幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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第128話 ミスティニウム最終戦

 巨人の外でユキとデュアルが理不尽な足止め……もとい、巨人をオモチャにして遊んでいる頃。巨人の内部でも、同じような理不尽が炸裂していた。

 

 紅の長腕が疾る。極光斬が駆け抜ける。その間にいたはずの敵たちは、攻撃を認識するより早く余波で経験値へと還元されてゆく。

 ここは巨人の右肩。極振りきっての最高火力であり今イベントでも全くの自重がないアキと、超速即死攻撃が制限されていない為キルレートが爆速で上がり続けているザイードに突入された哀れなダンジョンだった。

 

「しかし、何時ぶりだ? 俺とザイードだけで攻略するのは」

「そうですな……少なくとも、この正式サービスが始まる前が最後の記憶ですな」

「そうか、もうそれ程までに時間が経ったのか」

「ははは、まだ1年も経っておりますまい」

 

 そんな会話を交わしながらも、振るわれ続ける規格外の暴力と即死の嵐。外装と違って破壊可能であったせいで、辺り一面が吹き抜けになる勢いで敵ごと全てを破壊し、2人は歩みを進めていた。

 

「それにしても、なんだ? この敵の弱さは」

「ですな。我らの参戦は予想出来たはず。であるというのに、状態異常や環境効果への耐性1つなく、ステータスも貧弱極まる。何か裏があるのでしょうな」

 

 尚且つ、出現した瞬間蒸発していくモンスターはワンパターンだ。俗にスライムと呼ばれる不定形のモンスターと、寄せ集めのジャンクで作ったような粗末なロボット。その2種類とそのマイナーチェンジ版以外、一切のモンスターが今まで出現していない。

 決して極振りだから殲滅できるということではなく、このクエストに参加している大半のプレイヤーが殲滅できるような弱さなのだ。明らかな異常、若しくは誘いかギミックなのだろう。仮にもβ版からプレイしている2人には、その程度の予想は出来ていた。

 

「まあ、いいか。何が来ようと、真正面から当たるのみ」

「変わりませんなぁ、アキ殿は」

 

 しかし2人とも極振り、たった1つを突き詰めた存在である。故にこそやれることは変わらない。アキであれば最大火力で薙ぎ払うこと、ザイードであれば最高速度で即死を齎すこと。極振りが振るう力とは、それ以外の道を全て閉ざして掴み取ったものなのだから。

 まあどこかの爆発爆裂コンビを始めとして、大体全員何かしら別の変な手札をゲットしているのだが。

 

「む?」

「おや」

 

 そんな鋼の進撃を続ける中、2人がピタリと足を止めた。それはこれまでの道中にはなかった、2人の攻撃を受けても壊れなかった物が出現したからだった。

 最早何がそこにあったのか分からない域にまで崩壊した場所の中、無傷で回転しながら浮遊する3つの立方体。取っ手のようなものが付いた一面があるため、辛うじてそれが宝箱か何かであると類推できた。

 

「貰って行くか」

「1番乗りの特権ですからな」

 

 その宝箱に手を伸ばした瞬間、内側から光を零しながらアイテムが出現する。1つ目の宝箱からは金色の刀の鞘が。2つ目の宝箱からは上質そうな黒くて長い布が。そして3つ目は、そもそも開くことがなかった。

 

「成る程、個数制限か」

「それにどうやら、これらはイベントアイテムのようですな」

「であれば納得だ。特定個人が占有しては、進行上不具合でも生まれてしまうのだろう」

 

 そう言って手に取ったアイテムを収納し、その説明文を見たアキの表情が僅かに変わった。ザイードは仮面に包まれているから分からないが、アキと同じように動きを止める。

 

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 【黄金の鞘 : 模造】

 かつて一振りで山を斬り、空を斬り、邪神すら両断せしめたという、力の到達点たる刀の鞘の模造品。内に収められていた刃は、模造品だが本物にも劣らぬ力を誇っていた。

 ※イベント専用アイテム

 ※イベント終了後このアイテムは自動的に消滅します

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 【黒き封印布 : 模造】

 いつかの時代、触れただけで生命に終わりを齎したという、速さの到達点たる骸骨面の悪魔の腕の封印布の模造品。封じられていた腕は、死の力こそ失ったが本物にも劣らずの俊敏さを誇っていた。

 ※イベント専用アイテム

 ※イベント終了後このアイテムは自動的に消滅します

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 そう、明らかに自分たちを連想するアイテムなのだ。他のプレイヤーがいないため検証出来ないが、嫌な予感がする。何故鞘と封印布なのか、それだけで嫌な推測というのは出来てしまうものだから。

 

「急ぐぞ、脚を借りる」

「御意に。ならばこちらは力を」

 

 瞬間、黒と金の風がフロアを駆け抜けた。問答無用で触れたものは即死か崩壊する暴虐の風。他者から見ればそうとしか評価できない2人の内心は、嫌な予感とは別のことでかなりの割合が埋まっていた。

 

(山を斬ったのは俺ではなくセンタのはず……)

(無駄に「の」の多いテキストでしたなぁ……)

 

 そんな当人たちの内心を知る者は、本人たち以外にいる訳もなかった。そんな破壊の権化たちを、再生した3つの宝箱だけが見つめていた。

 

 

 突入班の人たちが巨人内部に侵入してから数分。早くもクッッソ単調な巨人の動きに飽きた俺とデュアルさんは、早速周囲も巻き込んで巨人をオモチャにして遊び始めていた。

 

 いつだったか覚えた、猫耳と尻尾を生やし語尾に強制的に「ニャ」を付けさせる紋章で巨人と声の主を煽ったり。

 いつの間にか近くにきた紋章術使い総出で、そこからさらにロケットパンチを猫の手と肉球に変えて見たり。

 乱入してきた絵師プレイヤーが、動きの止まった巨人にペイントして「痛車」ならぬ「痛巨人」に仕立て上げたり。

 語尾がわんにゃんコーンの謎生物にしてみたり。

 猫耳紋章製作者の最新作である、恋○のような強制女性ボイス変換紋章を使ってみたり。

 その他にも、強制のじゃロリ化とかマインドクラッシュ、SAN値を減少させたりと一通りは満足するくらい遊ばれていた。

 

 中では恐らくシリアスなバトルが繰り広げられているのだろうけど、外の様子は大体そんなものだった。シリアスシリアスシリアス、3回唱えてもシリアスにはならない。

 それもこれも、ロケットパンチを向こうの最大火力であるイナズマ○ックのような蹴りを、両手で受け止めたデュアルさんが悪いのだ。デュアルさんが。

 

「これなら、まだレンの蹴りの方が強いですね」

 

 とかなんとか胸まで地面に埋まりながら宣って、深く頷いていた光景が脳裏に蘇る。思えば流れが変わったのはあそこからだった……

 そんなことを考えつつ遠い目をしていた時のこと。常時展開していたステータス看破的なサムシングのスキルが反応した。

 

「あ、右肩と左肩、壊せますねこれ」

 

 唐突にそこの2箇所にだけ、何故かHPバーが出現したのだ。そのどちらも先輩方が突入した場所から続く部位。ああ、攻略したんだなぁとなんとなくの察しがついた。そして、ここまで浮かれきった戦場になってしまったのなら、何が起こるかは言うまでもあるまい。

 

「みんな、祭りの時間だ!」

「壊された船の恨み!」

「私の戦車を壊した恨み!」

「Arrrthurrrrrr!!」

 

 殺到する無数の攻撃、攻撃、攻撃。施されたデコレーションを剥がしながら、恨みのこもった一撃が急速に腕のHPを蒸発させていった。なんてことはなく、5段あるHPバーは小揺るぎもしていない。無駄に強いんですけど……

 

「「「「ぎゃぁぁぁぁッ!?」」」」

 

 そんな中、左肩から突如見覚えのあるノイズが走る灰色の球体が出現した。近くにいたプレイヤーを巻き込んで致命傷を負わせながら、その内部は瞬く間に外装を崩壊させてゆく。

 

「翡翠もはしゃいでいるようですね」

「あ、やっぱりアレそうです?」

「ええ、ギルドで使っているチャット欄に味のレビューが押し寄せてますから」

 

 頑張って1人でデュアルさんを掘り出していれば、何か文字列が高速で流れ行く画面を見せてもらえた。

 …………取り敢えず、あの巨人の内部にスライムがいることはわかった。あとそのスライムが、あげた餌によって味と食感が変わって美味しいことも。

 

「なんですこの1人食べログ」

「いつもの翡翠ですね」

「さいですか」

「あ、なんかテイミングスキル取得してテイミング始めました」

「マジですか」

「ギルドで飼うと言ってます」

「マジすか」

「テイミング成功しましたね」

「えぇ……(困惑)」

「ザイルが拡張を決めましたね」

「手が早い」

 

 そんな雑談を続けていると、突然デュアルさんが高速で文字を打ち始めた。

 

「どうかしたんです?」

「にゃしいがどさくさに紛れて爆裂場を要求してたので、私も訓練場という形で増設依頼を」

「成る程」

 

 にゃしいさんもどうやら平常運転らしい。流石趣向は僅かに違えど極振り(どうるい)の中の爆破仲間(どうるい)。同じ爆破が封じられている中なれど、テンションが爆裂して紅魔る(動詞)状況が想像に容易い。

 

「それにしても、壊れませんね。あの巨人」

「ええ、まるで防御力が私並みです。アレでは相当時間がかかるでしょうね」

 

 先程から一切変わらない猛攻が続けられているというのに、巨人の両腕のHPバーはほぼ減少すらしていない。一応1段めの1割には届きそうだけど、あくまでそれだけだ。ルールの穴はガバガバなくせに、ボスだけ無駄に強いとか訳がわからないぞ運営。

 

「ところで、まだ私は掘り出せないんですか?」

「これでも頑張ってるんです。寧ろ、岩場の自然薯みたいに埋まったそっちに文句を言いたいんですけど」

 

 半目で文句を言いながらも、障壁で簡易的なスコップにした杖で地面を掘る。まさかこの三日月を作ってくれたれーちゃんも、スコップとして使われるなんて思うまい。

 

「爆破できたら早かったんですけどね……」

「それは煙たいのでちょっと……むせます」

「炎の匂い染み付くまで爆破しますよ?」

 

 というか、こっちがここまで頑張ってるんだから、誰か1人くらい手伝ってくれても……あっ、極振りには関わりたくない。アッハイ。

 

「食う者と食われる者、そのおこぼれを狙う者」

「牙を持たぬ者は生きてゆかれぬ暴力の街

 あらゆる悪徳が武装するウドの街」

「ここは百年戦争が産み落としたゲームUPOの第7の街」

「極振りの躰に染みついた硝煙の臭いに惹かれて、

 危険な奴らが集まってくる」

「……途中からウドから第7の街に変わりましたね」

「硝煙の臭いが染み付いているのは貴方では?」

 

 そんな雑談を再開させていると、ボスの両脚にもHPバーが出現した。セナ達とカオルさん達も攻略が終わったらしい、問題なのはこっちが一切壊せそうにないことくらいか。

 

「それもそうですね」

「苦いコーヒーが飲みたいです」

 

 そうしてくっだらない会話をして、ようやくデュアルさんを引っ張り上げた時のことだった。第3の街がある方向から放たれた、ビームのような射撃が直撃したのは。

 




真面目・シリアス「じゃあの」

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