていた刀剣の片割れだった。

 

 カツカツと軍靴の音を鳴らし歩いて来る姿は、他のプレイヤーとは比べ物にならないほど遅い。しかしその歩みが、機竜にとっての死神の歩みであることは紛うことのない真実だった。

 

『GA!?』

 

 結果、機竜が()()()()()()のは逃走。しかし何故か、四肢全てが動かない。構造上機竜には見ることができないが、既に四肢はアキの投擲した刀剣によって地面に縫い付けられていたのだから。

 

「やはりダメだな。俺程度では、猿真似にしかならない」

 

 暴れる機竜の前に辿り着いたアキは、誰にも聞こえないような声でそう呟いた。その直後、首を振ってその言葉を否定する。

 

「いいや、それではお前に対して礼を欠くことになるな。謝罪しよう」

 

 頭を下げたアキに対し、そんなことは知らぬと機竜が吼えた。そして唯一動かせる短くなった剣尾を、己の誇る武装たる四肢を引き裂きながら振るったのだ。

 そういうボスでもないのに行われた異常な行動は、普通のプレイヤーであれば即死させるに足る不意をついた攻撃だった。

 

「だが、“勝つ”のは俺だ」

 

 そう、あくまで『だった』。アキに刃が触れる前に振るわれた光刃が、尾剣を今度はバラバラに分解した。許容できるダメージ値を大幅に超過してしまったのだろう、ボスでさえも一瞬固まって動きを止めてしまう。無論、そんなあからさまな隙をアキが逃すはずもなく──

 

「次があるならば、俺たち破綻者(極振り)がいないイベントで活躍してくれ」

 

 極光の斬撃が、一切の抵抗なく機竜の身体を縦に割った。

 当然HPバーは消滅。この一連のロールプレイに付き合っていた、ピンチだったのかピンチじゃなかったのか分からない周囲のプレイヤーから歓声が上がる。

 

 これにて障害は取り除かれ、ファンタジーに対して鋼鉄の進撃が再開した。

 

 

 所変わってミスティニウム内部。ユキたちが落下し、橋の袂で勝利の声が上がっている同時刻。真っ先に降下地点から脱出し目標へ向かった、橋の制御装置破壊班。彼女らも対岸の彼らと同様に、歓声を上げながら戦闘を行なっていた。

 

「そぉれ、吹っ飛べ経験値ぃ!」

「バカ、前に出過ぎよタタラ。セレナさんごめんカバー!」

「承知」

 

 ここは橋の開閉制御を行っていた制御塔。すでに内部は氷の毒で破壊尽くされているものの、戦況は残敵に囲まれ窮地に陥っていた。数にして表すなら、3:50の割合は間違いないほどの敵が、落とされた塔を奪還せんと集まっていた。

 

 極振り塔攻略組である冥土服のヤベー奴ことタタラと、メイド服のヤベー奴ことツムギとはいえ、流石に多勢に無勢。普通であれば時間と共に押し潰され、塔を奪還されてしまっていただろう。

 

「苦しみを……」

 

 それを拮抗という状況まで持っていけているのは、偏に完全にステルス状態で戦場を駆けるSereneというプレイヤーのお陰だった。

 ユキが察していた通り、彼女の本来のスタイルは呪術とアイテムで複数のデバフを相手に与え、隠密で隠れて継続ダメージで殺す時間のかかるもの。しかし今はその、多数のデバフによる継続ダメージと行動制限が戦場を支える一手となっていた。

 

「どっ、こいしょー!」

 

 独楽のように回転するタタラの周りで、交通事故にでもあったように敵モブが吹き飛ばされていく。動きが鈍れば攻撃は届くし、攻撃さえ当たればHP吸収持ちのタタラは倒れないのだ。

 当然そんなことをし続ければヘイトは彼女一人に集中する。それでも倒れない辺り、たった1人の前衛としては十分な働きをしていた。

 

「タタラ、セレナさん、戦車隊が進行を再開したらしい! もうちょっと持ち堪えれば終わりよ!」

 

 飛行船経由の通信を受け、魔法と弓矢を放ちながらツムギが叫ぶ。実際問題危険なのは物量だけで、攻略難度も討伐難度もよっぽど極振り塔の方が高かったのだ。

 

「はい」

「えー、折角こんなに楽しいのにー」

 

 加えて言えば、タタラの即死攻撃もSereneの状態異常も問題なく入り、かつツムギの広範囲攻撃もロクに狙わずとも十分以上にヒットするのだ。スリーマンセルでカバーも容易であり、どこかの戦車組と違い雑談する程度には余裕があった。

 

「ボスもいなかったし、ハズレ引いちゃったなー」

 

 一応存在していた中ボスを、雑魚と一緒くたに倒して気づかないくらいには。

 

 

 更に時を同じくして、ミスティニウム内部を駆け回る3つの影があった。そう、言わずもがな極振り組のレン・ザイード・翡翠だ。

 

「うし、ここはこんなもんだろ。翡翠ー、次はどこ行きたい?」

「そうですね……あちらからいい匂いがします」

 

 一応防衛組と役割は振られているものの、彼女らのやっていることは自由そのものだった。なんとなく気になる場所に行って、食事……もとい殲滅する。それだけのことを、最高速で、連続して行い続けていた。

 

「わかった。おいザイード、速く行──ダメだなありゃ」

 

 よじ登ってきた翡翠をがっちりお米様抱っこ体勢にしつつ、レンがザイードにそう言いかけ、すぐに諦めて首を横に振った。

 

「ふふ、フフフ、我が世の春が来た!」

 

 その視線の先にいるのは、黒い風と時折見える赤、そしてそれらが通り抜けた瞬間消えて行く敵の群れだった。橋の方で出現する敵と同様、即死耐性なんて敵は持っていないのだ。そんな場所に速度特化兼即死特化プレイヤーを送り込んだらどうなるか、現状はそれを明確に示していた。

 

「うし、行くか」

「速くしてください。ご飯がなくなります」

「はいはいっと」

 

 背中をペシペシと叩いて翡翠が催促した瞬間、最速でレンは飛翔した。バサバサと翻るスカートを抑えつつ、気の抜けた「あー」という声を漏らしている翡翠を横目に、広がる街並みを見てレンがポツリと呟いた。

 

「この後更地になると考えると、ちったぁ感傷的になると思ったんだがなぁ……」

 

 風を切って移動しながら、思い浮かべるのは毎度同類が引き起こすトラブル群。具体的にいうならば、焦土になったマップや夜空で花火になるビル、真っ二つに裂けた山、蒸発する湖やバグのようなエフェクトを残す環境兵器。

 流石にそこら辺と比べれば、街1つが更地になる程度思ったよりなんてこともないのかもしれない。今回のように、自分を含めロクに参加できない極振りが大半なのは英断だった。そんなことまで思えてくる。

 

「レン、レン」

 

 そんな風に意識を飛ばしていたレンの思考を、てしてしと背中を叩く翡翠の声が引き戻した。

 

「どうした? もしかして通り過ぎたか?」

「さっきから見えてますけど、今日はしましまですね」

 

 感傷も心配も、何もかもを翡翠の言葉がぶった切った。思考が停止すると同時に、レンの疾走も停止する。そうなれば当然動きは無くなり、半ば墜落するような形でレンは着地することになった。

 

「ちょ、ま、おま!?」

「水色と白のしましま、飴が食べたいです」

 

 抱っこされた状態で、ペロンとスカートをめくりながら翡翠が言った。翡翠を抱えていない方の手でそれを必死に戻しつつ、目撃者がいないかレンは周囲を必死に見渡す。そして誰もいないことを確認すると、肩を撫で下ろして翡翠に反論した。

 

「いいだろ可愛いし」

「もぐ……」

「もぐ?」

 

 お米様抱っこをやめレンが翡翠を抱えてみれば、七色に光っているひよこが翡翠の口に突撃している謎の光景が目の前に広がった。

 

「よし、私は何も見なかった。場所に着いたら教えて──いや、囲まれてるか」

 

 現実逃避は一瞬。目的地へ向け走り出そうとしたレンだったが、極振り中随一の空間認識能力で敵を察知した。戦闘力が皆無の現在、本来であれば逃げることが最適解だ。その筈、なのだが……

 

「ひーこー」

 

 つい先程口の中に消えて行ったはずの翡翠のペットが、呼びかけに応じて翡翠の髪の中から再出現した。そして翡翠の頭の上に陣取ると、スキル使用により10体に分裂。

 

「ぴよ」

 

 そう一鳴きする、と本体である一匹を残して素早く周囲に散っていった。そこから10秒もせず、今度は虹色に光りつつ帰還し、頭部の一匹も含め髪の中に戻っていった。

 

「ぴよ?」

「お疲れさまです。さあ、行きましょう」

「いつ見てもえげつねぇペットだよな……うちのヒエンとは大違いだ」

 

 そう言い残して2人が去った場所では、異様に変質した植物や、ベースすらわからないほど異質に変形したモンスターが同士討ちを繰り広げていたのだが、そのことは下手人以外誰も知ることはなかった。

 

 




メイドのヤベー奴らに関しては
『閑話 それぞれの極振り戦(vsザイル)』を

翡翠ちゃんのペットことひーこーに関しては
『閑話 それぞれのミラーマッチ』のあとがきにステータスが

載っているので!ので!

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