キラキラとボスが分解されて生まれたポリゴンを浴びながら、酷使していた脳を休憩させるべく俺は無言でコメント欄を追っていた。
『うおおおおおお!!!』『2人でボスを倒しやがった!』『相性が良かったとはいえマジかぁ』『やっぱりこのゲームのトップ人じゃない』『←蜂と変形する犬だぞ?』『お前の目は節穴か?』『画面には人間なんて写ってませんねぇ』
まだまだコメント欄の加速が終わる雰囲気はなかった。多分この相手なら、先輩方とかセナ……後は藜さんでもソロ討伐出来そうだし、そんなに凄いとは思えないんだけどなぁ。
「お、よっし揃った! 多分!」
そんな俺の思考を断ち切ったのは、嬉しそうに声をあげたヴォルフさんだった。見ているのはメニュー欄……となると、手に入れた素材か進化辺りとみた。
「どうかしたんですか?」
「ああ! なあ、この《霊王のオーラ》ってアイテム泥ってないか?」
「ちょっと待ってくださいね」
言われて獲得アイテムを見てみれば、思っていた以上に色々な物がドロップしていた。ボスを2人で倒したからなのだろう、明らかに一戦で手に入っていい数じゃない量が突っ込まれている。
「っと、有りますね。トレードします?」
「頼む。そっちは進化に足りないアイテムは何かあるか?」
「えーと、《女王の蜂蜜玉》ってアイテムですね。あります?」
そういえばトレードするって決めていたっけ。そんなことを思い出しながら自分の朧のアイテムを見れば、欠けているのはそのアイテムだけだった。
正確には、今まで出ていた進化先に加えてもう1つ新たな進化先が選択できるようになっていたのだ。その進化に必要なアイテムが、今言った蜂蜜玉ということらしい。
「ああ。ならトレード成立でいいか?」
「是非是非」
ボス討伐によって生まれた束の間の安全地帯であれば、『徘徊する』のダンジョンでもこうしてゆっくり操作が出来るらしい。そんな感想を抱きつつ、メニュー欄を操作してアイテムをトレードする。
「ということで」
「一丁進化と行きますか!」
『やったぜ』『つよい』『配信で進化見れるとかヤッター!』『揃って進化とかめでてぇなぁ!』『現時点でコンビでボス狩りできるのにまだ強くなるん……?』『ワクワク』
ハイタッチは出来ないので、お互い手を挙げる感じの動作をしつつ宣言すれば、コメント欄からは多数のお祝いの声が届いてきた。成る程、この一体感。配信者が配信を続けるわけだ。
「どうします? どうせなら一緒にやったほうが取れ高良い気がしますけど」
『ゲストに気を使われる配信者』
「うるせぇ! でもやろう! せーのののでボタン押す感じで」
『ののの』『ののの』『ののの』『のわの』『ζ*'ヮ')ζ』『今なんか違うのいなかった?』
「はいじゃあ、せーの!」
「えっちょっまオラァ!」
騒がしいコメント欄にツッコミを入れるヴォルフさんに合図して、せーので進化先確認欄に出現していた進化ボタンを押した。なんか焦ってたけど間に合ったっぽいし、まあいいか。
《ドミニオンワスプ【女王種】が選択されました》
《進化を実行します》
《ペットスキルが強化されました》
《ペットスキル【分身体上限+1】を獲得しました》
《進化特典としてスキル【状態異常累積】を獲得しました》
《余剰獲得経験値を確認》
《経験値プールより成長を実行します》
ボタンを押した瞬間訪れる、ダンジョン突入時と同じ様な感覚。ただし暗転ではなく明転……真っ白な空間に文字と数字が流れる空間に、いつのまにか意識は移っていた。
ただそれも、進化に関する情報が流れ体感数秒で終了する。そうして光が収まり、次の瞬間には元のダンジョンの光景が目の前には広がっていた。
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Name : 朧
Race : ドミニオンワスプ【女王種】
Master : ユキ
Lv 50/50
HP : 2400/2400
MP : 2000/2000
Str : 200 Dex : 170
Vit : 125 Agl : 650
Int : 70 Luk : 65
Min : 125
《ペットスキル》
【状態異常攻撃 : 獄毒】
【状態異常攻撃 : 移動速度低下(中)】
【状態異常攻撃 : 呪詛】
【状態異常攻撃 : 畏怖】
【大爆発】
HPを0にし、現在HP×1.3分の倍のダメージを与える。範囲は(半径威力/100)×1.2m
【ドミニオン】
自身の最大MPを半分にし、自身のステータスと同等(HPMPは半分)の実態を持った分身を30体作り出す。
効果時間 : 分身が全滅するまで
【分身体上限+1】
分身体の上限を+50体する
《スキル》
【真・影分身】【ドッペルゲンガー】
【多重存在】 【状態異常攻撃 : 裂傷】
【状態異常攻撃 : 最大HP減少】
【状態異常攻撃 : 最大MP減少】
【状態異常累積化】
同じ状態異常が被/与ともに累積するようになる。ただし状態異常攻撃による付与率を50%低下させ、効果時間を一律180秒へ変更する。
《装備枠》
アクセサリー : 空き
(制限 : 能力上昇系を除く)
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即座にステータス画面を開いて確認をすれば、こんな感じに能力値が変化していた。変わっていない物の説明は除くとして、ペットスキルは順当に上位互換化。ただ問題なのは……
「朧お前、雌だったのか……」
『ペロッ、これは長年会ってなかった故郷の男の子と思っていた幼馴染の親友が再会した時に超絶に可愛い女の子になっていて、気になって見つめていたら昔のテンションで話しかけられてドギマギしつつ出てしまった心ない言葉──!!!!!』『うわっ』『ひえっ』『気持ち悪い(直球)』『長文ニキ落ち着きたまえ』『すごく落ち着いた』
なんだか凄まじい長文が流れてきたせいで、問題だと思ってた意識がどっかに行ってしまった。レベルが上がってるのは、多分アスト500体くらい分の余剰経験値があるからだろうし問題外だし……なら問題なさそうだな!!
ただし「2度目のTSは昆虫で」なこの状況。なんかラノベにありそうなタイトルだけど、実際に経験してる身としては御免である。
「よっし、毛並みが青色になったぁ!!!」
『おめでとう』『おめでとう』『おめでとう』『おめでとう』『こう見ると某アニメ最終回に見える』『草』
そんな詮無い考えを巡らせていた思考を現実に引き戻したのは、感情を爆発させたように叫び、遠吠えするヴォルフさんの姿だった。
一回り大きくなった体躯に、青と白のコントラストが綺麗な毛並み。それ以外は変わりないが、それでも理想に近づいたのはRP勢としては嬉しいことだろう。
「あ、俺は何か変わりました?」
「ん? ああ、そうだな……何か、変わったところ……ううむ」
『(変わって)ないです』『翅が黒くなった』『マジでそれしかねぇ……』
「えぇ……サイズも変わってません?」
「寧ろ小さくなってるな。見てみるか?」
「あ、はい。よろしくお願いします」
『これはクソ進化』『クソ進化(相手にする側として)』『いやでも、貴重な8枠を虫に使うのはなぁ』『闇の中で、眼だけが光っていた……』『なんだって?』『眼です大佐』
コメント欄の寸劇を見ながら、刀状態に変形してくれたヴォルフさんの刀身を借りて、進化後の自分を見る。そこに反射する朧の姿は……確かに、殆ど一切何も変わっていなかった。
「まあ、ちゃんと強くなってるので安心してください。被弾面積は下がりましたし、爆破威力が上がりつつ、状態異常が強化されましたから」
「相手にしたくねぇなぁ……」
『自爆強化()』『禁断の組み合わせじゃないか……』『多段ヒット、高威力、良状態異常、累積可能……は?』『よく考えたら、ユキも支援役なんだよな……爆破に霞むけど』『つまり本体はステ面のバフデバフ、ペットは状態異常か……どっちも爆破するけど』『頭爆破卿』『おやおやおやおや』
ヴォルフさんに関するコメントを抜いてもこの有様である。全員からドン引きされてしまった。この有様だと、装備枠にアクセサリーが1つ装備出来るようになったのは言わない方がいい気がしてくる。
まあ、さっきの骸骨からドロップしたアイテムに良さげなものがあったから装備した後なのだが。多分さっきの骸骨は、魔法使いを封殺するタイプの敵だったのだろう。【沈黙の呪印】なる、沈黙の状態異常*1を通常攻撃に付与するアクセサリーをくれた。お優しいこと、多分外れアイテムだけど。
「まあ、今は味方ですし。これあげますよ」
「【King of 砥石】? うわ、無機物系の無条件強化アイテムじゃねえか」
イベント限定アイテムだが次回ログインまで、無機物系ペットの全ステータスを+50するとかいうアイテムがドロップした以上、間違いなく呪印は外れアイテムである。
『何そのチートアイテム』『ボス泥だろうなぁ』『ま? クソダンジョンかと思ったら良き力?』『多分これ全種族分あるよね』『効果重複とかも気になる』
「味方が強くなる分には願ったり叶ったりですからね」
「助かる。貰いすぎでなんだか悪いな……これくらいしか渡せるものないが、いいか?」
そう言って投げ渡されたのは、【生命の種】なるアイテムが20個。効果は……永続的にHP1上昇? 使用上限なし? 神アイテムなのでは??
「いいんですかこんな神アイテム?」
「当然だ、まあ適当に森をぶらつけば取れるアイテムだしな……コツはいるが」
「後でそのコツ、言い値で買います」
「よっしゃきた」
『やべえよ……やべえよ……』『トップ勢による魔改造蜂が生まれてしまう……』『\ハチだー!/』『そこはアリだろ』『]-[|/34<#!』『後光が見える見える……』
コメントも白熱してきたところでだ。まだ恐らくリポップまでには時間があるだろけど、流石に安全の確保が怪しい時間になってきた。再度散開させた分身も、ボスの周回パターンに隙が少なくなっていることを知らせてくれる。
「その為にも、いつまでもくっちゃべってないで進むか」
「ですね。どうします? 多分ボス部屋まで直行で案内出来ますが」
「降りるか!」
「イェア!」
随分と……というか、創作物の中でしか見ないような、同性でノリの良い友達と遊んでいる感覚。浮かれざるを得ないそんな感覚に浸りながら、俺たちは全力でボス部屋に向けて進軍を開始したのだった。