『こちら、旗艦アドミラル・グラーフ・シュペー。当艦が人質を回収したことにより、イベントフラグの達成が確認された』
空へ発射されたデュアルさんと人質を回収した飛行船が、ミスティニウム上空から離脱しつつ外へ向けてそう放送する。同時に各方面へと同様の通信を飛ばし始めていた。
《これにより、作戦を最終段階へ移行する。
退避可能な人員はミスティニウムから退避してください。
繰り返す、作戦を最終段階へ移行する。
退避可能な人員はミスティニウムから退避してください》
それを聞いて、街の各所で動きが起きたのを感じた。
門の近くでは戦車隊が撤退を始め、2名の反応が周囲の建造物に手当たり次第に攻撃をしながら撤退を開始。最後の一箇所では、感知のできない結界のような何かが展開された。そして同様に俺たちも──
「みんな、逃げるよ!」
「「「「了解」」」」
「ん!」
人質の射出を終えた牢屋から、壁を壊しながら全速力で脱出を始めていた。探知できた空の戦闘機たちの動きからして、もう時間的猶予は殆どない。
セナと藜は、ペットと合体しての最大速で。俺もターボ込みの愛車の最大速で。速度に劣るランさん・つららさん・れーちゃんの3人は紋章で加速した最大速で。荒れ果てた街の中を、1つしかない城門目指して駆けていく。
「ユキくん、状況は!?」
「現状街の中に残ってるのは、うちと翡翠さんだけ。フルトゥーク湖に待機してた戦艦も動き出してるし、壊滅まで秒読みかな!」
なんてことを言った直後だった。右前方に広がっていたミスティニウムを囲う壁が、爆炎に包まれ崩壊した。噂をすれば影がさすとはこのことだろう、ミスティニウムの存在する中洲の上流まで進んできた商業系ギルド連合の戦艦からの砲撃だ。
爆破の点数としては60点くらいかなぁ……やっぱり大口径でも榴弾じゃだめだ。爆弾じゃないと、なんか気持ち良い爆発にならない。
「敵集団、前の方で、リポップ、します!」
「わかった。れーちゃんつららさん足止め!」
「ええ!」
「ん!」
藜の言葉でセナが指示を出し、2人が足止めし、直後セナと藜が突撃。少し遅れてバフとデバフを掛けた直後、2人の最大火力によってモンスター群は消し炭になった。
だが、そんなこちらの様子は知らぬとばかりに、砲撃の第二射が再度壁を崩壊させた。かと思えば、今度は後方で土埃が柱のようになり大地が震撼する。多分これは列車砲の砲撃だ。もう剣と魔法の世界がめちゃくちゃである。
更にトドメとばかりに、大量の爆弾を搭載した戦闘機隊の姿が見えた。V字に編隊を組んでることから、爆撃する気満々なのは嫌が応にも理解できてしまう。
「よし、抜けた!」
けれど、どうにかその一斉攻撃が始まる前に俺たちは全員門を抜け、ミスティニウムから脱出することに成功したのだった。
◇
同時刻、上空。
『《マナマスター》から各機へ。【すてら☆あーく】の連中の脱出を確認した。これでもう枷はない、ショータイムだ』
『ディアボロⅠ了解。さあ、地獄を楽しみな』
『シュヴァルツⅠ了解。ブチかましていくぜぇぇ!!』
『シュヴァルツⅡ了解。音割れワルキューレの騎行を流せ!』
『ザイン了解。でもシュヴァルツⅡ、そこはコンギョでは?』
『なんか再生ダメだって……』
『そっかぁ』
今まで制空権の確保に専念していた戦闘機群が、そんな会話を交わしながら動いた。ロックの外れる音と共に、懸架していた爆弾が爆撃機もかくやという勢いで落下していく。ゲーム特有の、アイテムをデータとして持ち歩けるという特徴が最悪の結果を生み出していた。
轟音。衝撃。破壊。ミスティニウム上空を旋回する5機の爆撃によって、見る間にミスティニウムは爆炎に包まれ崩壊していく。
どこぞの爆破卿に言わせれば65点、爆裂娘からすれば論外の点数でしかない物だが、それでも効果は覿面というほかないだろう。城を含め壊れない建造物も多々あるが、少なくとも概算7割は有象無象のモンスターと共に崩壊していく。
『マナマスター、残弾0』
『ディアボロⅠ、残弾0』
『シュヴァルツⅠ、残弾0だ』
『シュヴァルツⅡ、同じく残弾0』
『ザイン、残弾0です』
『了解した。一時帰投し装備を補充する』
『『『『了解!』』』』
時間にして僅か1分ほどの空襲を行った5機は、そう通信を交わしながら撤退した。であればもう、これ以上ミスティニウムはプレイヤーの暴虐に晒されることはないのだろうか?
いいや、否。断じて否だ。こんなイベントに参加しているようなトッププレイヤーどもが、この程度で止まるわけがなかった。
「主砲っ、てーッ!!」
次にミスティニウムを襲ったのは、河川から吹き付ける鉄の暴風だった。堅牢を誇る筈の壁が、まるでゴミか何かの様に削り飛ばされていく。
フルトゥーク湖から河川を降ってきた、商業ギルド連合の大和型を模した戦艦。ダウンサイジングこそされているものの、律儀に再現した主砲の巨大な三連装砲は1プレイヤー*1が出し得る限界を超えた火力を連射し続けている。
しかも戦闘機隊と違って、こちらの乗員は通常プレイヤーだけではなく職人プレイヤーも多数含んでいる。つまり、実質弾切れの懸念が無い化物であった。
制空権が失われたことによる散発的なモンスターの襲来も、主砲由来の衝撃波と専用の場所から攻撃を行うプレイヤーによって迎撃が可能。運営から見れば、悪魔としか言いようのない暴威が今ここに解放された。
「戦車隊残存全車両に告げる! こちらも負けてなどいないことを、船の奴らに思い知らせてやれ!!」
『『『『『Jawohl!』』』』』
対し、陸の戦力も当然負けてなどいない。機竜に数を減らされたとはいえ、戦車という戦略は未だ健在。重装甲にてモブの攻撃を弾き、主砲で壁を吹き飛ばしていく。周囲のモブに機銃の迎撃が追いつかない場合は、共に侵攻してきたプレイヤーが経験値へと変えていく。
「さて、大仕事だよツムちゃん」
「分かってる。しくじるなよタタラ」
「私も、微力ながらお手伝いを」
瞬間、炸裂する大火力。つい先程街を脱出したばかりのツムギ・タタラ・Sereneの3人も攻撃を開始した。
壁が毒によって腐食し、大鎌の斬・打撃によって崩壊し、弓矢と水の
「だったら私たちも! 行くよ、藜ちゃん!」
「当然、です!」
「目標確認……delete開始」
「行くわよ、れーちゃん。氷系統最上級魔法……《ジュデッカ》!」
「ん!!」
さらにその近くで、更なる破壊力が壁を吹き飛ばした。
合体を継続した炎を纏ったセナにより振るわれるは、双剣双銃の乱舞と魔法の乱射。それに遅れじと空を舞う藜の、処理落ち寸前まで重層化された槍撃と副次効果による斬撃の嵐。追い討ちをかけるのは、つららによる超範囲凍結破砕の魔法と、追随するれーちゃんによる不可視の大打撃。更には蜂の大群が、群がってくるモブに自爆特攻を行いその邪魔をさせない。
当たり前のようにユキがバフを最大限にかけているため、他とはまた一線を画した火力をたった6人で齎らしていた。
「貴方と肩を並べて戦えるのは光栄です。《裁断者》」
「こちらもだ。《初死貫徹》」
「では、行きますか」
「ああ」
「「すべては、勝利をこの手に掴む為ッ!」」
放たれる極光斬と、周囲の敵を蹴散らす鋼の拳。
全プレイヤー中最大火力を誇るアキと、元戦車長であり現初死貫徹である彼も参戦しないわけがない。あまりにも高い攻撃力によって、バターでも切るかのように壁が裁断されていく様は異様を通り越して、こいつならこうなると納得せざるを得ない域にまでたどり着いてしまっていた。
「我が爆裂の力を貸してるのですから、遅れるなんて許しませんよ!」
「応ともさ、俺が装填する以上嬢ちゃんはトリガーを引き続ければいいのさ!」
「案ずるな。自画自賛だが、ゲーム内最高のDexが付いている。外しはしない」
「ふぇぇ……」
そうなると黙っていられないのが、第6の街後方に陣取る列車砲運用組だ。街の周囲全てが黒い蟲たちの海に覆われた今こそ、迎撃の必要すらない絶好の攻撃チャンス。
しかしそれは、極振り由来の思考。トリガーを握るただの少女はもう精神が限界だった。それもそうだろう。頭のおかしい3人に包囲され、自分が攻撃を担う車両の周囲は蟲に沈み、偶にそんな狂気の海の中から綺麗なお姉さんが楽しそうに手を振ってくるのだ。
少女は頭がどうにかなりそうだった。催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてない、もっと恐ろしいものの片鱗を味わい続けていた。
「あぅあぅあ……」
地獄への道は善意で舗装されているとはよく言ったものだろう。トリガーを引く少女の周りには害意はなく、善意しか存在しないのに少女は涙目になっていた。上がり続ける少女のレベルと、反比例して減少していく正気。それでもトリガーを引く指だけは、まるで別の生き物のように動き続けていた。
結果、次々と都市区画ごと爆散して行くミスティニウム。最早かつての姿は秒毎に崩れていき、無残な塵へと変わっていく。地下であろうとその暴虐からは逃げられない、地面ごとひっくり返され衆目に晒され、次の瞬間には壊れていく。
「ミッションの達成率の、急速な上昇を確認。やれます!」
それら全てを観測する飛行船の中で、そんな歓声が上がった。何せメイン/サブ問わず、殆どのターゲットが恐ろしい勢いで埋まっていくのだ。残っているメインターゲットは『??????』……推定イベントボスの討伐のみで、サブターゲットもたったの数個。ほぼ攻略が完了したと言っても過言ではない状況だった。
そうして暴虐の限りを尽くすこと数分。ミスティニウムは王城を残し、他の全てを徹底的に破壊し尽くされ、街としての機能を陵辱され尽くした。
かつての魔城の影は見る影もなし。たった1つ取り残された王城だけが、どこか哀愁を漂わせていた。
運営(極)「これテイミングは修正案件ですね」
運営(普)「*+$☆>○☆ア゜ッ」
因みに翡翠ちゃんは最後まで堪能してデスペナになりました。
「私なら問題ないと思いました」などと供述しており……