「初弾命中確認! 但し被害はなし!」
「クエスト受注出来てないですからね」
戦場となっているミスティニウムから遠く離れた第3の街ギアーズ。そこでは今の今まで静寂を保っていたギルド【モトラッド艦隊UPO支部】が動き出していた。
ここは彼らのギルド本部。その最上階にある、これまでは飾りでしかなかった艦橋だ。今そこでは、10人程度のプレイヤーがそれぞれ、忙しなくモニターや機材を操作していた。
「エンジンルーム、今ので試作エンジンはどうだ?」
『後部ギアエンジン問題なし!』
『前部リモートエンジン問題なし!』
『『ファンキーマッチ! 潤動!』』
ノリノリでエンジン担当達がビートを決め、それに合わせて船体の各部から白い煙が吹き上がる。フィーバーでパーフェクトな完成度だった。
「了解しました」
艦長としての席に存在しているのは、機械のアンモナイトのような異形のプレイヤー。実際にはそういう装備をしているだけの、ギルドマスターであるZF。隣に控え機材を操作するのは、半人半バイクの究極体となっているシド。その対面でモニターを誰よりも素早く操作するのは、半人半セグウェイのような獣輪態となっているハセ。
実はイベント以外では滅多にない、ギルドトップの揃い踏みだった。スケボーでデュエルするような奴はいない(無言の腹パン)
「というかギルマスにサブマス、これ間に合うんですか? もう最終局面っぽいですけど」
「ああ、問題ない。大きく出遅れたが、今が巻き返しの時だ」
シドがそう告げると共に、建物全体が大きく揺れた。そして、全方位のモニターが点灯し周囲の景色を写し始める。
「アンカーボルトの解除を確認!」
「いつでも発艦出来ます!」
また、同時にギアーズの街にも1つの異変が発生していた。
《ギルドが発進します。ギルドが発進します。進路上の一般車両は退避してください》
《ギルドが発進します。ギルドが発進します。進路上の一般車両は退避してください》
そんなアナウンスと共に、モトラッド艦隊のギルド本部直線上のビル群が地面に沈んで行く。
そうして作られたコースはKEEP OUTと書かれたグラフィックにより縁取りされ、終点である街壁にはビルが一棟ジャンプ台となるようにもたれかかっていた。
「では行きましょう、皆さん。我らがギルドの技術の粋、遅ればせながら見せつけに行きましょう」
ZFの宣誓に艦内が沸き立つ。そうだ、この日の為に無理を押して完成させたこの艦、誰にも見せつけることが能わず終わるなど許してなるものか。幸いにも相手は十分に強く、こちらの艦の敵足り得る。
「モトラッド艦隊UPO支部、旗艦アドラステア。出撃!」
号令の下、ギルド本部が動いた。周囲の地面が開き、格納庫たる内部構造を晒し、第3の街内部で密かに建造されていた戦艦が顔を出す。
モトラッド艦隊というのは、とあるガンダムシリーズにおいて、地球ローラー作戦というバイク艦で地球上の建造物を踏み潰し、住人を虐殺するという作戦を実行した艦隊だ。
当然、たった今タイヤを回し、動力炉を唸らせ、地の底から現れたこの艦も、戦艦をバイクにしたような異形。列車砲やレプリカ大和にも劣らぬ馬鹿騒ぎの産物だった。
このギルドがバイク生産をメインにしていた理由?
──全てこの旗艦を建造する為だ
このギルドが装備開発も行なっている理由?
──全てこの旗艦の武装を製造する為だ
バイクをプレイヤーに布教していた理由?
──それは単純にバイク好きが多いからだ
ギルドトップが遊戯王に被れている理由?
──彼らの趣味だ、いいだろう?
「速度最高速で安定、飛びます!」
そして、本物のバイク戦艦が空を飛んだ。ビル製のジャンプ台に乗り、勢いよく空へ向けて戦艦が跳ぶ。実際にはフォームチェンジして空を飛ぶ事もできるのだがそれはそれ。今はロマンに身を任せる瞬間だ。
「全砲門開け! 掃射開始!」
『掃射開始!』
元の姿に戻りゆく第3の街を背に、UPO初の移動型ギルド本部でもあるアドラステアは走る。平原にタイヤ痕を残し、崖の上に建つダンジョンを踏み均し、彼方に見える巨人に向け砲撃をしながら進軍する。
その姿はまさに……まさに、なんだ? なんなのだこれは? 列車砲や戦艦もびっくりの異形の偉業に、目撃しているプレイヤーは皆なんと表現すればいいのか言葉に詰まっていた。
「イクゾ-!」
「ダガボスノウゴキ、コレガワカラナイ」
そんな外とは裏腹に、自慢のギルドの象徴を動かせている内部は大盛り上がりだった。ダンジョンを超え、崖を飛び越え、草原に到達すればそこはもうミスティニウムの目視可能地点。Aglにして3000程に達している巨大バイク戦艦には、街と街の間などその程度の距離でしかないのだ。
「ビームシールド展開、総員何かに捕まってください」
「これより当艦は、ラムアタックを敢行する!」
本来ならそれは敵側の艦のものの筈だが、表現としては間違っていない筈だった。そして、大河を難なく水上走行で踏破した戦艦がついに中州に到達する。
逃げ遅れたプレイヤーで轢殺の轍を築きながら、目指す先は巨人ただ一点。当然低速の巨人には避けることなど出来ず、バイク戦艦のダイレクトアタックにより跳ね飛ばされた。
「艦首に被弾!」「左舷に被弾!」
「右舷に被弾!」「艦尾に被弾!」
「艦首大破!」
「潜望鏡が、壊れてしまいました……」
「第一砲塔、破損」
「第三砲塔、機能停止!」
「ええい、落ち着けお前ら! 砲塔しか報告があっていないぞ!」
途端、館内で祭りが始まった。一体いつから、このギルドのトップだけが狂っていると錯覚していた。こんなものを走らせて喜ぶ変態どもなのだ、こうなるのは必然だった。
「大和魂を見せてやる!」
調子に乗った操舵役の1人により戦艦がウィリー、吹き飛ばされた巨人を踏み潰すように前輪が振り下ろされた。そうして削られてゆく、金城鉄壁であったはずの巨人。みるみるうちに削れてゆく腕と脚は、交通事故の悲惨さをプレイヤーに訴えかけている……ような、気がしないでもなかった。
◇
それは、あまりに唐突な出来事だった。
巨大な戦艦のバイクが飛んできて、ボスである巨人を轢き、現在進行形で紅葉おろしにしようとミスティニウム跡地を元気に暴走している。何を言ってるかわからねーと思うが(略。俺を含めたプレイヤーはまさにポルナレフ状態に陥っていた。
『この、舐めるなぁ!!』
意外にも、1番早く正気に戻ったのは紅葉おろしにされつつあるボスの巨人だった。既に大幅に削れきった両手足が保たないと見るや、地面に両腕を突き刺しバイク艦ごと減速。半壊状態の足をバイク艦に絡め、地面から引っこ抜くようにバイク艦を宙へと放り投げた。
「あ、終わりましたね」
「ええ。もうちょっと遊んでいたかったのですが」
デュアルさんとその光景を見上げる中、バイク艦が変形する。船体における、タイヤとそれを支える部分が2つに割れ展開。X字を描くような形に開き、船へと変化したバイク艦は空を飛んだ。
そして、備え付けられた無数の砲塔が火を噴いた。
当然防御を突破できない梨の礫のような攻撃だが、攻撃の目的が違うのだからなんの問題もない。
『くっ、何故だ。何故動かない!』
発射されたのは白くて粘性の高いものをブチまける弾。つまりはとりもち弾、ゲーム的に言えば行動阻害デバフを発生させる弾。それ単体ではさしたる意味のない弾だけど、俺とザイルさんが探知しているあれがあるなら話は別である。
「スイカバー外装を付け足す紋章……は、間に合いそうもないですねこれ」
「残念ですね……あぁ、でも依頼しても?」
「何故です?」
「胸からローエングリンを、胸からスイカバーにしたら面白いじゃないですか。ソシャゲキャラみたいで」
「解釈違いです……作りますけど」
そんなことを話している間に、砲弾が墜落して来た。ようやく極振りが抜けての再装填が終わった、列車砲のものだ。言わずもがな威力は折り紙つき。さらに言えば射手のスキルにより防御貫通も付与された砲弾は、残り僅かとなっていた巨人の四肢のHPを吹き飛ばした。
なんか恨みのような黒いオーラに見える、エグい数の昆虫さえなければ完璧な一撃だったと思う。
四肢が『それっぽい形の建造物がついている』というレベルにまで壊され、横たわる巨人。その姿を見て、内部ダンジョンに踏み込んだみんなは大丈夫なのかと、パブリックダンジョン的サムシングとは理解しつつもはたはた疑問だった。
「さて、これでもう巨人の脅威は無くなりましたけど、デュアルさんはボスどんな奴だと思います?」
「さあ、しかしロクでもないボスであるとは思います」
「案外レイド戦並だったりするかもですね」
バイク戦艦がバイクに戻り走る姿を見つつ、そんな話をしていた時のことだった。滅多に聞かない受信音が鳴り、一通のメッセージが届いていた。差出人はセナ、そしてその内容はと言うと……
「デュアルさん、ちょっとバイクの後ろ乗ってもらっていいですか?」
「ボスのことですよね」
「そっちも似たようなのが?」
「ええ、恐らく」
即座にデュアルさんを乗せ愛車を走らせながら、送られてきたメールの内容を思い返す。
れーちゃんが看破したらしい敵ボスの名前は【Mistinium Old Geist】。HPバーが10段+折り畳まれたものが複数、そしてステータスが全てオーバー7000の化物。要するに、全てのステータスが極振り相当とのことだった。
更に城内部に取り残されずっと探索をしていたらしいアマゾンズの人達によると、攻略ギミックとして四肢のダンジョンにアイテムが配置されているらしいとのこと。時間稼ぎで全滅してしまったらしいが、本当に地味に有能な人達だった。
「じゃあ、行きますよ!」
「いつでもどうぞ」
デュアルさんが結界を展開したのを確認して、1つ思いついたことがあった。折角の車種、折角のタイミング、やるなら今しかない。
「さらばヴァルハラ 光輝に満ちた世界」
アクセル全開、ターボ点火、紋章加速。
最初から最高速を超えて愛車が唸りを上げ、気分で口ずさむ詠唱に乗せ吹き飛ぶ様に加速する。そうして、まだ辛うじて原形を保っていた、右脚のダンジョンに突入するのだった。