幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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第137話 文化祭(前夜)②

 着替えることはなかった。お互いの名誉の為に内部での詳しい状況は語らないけれど、思っていた以上にクオリティが高過ぎるお化け屋敷だったとだけは言っておく。

 特に途中で出てきた神話生物達。テケリ・リと鳴くコールタールみたいなアレとか、五芒星型の頭を持った謎生物とか、渦巻き状の楕円形の頭を持ったピンクの甲殻類とか。沙織は気づかなかったみたいだけど、一部明らかに人じゃない気配してたのに動いてたし。もううっかりタイムマシンが欲しいなんて言えなくなった。

 

 と、そんなアクシデントはあったものの。なんとかお化け屋敷を脱出して教室に。時間が来て、体育館で本格的に前夜祭が始まったのだった。

 

「「お前らー!! 盛り上がってるかーーッ!?」」

「「「「「Yeeeeeah!!」」」」」

 

 司会の先輩2人組のコールに返すレスポンスで体育館が震えた。本来指定された席から大半の人が立ち上がり、入り乱れて興奮が高まっている。そんな中何故か、俺は沙織を膝の上に乗せてそれを観ていた。

 

「大丈夫とーくん、見えてる? 重くない?」

「どっちも大丈夫。沙織こそ高さ足りてる?」

「ばっちり!」

 

 それなら良かったとホッと胸をなでおろす。同級生の目じゃなくて先生の方からの目が痛いけど、まあこれくらいは許容範囲だ。……嘘だ。ぶっちゃけお互いの家に泊まったり云々がバレたら、指導される未来しか見えないから割と怖い。

 

「イかれたエントリーを紹介するぜぇぇぇぇ!!!

 エントリーナンバー1! 去年舞台上でマンマンミでガチホコなバトルをした結果、出禁を食らった彼奴らが戻ってきた! 美術部&書道部合同、大規模ライブペインティングだぁぁぁ!!」

「「「「「Yeeeeeah!!」」」」」

「しかも今年は、何やら先生方に許可を取り付けた模様。前列で見たい奴は、ビニール傘を受け取ってください。自己防衛ですよ自己防衛、しないとお母さんが泣きますからね」

 

 補足するように女子の先輩が説明するけど、それは高校としてOKなのだろうか。閉まった暗幕に、富嶽三十六景をバックにライブペインティングの文字がえらく達筆な文字で書かれていた。なんだろうあのフォント、物凄く馴染みがある気がする。

 

「エントリーナンバー2! 学年が上がる度に狂っていく我が校随一のヤベー奴ら、ハザードは今年も止まらない! AR技術を引っさげて、演劇部がそれぞれの学年で参戦だぁぁぁぁ!!」

「「「「「Fooooooo!!!」」」」」

 

 男子の先輩がテンションアゲアゲで叫ぶと同時、暗幕にデカデカと、某大乱闘して叩き込む兄弟ゲームのDLCの如く『演劇部 参戦!!』の文字が投影された。当然効果音付きで。さっきのお化け屋敷といい、なんでこんな無駄に技術力があるのだろうか。

 

「演目は

 1年【学校で起こる由無し事をそこはかとなくかきつくってみた感じの演劇】

 2年【異譚 人魚姫・嘲章】

 3年【「お前如きに使う金があるか」と予算枠から追放されたダム、歴代最強の台風を抑え込む】

 の、順番でお送りします。お前ら馬鹿じゃねぇのってくらい頭がキマってますね! というか実際に何本か頭のネジは外れてると思いますよ私は! 特に一年生は、変態じみた高学年にどこまで食いつけるのか、いやぁ、今から胸が踊ります!

 また、この演目終了後休憩時間が入りますので、その時に花を摘みに行ったり雉を撃ちに行ったりしてください」

 

 女子の先輩が興奮隠しきれぬといった様子で、どう考えてもおかしい内容を読み上げた。先程の参戦表記の下に文字が書き連ねられていくが、1年生は割と置いてけぼりを食らってる人が多数いる。当然ノリにノッてる人も、俺たち含めて多数いるけど。ここは山じゃないぞ! とかの野次が飛んでいることからもそれは明らかだ。

 

 いや待てそうじゃない。何で先生方はこの演目で誰もツッコミを入れなかったのか。

 

「エントリーナンバー3! 全国出場おめでとう吹奏楽部! でも俺らは知ってるぜ、お前らだってハッチャケたいことを! ブチかましちまえ、去年見たくなぁ!!」

「去年の演奏は、途中から唐突に歴代仮面ライダーOPメドレーに変わって、全員がベルトで変身を始めるサプライズがありました。全員がダンス部も顔負けなキレッキレの変身でしたね。今年はどんな演奏をしてくれるのでしょうか、楽しみです」

 

 そんな過去があったからだろうか。大体わかる感じの説教BGM(生演奏)をバックにして、マゼンタ色の文字で『吹奏楽部参戦!!』と投影されていた。学校祭とはいえ、そういう物の持ち込みは禁止だった筈じゃ……祭りの会場だから良いのか(カシラ並感)

 

「エントリーナンバー4! 今年もやってきたぜ軽音楽部! ペンライトの準備はできてるか? 俺は出来てる! 残念ながら今年は送風機を動かせないが、盛り上げていってくれよぉぉ!!」

「また、昨年同様軽音楽部以外の人員によるバンド演奏も予定されています。今年は去年のテスラコイルとバグパイプに続いて、また謎の楽器を購入したとのこと。楽しみですね」

 

 堂々と『軽音楽部&外部バンド参戦!!』と文字が投影される中、ハイテンションの男子先輩と落ち着いた女子先輩が軽く解説をしていた。「やっぱりそういう用途じゃねぇかッ!!」と先生方の席から野次が飛んでいるがそれで済んでる辺り、事実上の黙認とみた。……いや、うちの高校ハッチャケ過ぎじゃない??

 

「ねえとーくん。テスラコイルって、楽器じゃないよね……?」

「楽器として使う人も、いないことはない……かなぁ」

 

 このVRが席巻する時代でも曲は理解出来ない、コアなファンが大量にいる例の人(存命)を知っている以上、沙織からの疑問をきっぱりと否定することは出来なかった。例の人、何故か今でも若いし喉からCD音源レベルの声を出せているのが不思議でならない。

 

「エントリーナンバー5! ダンス部新体操部等の合同によるパフォーマンスだ! 奇抜過ぎて大会では順位を取れなかったその踊り、見せつける機会はここにあるぜ!」

「レギュラーを外された腹いせに暴露しますが、彼女たちの大半はイキってるだけの彼氏もいない奴らです。押し倒せばこっちのもんです。ほら男子、好みの女子がいたらアタックするんです。3人に勝てるわけないだろあくしろよ」

「ふ、不純異性交友は停学だから気をつけろよ!」

 

 隣に立つ男子先輩がちょっと引き気味になりながらも、目が死んでいる女子先輩にフォローを入れていた。俺たちの年頃の男子なんて性欲の塊みたいな猿なのに、ほぼ誰も歓声を上げない闇深案件だった。

 

「そ、そしてラストエントリィィィ! 不明! 正体不明! 思わず司会の私もぬえええんと泣きたくなります。でもまあそこは、教師も狂する我がきょうきょう……間違えました涙そうそう。それはそうと我が高校! 何が参戦するのだとしても、気持ちよく盛り上げてはくれるでしょう!」

「前夜祭は以上のプログラムで構成されています。とまあ、こんな堅っ苦しい話、もう飽き飽きですよねぇ!」

「そうだー!」

 

 マイクを観客席(こちら)側に向けて問い掛けられたことで、色々な場所から賛同の意見が上がる。沙織も叫んでいて、楽しそうで何よりだ。

 

「「それでは! 第67回学園祭、開会式をこれにて終わります!!」」

 

 歓声が巻き起こる中、一礼して先輩方が舞台上から降りて行く。お互いマイクを持っていない手を、恋人繋ぎに結びながら。それに目敏く気づいた誰かが口笛や指笛を吹き鳴らし、会場のボルテージかどんどん上がって行くのを感じた。

 

「楽しみだね、とーくん!」

「だね。やっぱり先輩が別次元に生きてる感じがして、割とすごく楽しみ」

 

 俺たちも来年にはああなってるのかと思うと、割と怖くもあり楽しみでもある。恋人云々の話ではない。なんというかこう「知識として常識を知ってるからこそ本性を抑えてる」みたいなあの先輩方の方だ。たった1年で、どうやったらあそこまでおかしくなるのだろうか。

 そんなことを思っていると、パシャリとカメラアプリのシャッター音が聴こえて、何故か頬を横に引っ張られた。

 

「沙織……!」

「ごめんね。でも、学校では絶対作り笑いしかしないとーくんが、久し振りに楽しそうに笑ってたんだもん」

 

 下手人に文句を言おうとしたら、その前にそんな豪速球が返ってきた。……やっぱり、沙織にはバレていたらしい。上手く隠していたつもりだったんだけど。受け取り損ねたそれに何かを返す前に、遠慮なく沙織がもたれ掛かってきた。高い体温が伝わってきて、何時ものどこか甘い匂いが広がる。

 

「私はいっつもとーくんに甘えて、助けて貰ってばっかりだから、本当は言っちゃいけないのかも知れないんだけどさ。私と出掛けてる時とか、ゲームの中みたいに、笑ってるとーくんが私は好きだよ」

「……そっか」

「でも! とーくんの笑顔は私と……まあ、空ちゃんはいいかな。2人だけで独占するもんねー。無理は、しないでね。まあダメそうだったら? 存分に私に甘えていいんだよ?」

 

 そう言って沙織は、ぐりぐりと擦り付けるように頭を押し付けてきた。いやそんなマーキングするみたいなことしなくても……ああもう、髪の毛ぐちゃぐちゃになってるし。

 

「大丈夫、もう昔ほど弱くはないから。それに、そんなこと言ったら俺の方こそいつも引っ張って貰ってばっかりだよ」

 

 流石に椅子のバランスが危ないので、ポンポンと軽く頭を撫でながら落ち着いてもらう。ああもう、足バタバタされたら倒れるでしょうが。それに気合いで耐えないと、生理現象で大変なことになってしまう。

 

「それよりほら、もうそろそろ始まるから。それに、こんなしんみりした話今は合わないじゃん?」

「うん……そうだね! 今からは目一杯盛り上がっていこう!!」

 

 なんとかそうして話題を逸らして事なきを得たけど、割と真面目に危なかった。胸を撫で下ろしつつ、頭のおかしい学祭が開幕したのだった。

 


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