幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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第144話 探索!従魔大森林 -β版-②

 偶然遭遇したプレイヤーに攻撃されたので、反射的にリスキルしたらVtuberの配信に出演することになった。ログインしてからの状況を簡単に総括するとこうなるのだが、我ながら意味不明DA☆と脳内のATMが叫びそうなほど状況は混迷を極めていた。

 

「なんか俺が手伝えることあります?」

「配信に関してはないな。ただ、警戒と遺跡に誰か入らないか見張っていてくれるとありがたい」

「もうしてるんですよねぇ」

 

 何やら悪戦苦闘しているヴォルフさんの横で、俺が出来ることといえばそれだけ。餅は餅屋なのだろうけど、ぶっちゃけ既に暇になってきていた。

 分身のうち400体は周囲と遺跡の警戒兼、道中のクリアリング要員。俺本体はここで待ち、残りの99体はただ待つのもなんだからマッピングと素材回収に回している。

 

「すまん……」

「いえ、俺も代価は貰いましたし」

 

 なお進化にはあと少し素材が足りていなかった。だからこそ、探しているのだが……まだ時間掛かりそうだしいっそ、どれだけフルマニュアル&セミオートのみで操作出来るかとか試してみようか。

 

「うーむ……」

 

 分かっていたことだが、やはり難しい。この本体が動けないとかいう、無限の成層圏な青い雫状態だというのに数が増やせない。フルマニュアルが10、セミオートが200が限界になってしまう。ああいや、でもこれ編隊とか組ませるならセミオートの方が割と楽か……?

 

「というわけで、さっき終わったばかりで悪いがゲリラ配信だ」

 

 そんな感じに暇を潰していると、いつの間に配信を始めたのかヴォルフさんのそんな声が聞こえてきた。ならそろそろ、話題を振られてもいいように備えておこう。

 

『やったぜ』『まだ配信見れる』『まだ舞える』『でもなんでゲリラら?』『あれ?さっきまで一緒にいたメンバー……』『なんか蜂飛んでるんですけど』

 

 こんな感じで、コメント付きで同時視聴しながら。さっきので操作限界は見えたし、ある程度ならコメント拾って反応もでき……女体化、配信……うっ、頭が。*1

 

「まずゲリラ配信を始めた理由は、偶然に有名人と遭遇できたからだな」

『有名人?』『有名人…蜂のペット……あっ(察し)』『え?誰?』『やべぇよ……やべぇよ……』『うっ(トラウマ)』

 

 コメント欄が一気にざわつき始める。やっぱりこれ荒れるよなぁと思いながら、取り敢えずカメラに向けて手を振ってみる。いや、待て、なんで俺はこんなことを……

 

「というわけで、極振りのユキさんこと朧さんだ」

「どうも、ご紹介に預かりましたユキ兼朧です。話しかけたら攻撃されたので、お仲間を反射的にリスキルした結果協力することになりました」

『でたわね(震声)』『デ デ ド ン』『悪の親玉』『なんか書いとけ』『火薬キチ』『\反射的にリスキル/』『ひえっ』『許し亭ゆるして』『ふぐぅ……』『トラウマが……塔でのトラウマが……』『1000匹の自爆蜂とかどうすればええの?』『もうれーちゃんにセクハラしないから花火ル括り付けの刑はゆるして……』『←見つけたぞ』『お前が悪いんだよ』『草』『鬼いちゃん早すぎんよ〜』

 

 と、事実をありのままに述べた瞬間コメントが爆発的に加速した。しかも何故か視聴人数まで伸び始める始末。まだ一言しか喋ってないのにどうしてこうなった。

 意図的なアンチコメは無視してこれな上にまだ加速するとか、回線壊れそうで怖いんだけど。

 

「ま、まあ色々あったが、虫系の進化素材を融通することで、さっきの放送で見つけたダンジョンの踏破に手を貸してくれることになった」

「取り敢えず、心配されるような確執も不和も起こらないよう話し合いは済んでますので、そこはご安心を」

『や っ た ぜ』『大戦力』『ハイパー無慈悲』『極振りを味方につけるとかやりますねぇ!』『ん?今俺たちのコメント読んで反応してなかった?』『勝ったな風呂入ってくる』『やっぱり見た目以外は虫系ヤバイしな』『見た目もヤバイだろ何言ってんだ』

 

 流れたコメントの中に、早速俺がコメントを追いつつプレイしているのを察した人がいた。そんな馬鹿な的なコメントも多いし、折角だから反応してみようか。

 

「折角なんで片手間に配信は見てますよ? 出させてもらってるので、チャンネル登録もしておきましたし」

「えぇ……」

『配信主もこれには困惑』『配信に出演しながら配信を見つつプレイ!?』『配信がゲシュタルト崩壊するからやめれ』『片手間にコメントって追えるものなのか……』『えぇ(困惑)』『流石極振りだわ』

 

 何故かヴォルフさんにまで引かれた。解せぬ。チャンネル登録と高評価は配信者にとっては死活問題じゃなかったのか。なんか現時点で、俺がいるせいか低評価多めなのに。

 

「趣旨に戻りません?」

「そ、そうだな。これからダンジョンに向かうわけだが、移動時間は雑談コーナーだ。何か聞きたいことがあったら書き込んでくれ」

 

 と、普通のペースで歩きながら/飛びながら、コメント返ししつつ進むこと数分。ヴォルフさんの言っていた、既になんども確認済みのダンジョンがようやく本体の目に入った。

 

「ここが名前はないが、軽く中を覗いた俺たち以外はまだ攻略の手が入ってないダンジョンだ」

「懐かしいですね……第2回イベントを思い出します」

『そういえばユキってほぼ初期組だったな』『2人目を引っ掛けたという噂の』『ユキの無限リスポンスキルをゲットしたとの噂の』『あれかぁ……復刻してくれないかなぁ』

 

 目の前にぽっかりと口を開けているダンジョンは、そんな懐かしい記憶を呼び起こすような造形をしていた。

 元は何かの神殿であったらしい、崩壊した建物。パルテノン神殿的な柱は既に苔生し蔦に覆われ、天井も崩れてその役目はとっくに失ってしまっている。かつて床であっただろう場所に開いた大穴が入り口らしいが、ここからでは見通せない暗闇に満ちている。

 

「ぶっちゃけアンデッド系のモンスターだらけな気配がします」

「朽ちた神殿だからな。それなら俺の得意分野だから、任せてくれ」

 

 ガシャンと剣に変形しつつ、ヴォルフさんが自信を持って答える。朧のボディじゃ看破も鑑定系のスキルも使えないけれど、きっと不死者特効とかそういうスキルを持っているのだろう。

 

『対カルマ悪に対する強化倍率高くて羨ましい』『悪即斬だからなぁ』『流石銀河一刀流目指してるだけはある火力してる』『なお百人斬りは失敗した模様』

 

 なんてことを思っていたら、コメント欄で言及されていた。成る程成る程、カルマ値が悪の相手特効と。カルマ値、探してみたけどマスクデータらしくてスキルの効果倍率からしか探れないらしいんだよなぁ……

 

「なら私は巻き込まれないようにしないとですね。カルマ値最悪らしいですから」

 

『毎日ビル爆破してる奴が何を』『あれで善とかありえないでしょ』『花火ルしてる奴に言われたくないんだよなぁ』『この前だってアスト30連してたし……』

 

「爆破しますよ?」

 

『ひぇっ』『ゆるして』『許し亭ゆるして』『許し亭って誰だよ』『助け亭たすけて』『増えた!?』『かつてここまで恐ろしい配信があっただろうか』『ほら、お前の後ろにはちさんが……』『はちさんとかいう隠しきれない育ちの良さ』

 

 何故かまたコメントが爆速になった。解せぬ。出番を食ってしまったからか、ヴォルフさんもなんか微妙な表情してるし。

 

「まあ本題に戻るとして。正直あんまりPTで探索したことないんですけど、こういう場合の定石って斥候が先行して罠を解除とか探索ってことでいいんですよね?」

「そうなるな。……頼んでおいて何なんだが、斥候出来るか?」

「なに、分身は500体いるんです。何とかなりますよ」

「うわぁ……」

 

 昔読んだ覚えのある小説から取って、名付けて【蜂型使い捨て装甲板作戦】。たとえ罠に引っかかっても、誘爆させて壊してしまえば勝ちなのだ。兵士は畑から取れるではないけれど、分身は無から無限に発生させられる。

 

『圧倒的ゴリ押し』『これは運営涙目』『ザ・ゴリラ(虫)』『ちょっとなに言ってるか分からないです』『こいつは蟲の仕業ですな……』『コイツは緋蜂……別モンになるか』『何でもかんでも蟲のせいにするのはちょっと』『でもこれは蟲の仕業』『虫系ペットとしては正攻法』

 

 コメント欄には、割と好意的な反応が多いようだった。やっぱり分身ができるなら生かさないと。探索もする、クリアリングもする、どちらもリスポンの危機なしに出来るのが分身のいいところだ。一部の生物系のペットしか覚えられないけど。

 

「というわけで、レッツ探索」

「……これ見ると、割とこの騒動の発端のプレイヤーの気分も分かる気がする……賛同はしないが」

『わかる』『分かる』『ワカル』『ワカラナイ』『ぶん、ぶん、ぶん』『そんな可愛い音じゃないんだよなぁ……』

 

 ドン引きされながら、400匹の蜂をダンジョン内部に突入させつつマッピングを開始する。持ち前のAglのお陰で数秒間で闇の中に消えた分身体を見送り、隣で青い顔をしていたヴォルフさんに声を掛ける。

 

「さ、俺たちも行きますか」

「……ゴキブリホイホイに入るゴキって、こんな気分なんだろうか?」

 

 そうは言いつつも、素直に飛び込んでくれるのは有難い。なんて考えつつ自分も突入すると、一瞬このマップに来た時のような浮遊感に襲われた。そして視界の端に、1つのメッセージが現れる。

 

 《ダンジョン『徘徊する残骸の聖堂』に侵入しました》

 《現在の当ダンジョンの踏破者 : 0》

 《現在のダンジョン内にいるプレイヤー : 2》

 《ダンジョン難易度 : 8/10》

 《ダンジョン踏破率 : 13%》

 

 朧の身体では反映されないけれど、思わず笑みがこぼれる。これは、結構そそる展開な気がしてきた。この放送中にもきっと他の挑戦者が来るだろうからその前に、隠し部屋もレアポップも全て狩り尽くしてしまおう。

 出来るかは分からないけど、そんなRTAじみた挑戦もたまには悪くない。攻撃特化の心強い味方もいることだし、久し振りに派手に行くとしようじゃないか。

 

*1
番外編 爆破系美少女配信者しらゆきちゃんをチェックだ!




これで今年の更新は最後!
また来年、良いお年を!!

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