今回は前菜
翡翠ちゃんは濃すぎて次回になりました
イベント【探索!従魔大森林 -β版-】、イベント最初期に一部のプレイヤーによって進行が妨げられ、趣旨までもが捻じ曲げられてしまったこのイベント。今でこそ元凶のプレイヤーがBANされたことで終息に向かいつつある騒動だが、大半のプレイヤーがその雰囲気に迎合し対立を深める状況となっていた。当然そんな雰囲気であったのだから、各々がすぐに協力プレイに切り替えることは難しい。
ただそんな空気に協調することなく、プレイしていた層も一定数はいたのだ。ユキも所属する【すてら☆あーく】や、「大森林?しるか!地球ローラー作戦だ!」と張り切っていた【モトラッド艦隊UPO支部】などを始めとした、トップギルドの大半の面々。さらに多くのユニーク称号持ちも、下らないと切り捨ててソロや固定PTで攻略に勤しんでいた。
では、そんなヤベー奴らの筆頭たる極振りはどうしていたのか?
無論例に漏れず、誰も彼もがやらかしていた。
◇
《ダンジョン『嘲笑う狡知の森林』》
《現在のダンジョン内にいるプレイヤー : 1》
《ダンジョン難易度 : 8/10》
《ダンジョン崩壊率 : 79%》
「スゥゥ……エクスッ、プロォォォォォジョンッ!!!!」
そのダンジョン……否、正確にはダンジョンであった場所は、現在進行形で炎上していた。青々と生い茂っていたであろう大樹も、無数の果実を実らせていた果樹も、綺麗に咲いていた花も。一切合切の区別なく、
「考えれば簡単なことでした。爆裂出来ないからとイベントは敬遠してましたが、爆裂が出来る新たなペットをお迎えすればいいだけだったんです。みゅいみゅい*1は可愛いですがそれはそれ、やはり爆裂こそ至高の魔法です」
全ての爆裂の中心点に存在するのは、巨大な炎の塊としか表現のしようがない物体だった。辛うじて《ふぉうっと》という名前が表示されているおかげでペットだと判断できるその炎は、言うまでもなくにゃしいのペット。
種族名称ファム・アル・フートという、区分するなら付喪神系統の上位個体。その構成はMPとInt特化、要するに主人と何も変わらない爆裂特化型のペットだった。
《ダンジョン崩壊率81%》
《ダンジョン『嘲笑う狡知の森林』の崩壊率が一定域を超過しました》
《ボス戦が強制開始します》
「はっはァ! 知りませんねそんなこと。久し振りに、全力で爆裂出来ているんです。水を差す無粋は許しませんよ!!」
そして当然、にゃしいが持ち込んでいる武装は己がユニーク称号についてきた【爆裂の杖】。であればこそ、次に起こった光景は必然であった。
ファム・アル・フートというペットは元より魔法型であり、そのMPの総量は平均で5000というにゃしいの素ステ程もある。そしてペットは、大なり小なり主人の影響を受け成長するものなのだ。
そう、極振りかつ爆裂にしか興味のない主人の影響を一身に受け、促成栽培されたペットがどのように変質するか。目を瞑っても分かることだろう。
StrやVitといった物理ステータスは壊滅的、DexやAglといったステータスも種族平均の下限を突破。その代わりにMP総量は本家にゃしぃの半分ほどである約2.5万、IntやMinといった魔法ステータスは種族上限すら僅かだが突破している。
そしてユニーク武装たる【爆裂の杖】には、ユニーク武装特有の能力として、必殺技が搭載されている。MP全消費による魔力弾攻撃、それがかつてのにゃしいを上回るMPを持つペットから解き放たれた。
「
燃え盛るダンジョンの空に描かれる、複雑怪奇な幾何学模様の連続。まるで細密画のようなそれは、かつてシャークトゥルフという規格外ボスのHPを耐性を踏まえてなお大幅に削り取ったにゃしいの切り札。
そして当然、ボスの出現地点は魔法陣が組み上げた射出装置の直下。虹を纏う火球は、既にその威力を存分に発揮させることが確定していた。
《ダンジョンボス : 闇に吠える異形神Lv80が討伐されました》
《攻略履歴確認》
《ダンジョン踏破率計測不能》
《特記 : ダンジョン崩壊率100%》
《報酬が確定しました》
《内部プレイヤーを強制排出します》
そして、折角のボスは日の目を見ることなく文字通り蒸発した。
「はふぅ……満足、しました……」
即座に燃え落ち崩壊するダンジョンから、元凶たる炎の塊は弾き出される。ダンジョン名の最後が森であったように、弾き出された場所は森の中。何故か不思議と延焼はしないまま、MPを使い果たしたにゃしいは起き上がる。
「……いえ、ですがまだやめられません。やはりみゅいみゅい進化。そこまで区切りよく進めてから、本来の私による爆裂祭りといきましょう」
爆裂における願望は何処までも。憧れは止められねぇんだとばかりに、ゆらゆらと揺らめく炎の身体で、ふわふわとにゃしいは新たなダンジョンへと向かって行った。
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Name : ふぉうっと
Race : ファム・アル・フート
Master : にゃしい
Lv 50/50
HP : 500/500
MP : 15500/15500(24800)
Str : 10 Dex : 10
Vit : 10 Agl : 10
Int : 600 Luk : -10
Min : 600
《ペットスキル》
【恒星の輝き】
物理・炎・爆裂・光属性ダメージ無効
炎・光属性魔法使用可
HP最大値をLv×10に固定する
【ふぉうまるはうと】
浮遊する炎の身体を持つ(通常プレイでは延焼しない)
接触にダメージ判定を発生させる
Lukをマイナスに変更する
【水属性脆弱】【氷属性脆弱】
【我ハ汝汝ハ我】
召喚時主人と同化する。その際、HPMPを共有化する
【信仰の力】
一部スキルを主人が使用可能になり、自動でMPを回復する
【魔法強化Ⅳ】
《スキル》
【魔力核】【魔力核Ⅱ】【魔力核Ⅲ】
【魔法強化】【魔法強化Ⅱ】【魔法強化Ⅲ】
【魔力のベール】
自身の現在MP以下の攻撃による被ダメージの最大値を、自身のHPの1割に固定する
《装備枠》
なし
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《ダンジョン『徘徊する死神の古戦場』》
《現在のダンジョン内にいるプレイヤー : 1》
《ダンジョン難易度 : 10/10》
《ダンジョンボス : 万象呪う亡霊姫Lv100が討伐されました》
《攻略履歴確認》
《ダンジョン踏破率 : 25%》
《特記 : ダンジョン攻略時間01:05:46》
《報酬が確定しました》
《内部プレイヤーを排出します》
プレイヤーの自分を強化するために多数のペットを育てるにゃしいに対して、真逆のスタンスにいたのがアキだった。一番最初の仲間を、今出来る最大限まで。それによって全プレイヤー中最速で、ペットの2段階目の進化を達成していた。
「相性の問題か。肩慣らしにもならなかったな」
そう呟くアキが浮遊する場所は、無数の武器が突き立った赤錆色に染まった大地。そこに存在していた、プレイヤーに最高難易度と目されていたダンジョンを単独踏破したのだった。
ペットが付喪神系列であるため、アキの姿は普段腰に帯びている7本の剣と鞘。歴戦の雰囲気を放つその姿は、この場の雰囲気にベストマッチしていた。それこそ、この古戦場に出現する敵と見まごう程に。
「ハッハァ! 見つけたぜェ、付喪神系列のボスモンスターぁ!」
だからこそ
「プレイヤーか」
叫びながら突進してきた回転する錨を回避ながら、冷めた声音でアキは言った。だが同時に、いつでも戦闘に移れるよう7本の刀全ての鯉口が切られる。
「応ともさ! そう聞いてくるってこたァ、あんたもプレイヤーか?」
それに応じたのは、アキに不意打ちを仕掛けてきた錨。錨を頭に見立てて、鎖で蛇の胴体のような形を作るプレイヤー。名乗らない以上プレイヤーネームは不明だが、その気質は明らかに歪められたイベントのものではなかった。
「ああ。それでも戦いを望むか?」
「断る理由がねェ!」
最後のアキの確認に答えながら、付喪神系列のペットで有りがなら蛇そのものの様に錨のプレイヤーが突撃する。
誰が知る由もないが、アタリハンテイ力学に従って運営が実装してしまったスキルによって、錨の当たり判定はほぼバグの域に達している。それに加え、正面限定のスーパーアーマーや防御貫通などを詰め込んだこの一撃はまさしく必殺。数多のプレイヤーとボスを屠ってきた、錨のプレイヤーにとっての最高の攻撃だった。
例え2段階の進化を果たしたペットであり、かつアキのペットであることを差し引いても、直撃すれば当然即死。ないしは瀕死にまで追い込まれることは必定の一撃。
「そうか、ならこちらの調整にも付き合ってもらおう」
だが、その程度で打ち倒せるほどタイマンでの極振りは易くない。
本来のアキとは違いまだ目で追える速度で5本の刀が、言葉に反応し発射というべき速度で射出される。そうして抜き放たれた、そこに何も存在しないように見える硝子の刃は、一直線に錨へ向けて突撃する。
「しゃらくせェ! 蹴散らせ、サンタマリア!」
その激突の結果は、アキ側の敗北。打ち付けられた硝子の刃達は、錨のHPを5割弱吹き飛ばしたものの全て砕け散る。鎖側はスーパーアーマーにより反動も怯みも受けず、寧ろ何故か速度を増して突進を続行する。
勝った。そう確信し、歓喜の声を上げる錨マンの耳にアキの詠唱が届く。
「吹き荒べ、天罰の息吹。疾風雷鳴轟かせ鋼の誅を汝へ下さん
─────悪を討て」
砕け散った硝子の刃片のカーテンを抜けた錨を待っていたのは、また刃の渦だった。アキが抜刀した6本目の刀は蛇腹刀。それが無数に分割し形成した刃のトンネル。
何か恐ろしい生物の顎門にも似たそこは、刃片1つ1つが漏れなく紫電を走らせ、暴発寸前と一目で分かる謎の吸い込みを発生させている絶死の空間だった。
「おまっ、そんなナリで物理型じゃねえのかよ!」
「いや、物理型だ。単純にこれは、武器の性能だな」
言って、顎門が閉じるように刃のトンネルが爆発した。全方位から発生する稲妻と暴風によって、突進する錨が削り取られて行く。それは数回のリポップが起きても同じで、寧ろリポップ後の方が急速にHPが削りられて行く。
「というかおま、極振──」
「気付くのが遅かったな」
錨のプレイヤーは最後のペットになり、抜刀態勢を整えたアキの目の前まで辿り着いた瞬間、自分が戦っていた相手の正体に感づいたらしい。ペット故表情は読み取れないが、驚き半分納得半分の気配のまま真っ二つに両断された。
「またユキと、黒化アストタイムアタックを競うのも悪くないかもしれん」
その様子に納得したようにアキは刃を納め、何処か遠くを見ながら呟いた。アキもユキ同様、黒化したアストを連続で討伐し続けて装備を強化されている。その結果がこの有様だった。
また黒化しようとアストがTAされることも
競い合った結果、最短レコードが10秒にまで縮められることも
運営が泡を吹いて難易度を調整するのも
全てはまだ少し先の話
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Name : エスペラント
Race : 付喪神・真打
Master : アキ
Lv 50/50
HP 2000/2000
MP 3000/3000
Str : 700 Dex : 60
Vit : 100 Agl : 70
Int : 100 Luk : 150
Min : 100
《ペットスキル》
【憑依覚醒 : 大業物】
ペット取得時発動
主人の持つアイテムのうち何か1つに憑依する。憑依したアイテムに自身のステータスを全て加算し×1.4倍する。
【スキル共有】
自身の所持するスキルを主人と共有化する
【憑依物性能強化(大)】
自身が憑依したアイテムの性能を40%強化する(自身の加算分は除く)
【自律駆動】
主人の意思とは関係なく活動することができる。その場合、毎分6のMPを消費する
【神妖の末席】
対霊性を特効(大)を獲得する
【表裏一体】
使用時主人のHPを確定で5%消費する、或いは5%回復する。また同種族(主人・ペット共通)を討伐する度正気度を1減少させる、或いは1回復させる。
【自己スキル強化+1】
【自己スキル強化+2】
《スキル》
【覚醒】
毎秒自身のHP・MPを50消費し続けることで、全ステータスを2.15倍にする。
【抜刀補助(大)】
刀剣類憑依時限定スキル
主人および自身のStr・Aglの合計×1.2分抜刀速度を上昇する
【刀剣ノ真髄】
刀剣類を用いて攻撃する場合、与ダメージ+30%、クリティカル発生率+40%
その他の武器を用いて攻撃する場合、与ダメージ半減、クリティカル発生なし
【あなたと共に】
主人と自分のMPを共通化する。また、主人のHPが0になった場合、自身のHPを0にして復活させることができる。その際回復するHPを100%にする
【禍払い】
カルマ値 : 悪に属する相手に対して特効を獲得する(大)
【神も仏も無し】
カルマ値 : 善に属する相手に対して特効を獲得する(大)
《装備枠》
憑依 : 【装刀オリハルコン】
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錨の人のペット名はサンタマリアです。ドロップアンカーするかもしれない。
極振りペット内訳
ユキ
ー割愛ー
にゃしい
1.みゅいみゅい(キメラキャット)
2.はるーと(ファム・アル・フート)
3.まるーと(ファム・アル・フート)
4.ふぁろっと(ファム・アル・フート)
5.ふぉうっと(ファム・アル・フート)
6、7、8枠目は空き
アキ
1.エスペラント(付喪神・真打)
2〜8枠目は空き