幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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第133話 ミスティニウム最終戦⑥

 ボスは苛立つ心を抑えながらダンジョンの内部を進んでいた。

 何せつい先ほど、追っていたプレイヤーを逃したばかりか、攻撃を全てジャスト回避するという全力の煽りを食らった挙句、煽ってきたプレイヤーを倒したとおもった瞬間フロアごと爆破させられたのだ。しかも倒したと思っていたのは分身……これに心乱さずにいられようか。

 

『いいや、落ち着け僕。優っている筈なんだ、単純性能は。勝てる性能なんだ、冷静ならば』

 

 だが、それではいけない。向こうのペースに飲まれた時点で、幾ら性能が優っていようが勝ち目は無くなってしまう。それを理解しているから、ここまで最低限の錯乱で終わっているのだ。錯乱してる時点でペースは崩されているのだが。

 

『むっ』

「あっ、ごめんなさ──あっ」

 

 そんな考えを振り払うようにしながら、まだこのダンジョン内にいるはずのプレイヤーたちを捜索している時だった。

 入り組んだ道の角。そこでさながら少女漫画の冒頭のように、ばったりボスとセナが遭遇した。尤も、どちらもパンを咥えてるなんてことはなく、両手に武器を持っているのだが。

 

『……』

「……撤退!」

 

 硬直すること数秒、先に正気を取り戻したのはセナだった。速度特化型と閉所という最高の相性を生かし、分身をデコイとして残しながら超高速かつ不規則な機動で通路の先へと逃亡する。

 

『逃すものか、今度こそ!』

 

 それを完全に見送ってから、漸く再起動したボスが声を上げた。そして背部のスラスターを点火し、加速しようとした一歩目を分身の斬撃と射撃が妨害する。

 当然火力が足りない為、本格的な足止めにはならない。しかしそれでも、相手の攻撃を全てジャスト回避しながら、くすくすと笑いつつ反撃していれば効果は覿面としか言いようがない。

 

『巫山戯るなぁぁぁッ!』

 

 そうして結局ペースを崩されたボスが、分身を引き連れながら進む中。先行しているセナは、耳につけた連絡用イヤホンで探索に散っていたメンバーへ通信を飛ばしていた。

 

「こちらセナ。ボスを発見、大部屋に誘導中!」

 

 通信の向こうから了解の意が次々と伝わってくる中、セナの後方で大きな爆発音が轟いた。分身に持たせていた、ユキの爆弾が爆発した音だ。それも1人ではなく全員分。

 

「チッ」

「こちらZF。そちらのれーちゃんの尽力で、全員布陣に着きました。もう時間稼ぎは必要ありません」

「了解!」

 

 時間稼ぎがこれ以上は不可能なことに舌打ちした直後、そうZFからの通信が入った。これでもう加減する必要はないと、今まで必要最低限に抑えていたスピードを完全解放する。迫る気配を急速に引き離しながら、10秒もせずにセナは大部屋に辿り着く。

 空中で回転し着地したそこは、正しく決戦場だった。フィールドにはZFの己の移動を封じることで発動する、2種の大支援魔法とユニーク称号及び装備のバフが。臨戦態勢の前・中衛はいつでも攻撃を開始できるよう入り口に向き、後衛はボスが入ってきた瞬間牽制とデバフを使う態勢に整っている。

 

 そして、待っていても精々爆弾程度だろうと思考を停止させていたボスが、固定ダメージならと防御姿勢すら取らずに部屋に侵入した。

 

「全魔解放、一斉射!」

「凍てつきなさい《エターナルコフィン》!」

「ん!」

「輝け、召喚獣《カーバンクル》!」

 

 結果、全ての魔法を素の耐性のみで受け止めることになり、当然9割方抵抗に失敗した。そうして食らった状態異常の数は無数。

 物理魔法共に魔法で下げられる下限にまでデバフをくらい、氷による致命的な移動制限、れーちゃんのクトゥルフ系魔法による左腕の萎縮と一時的発狂、最大HP・MPも減少させられ、半分はあったはずの7段目のHPバーが消し飛んだ。挙句、プレイヤー全員にダメージ反射とリジェネを付与させてしまう始末。

 

「Delete!」

「吹き飛ばせ、機皇帝!」

 

 直後ボスを襲ったのは、ランとハセの一斉射撃。極太の赤い閃光がHPを1割ほど吹き飛ばしつつ、敵の力を吸収しつつ放たれた実体弾が追加で1割を吹き飛ばす。その間にも後方から、必中の赤黒い針や絶対零度の氷などのデバフや高火力魔法が乱発される。

 

「藜ちゃん、合わせて!」

「合点、です!」

 

 そんな魔法の集中砲火を食らうボスに向けて、セナが7人に分身しながら駆け、藜が翼を羽撃かせながら接近する。既に2人ともペットとの合体状態であり、最大火力を発揮できる状態にあった。

 

「乱舞姫!」

 

 先に動いたのはセナ。途切れた魔法の嵐の中に、炎を纏い7人全員で突撃した。そして、銃撃斬撃炎撃の華が百花繚乱と咲き誇った。

 双剣系スキル由来の十重二十重の多重斬撃が3人分、上昇したステータス由来の超高クリティカル率+威力で繰り出され刻まれる。銃由来の射程を代償に威力をあげる砲撃が3人分、ステータスによる補正を受けて防御を抜き爆発を起こす弾で放たれ抉られる。空中に足場を作れるユキがいない為数段型落ちの連撃だが、それでも最後の1人がサポートに回ることで致命の威力を誇っていた。ボスのHPバー6段目を削り切るくらいには。

 そして最後に、セナ本人だけがその殺戮の輪舞曲から抜け出し、最大級の炎撃を放つ。それによって、分身が抱えていた無数の爆弾に着火。大爆発を引き起こした。

 

「貫き、ます! 銃剣、展開」

 

 その中でも消えないボスのシルエットに向け、藜が突撃した。

 事前に発動していた槍由来の、HPを犠牲に攻撃を上げるスキル、HPを犠牲に遅れて攻撃が発生するスキル、そしてユニーク称号と装備により、ビットを含めた姿が陽炎のように揺らめいていた。

 

「《レイ・スタブ》螺旋!」

 

 そして響く、異様な音。千の揚げ物が一斉に天麩羅にされるような、万の工作機械が同時に作動したような激音。揺らめく銃剣ビットが螺旋を描いて槍をさらに武装し、ボスの鳩尾に激突する。数秒の拮抗もなくそこに大穴をぶち上げて、無数の舞い散る羽根を残しながら藜は通り過ぎた。時には、撃槍が4段目を残り1割まで綺麗に消し飛ばしていた。

 

「クリーンヒット、です」

 

 直後、2度目の激音が響いた。舞い散った羽根による自動斬撃と、遅れて発生した槍撃だ。その威力は本命の一撃とは比べ物にならない程低く1割も削れないが、その役割はあくまで足留め。

 

「2撃、目!」

『させるか、そんなことぉ!』

 

 ビットを穂先から外し、自分も身を回しビットに着地したところでビットが杭打ち(パイルバンク)。反動も込め水泳のクイックターンの様に再加速した藜に、激昂したボスの斬撃が振り下ろされていた。

 幾らバフとデバフが重なっているとはいえ、防御力を犠牲に速さと火力を得ている藜には一撃で全損級の火力。避けられない軌道で振り下ろされたそれは──

 

「俺の存在を、忘れないで貰おうか」

 

 差し込まれた白い機械の腕が、半壊しながらも受け止めていた。シドの操る機皇帝の盾を持った腕部分だ。本来なら最も防御力の高い腕を一撃で半壊させたことに驚くべきなのだが、今はそれにあまり意味はない。

 

「《トリアイナ》!」

 

 直撃した2撃目。スキルが切れて威力が激減したそれはボスのHPを3%ほど削り、本命の移動停止デバフを掛けることに成功した。

 

『くぅっ。おのれ!』

「カオル、さん!」

「感謝します!」

 

 そこに、既に全身の装備から蒸気を溢れさせるカオルが飛び込んだ。狙いは当然首。そしてSTR値が500を超えている今、解放された単純威力最強の抜刀術スキルが炸裂する。

 

「《奥義抜刀・王道楽土》!」

 

 一閃。振り抜かれた刃が、ボスの首を切り裂き、HPバーを一段まるっと斬滅した。遅れて発生した追撃ダメージによって、2段目も2割ほど削り切り──使っていたスキル《殉教(まるちり)》の代償として、カオルのHPが全損した。

 

「死なせません」

 

 間髪入れず放たれたZFの蘇生魔法により復活する。古式ゆかしき侍運用に、絶句したボスの四肢に触手と氷の枷が巻きついた。分身したセナの装備と後方支援のつららによる妨害であり、トドメを刺す為のはめ殺しの陣。

 

『お──ッ!?』

「喋らせはしない。スキルを使われたら面倒だからな」

 

 何かを喋ろうとしたボスの顔面に、シドの操る機皇帝の巨大な剣が突き刺さる。ダメージは軽微だが、喋らせないにはこれで十分だった。

 そんな全てを封じられたボスを、遠距離攻撃の嵐が飲み込んだ。セナの銃撃と炎、藜のペットが使う風系の魔法、カオルも威力は低めだが魔法を、ランとハセは銃撃を放ち、後方からは無数の魔法。

 

「ッ、みんな一旦下がって!」

「なにか、おかしい、です!」

「HPの減少が止まりました!」

 

 そうしてHPバーも残すところ1段となり、このまま削り切れるかと思った時のことだった。最も近距離にいたセナ・藜・カオルの3人がそう叫んだ。

 そう言われて飛び退けば、固定値減少のはずの魔法ですら1段目のHPバーを削れていない。そんな事実が判明した直後、くつくつと笑うボスの声が響いた。

 

『やってくれたね、好き放題。だがボスにはあるだろう、最終形態が。故に見せよう、この姿を!』

 

 瞬間、ボスの身体が光り輝いた。そして毎秒毎にどんどんその姿を巨大化させて行く。

 

『乗っ取ってやるさ、この城を。無敵だからね、僕の城は! 蹂躙してやるさ、違えた予想ごと!』

 

 恨みのこもった叫びをあげながら巨大化して行くボスは、遂には天井すら突き破り巨大化して行く。試しに攻撃してみてもダメージがない辺り、変身中は無敵ということなのだろう。

 そんなことを突入組が考えている中、逆に外は大騒ぎになっていた。このあと素材をどうするか、復興をどうするか打ち合わせていた中、突然倒れた巨人の中から巨人が現れたのだ。ウルトラマン式成長で。辛うじて見えるHPバーからボスと気づけたのは一体何人いただろうか。

 

『踏み潰してやろう、蟻のように。今度こそォ!』

「撃て、射手子」

 

 まあ気づけなくても問題はない。ボスの顔に紅い弾が直撃した時点で、プレイヤー側の勝利は確定したのだから。

 




セナはユキとなら少女漫画的衝突をしてたり(両者合意の上)(ジャムでワイシャツが1着お亡くなり)


ボスのHP減少内訳
10段目(半分くらいまで色々なことで減少後、フロア爆破で消滅)
9段目(フロア爆破で全消滅)
8段目(フロア爆破で全消滅)
7段目(デバフの後、HPを半分にする魔法&相手とのHPの差分威力が上がる魔法により消滅)
6段目(魔法集中砲火+セナのガチアタックで消滅)
5段目(爆弾で3割減、藜により消滅)
4段目(藜により蒸発)
3段目(一閃)
2段目(追撃で減少、集中砲火で消滅)
1段目

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