幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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第132話 ミスティニウム最終戦⑤

「それで、結局どうするんですあのボス」

 

 爆破による稼ぎに稼いだヘイトを下げるため、一旦全員で退避した小部屋。ようやく落ち着けるようになったそこで、カオルが口を開いた。

 

「当たってみた感じ、かなり物理も魔法面も硬かったですけど」

「一応アレでも、かなり弱体化された後だから……」

「元はあのボス、ステータスが全部極振りだったのよ」

「ん」

「うへぇ……」

 

 露骨に嫌そうにカオルが顔を歪める。何せ弱体化されていて尚あの面倒さだったのだ。そんな相手とこれから戦おうと言うのだから、そう言う顔になるのも仕方がなかった。

 

「というか、セナさん藜さんれーちゃんは兎も角、そこのお2人と話すのは何気に初めてですね」

「む、そうか? いやそうか、あの時はユキにほぼ任せていたからな」

「そういえばそうね。その、私は正直避けてたし」

「すてら☆あーくに行く時は、大抵カオルのテンションはおかしいからなぁ。というか、俺に至っては藜さん以外初対面では?」

「そうですねぇ。では、軽く自己紹介と行きましょう!」

 

 座っていたカオルが立ち上がり、ドンと胸を叩いて言った。当然防具と手甲がぶつかり合うだけだが、それでもドンと良い音が鳴った。

 

「ではまずボクから。ボクの名前はカオル、《ナイトシーカー》のユニーク称号を持っています。スタイルは攻撃偏重、近接物理偏重の魔法剣士ですね。抜刀術スタイルなので、一応タンクも出来ないこともないです」

「なら次は俺か。俺はブラン、そこのカオルも所属してるギルドのマスターをさせられている。スタイルは攻撃偏重、遠距離固定値特化の召喚術師にあたる。バフも……出来ない、ことはない」

 

 堂々としたカオルに対し、どこか気まずそうにブランが言う。大半の極振りや特化型に言えることだが、自己完結してしまっている以上方向性によってはパーティ戦に恐ろしく向いてないこともあるのだ。

 

「あ、じゃあ次は私。《舞姫》のセナです。スタイルは回避特化の万能型、かな? 基本的には回避盾やってます」

「藜、です。《オーバーロード》で、近接の、攻撃特化、です」

「んー……、ん!」

「あ、れーちゃんは大丈夫ですよ。探索と製作メインで、戦闘はそこまで得意じゃないってボクに話してくれたじゃないですか」

「ん!」

 

 ニコニコしたれーちゃんを見れば、カオルに意味が完璧に伝わっていることは明白だった。そのことに僅かにショックを受けているセナを尻目に、軽い自己紹介は続いて行く。

 

「なら私ね。つららよ、特に称号はないわ。スタイルは水と氷属性特化の魔法使い、後衛兼回復役ね」

「ランだ。特に称号はない。基本的に中距離から遠距離、遊撃などをやっている」

「遠目だが見たことがある。いいヨロイに乗っている……」

「こちらも召喚を見させてもらった。そちらこそ、いい風が吹いているな」

「「フッ」」

 

 何かシンパシーを感じたのか、固く握手を交わすランとブラン。ユキもいれば確実に参加していたその輪を見ながら、困惑した顔でカオルが呟いた。

 

「つまり、この場に居る7人中5人がアタッカー……? 脳筋……圧倒的脳筋編成ッッ!!」

「いいやその話、待ったをかけさせてもらおう」

 

 そう告げて、特徴的なエンジン音を響かせ部屋に飛び込んでくる巨大な影が3つ。

 バイクと合体した変態──もとい《傀儡師》のシド

 セグウェイっぽい物と合体した変態──もといハセ

 何処から見てもオウムガイ──もとい《提督》のZF

 ギルド【モトラッド艦隊UPO支部】のリーダー格が揃い踏みだった。

 

「そこに私達が入れば、少しはマシになるのではないでしょうか?」

「何せこれでも、儂は遠距離型であるからな」

 

 確かに、と場の全員が手に持った武器を下ろし頭を回し始める。

 【提督】ZFは、味方になってくれるだけでステータスにバフがかかり、彼自身もサポートもこなせる魔法アタッカー。シドは高機動近距離アタッカー兼タンク、ハセも高機動中遠距離アタッカー兼サポーター。丁度パーティを5:5で分けられることもあり、布陣としては完璧だった。

 

「いや、結局脳筋パーティじゃないですか!」

 

 ツッコミを入れるようにカオルが叫んだ。

 

 回避盾兼アタッカーが1人に、タンクも出来なくはない前衛アタッカーが2人、攻撃特化の前衛が1人。

 攻撃偏重の中〜遠距離アタッカーが2人

 固定値攻撃特化の後衛が一人、サポートもできる後衛アタッカーが2人、サポート寄りだけど攻撃もできる後衛が1人。

 

 現在の面子を纏めるとこうなり、文字に起こすと理解できる清々しいまでのフルアタッカー脳筋編成であった。そもそもプレイヤー上位陣に、補助や防御型がいるのか疑いたくなるような占有率である。

 

「でも、多分この編成が現状最強編成だと思うよ?」

「だな。外は雑魚mobが大量湧きしている以上、《牧場主》と《ラッキー7》、《大天使》は街から動かせん」

「《マナマスター》や《初死貫徹》は戦車や戦闘機に乗るスタイルからして室内戦には不向きでしょうし、《大工場》と《農民》はそもそも戦闘型ではありませんし」

「あ、外そんな状況になってるんですね」

 

 シドとZFが言った外の状況にセナが反応した。殆ど外の状況を知ることが出来ない以上、今の会話は割と貴重な情報なのだ。である為にイベント後、外を走り回るアドラステアを見て驚く羽目になるのだがそれはまた別の話。

 

「と、一先ず自己紹介も終わったので作戦会議にでも移りますか?」

「でもボク達ほぼほぼ初対面ですし、連携なんて出来たもんじゃないと思います。全員、戦闘スタイルも尖りに尖ってますし」

「前衛は簡単だろう。この中でスタイルを熟知していないのは俺だけ。つまり俺がタンクに徹すれば良い」

「あ、じゃあ私も回避盾やります。藜ちゃんとカオルさんは共闘経験あった筈だし」

「なら、コンビ、です、ね?」

「ボク、基本的に鈍足型なんですけど……まあ対応してみせますとも!」

 

 それだけの会話で、前衛組はもう話が纏まったようだった。

 

「ハセと言ったか。得物はなんだ」

「大口径主砲と盾を。そちらは」

「基本はガトリングライフルと、高エネルギーの銃だ。切札もあるが、今回は不要だろうな」

「成る程。足止めは任せましょう」

「そうか。機を見て撃て」

 

 銃使いの中衛も、口数少ないそんな会話だけで纏まったらしい。その他にも一応、後衛を守るという役割があるのだがそれについては話すまでもなかったらしい。

 

「あっちは良いわよね……簡単に話が纏まって」

「前で戦う方々は、後衛の苦労は一切知りませんからね」

「ん!」

「れーちゃんは、味方の支援と回復、相手の弱体が楽かしら?」

「んー……ん!」

 

 元気に手を挙げてれーちゃんが返事をする。問題ないということらしい。そんな、慣れてない人からすれば異常な光景のまま話は続く。

 

「では私も、攻撃もしつつ基本的にバフとデバフを担当しましょうか。幸い、《提督》の称号はその方面への適性が高いですから」

「でしたら私も、同じようなスタイルで。正直、今動ける称号持ちが全員揃ってる以上、下手に私が攻撃する必要はなさそうですしね」

 

 つららがそう言う通り、現状この場にいるのはほぼユニーク称号持ちなのだ。その火力は、単体に向けるには過剰であると十分言える範囲にあった。

 ボスはまだ知らない。オーバーダメージ耐性がなければ即死することを。

 ボスはまだ知らない。耐性があってもあまり意味がないことを。

 ボスはまだ知らない。人型にまでサイズを落としたことで、従来のボスより若干下がった耐性が致命的な欠陥になっていることを。

 

 

 一方その頃、第6の街でリスポンした極振りたちも似たような会議を行っていた。

 

「それでは第1回、緊急極振り会議を開始する! 議題はどうやったら最終決戦に介入出来るか!」

「近づいて切る。それで事足りるだろう」

「ステータス封印されてなきゃな! 却下、次!」

 

 先程までのストレスを発散するべく、テンションを上げに上げたザイルがアキの案を却下した。ゲームというシステムに縛られている以上、気合いと根性だけではどうにもならないのだ。結果、やる気のなくなったアキはどこからか取り出した炬燵に潜り込んでしまった。

 

「爆裂を打ち込みましょう! なに、ストックはあります!」

「皆殺しにする気か! 却下!」

 

 ウッキウキで挙手して発言したにゃしいも、攻撃範囲が広すぎる理由で却下された。そもそも今の極振りでは、街から出られないので不可能であるのは誰も指摘することはなかった。

 

「お腹が空きました……」

「翡翠はウリ坊でも食べていてくれ」

「ウリ坊──ッ!」

 

 センタのペットであるウリ坊に翡翠が思いっきり齧り付き、勝手に己のペットを食料にされたセンタの悲鳴が鳴り響く。ここは列車砲内部、狂気の連中から解放されたと思った途端フルメンバーで大元が帰ってきてしまった地獄であった。

 

「ふへ、ふへへ……」

 

 列車砲内部、砲撃を司るここにいる極振り以外のプレイヤーは1人。燃え尽きて眠っていたせいで、逃げ遅れてしまった射手子だけだった。彼女の目と笑いは虚ろであった。

 

「つーかよォ、そういうザイルは何か良い案あるのかよ?」

「よく聞いてくれたセンタ! ユキ、ザイード、例の物を!」

「「ここに」」

 

 いつからスタンバイしていたのか、ザイルが手を叩くと同時に2人が巨大な弾を取り出した。その赤く紅い弾は、明らかに異質な雰囲気を放っている。

 

「この弾の名前は『滅殺焼却激痛弾』」

「滅殺焼却激痛弾」

 

 場に満ちる雰囲気と名前に男子の心を持つ者は誰しも息を飲む。

 

「別名は極振り弾だ」

「極振り弾」

「因みに殺傷力極振りだ」

「殺傷力極振り」

 

 爛々と目を輝かせ、両の腕を広げて力説するザイルの演説は続く。

 

「アキの特化紋章術による耐性貫通能力、センタと槍の技術の結晶であるクラスター爆弾式の増殖展開、本体耐久度はデュアルの硬さ、レンとザイードの速度、にゃしいの爆裂を納めた使い切り魔法アイテムによる火力、それらを一点に止める翡翠のフィールド形成能力、それら全てを1段階引き上げるユキの紋章強化、そして俺の器用さによる全ての能力の統合。

 それによって生まれた化け物弾丸だ。ただし口径的に列車砲でしか放てず、撃った瞬間砲身内部で自爆する」

 

 4人の外国人の画像の如く、一気に場の興奮が冷める。どれだけ凄いものでも、使えなければ意味はないのだ……

 

「だが、この弾を十全に使える方法はあり、それを使える人材がここには居る」

「ですが我らはステータスを剥奪されている身。そのような人材は何処に?」

「そこに、射手子という希望が存在する!!」

「ピッ!?」

 

 突然名前を呼ばれた射手子が、半ば悲鳴じみた声をあげた。そして錆び付いたネジのような速度で振り向けば突き刺さる、明らかにキマッてる極振り(へんたい)たちの目線。

 

「ここにある最上位のスキル獲得チケットで獲得できるスキルに、【魔弾の射手】という物がある。スキル発動後から5発分の弾丸は、障害物など全てを無視して敵に命中、クリティカルヒットする。これを使えば、この極振り弾は確実に命中する」

 

 6発目を撃った瞬間即死するのだが、今回それは関係ない。

 光り輝くチケットを持ったザイルが、一歩、また一歩とトリガーの前に座る射手子に迫る。止める者は、悲しいかな誰もいない。助けてくれる人もいない。

 

「私たちは面白いものが見れる、射手子は強スキルが無償でゲットでき、このイベントのラストアタックボーナスが取れる。悪い取引ではないだろう?」

「あ、あぁ……」

 

 極振りにロックオンされた時点で、哀れ射手子の命運は決まってしまっていた。

 




戦闘が得意じゃない(れーちゃん)
・大規模範囲魔法
・(一般目線で)高火力攻撃
・バフデバフ・回復完備
・確定スタン持ち
・7回蘇生
・ペット砲(超火力)
れーちゃんは戦闘は得意ではありません(繰り返し)


因みに過剰火力なので、ボス戦はあっさり予定だったりします

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