幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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第127話 ミスティニウム解放戦⑩

 セナの号令に反応して動き出したのは、俺たちを含めて片手で数えられる程度の組数だった。というよりも、反応した全員は今回の作戦での突入組だった。

 

「ん!」

「侵入可能場所は4箇所だ! 左右脚部先端、左右の肩。胴体に直接侵入は出来ない!」

 

 僅かに遅れて戦車隊が動き出す中、れーちゃんが一瞬で暴いた情報を知らせるため珍しくランさんが大声を出した。俺も運転しながら、それを半ば司令部とかしている飛行船へメッセージとして送信。声の聞こえていないプレイヤーにも情報を拡散する。

 

「成る程、理解した。ザイード、脚を貸せ」

「御意に」

 

 そんな中、近くを走っていた筈のザイードさんとアキさんの姿が掻き消えた。僅かに捉えた黒金の陰からして、右肩部分から侵入するらしい。

 

「ではボク達は右脚にしましょう」

「誰かと被って、旨味が減るのは嫌だしね」

 

 別の場所ではカオルさんとブランさんが、召喚したと思しきペガサスっぽい何かに乗って飛んで行った。行き先は聞こえていた通り右脚部、姿が消えるようにして突入していく姿をはっきりと確認できた。

 

「はぁーーっ、ハッハッハ。私、降臨! 満を持して! 体内で爆裂の爆裂による爆裂のための爆裂を炸裂させてやりますよぉーッ!!」

「お残しはしません」

「全く、介護する俺達の身にもなれってんだ」

「槍置いて来てまで来たんだ、目一杯暴れるぞテメェら!」

『良いではないか。童はやはり元気でなくてはなぁ! ところで、そろそろ着弾だが構えないで良いのか?』

「え」

「はい」

「あたぼうよ」

「はぁッ!?」

『善哉善哉』

 

 次の瞬間、そんな騒騒しいナニカが巨人の左肩に着弾した。否、それはナニカではなく5人のプレイヤー。そう、見間違えようもなく先輩方だ。序でに着地ではなく着弾だ。恐らくデュアルさんと翡翠さんの2人で結界を貼り、自分たち自身を砲弾として来たと思われる。

 冷静に考えると何を言っているのか分からないけど、俺も何を言っているのか分からない。チートとかそんなチャチなもんじゃねぇ、もっと恐ろしい先輩方の何かを感じる。なんか鎧武者が跳ねて落下しているけど、きっと大丈夫だろうと信じたい。

 

「ということは、ウチは左脚の攻略かな?」

「そだね。態々他の人が一番槍に入った場所に入る必要もないし」

 

 全力気味に吹かしていたバイクに、平然と並走するセナがそう頷いた。まあそれは予想通りだからいいけど、今この大規模クエストの敗北条件を見た限り……それじゃあ現状、ちょっとどころじゃなくマズイ気がしてきたのだ。下手したら、クエスト失敗になりかねない。

 

「なら質問だけど。俺は勘定に入れないとして、左脚から入って中央に到達、ボス討伐までどれくらいかかるか分かる?」

「ふぇ?」

「ごめん、聞き方を変える。セナから見て、5分10分でボス戦まで終わると思う?」

「んー……多分無理かな。ユキくんがいるなら、多分それくらいまで短縮出来るけど。他のとこの人達は、正直分からないから除いて考えてるかな」

 

 ぐるりと周りを見渡し、指折り何かを数えてセナはそう言った。何を考えていたのかはわからないけど、とりあえず無理という事で結論づけて良さそうだ。

 

「大体だけど、すてら☆あーく単独だと最短で2、30分だと思う。もし他の人たちと合流できても、10分はきれないと思うな。連携出来ないし」

 

 こちらとしても同感だった。今までのボスなら兎も角、今から待ち受けるのは普段極振りを対応している連中が調整したボスなのだ。一筋縄でいくと考える方がおかしい。

 

「分かった、ありがとうセナ」

「うん。でもどうしてそんなこと?」

「多分、誰かが巨人の動きを外で止めないといけないから」

「あ、そういう?」

「そういうこと」

 

 昔から一緒に過ごしてるだけあってか、それとも長いことこのゲームをやっているからか。セナにはそれだけで、こちらの言いたかったことは通じたらしい。

 

「どういう、こと、です?」

「実質無敵の巨人だから、誰かが足止めしないと街壊されてゲームオーバーしちゃうかもってこと」

「なるほど、です」

 

 そんなセナと藜さんのやりとりを聴きながら、動きが止まったままの巨人に1つの紋章を使ってみる。これが効くなら、最悪俺とデュアルさんだけで足止めもできるはずで──

 

「よし」

 

 一瞬巨人全体が帯電したのを見て、内心でガッツポーズを決めた。とりあえずこれで、壊せないにしても最低限の時間稼ぎはできる。後は突入組がどれだけボスを早く倒せるか、その一点にかかっている。

 となると、少しでも攻撃手段は多い方がいいわけだ。そしてボスの制作者も考慮するとしたら……

 

「そういえばみんな、アイテムの所持枠って1スタックくらい空いてたりしません?」

「私は空いてるよ?」

「私も、空いて、ます」

「同じく」

「ん!」

「私も空いてるわよ?」

 

 いつもほぼ全てが爆弾で埋まってる俺と違って、普通はアイテム欄には空きがあるらしい。この場合好都合だから良かったのだけど。

 

「よかった。ならなんか嫌な予感がするから、後でこれみんなに配っておいて」

 

 そう言いながら、自分の手身持ちからセナのアイテム欄に特製の爆竹を5スタック分移動させた。どの市販品よりも威力の高い、固定ダメージ200の爆弾だ。それが計5スタック……つまりは固定9万9千ダメージ分、それだけあれば不測の事態でもなんとかなる気がする。

 

「んー……持ってて損はないし、分かった。ユキくんも足止め、お願いね!」

「当然」

 

 セナにサムズアップを返し、障壁越しに藜さんとハイタッチしながらバイクのハンドルを切った。急速にギルドの皆から離れていく中、向かう先はデュアルさんの落下地点。

 

『いやはやこれは困った。まさか立てないとは』

 

 あの高さだ、もしかしたら大ダメージでも受けているんじゃないか。そんなことを考えていたけれど、頭がアレな先輩にそんな心配は不要だったらしい。俺を待っていたのは、脚を太腿の辺りまで地面に埋め、身動きの取れなくなっていた鎧武者(デュアルさん)のすがただった。

 

「ヘイ先輩。ちょっとあのデカブツのパンチ、一緒に受け止めてみません?」

『思えば、幸運のも防御が得意であったな! よかろう!』

 

 呵呵大笑するとその姿に頭を抑えつつ、バイクから降りデュアルさんの手を取った。そしてそのまま、軽量化の紋章を10数個叩き込みながら引き揚げる。

 よく考えれば、街の外でこうも簡単に他人の手を取れるなんて感動ものな気がする。何せ、触れれば壊れてしまうから。俺が。

 

「さて、とはいえ鎧も限界です。私も久しぶりにこの姿を晒しましょう」

 

 そんな、どこかの黄金の獣殿を連想していたからだろうか。目の前で引き上げたばかりの鎧武者が消え、現れたのは長い金髪の男性。目は閉じられて細い線のようになっているが、掛けられた黒い眼鏡が特徴的だ。その長身に、黒い男の物のカソックは異様にマッチしている。

 

「少し防御力は下がりますが、まあ問題ないでしょう。機動力はないので、任せましたよ後輩」

「任されます。ところで先輩は、タンデムとサイドカーどちらがお好みで?」

「タンデムは嫌なのでサイドカー一択ですね」

 

 愛車をサイドカー付きで再出撃させた後、デュアルさんが乗ったことを確認する。多分そろそろ巨人の行動が再開する、それまでにどうにか進行方向には辿り着いていたい。

 

「振り落とされないでくださいね!」

「落ちても無傷なので平気です」

 

 そんなことを言ってる先輩を尻目に、アクセルを全開にして走り出した。普段より速度が出ないのは、間違いなくデュアルさんの重量の所為だろう。しかしそれでも、愛車はこちらの要求に応えてくれた。

 

『鬱陶しいな、未完のシステムが。忌々しい、侵入を許すとは』

 

 巨人が動き出すその前に、無事俺たちは進行方向へと先回りすることができた。そしてお互いに距離を取り、巨人を見上げながら会話する。

 

「さて、やりますよデュアルさん。準備はよろしいですか?」

「ええ、いつでも」

「では不詳ながら」

 

 一言断りを入れてから構えるのは、愛杖(銃)である新月。それも、普段は使わないクトゥルフとヌークリアの2つの専用マガジン付きだ。

 それを愛車に乗せて射角を取り、展開した魔導書で銃身を支え、更に肩を支えにして巨人の城部分を照準する。

 

『だが関係ない、そんなこと。殲滅すれば良い、帰るべき場所を!』

「ロックオンアクティブ」

 

 砲身に重なるようにして極小の《加速》の紋章を、展開時間を長く設定しつつ多重展開。対照的に、ストック側には展開枚数を超える《減退》の紋章を展開。追加で見栄えが良くなるように、射線にも5枚ほど大きさの異なる《加速》紋章を展開。

 

「スナイプ」

 

 そして息を整え、引き金を引き絞った。

 射出されるのは最早弾丸に非ず。単純計算で2の20乗倍程に加速された弾丸は、レーザービームのような光となって巨人の城部分に直撃した。そして大爆発を引き起こす。

 当然無傷だが、10発ほど打ち込んだところ気は引けたらしい。巨人のヘイトが、明らかにこちらに向いたのを感じた。

 

『煩わしいんだよ、人間風情がぁ!』

 

 言葉の最中にも狙撃を継続していたのが、余計に癪に触ったのだろう。大した脅威でもないこちらに向けて、その拳が向けられた。

 

「デュアルさん、来ます!」

「ええ、わかっていますとも」

 

 本当なら防御バフに攻撃デバフを使いたいところだけど、生憎と1発目はデュアルさんから素で受けたいと言われている。だから、万が一の競り負ける可能性も考えてバイクをアイテム欄へと返した。

 

『潰れろ、羽虫のように!』

 

 そして、流星の如く墜落してくる巌の巨拳。それに対抗するように、初めて見る薄金のフィールドがデュアルさんから展開された。その詳細を確認する前に、激音が轟き衝撃波が俺のHPを3割ほど削りながら駆け抜ける。

 

「ふむ、この程度ですか」

 

 そうして巻き上がった粉塵の中、そんな何の感動もないような呟きが耳に届いた。

 

「やはりアキにも、それどころかレンにも及びませんね」

 

 継続するロケットパンチの噴射により晴れていく砂塵。その全てが消え去った時現れたのは、片手でロケットパンチを受け止めているデュアルさんの姿だった。

 

「残念ですがその程度で、聖餐杯は壊れない」

 




ユッキーが使うと、爆破の威力を50%上昇する壊れ装備で威力が固定300に。スキルで2倍になって固定600になります。序でに副次爆破(固定50くらい)も追加で発生します。
参考 : セナのHP 約4000
※ただし基本ユキの膂力じゃ当たらない

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