幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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第124話 ミスティニウム解放戦⑦

 様々な動きが起きているミスティニウム内部。警戒とリスポン狩りという地味だが有用な働きをしているアマゾンズらと違い、最後に残ったこの2人も、他のメンバーに負けず劣らずの活躍をしていた。

 

「ふむ……困りました」

「そうですね……困りましたね」

 

 街灯の灯ったミスティニウムの道でボヤくのは、《ナイトシーカー》のカオルと固定値の鬼であるブランの2人。彼女らは今、四方を自身のレベルを10程上回るモンスター数十体に取り囲まれていた。

 中身のない鎧に、機械と生体が融合したようなイッヌやネコ、明らかに実体のないゴースト系から頭の悪いタイプのゴブリン等々……数えるのも億劫ない程の敵群が、現在進行形で増えつつあった。

 

「いやまさか、敵弱体化のギミックを起動してたら取り囲まれるなんて。流石のボクも予想外でした」

「むしろ最後の一個を起動した瞬間これですし、割と運営の罠にはまっただけでは?」

「運営がバカじゃないとか驚きですよ」

「「はっはっは」」

 

 敵陣の只中で笑う2人に釣られて、周囲を取り囲むモンスターも下卑た笑い声の合唱を響かせる。明らかな嘲りの意思が込められたそれに、今まで笑っていた2人の顔つきが変わる。

 

「さて、ギルマス。10秒時間稼いでください。6倍にして返します」

「わかった。こっちも久々に、召喚術師として働くことにする」

 

 直後、2人以外全てに赤黒の雨が降り注いだ。今まで会話していたことは、決して暇だからということが理由ではない。ただでさえ連射性能が異常値のブランが、魔法の発動ストックを作るための時間だったのだ。

 降り注ぐ、固定値初期魔法の超連射によるゲリラ豪雨。本来は微々たる威力しか持たないソレが、格上を十秒程で蒸発させていく様は異様の一言に尽きた。

 

「蒸気充填、完了」

 

 豪雨の中心で、白い蒸気を纏うのは《ナイトシーカー》のカオル。普段ならこの時間はクソ雑魚化している彼女だったが、今はイベント中……つまり、称号効果が最大限に発揮されていた。

 ゴツい籠手が握る蒸気刀からは、圧縮限界を超えた漏れ出た蒸気が揺らめく。同時に先程摂取した専用アイテムのブーストで、抜刀術及びスキルのコストとして支払ったHP・MPが全回復した。

 

「抜刀術スキル、居合抜きから飛燕まで混成接続」

 

 魔法の豪雨を抜けるモンスターが現れ始めたがもう遅い。夜の補正を受けた《ナイトシーカー》は、その程度では止まらない。

 

「行きますよボクスペシャル。蒸気抜刀──吸血漣蒸(きゅうけつれんじょ)!」

 

 瞬間、裏切上の軌道で振り抜かれた刃が、街ごとモンスター群を一撃で蒸発させた。かつて彼女が使った、《紫電一閃》という技の下位互換技だ。その反動でカオル自身は、地面に杭打ちを行わなかった為後方へ吹き飛ばされた。計算通りに。

 次に行われたのは、身体を無理矢理に捻っての横薙ぎ。《飛扇》という技を、反動と遠心力を使い無理矢理に発動。扇状に広がるダメージエフェクトが、後方の敵を殲滅した。

 次に発動したのは、《鳴閃》という繋ぎ技。スクライド式着地をしながら刃が納刀され、スキル効果による音の刃が拡散する。

 

「我が名は──」

 

 隙が出来たと思ったのか、思わせぶりな登場をした黒騎士と表現できるモンスターが斜めにズレ落ちた。放たれた技は《燕返し》、《鳴閃》の効果によって威力と速度のブーストされた二閃が、中ボスを抵抗なく両断し即死させるどころか、発生したエフェクトが再度街ごとモンスターの群れを両断する。

 相当数が減った敵群の中で、カオルが悠々と《鳴閃》で刀を納刀。脚部のバンカーで速度をブーストし、最後の敵群の中に飛び込んだと同時に抜刀。単純な斬撃で切断した相手から、青い燕のエフェクトが吹き出し大半の敵を蒸発させた。

 

「四天王が我を残して全滅したか……」

 

 そうして一気に廃墟と消滅エフェクトだらけになった戦場に、一体の影が舞い降りた。ソレを一言で表すなら、竜人というのが簡単かつ真意を表せるだろう。緑暗色の鱗に覆われた、大柄な竜の人型。呟いた通り、この街に配置されていた中ボスたる彼は──

 

「ふふふ、行きますよ! ボクの必殺技、パート2!」

「弱体装置まで起どゴブァッ!?」

 

 何かを告げるその前に、カオルが放ったライダーキック式顔面蹴りに言葉を遮られた。減少したHPはごく僅か、代わりに鱗が逆立ち、青筋が浮き出てくるようなエフェクトまで見える。

 

「よくもこの我を虚仮に──」

「させません、ボクの必殺技パート3!」

「カペッ」

 

 怒髪天を突くといった様子のボスの顔面にもう片足が叩きつけられ、左右の蒸気式パイルバンカーが僅かにタイミングをずらして打ち込まれた。流石の中ボス最強格といえどこれには堪えたようで、HPを急激に減少させながら尻餅をついてしまう。

 そんなボスから「ヤベッ」とでも言いたげな表情で逃走しながら、カオルは全力で叫んだ。

 

「ギルマスゥゥゥゥ!!」

「はいはい。まあ偶には、召喚術の極致を使いますか」

 

 直後、ブランを中心に地面に描かれる極大の魔法陣。消滅するモンスターたちのエフェクトを吸い込みながら、3箇所の空白を残し魔法陣は完成した。

 そして実は今回決め台詞を1つも言っていないブランが、ノリノリで詠唱を開始した。

 

「お前にふさわしいソイルは決まった!」

 

 杖を片手に、顔面の再生を行なっているボスに向けてポーズを決める。その姿に興奮しながら、刀をブンブンとカオルが振り回していた。

 

「『全ての源』マザーブラック!」

 

 宣言と共に、欠けていた魔法陣の一部が黒系統の色で埋まる。

 

「『全てを灼き尽くす』ファイヤーレッド

 そして、『全てなる臨界点』バーニングゴールド」

 

 赤系統、金系統と続けて魔法陣が埋まり、完成した魔法陣が地形を無視して回転を始めた。

 

「凄まじい気の流れ……!!」

 

 ノリノリで加担するカオルがそう告げる中、ブランのHPの30%が蒸発した。最高位の、それもカスタムした召喚術の代償だ。

 そんな中、急速に魔法陣が縮小していく。そして魔法陣が消滅して、あわや不発かと思ったその時、銃を構えるように持ったブランの長杖に三色の、円軌道を描く小さな光球が出現した。

 

「燃えよ、召喚術──フェニックス!」

 

 そうして、長杖の先で照準する中ボスに向け、光球は放たれた。しかしその速度はあまりに遅く、着弾前に中ボスの腕の一振りで消し飛ばされてしまった。

 

「く、くく……何が来ると思えば、その程度か!」

「いいや?」

 

 顔の再生が終わり、そう嘲笑する中ボスの身体が突如膨張した。元の数倍にまで膨れ球形に変わっていくボスは、その変形の影響か苦悶の表情を浮かべつつも言葉1つ発せない。

 そしてその目が限界まで見開かれ、ボスのHPは0になり爆散した。そのエフェクトの中から現れるのは、不死鳥の名を冠した燃え続ける鳥。敵のHPとMPをリソースに、召喚術における火属性最強格がボスの体内から出現したのだった。

 

「いやぁ、いつ見ても壮観ですね」

「まだまだだよ。特に杖とか」

 

 一鳴きした後、身体の維持が出来なくなって消えて行くフェニックスを見送りながら、敵の消えた元戦場で2人はそんなことを呟いた。

 

「本当にやるんですか、あれ?」

「借金してザイルさんに杖を依頼してある以上、やめられないさ」

「うへぇ」

 

 昔と違って心底ゲームをエンジョイしているギルマスを見て、カオルは複雑な表情を浮かべてそんな声を漏らした。なんというか、自分のギルマスがどこかの爆弾魔や爆裂狂いの方向に進んでいるような気がしてしまって。

 

「あ、それで思い出したんですけど。人質救出随分遅くないですかね?」

「言われてみれば。ユキさん達なら、とっくに終わっていてもいい頃な気が──」

 

 と、ブランが言った時のことだった。王城から天高く紋章が出現し、次の瞬間には1人の鎧武者が空へと打ち上げられた。展開している結界の下部に、乱雑に積み上げられた人質らしき塊を引っ掛けながら。

 

「「えぇ…」」

 

 人影と塊が雲の向こうへ消えて行く光景を見て、2人から困惑した声が思わず出てしまった。

 なぜこんな奇妙なことが起こったのか。それはほんの数分前に遡る。

 

 

 想定以上の魔法の破壊力によって、部屋が崩落し階下へ落ちて行く中。予定とは違ったものの、結局降りれることに違いない現実に気がついた途端全員に冷静さが戻った。結果、特に問題なく階下への侵入へ成功したのは良かったのだが……

 

「どうやってこの人数の人質運ぼう?」

 

 セナが言った通り、最大の問題はそれだった。人質と言うのだから、いてせいぜい数十人。50もいないと想定していたのだが、現実はどうだ。どう見ても、100人を超えているではないか。

 

「誰かいい案ある人!」

 

 見張りは秒で抹殺したので何も問題はなく、人質も全員なんらかの効果で動けないようなのでそこだけは救いか。だからこうして、呑気に話が出来ていたりする。

 

「ん!」

「『全員を縄で繋いで連れて行く』だそうだ」

「うーん……ちょっと無茶があるかなぁ」

 

 真っ先に手を挙げたれーちゃんの意見は、ちょっと無茶があるものだった。まあできるか出来ないかで言えば、出来ないわけではないのだが。

 

「なら、壁をぶち抜いて運ぶのはどうだ? 俺なら中庭まで砲撃でぶち抜ける」

「人質がどれだけ減って良いのかわからない以上、敵を呼びそうなのはちょっと実行し難いわ」

 

 ランさんの案はつららさんが首を振った。つららさんの案も確かに一理あるというか、事実その通りだ。どれだけ救えば良いのかわからない以上、迂闊に人質を危険には晒せない。

 

「なら、私と、セナさんで、ランさんの開けた穴を通って、運ぶのは、どうです、か? 穴は、つららさんに、氷のトンネルに、してもらえれば」

「半分くらいはそれでいけると思うけど……うーん、それが1番早いかな?」

 

 手持ち無沙汰で天井に障壁と《平凡の見せかけ》を掛けながらその話を聞いてる限り、どうやらその方向で話が纏まるらしい。となると、敵が侵入してこないようにしてたこれは無意味になりそうだ。

 

「んー……ん!」

「なるほど、その手があったか」

 

 割と手伝うことはないと思っていたら、そんなれーちゃんとランさんの声が聞こえた。

 

「ん?」

「いや、出来なくはないけど……人質が築地のマグロみたいになる気しかしないんだけど」

 

 確かに聞いてる限り、れーちゃんの案が多分1番早いし確実なものだ。けどNPCとはいえそんな雑な扱いを……そう悩んでいると、くいくいとコートの裾が引っ張られた。

 

「どういうこと? ユキくん」

「私達にも、分かるように、説明して欲しい、です」

 

 セナと藜がそう言って、つららさんもランさんへ視線を向けていた。相変わらずれーちゃん語を完全理解できるのは、ギルド内では俺とランさんだけらしい。

 

「えっとですね……」

「大体の案は、藜が提案したのと同じだ。ただ、人質の脱出方法としてユキの紋章を使う」

 

 どう話したものか迷っていると、ランさんが要点だけを言ってくれた。

 要するに、ランさんがブチ抜き、つららさんが道を作り、俺がそこを射出台にして、全員で人質を投げ込み中庭のデュアルさんへ届ける。その後、デュアルさんを上空で待機してる飛行船が回収する。そういう、個々の能力に頼りきっているが簡単な作戦だ。

 

「多分時間だけを考えるなら、藜さんのより少しだけ早くなると思うけど」

「異論ある人いる?」

 

 少し悩んだようにしたあと、セナが全員を見渡しながらそう言った。結果、反論はなし。思わぬ方向で、作戦は纏まったようだった。

 

「よし、それじゃあ決定。さっさと実行して、作戦を次の段階へ進めちゃおっか!」

 

 結果、作戦は何の妨害をされることもなく成功。デュアルさんは空へと飛び立って行った。

 

 後で聞いた話なのだが、この時点で街の中に配置されていた中ボスは全滅。場内はアマゾンズの連中によって雑魚がリスキル状態にあったらしく、邪魔が入るわけがなかった。

 

 そして、大本命の作戦が動き始める。

 




運営「用意した四天王、どこ行った?」
突入班「君のような勘のいい運営は嫌いだよ」

水の四天王→気づかれずに処理
土の四天王→即死(ザイード)
火の四天王→即死(抜刀術)
風の四天王→焼死(召喚獣)



《鳴閃》
簡単に言うと、クイック納刀+バフスキル
2回連続までならクールタイムなしで使用できる
※ユキもアキもAglが無いため使用不可

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