幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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長過ぎと苦情が入ったのでちょっと巻きますね
20人近く動かしてるといやぁ長くなる


第130話 ミスティニウム最終戦③

 時間は少し遡る。

 ユキたちに連絡が行く少し前。巨人の中心部にある居城に最速で到達したのは、意外なことに【すてら☆あーく】の面々だった。この面子には極振りも準極振りもいない為、宝箱はガンスルー。迷路のような地形も、れーちゃんのお陰で一切意味をなさない故の最速到着だった。

 

「さて、と。ダンジョンを抜けたのはいいけど……れーちゃん、どう?」

「ん」

 

 ふるふると、セナの言葉にれーちゃんは首を横に振った。それは今までダンジョン内では可能だった、地形探査がこの場では出来なくなっているということ。つまり、この居城内部全てがボス部屋判定となっていることを示していた。

 

「厄介だな……」

「そうね、でも巨大じゃない分私達には楽かしら?」

「何か、来ます!」

「ん!」

 

 ランとつららが言葉を交わす中、この中で探知の範囲が広い藜とれーちゃんの2人が同時に警告を発した。そして直後、光の爆発が壁を消し飛ばした。それに遅れるようにして、1人の異形がその姿を現した。

 それは、一言で言い表すなら緑のトカゲの人型だった。つり目型の複眼に両手にある鋭いウィング、この場で理解できたのはランだけだが、要は地上波で放送できなかったライダーだった。

 

「すてら☆あーくッ。今すぐ逃げてください! バラバラに! そして誰でもいいから、外の極振りを!」

『ひい、ふう、みい。7人か、プレイヤーは』

 

 しかしその姿は、追って放たれた黄金の爆光斬の中に掻き消えた。そして、このイベントの最終ボスであり、この空間の主であるボスが姿を現わす。

 

 そのボスはひたすらに黒かった。パッと目を引くのは、背部に浮遊する3対6翼からなる大型の翼型加速装置(ウイングスラスター)と、プレイヤーと何ら変わりないサイズの人型が纏うには大きすぎる脚部装甲だろう。その2つが、明らかにボスの印象を3回りほど大きくしていた。肩部、腰部、股間部には僅かな装甲しかないが、その代わり黒いインナーにつや消しの金属パーツによって一切の露出がない。両腕には黒と濃紺、紫の三色からなる巨大なガントレットが装着されており攻撃が通るイメージが湧きにくい。頭部は西洋の騎士甲冑の様なものから尾のようにケーブルが伸びており、スリットから覗く青褪めた色の双眸は恐ろしさを感じさせる。

 しかし何より恐ろしいのは、その両手に持つ武装だろう。右手に持つのは、黄金の光を収束したような輝きを放つ大剣型のビームソード。左腕が発生させているのは、紫の光で形成されたビームシールド。いきなりズレた世界観は兎も角、ビームソードからは触れるだけで即死する気配が漂っている。

 

 表示された名は【Mistinium Old Geist】

 HPバーは10段+折り畳まれたものが複数。

 そしてステータスは全てオーバー7000、そこからボスにも搭載されているスキルや装備の能力が乗るとは考えたくもない。

 

「ん!」

「全員散開! 勝ち目なし、撤退!」

 

 れーちゃんが解析した、ユキとは比べ物にならない精度のステータス解析。それによって出た、全振りとでも言うべき意味不明なステータス値を見た瞬間、セナ達は逃走を決定した。

 

「逃すと思うのかい、この僕が!」

 

 6方に向け即座に分散したすてら☆あーくの面々だったが、ボスの方が比べ物にならない程速かった。最初に狙われたのは、最も足が遅いれーちゃん。その体を一切の抵抗なく黄金の刃が通り抜け、HPを瞬時に0へと落とし込んだ。

 

「ん!」

 

 が、しかし、金色の硬貨が飛び散りれーちゃんのHPは最大値で復活した。ユニーク称号【大富豪】の効果だ。そしてその隙を逃さないよう、ティナの砲撃が轟き、れーちゃんの魔法が複数同時に発動する。

 

 全MPをコストに発動された音波砲撃は、微塵もボスのHPを揺らがせずに背後に続く空間を崩壊させた。発動された1つ目の魔法は、暴風にて相手を吹き飛ばすだけの魔法。2つ目の魔法の名は《消滅》。詳細は省くが、予め用意しておいた箱という固有アイテムの存在する地点に、自身を空間の繋がりを無視して飛ばす術である。

 

「ん」

 

 じゃあね、と告げてれーちゃんの姿が消滅する。風に乗って城の遥か彼方に飛んだ箱の地点に飛んだのだ。よってターゲットは変更される。次にこの場で無力なつららへ。

 

「そんなこと!」

「させるか!」

 

 が、その前に銃撃がボスに殺到する。一切HPの変動は発生しないが、分身したセナがターゲット集中スキルを使ったこともあり、そちらへタゲが移行する。

 

『鬱陶しいな、ユニーク風情が!』

 

 瞬間、今までの恨みが篭ったかのような怒りを滲ませて、刃がブレた。そして瞬く間に、5回のダメージ無効を持つ分身が消滅した。当たれば即死する火力と、避けられない速度、それを扱い切る技術力、3点揃った結果の化け物だった。

 

「チッ……俺が時間を稼ぐ。その間に逃げろ」

「ごめん!」

 

 その無残な結果を見て、セナが分身を残して逃亡する。既に藜はつららを抱えて逃亡に成功、逃げなければいけないのはこの場にいる2人だけだった。そして、逃げられるのはどちらか片方だけなのは明白であった。

 

『言っているだろう、逃がさないと!』

 

 だがしかし、そんな予想を上回るようにボスが動く。閃かせるは黄金の刃、動きを補助するは巨大な黒翼。厄介なセナ分身体を塵のように消しとばした刃が、遂にはセナ自身を捉えようとし──

 

「吼えたな、新参」

「ほほ、全てを特化するというのは、逆に凡庸と化しますぞ」

 

 黒い風に乗って現れた全く同種の黄金の刃が、真っ向からそれを弾き飛ばした。更には黒い風が吹き荒れ、ボスの黒翼に漆黒の布を巻きつけ動きを封じていた。黄金の鞘は黄金刃の中に溶けたが、明らかに黄金刃の出力を低下させる役割を果たしていた。

 

『諸悪の根源め、ここまでの到達を許すとは。忌々しい、封印も確立するとは』

「抜かせ。全振りなどという、意地も矜持もない貴様よりはまともな自覚があるぞ」

「そうですな。それはあまりに品がないというもの」

 

 極振りギルド【極天】ギルドマスター、Str極振りアキ。Agl極振りのザイードを供に推参。ヒーローは遅れてやってくる。

 

「はーハッハッハ、私も忘れてもらっては困りますよ!!」

「応よ、俺も忘れるんじゃねえぞ!」

「翡翠、あいつは食べていいやつだ」

「当然です。霊体も食べられるのは実証済みです」

「もう、胃が痛い……」

 

 さらに遅れて、【極天】の面々が続々と現れる。

 爆裂キチのInt極、にゃしい。

 今回は杖を持ったケルトなStr極、センタ。

 実は自前の脚で追いついていたもう1人のAgl極、レン。

 さっきまではスライムパーティだったMin極、翡翠。

 もう俺の胃はボロボロなDex極、ザイル。

 

 一人の敵に対し、ほぼ全員の極振りが集結する。しかも各々が、イベント専用アイテム……先程のボスの失言から、弱体アイテムとバレたアイテムを携えている。

 

「道が空いて助かりましたね」

「ええ、ほんと。直線なら加速出来ますから」

「道中も、私の結界のせいで直線でしたがな!」

「「ハッハッハ」」

 

 笑いながら、音の壁を超えたバイクがボスに直撃した。否、正確に言うのであれば直撃したのは展開されていた結界。そこから導き出される下手人とはつまり……

 

「お呼びに与り参上。それにしても、セナのタイピング早くない……?」

「いやはや、同好の士と面白い行軍が出来ました」

 

 バイクを収納しこの場に降り立ったのは2人。

 物理無敵な変態神父なVit極、デュアル

 一見貧相に見えるLuk極、ユキ

 これにて、極振りが勢揃いするという異例も異例な状況が完成する。極振りには極振り、全振りには全振りという最高にクレバーだが頭の悪い戦略だった。

 

『はは、ハハは、ハハハハハハ──!! 勢揃いか、極振りが。だが良いのかい、僕を封印して! 代償があるというのに、己が力と命という!』

「え、マジ?」

「おやおや」

 

 センタとデュアルが言葉に反応した直後、ザイードとアキのHPが0になる。全員が全員イベントフラグをかっ飛ばして進んで来ていた為、誰にも理解できていないことだ。

 だが本来明かされるはずの情報*1には、このような文字が刻まれていたのだ。

 

 ==============================

 その者、悪意の総集たる霊。極めし力の武具を身に纏い、あり得べからざる力にて、街を支配下に置く。彼の力に抗するは、同種の極めた力を持ちし者。我らが城に秘めし宝珠を用いて、封印を行わねば抗うこと能わず。彼らの宝を引き換えに、悪意の霊は力を削がれん

 ==============================

 

 要は全振りボスの弱体化は極振りにしか出来ず、極振りも専用アイテムとイベント中のステータス封印を代償にのみ、封印が可能ということだ。それがイベントアイテムの全容だった。

 

 そして、それが理解できないほど頭の回転が遅い極振りは、数人しかいない。

 

「足留めを頼むぞ、後輩」

「分かりました。ということでセナ、どうにも運営はこっち側(極振り)にボスを倒してほしくないらしいからさ。後は頼むよ」

 

 一方的にそう言って、極振りの集団が動き出す。

 格段に速度が低下しているが、極振りにとっては目にも留まらぬ速さである筈のボスが、紋章に包まれ墜落した。《停滞》と《重量化》の20枚近い重ねがけ、数秒しか保たないが確実にハメ殺す為の布石だった。

 

「久しぶりの出番がこれとは……納得がいきませんが納得しましょう。さあみなさんご一緒に、エクスプロォォォォォジョン!!」

「呪いの朱槍をご所望……だぁぁぁうっせえぞにゃしい!」

 

 叩き込まれたのは、魔法少女チックなステッキと凶々しい気配の朱槍。黄金刃の中にそれらは溶け、大剣程度の大きさがあった黄金刃を刀程度の細さにまで減少させた。

 結果にゃしいとセンタは、システムに定められた通り蒸発した。

 

「さて、この場合はなんて言おうか……私よりも速い奴は要らないんだよ……これだ!」

「頂きます」

 

 動きの止まったままのボスに、円錐状のオーラを纏った蹴りが叩き込まれた。その動きすら留められているボスの兜に空いたスリット、そこに翡翠が持つフォークが差し込まれた。

 

「レモンソーダですね。味がしっかりしててグットです」

「なんでこう、俺の時だけ締まらないんだ……」

 

 もっきゅもっきゅと、満足そうに引きずり出したボスの目玉(に相当する部分)を食べる翡翠の隣。反対側の兜の隙間から、ザイルが頭部内に銃弾を撃ち込む。

 

「ご馳走様でした」

「はぁ……俺も、後で街を本能寺しようかなぁ」

 

 そして2人も消え去る。異例の極振り集合からまだ1分強。それだけの時間で、7/9が消滅するという異例の戦果を挙げていた。

 

「来て早々ですが退場しますか」

「トンボ帰りしましょう」

 

 そんな会話を交わしながら、ユキは爆弾を、デュアルは胸からニョキッと生えて来た槍……にユキがスイカバー外装追加紋章を向けた結果、ニョキッと生えているスイカバーをボスに向ける。

 

「親愛なるスイカバーよ」

「あ、これあずきバーにも対応させられますね」

 

 そして馬鹿会話をしながら消滅した。

 極振りアッセンブル、集結までが30秒弱。

 極振りボスのデバフ成功、全滅までが30秒弱。

 

 どうしようもない予測不能のツイスターの様に、たった1分で雰囲気を「ふ」の字以外蹂躙し尽くして極振りは去って行ってしまった。同時に紋章の能力が解除された結果、ボスもいつの間にかどこかへ逃亡してしまっていた。

 

「……なに、今の?」

「戦場の、妖精、です……かね?」

 

 嵐の中心にはいたものの、何もわからず仕舞いでセナ達は呆然とするのだった。いつの間にか戻って来ていた、藜を気にするそぶりすらなく。

 

*1
街のギミックだったので空爆と絨毯爆撃で灰燼に帰した




最後の方ショートカットしました

本当は
極振りを介護しながらボス部屋へ→弱体化→バトルだ!となる予定だったらしいです

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