幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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体調不良やらなんやらで2週間ぶりなのでリハビリがてら投稿

許して……


第126話 ミスティニウム解放戦⑨

『人質を解放して即この有様とは、とんだ腰抜けの集まりじゃのうプレイヤー諸君』

 

 荒地を通り越し、更地になったミスティニウム跡地。灰燼が舞う中、そんな若い男の声がフィールド全域に響いた。発信源は、考えるまでもなくあの鉄の雨を乗り切った最初で最後の建造物である城。

 

『トップがトップ……それも仕方ねェか………!!

 “極振り”は所詮、先の時代の"敗北者"じゃけェ……!!』

 

 そこから滔々と、嘲るような声音で続けられた言葉に、俺を含めた極振りが反応しないわけがない。そしてここまでフリを良くされれば、返答はただ1つ以外あり得ない。

 

「ハァ…ハァ… 敗北者……?」

「取り消せよ……!!! ハァ…今の言葉……!!!」

 

 アキさんと言葉が重なり、思わず吹き出しそうになりながらも堪える。というかアキさんが付き合ってるなら、先輩方も全員ノッてくれてるのだろうことが分かる。翡翠さんは分からないけど。

 そしてこの、こっちの遊びたい心理を読み取って、いい感じに乗せてくるこの感じ。明らかにさっきまでの運営とは違う。きっと、いつもの奴ら(極振り担当)が遂に出てきた。

 

『極一部の変態を除いて、極振りから逃げた永遠の敗北者が今の“極振り”じゃァ。どこに間違いがある……!!』

 

 確かに現状、本当に極振りと呼べる馬鹿ビルドをしているのは俺とにゃしいさんのみ。一応アキさんもスペック的には同等以上だけど、1ポイント別にステを振ってる以上純粋な極振りとは言えない……と、認識できないこともない。

 

『極振り極振りとプレイヤー共に恐れられ、曲芸紛いの茶番劇でゲームにのさばり……β版からトップに君臨するも、仲良しごっこを続けるばかりで「王」にはなれず、何も得ず……!!』

 

 なんとなく悔しい気がするけれど、そもそも王ってなんなのだろう? 新参者には分からないような特別な──あ、普通にアキさんもわかってないらしい。運営もこれ勢いで言ってるな。

 

『終いにゃあ後発のユニークに追いつかれ、プレイヤースキルだけで優位性を保っている。実に空虚じゃありゃせんか? プレイが空虚じゃありゃせんか?』

「「やめやめろ!」」

 

 アキさんに合わせ一歩前へ出つつ、飽きてきたっぽい運営に合わせて返答を返す。流れを察したらしい周りのプレイヤーの「乗るな極振り! 戻れ!!」の大合唱の中、思考を巡らせ運営の悪ふざけに全力で乗っかっていく。

 

「「極振りは俺に火力(幸運)をくれた、俺にロマンの塊くれた!」」

『ゲームバランスがなきゃ価値なし! お前ら極振り生きる価値なし!』

 

 気にしちゃいけない。今ボスの方から微かに聞こえてきた、一発芸やりまーすなんて言葉なんて俺は聞いてない。絶対運営酒盛りしてるけど、そんなことは知らないったら知らないのだ。

 だってこんなクライマックスまで来て、最後までやりきらないわけにはいかないから。殴りかかることはできない代わりに、アキさんは抜刀術の構えを、俺は朧の加速射出態勢を取った。

 

『“極振り”“極振り”敗北者! ゴミ山大将敗北者!』

「極振り……いや、どうする?」

「最強でもないですしね……なんか大って語呂悪くなりますし」

 

 そこまで準備したのはいいものの、なんかいい感じの返しが思いつかなかった。アキさんもそうだったらしく、お互いに顔を見合わせてそう言った瞬間、大勢のプレイヤーがギャグ漫画のごとく転けたイメージが脳裏に浮かんで来た。実際に感知した光景として。

 

『ククク、時間稼ぎに付き合って貰い感謝する!』

「あっ、やば」

 

 そんな微妙な雰囲気の中、口調を変えた声が不気味に笑いそう告げた。同時に警鐘を鳴らす直感に従って、溜めていた攻撃を解放する。それに遅れることコンマ数秒、再度あの飽和攻撃が城に殺到した。

 

『貴様らは散々前口上を無視してボスを倒してくれたようだが、違うだろう、本来ボスとは。見せ場だろう、戦闘直前の会話が』

 

 濛々と立ち込める煙の中から、何1つ変わらない調子の言葉が続けられる。それは間違いなく、ボスに何1つダメージが入っていないということだった。

 

『だからこそ、見せてやるさこの姿を。叩き潰すのさ、完全に!』

 

 そうして響く機械音と重低音。粉塵の中で城の影が動き出し、形を変えていく。尖塔は横へ伸長し、接続された地面から巨大な何かを引き抜いた。そしてその引き抜いた何か……腕のような影が地面に手をつき、城の直下部分を同様に引き抜いていく。

 

 そうして()()()()()()のは、頭のない巨人としか言いようのないものだった。城のある胴体、そこから接続された岩石の巨腕、城の下部に続く無駄にくびれた腰と、そこから伸びる……人として例えるなら丸太のような足。わかりやすく例えるなら、某有名カードゲームか有名RPGの漫画の鬼岩城だろうか。普段俺が爆破しているビル程の高さのそれが、戦場に出現した。

 

 そして同時に、常時使っている鑑定&看破の複合スキルに先程までと違って反応が入った。そして、その看破できたステータスを見て愕然とする。

 

「名前も、HPもMPもないとか……えぇ……」

 

 似たような声が周囲から上がる中、その体躯には不釣り合いなほど俊敏な動きで拳が天高く振り上げられる。ちょっと、それはマズイんじゃないだろうか。こいつとのサイズ比較対象は、いつぞやの人型シャークトゥルフしかいないのに。

 

「全員逃げろ!」

 

 そう言ったのは誰だったろうか。分からないけれど、その一言で地上に展開していた全員が動き出した。戦車隊や足の速いプレイヤーは直撃範囲から逃げるように後退し、それが間に合わないと見たプレイヤーは最大火力を拳に向ける。

 

『潰れるがいいさ、蟻のように! チィッ』

 

 巨大な拳が振り下ろされる直前、させぬとばかりに戦艦の砲撃が巨人を襲った。それによりぐらつく巨人の姿に、僅かながらの歓声が上がる。

 

『効かないなぁ、そんなもの』

 

 しかし爆炎の向こうに佇む巨人は、当然のように無傷。それどころか、直撃した腕は焦げてこそいるものの欠けてすらいないという有様だった。

 

『レプリカの戦艦、先に沈め!』

 

 そして当然行われる反撃。腕を切り離してのロケットパンチという、ロマンと質量の暴力が、重力に引かれつつも飛翔する。必死の抵抗として放たれる砲撃やプレイヤーの攻撃なんてどこ吹く風。全てを打ち砕いて進むその姿は、まさしく男子なら誰でも一度は夢見た必殺技。

 戦艦をブチ抜き爆散させ、その腕が帰還し、手を掲げたポーズで再接続されるまでの合理性をかなぐり捨てた流れは、完璧としか言いようがない。その無駄に洗練された無駄のない無駄な動きは、明らかにこのギミックだけは製作者の違いを感じさせた。

 

「ビュ-ティフォ-……」

「いや、それじゃ済まないでしょユキくん!」

「だってアレ! あんなのって! 超かっこいいと思うんだけど!! 私の語彙じゃ言い表せないんだけど!」

「わかる。超わかる」

 

 パタパタと全身で感情を表すセナと握手をする。小さい頃から一緒にいるだけあって、やっぱりセナはロマンがわかる。というかこの戦場にいるプレイヤーの大半が、あのロマンがわかるんじゃないだろうか。

 

「ランさんもわかりますよね、この感動!」

「当然だ。俺がヨロイを纏っている時点で愚問だろう」

「ん!!」

 

 想像通りランさんの目は輝いていたし、それ以上にれーちゃんの目もキラキラとしていた。つららさんと藜さんは頭にクエスチョンマークが浮かんでいたけど、そこは趣味の違いということだ。

 

「それはそれとして、どうすれば倒せると思う? あの戦艦の砲撃で無傷だったから、多分まともじゃないと思うんだけど」

 

 そうセナが指差す先に存在するのは、ロケットパンチ以降動きを止めたままの巨人。数えだから少しのズレはあるかもしれないけど、現時点で約25秒ほど動きを止めている。

 

「HPもMPも、どころか名前すら表示されないからギミックだとは思うけど」

「ならば攻略法は内部突入だろうな。そうと相場は決まってる」

「なら、この必殺技後の硬直時間が侵入のための時間ってことだね!」

 

『仇となったか、緊急起動が。だが問題ない、この程度』

 

 同じ思考回路を持つが故の超速理解。それは巨人の停止からきっかり30秒後、巨人が再起動したのと同じタイミングだった。必殺技後の停止時間は30秒か……割と短いなぁ。

 

「そう、なんです、かね?」

「よじ登るか入口があるかは兎も角、一番堅実な手段ではあると思うわ」

「なら決まりだね! ユキくん、情報共有お願い。それから突撃するよ!」

「了解」

 

 胸を張ってセナがそう言ったことで、微妙に懐疑的だった2人も頷いていた。それを横目で確認しつつ、知り得た情報を飛行船の方に連絡する。

 けれどそれは、少しだけ遅かったらしい。爆音とともに帰還した戦闘機隊が、急降下軌道で巨人へと迫っていく。

 

『蚊トンボども、五月蝿いんだよぉ!』

 

 アッパー軌道で振り抜かれる巨腕。直撃前に4機は辛くも回避に成功していたが、1機だけ間に合わず直撃してしまっていた。小さな爆発に「小林ィィィィ!!」という幻聴を聴きながら、セナたちに遅れないようにバイクへ騎乗する。

 

『言ってるだろう、効かないと!!』

 

 ミサイルの雨に打たれながら、巨人が再びロケットパンチを放った。その方向は戦闘機ではなく上空。何かと思い見上げれば、遥か上空で拳と馬鹿でかい砲弾が激突していた。弾の大きさから見るに列車砲、こちらの誇るほぼ最高火力すらロケットパンチは撃墜してみせた。

 しかしそれは予想できていたことであり、チャンスを呼び込むものだ。列車砲には先輩方が乗ってるから、流石に判断が早くて助かる。

 

「みんな行くよ!」

 

 ロケットパンチが帰還して、巨人が動きを止める。それに合わせて、セナの号令で俺たちは巨人に向け走り出したのだった。

 直接城に侵入出来れば楽なんだけど、多分させてくれないよなぁ……

 


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