幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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ポケモンカードにはまって投稿が遅れたので初投稿です
リアルはもう少し続きます


第136話 学園祭(前夜)

 UPOではメンテが開け、第七の街ミスティニウムの復興イベントが開始された以外の変化はなく、日時は流れて学園祭前夜祭当日。外部の人間を招いて大々的にやる明日とは違い、学生と教員だけで騒ぐ前夜祭。

 

「とーくん、一緒に回ろ!」

「りょーかい」

 

 軽いホームルームが終わった直後、予定通り俺は沙織と一緒に出店してるお店を時間まで見て回ることになった。いつものように手を繋いでいるせいで、いつも通り凄まじく注目を集めて。序でに俺の方にだけ、男子連中から足や手や肩も出されてる。

 

「んー、やっぱり大体のお店やってないね」

「そりゃあ明日がメインだろうしね」

 

 ついさっきまで尻尾が千切れそうな程動いてそうだった沙織のテンションが、目に見えて下がっていた。耳も尻尾も力無く下がっている強めの幻覚が見えるくらいには。

 ステージ発表がある為体育館に強制招集されるという時間制限がある中で、楽しめる物が少ないのは確かに悲しい。食べ物関連の扱いは難しいから仕方がないといえば仕方ないことだけど……

 

「でも、お化け屋敷とかはリハーサルしてるらしいよ?」

「そうなの? じゃあ行こ!」

 

 一気にテンションが上がった沙織を引き留める為に、少し強めに手を握って引いた。夏祭りの時もそうだったけど、俺に人混みを突き抜けて走り回る程の元気はないのだ。

 

「いつも言ってるけど、そんな勢いで走ったらぶつかるから」

「そうだけど、楽しみなんだもん」

 

 むっと頬を膨らまして沙織が抗議してきて、周りの男子連中から一斉に舌打ちが聞こえた。やっぱりこう、実害はないとはいえずっとこの調子だと少しイライラする。そこら辺のモップでど突けないかなぁ……いや、沙織と一緒にいる以上やらないけど。

 

「それで、何年生の所に行く? 1年から3年まで1つずつあるっぽいけど」

 

 あからさまに転ばせようと出された足を踏み付けながら、特に何事もなかったように沙織に聞いた。

 

「んー、それなら3年生のとこ行ってみたいかも。正直1年生のは中身知ってるし」

「おっけー。確か3階だっけ?」

 

 学園祭のお化け屋敷といえば、低コストで人気と人入りの見込める人気出店らしく、話を聞くに毎年どの学年にも出来るんだとか。それで1回全てがお化け屋敷になって、学年ごと1つになったらしい。故にどの学年のも、勝ち残るだけの何かがあるとかないとか。

 

 なんて会話をしながら階段を登って、2年/3年生のスペースである校舎の3階が近づいて来た頃。見えた光景に、明らかな異常が()()()

 

 空中を泳ぐ魚の群れ。廊下自体は水が張られたように光が揺らめき、床は砂地のようになり海藻が揺れている。鼻を利かせれば、学校や隣の沙織の匂いに混じって、磯っぽい海の香りまでしている。辺り夏にUPO内で飛び込んだ湖の中を思い起こす、異世界がそこには広がっていた。

 

「ぶい……あーる、じゃないよね」

「多分AR……?」

 

 その光景に見とれて、それなりの人数が動いてる最中だというのに、2人揃って動きを止めてしまった。ちょっとどころじゃなく、技術レベルが違いすぎる。俺たち1年はダンボールとかを切り貼りしていたのに、たった1年差なのにこれ程までに違うのか。

 

「ARって確か、拡張現実ってやつだよねとーくん」

「そうそれ。でも今がVR全盛ってことを考えても、学生でどうこうできる様な機材でも資金でもないはず……」

 

 少し前マイファザーが深夜に家に帰ってきて、哺乳瓶で酒を摂取しながらそんなことを愚痴ってたはず。アヒージョ作らされたから覚えてる。

 それ以前に、そもそも俺たち受け取り手がなんの器具もつけてないのに、ARを見ることが出来ているとはどういうことなのだろうか。デタラメすぎて正直寒気がするのだが。

 

「後輩……?」

 

 そうして2人で呆けていた10秒ちょっとの間に、幽鬼のような足取りで歩いていた先輩と思しき男子がボソリとそう呟いた。その乾きぎょろついた目は、いつも両親がしている物と全く同一の気配を感じた。

 

「後輩だ……」

「後輩?」

「本当に後輩だ……」

「マジで来てるの?」

「後輩じゃん……」

 

 そして、その男子の呟きにつられるようにして、ボソボソとと言葉を呟きながら無数の人影が集まってくる。お化け屋敷に行く予定だったけど、既に状況がホラーの様相を呈してきている件について。

 

「ひっ」

「大丈夫。最悪、いつも通りなんとかするから」

「……うん」

 

 ゾンビのように集まる先輩方から隠れるように、沙織が手を握ったまま俺の後ろ側に回った。UPOじゃもっとヤバいのと渡り合ってるのにリアルではダメらしい。まあ、最悪抱えて……お姫様抱っこで逃げればなんとかなるだろう。

 

「カップルだ……」

「カップルだ……」

「新鮮なカップルだ……」

「しかもこの信頼感、長い付き合いだ……」

「それでいて甘酸っぱい気配を感じる……」

「ペロッ、これは幼馴染カリ」

「ご馳走じゃないか、たまげたなぁ……」

 

 集まった集団から発せられる“圧”としか言いようのない異様な雰囲気に、ますます沙織が小さくなり隠れてしまった。しかしそれすらも先輩方にとってはいい餌だったらしく──

 

「幼馴染はいいぞ……」

「怯える女の子……庇う男の子……閃いた」

「書いた」

「描いた」

「製本した」

「1部300円で」

「通報した」

「テンプレはいいぞ……」

「これは†ナイト†」

「流石ナイトは俺らとは格が違う」

「このイチャイチャには俺の怒りが有頂天」

「お前ら馬鹿にするなよ……」

 

 妙な興奮に包まれた先輩方に、そう簡単に逃げられないように俺たちは取り囲まれてしまった。お陰で折角のARがブレブレになっている。ARの映像自体には、ちゃんと実体はないらしい。

 

「よーしお前ら! ご案内して差し上げろ!」

「「「Sir,yes,sir!」」」

 

 しかしそんな状態は、廊下の奥の奥の方から響いたその一喝によって撃ち払われた。そしてまるで、神話のモーセが海を割ったように人の波が真っ二つに割れた。その奥に現れたのは、不気味な極彩色に輝く廊下と、2つの入り口に続く人の道だった。嘘、うちの高校……ヤバすぎ……?

 

「我らが2年のお化け屋敷は深海の恐怖を呼び起こす……ええ、生徒どころか先生まで失禁しましたよ。ふひひ。心臓に弱い方は注意でござる……いあいあ」

「我ら3年生のお化け屋敷は宇宙の恐怖を呼び起こす……作った手前、我らも耐えられない出来に仕上がりました。ああ、薔薇の海が見える……いあいあ」

 

 それはもうお化け屋敷じゃない気がするのは気のせいだろうか。しかもARに紛れて、どこからこの解説する2人が喋っているのかも分からない。それにそんなことを言われたからだろうか? 騒めきがこう、ヤバめの神様を讃える呪文にすら聞こえてくる。

 

「ふんぐるいふんぐるい?」

「ふたぐんふたぐん」

「うがなぐるうがなぐる」

「「あぁッ!?」」

 

 冗談で振ってみたら即座に言葉が返ってきて、なんか知らないけど向こうが勝手に仲間割れを始めた。……あれだろうか、音楽の方向性の違いならぬ信仰の方向性の違い的な。

 

「どうする、沙織? この状態なら突破できると思うけど」

「ううん、大丈夫。とーくんもいるし、折角だから体験してみたいな」

 

 一応そう提案してみたけれど、当初の予定通りお化け屋敷には行くことになった。ただし、繋いだ右手はいつのまにか所謂恋人繋ぎに、絶対に離すものかとこっちが痛いほど握り締められている。

 

「モンスターみたいな奴なら、ゲームで散々見てきたからね! 多分楽しめると思うんだ」

「そっか。じゃあ行きますかー」

 

 少しだけど沙織の前を歩きながら、元々できていた人の道を縫って3年生のお化け屋敷の入り口にまで辿り着いた。隣のお化け屋敷の入り口が……こう、明らかにルルイエモチーフな非ユークリッド幾何学的模様の門なのに対し、こちらは少し銀色がかった門となっていた。

 入り口のすぐ隣には、机とその上に置かれたハンドベルのような大きさの鈴があった。持ち手に銀塗装された鍵の意匠がある辺り、モチーフは明確か。そして「ギブアップの時は全力で鳴らせ」と書かれたメモが、鈴の隣に貼り付けられていた。

 

「鈴はどっちが持っておく?」

「私だとすぐ鳴らしちゃいそうだし、とーくんのほうかな」

「はいはい」

 

 これで両手が埋まったけど、まあなんとかなるでしょ。そう判断しながら、沙織と一緒に門のような扉に触れ──引き戸のはずなのに何故か奥に向けて門が開き、異界のような光景が広がった。

 まるで氷河のクレバスの中にいるような、何処までも続くように見える一直線の氷の道。左右の壁であろう場所は青褪めた氷に覆われ、上方の遥か彼方に見える空は荒れ狂っている。

 

「それでは、これより当迷宮の説明をさせていただきます」

 

 沙織と一緒にそんな光景に見惚れていると、突然目の前からそんな声が聞こえた。慌てて視線を向ければ、そこには今の今まで居なかったメイド服の人の姿があった。……あ、いや、これ人じゃない。映像だ。

 

「お願いしまーす」

 

 沙織はそのことに気がついてないらしく、気軽に話しかけていた。多分これもギミックの1つだろうけど……まあ、いっか。ネタばらししても興醒めだし。

 

「はい。当迷宮の目的は、この世界よりの脱出です。舞台内を探索して、化石、ノート、何かの入れられた試験管の3つを見つけ出してください」

「はーい」

 

 沙織が俺の手ごと手を挙げて返事をするのを見ながら、そこら辺はちゃんとお化け屋敷をしているんだなと再認識する。というかやっぱりこれってモチーフ……(アイデアロールクリティカル並感)

 

「そレではお楽シみクダSaいiiiiiii!」

 

 そして説明が終わった直後、メイド服姿の人間だったものはドロリと溶けて、コールタールのような色をして液体となって地面にぶちまけられた。そしてそこに無数の口や目が浮かび上がり、特徴的なテケリ・リ!と言う言葉を輪唱するように響かせながら、風景の奥の方向へ滑って消えていった。

 

案の定こうなるよねと隣を見れば、真っ青に染まった沙織の顔が。痛いほど握られた手も震え、あ、これ悲鳴が来る。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 鼓膜の替えが必要みたいですねクォレハ。俺自身も、いきなり来る系はマズイしなぁ……人じゃないから分からないし……割と正気も削れそうだけど楽しそうだ。




謎のAR機器の出所は、趣味でそういう機械いじりをしてる内藤ホテプ君です。黒い肌が特徴ですね。

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