「あ゛あ゛ぁぉぁぁ↑……つっかれました……」
「同感だ……少し休もう、コメ返しとかしながら……」
「ですね……」
『お疲れ様』『遊びがなくてつまらなかった』『←ほならね、お前がやってみろって話』『リンクするボスラッシュとかマジぃ?』『俺、これ攻略できる気がしない』『よく二人で突破した』『へばってる朧ちゃん可愛い』『へばってるヴォルフ可愛い』『コメ欄、ヤバイの湧いてきてない?』
遊ぶ余裕もコメ返しする余裕もなく、一気に狼の階層を駆け抜けて辿り着いた次階層へ続く階段。システムの都合上、実質的な安全地帯になっているここで、俺たちは完全に気を抜いて地べたに張り付いていた。
低人数で攻略する時の筆頭たる問題である、火力不足と手数不足。久し振りに対面したそれに、本当に普通の攻略をしてしまった。無念としか言いようがない。
「と言う訳で、休憩時間中はコメ返し時間としまーす」
ヴォルフさんがそう宣言した直後、一気にコメント欄が加速した。コメ返しして貰えるのが珍しいのか、珍しくはないが逃したくないのか……あ、俺宛てのやつ発見。
「えー、『朧さんはさっきの戦闘で何をしてたんですか?』ですかー。ずっと他の狼足止めしてました。爆破と状態異常特化じゃなきゃ突破されてましたね……へへっ」
『えっ、あのペースで足止め後?』『やりたくないダンジョンNo.1に認定』『異次元の色彩の草原をお忘れで?』『あっ(察し)』『その名前は出したらいけない(戒め)』『配信者さんに迷惑かけちゃダメだぞ各位』
普段から障壁を500個くらい操作してなかったら、きっとここで詰んでいた。分身が550匹にまで増えたせいで、まだ割と操作が覚束ないんだよなぁ……ははは。ダメこれ、脳が疲れきってる。
「ほんと、有り難かったですよ朧さん……正面の敵に集中出来ましたし」
「安くないけどお安い御用でしたね。へっへっへ」
『ダメみたいですね……』『この極振り、そろそろ爆破が切れてません?』『爆破キメて普段の調子取り戻して?』『いよっ、爆破卿!』
思ってた以上に外面も酷い状態になっているらしい。これは……今日は花火ル*1普段は1本だけど、3本くらいキメないとなぁ……
『そんな爆破卿にオススメ! 通常マップの最前線に生物とか作物全てが爆発か発火する極限環境マップが! 昨日発見されたのですけど知りたいですか?』
「配信終わったら速攻でギルドホームに戻るので、その話後で詳しく。ええ、情報料も弾みます」
ぬかった、最近最前線に行ってなかったからそんな情報仕入れていない。なんだその桃源郷、行くしかない……いや、寧ろそこに住む! 絶対に住む! 無駄に5000万くらいある資金使えば、そこにプレイヤーホームとか建てられないかなぁ。
「次は俺だな。何かあるかー?」
間延びした声でヴォルフさんが喋り出した。本業を邪魔しちゃいけないだろうし少し黙るか。それよりも今はプレイヤーホームの仕様確認が先だ。理想的すぎる立地の場所、誰にも取られるわけにはいかない。
「朧さんに質問だ『以前配信とかしてましたか? これからする予定あります?』だとさ」
「してませんね。どちらかといえば視聴者側です。これからする予定もないですね、知り合いに協力くらいならしますけど」
『残念』『人気出ると思うのに』『いつだったか、SNSでバズってましたよねあなた』『えー』『でも呼べば来てくれるのか』
なんというか、配信は関わってはいけない気がするのだ。こう、平行世界の自分が、全力でやめておけと叫んでいる気がする。戻れなくなるぞと。そんな気がする。
それにさっきから何故か、背筋がゾワゾワとしているのだ。まるで蛇に睨まれた蛙になったかの様な、捕食者に見つめられている様な恐怖感。そんな自分の直感には従っておく方が吉とみた。
「というわけで、10分くらいだったがコメ返しは終わりとする。昨日みたく、無駄に動画が長くなっても悪いしな!」
「脳も休まったので、俺も準備OKです」
『脳が休まった……?』『脳の問題なのか』『分身500体でしょ、わかるわか──いやごめん見栄張ったわ』『隙自語』『そうだよな……100体までで限界だよな……』『えっ』『えっ』『えっ?』
同時にコメ欄も流し見できるくらいには、いい感じに頭も回り出した。というか、分身100体操作できる人いるのか。多分セナ超えてるし、その人最前線組なのでは?
《ダンジョン『徘徊する残骸の聖堂』》
《現在のダンジョン内にいるプレイヤー : 2》
《ダンジョン難易度 : 8/10》
《ダンジョン踏破率 : 80%》
《ダンジョン階層4-5/5》
そんな賑やかなコメント欄を楽しみつつ、階段を降りた先。想定なら3階層より少し狭い4階層が広がっている筈だったそこには、大きな1つの扉が鎮座していた。そして他に4人居たはずのプレイヤーは全滅していた。南無。
「つまりこれは……もうボス戦になるんですかね?」
「だろうな。触れば情報出てくるぞ」
そうヴォルフさんが言うので大きな扉に触れてみれば、ここだけはゲームらしくウィンドウが展開された。
《ダンジョンボス : 三界跨ぎし蠱独の蜈蚣Lv80》
《現在のPT人数 : 1 挑戦しますか? Y/N》
《注意 : このボスは超大型ボスです。10〜20人前後のPTで挑むことが推奨されます》
予めプレイヤーに警告するほどのボス。それにどうやら今回に限っては、しっかりとパーティを組まなければ挑戦はできないらしい。
『うわ、面倒そう』『やっぱり外れダンジョンじゃないか!』『(やめても)ええんやで』『それでもやっぱり挑戦するよなぁ!』
「文面から察するに、多分これムカデ型のボスですよね。図体がでかい。ぶっちゃけカモでは?」
「奇遇だな朧さん、俺もそう思っていた」
俺は何処に自爆特攻しようがダメージと状態異常を累積させられて、蠱毒と孤独を掛けているらしい名前からしてヴォルフさんの常時バフである悪属性特効が働く可能性も高い。であれば、挑まない理由なんてあるわけがない。
「じゃあちゃっちゃとパーティ組んで、3階層での恨みぶつけましょう!」
「そうだな! あの犬どもの落とし前つけてもらわないとな!」
高速のパーティ勧誘、そして超速の承諾。今に限っては、ヴォルフさんと肩を組んで笑いあえるくらいには心が通じ合っていた。ランダムであろうと、あのクソ階層を作った運営に対する恨みは最高潮。今ならなんでもできるような万能感が、俺たちには満ち満ちていた。
そう、つまり爆発してしまったのだ。
内なる小学3年生ソウルが。友達と一緒にバカやって、遊び疲れたら眠るようなあの頃の何かが。
ニィッと懐かしい笑みを浮かべて、揃ってボスへの挑戦ボタンを叩き込む。当然すぐさま転送が始まり、暗く広いボス部屋に辿り着く。暗くてそこまで遠くまでは見えないが、何か大きな存在が蠢いているのは感じられる。
『Gi──』
「こんにちは、死ね!」
『直球すぎて草』『最速で、最短で、一直線な殺意』『ひえっ(虫怖い)』『画面を直視できない』
そのボスが口を開き、音を発した瞬間。その場所に向けて、最大限に生み出した分身を突撃、全てを大爆発させた。
点灯した状態異常の数は、獄毒が1421個、移動速度低下がMAXの1650個、呪詛が1522個に、畏怖が942個。最大HP・MP減少がそれぞれ1244個、裂傷が1600個。畏怖の掛かり方が少し少ないが、一回の自爆としては最大限のデバフを重ねられたと思う。
『は?(恐怖)』『は?(畏怖)』『コメ欄まで状態異常で草』『草』『なぁにこれぇ』『状態異常マーカーが、見たことない数付いてるんですけど』『は?』『どうしろと?』
コメントを見つつ即座に【ドミニオン】分だけ再分身。
それに一歩遅れるようにして、広い階層に松明が無数に灯った。その淡い光によって現れたのは、大型ビル程の横幅はあろう巨大蜈蚣。その全長に至っては、この小さな身体では計り知ることも出来ない。
「初手フルバーストしたので、20秒は任せます!」
「待ってたぜ! 百鬼夜行をぶった斬る、今宵の俺は血に飢えているぜぇ!」
『ヒュー!』『ヒュー!』『虎徹かな?』『装甲悪鬼がいる世界線だしなぁ』『RPは何処へ』『↑いつものことだろ!』
まあ、最大限にまで掛けられた移動速度低下と数は少ないものの掛かった畏怖のおかげで、その動きは余りにもトロいものだが。
「でも、ちょっとマズイかもしれませんね、これ」
けれど流石はボスといったところか。重なりに重なったスリップダメージで凄まじい勢いでHPは削れているものの、毎秒10個くらいの勢いで状態異常が治癒されてしまっている。
つまり一番長い移動速度低下が残り165秒、一番短い畏怖で94秒程しか状態異常が保たないことを示していた。……ん、いや、あれ? 分身のクールタイム20秒だし、割となんとかなるなこれ?
「やっぱり何とかなりますね。
ヴォルフさん! 嵌めパターン入りました!」
「ヒャッホウ! プレイヤーの権限において、実力を行使する!」
「なら俺も言っておきますか。お前のお宝頂くぜ!」
『警察戦隊違いで草』『怪盗(爆弾魔)』『イメージ壊れる』『それよりさっきからボス固まってない?』『シャケ』『アレはもうサンドバックだから……』『状態異常には気をつけよう!』
そうして童心回帰した精神で、ボスに恨みをぶつけること約30分。ほぼ全ての状態異常の累積個数が5桁の大台に乗った辺りで、ヴォルフさんの一刀によってダンジョンボスの……何だったっけ? まあいい、デカイだけの蜈蚣は一切の抵抗すら許されず、細かなポリゴン片へと変わったのだった。
《ダンジョンボス : 三界跨ぎし蠱独の蜈蚣Lv80が討伐されました》
《攻略履歴確認》
《ダンジョン踏破率80%》
《特記 : 累計状態異常個数50,000個Over》
《報酬が確定しました》
《ダンジョンから脱出しますか? Y/N》