(他プレイヤーのイベント攻略シーン)
これいる?
「お疲れ様でしたー!!」
「お疲れ様!」
『乙』『乙ウルフ〜』『乙ウルフ〜』『またコラボ待ってる』『コラボ面白かったー!』『UPO始めてみます!』
ボスであったムカデ、正式名称『三界跨ぎし蠱独の蜈蚣』を一方的に嵌め殺……ではなく、こちらに被害をほぼ出すことなく倒したあと。30分程雑談に付き合って、丁度いいタイミングということで2回目の配信は終わったのだった。
「今思い出したんですけど、そういえばボス戦、テンション上がって装備使うの忘れてましたね……」
「そうだな……俺も折角、オーダーメイドの剣持ち込んでたんだけどなぁ」
そして揃って、賢者タイムに近い何かに陥っていた。ボス戦の時は3層で溜め込まれたストレスも相まって、テンションがいい感じにトんで何かがキマっていた。
俺の場合、明らかにただの自爆より魔導書で魔法を連射してからの自爆の方が。ヴォルフさんの場合、剣を取り出して手数を増やした方が。存在を忘れていたとはいえ、全力と言いながら全力でないという大失態である。
「火薬以外にキマるとは、我ながら未熟……修行が足りませんね。やっぱり、噂の新天地で火薬キメなきゃ……!」
「朧さんの何がそこまで火薬に心を掻き立ててるんです?」
「爆発するから」
脳がスパークして着火した答えを即答する。まあ、こんな至極当然の答えは改めて確認するまでもないとしてだ。
「それより、配信中には確認しませんでしたけど……進化素材、揃ってますよね」
「ああ。いつ集まったのかは知らないが、いつの間にかな。多分あの犬っころ共だとは思うが……」
「まあ、進化できるならいいじゃないですか」
こちらもさっきドロップ品を確認するとき、進化可能の表示が出ていて初めて気がついた。となるとやはり、素材が集まったのはあの犬と……若しくは、超大型ボスを2人で倒した特別報酬か何かか。
「いえーい?」
「いえーい」
そんなことを話しつつも、いい感じに頭は空っぽである。だからこのように、ハイタッチ感覚で手を合わせようとした結果、ヴォルフさんの肉球に全身を押し潰される稀有な経験をすることになっている。
肉球はひんやりむにむにで、ただでさえ麻痺している思考力が更に削り取られていく。
「取り敢えず俺は進化します。ヴォルフさんはどうしますか?」
「あー……ちょっと待て。何かに使えるかもしれないから、動画だけ取る」
「了解ですー。あ、次いでですし俺も画角に入っておきます?」
「どうせならそうするか。頼む」
そう言って撮影の準備を始めたヴォルフさんを待ち、配信中にやったのと同じ段取りで進化のボタンに手を叩きつけた。
《ドミニオンワスプ・クイーンが選択されました》
《進化を実行します》
《ペットスキルが強化されました》
《ペットスキル【分身体上限+2】を獲得しました》
《進化特典としてスキル【蜜集め(女王種)】を獲得しました》
《余剰獲得経験値を確認》
《経験値プールより成長を実行します》
前回と特に何も変わらない演出に身を包まれ、なんの不備もなく進化が実行された。
ただ前回と違ったのは、目を開けずとも自分の身体が……感覚的に言うのなら、四肢がもう一組ずつ増えたような不思議な感覚が増えたこと。ステータスを見る間もなく自分の姿を見ただけで、その原因は一目で認識できる変化だった。そしてそれはまた、ヴォルフさんも同様だった。
「なんか、ゾイドっぽくなりましたねヴォルフさん。コマンドウルフとムラサメライガーのニコイチみたいな感じの」
「そっちこそ、子分みたいな蜂が増えてるじゃねえか。PvPイベントがあっても、絶対に相手にしたくないんだが」
俺の方は、少し翅が大きくなった気がする朧本体に、付き従うような小柄な蜂が5体常時追加されているように。ヴォルフさんの方は、より機械的になった狼が鎖を咥え、背中に一振り大きな刀を背負っているように変化していた。
また俺の方に限っては、またもや一瞬でレベルが上限の55にまで上がっていた。まだまだアスト貯金は尽きないらしい。
「まあ、直接ダメージは殆どありませんから。広範囲攻撃で全滅しますし」
「いや、あの地獄みたいな状態異常を見てそうは思わねぇよ」
「そんなこと言ったら、そっちだってプレイヤーが握る前提ならDPSヤバいことになると思いますよ?」
「当たらなきゃ意味ないんだよなぁ……」
このままでは平行線にしかならない。なんとなくそんな雰囲気なので、取り敢えず会話を打ち切ることにした。まだ配信が終わってそんなに時間は経ってないけど、ギルドに来てるだろう情報提供者を待たせてもいけない。
「それじゃあ、今回は本当にありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ」
「また何かあったら呼んでください、タイミングが合えば行きますので」
「こちらこそ、また遭遇したらよろしくお願いしますね」
そう最後はしっかりと締めて、俺はイベントサーバーからログアウトしたのだった。
◇
して。
通常サーバーにすぐさまログインし、ギルドホームに来ていた情報提供者と接触。因みに戦闘機乗りギルド【クロイカラス】のランディングギア担当の人で、いつだったかからのフレンドだった。
それはどうでもいいとして。例の極限環境マップの情報は、本来の相場だと50万程度で済むらしい。だが誠意として100万DほどPON☆と支払い、マップを共有させて貰った。
結果、判明したMAP名は【
場所は第6・7の街より西にある森と丘のマップを越え、その先にある海岸線と海を更に越えた先。到達した数少ないメンバーから新大陸と呼ばれている(らしい)場所に、この2つのマップはあるとのことだった。
敵の平均レベルは日中95、夜間100という現在のプレイヤーの上限レベルを15〜20も上回った修羅のマップとのこと。そのうえ、ありとあらゆる物が爆発するか発火する性質上、攻略がここで詰まってしまっているとも聞いた。そしてそのプレイヤーたちが、普段は関わることのない所謂ゲームストーリー考察組で、相当な苦労をして新大陸に渡り、セーブポイントになる街を建設しているらしいことも。
「まあ、そんなこと関係ないか」
新大陸に向かう為に必要らしい『大陸間往来許可証(100万D)』を特に苦労もなく購入し、本当なら行くのに必要である『大陸間輸送便(50万D)』を利用することなく、紋章で加速した愛車で海を突っ切り乗り付けた。そして新大陸で着々と作られている街で『無制限小規模プレイヤーホーム設置権(1回)(5000万D)』を購入し、今に至る。
やはり金。金が全てを解決してくれる。金金金と言ったとしても、騎士じゃないから恥ずかしくなんてないのだ。プレイヤーホーム設置権で全財産が1万Dまで減ったけれど、カジノで追い出し限界全額レイズからの、ダブルアップを重ねて1ゲームで1億ほど巻き上げてきたから問題もない。
まあ、つまり? 要はアレだ。
「テーマパークに来たみたいだぜ、テンション上がるなぁ~!!」
この目の前に広がる光景を目にするのに、金の力で損を全て帳消しにしたということだ。
なだらかな丘に生い茂るのは、背の低い草花と更に背の低い芝のような草。そこだけ見ればなんの変哲も無いマップだが……咲き誇る花は、例外なく毎秒爆発していた。
適当な小石をマップに放り投げれば、芝に小石が飲み込まれた瞬間火の粉が吹き上がる。その吹き上がった火の粉が、爆弾になっているらしい花に着火し爆発。その爆風でまた火の粉が舞い上がり爆発。さらに別の花が爆発し──と、その無限連鎖が起きているらしい。
『喜、感動、理想、巣、造』
奥にあるという【
「【
今のところ、パンダも笹食ってる場合じゃねぇと走り出すレベルだ。ここをキャンプ地とする! 天候も初めてみる名称の【燎原】という物が表示されており、採取できるアイテムから何から興味が湧いて仕方がない。
急ぎのあまり、れーちゃんにしか話は伝えてないけど……まあ、毎日爆破してるビルの建材取りに帰るし、セナ達にはその時話せばなんの問題もないか!!!
「出現してるモンスターは……朧と同系統の蜂が無数、見え辛いけどしぐれさんの所にいた虫系も多数。多分ゴースト系の敵もいるか」
燎森の方は兎も角、この燎丘は虫系+ゴースト系のモンスターが主流らしい。単純に高レベルで的が小さく、数も多く爆発する敵が多い。しかも自爆が一度発生すれば……いや、多分歩くだけで、花が無くなるまで無限の爆破連鎖が発生する。攻略が止まるのも納得の
「さて。朧、警戒お願い」
『了』
なんにせよ、動かないことには始まらない。
朧に警戒を任せつつ、フードを被りステルス機能を作動させる。そのまましゃがみ込み、全身全霊の力を込め芝の一部を引き千切る。何故か飛び散らなかった火の粉に疑問を感じつつ、採取出来たアイテム名は【噴火芝】。掘り返した土は【爆薬土】、摘み取った花は【炎爆花】、どれも何とも直球で面白みのないネーミングだ。意識してない為かレアアイテムでもない。爆発するから文句はないけど。
「【空間認識能力】最大化」
目を瞑って認知範囲を全開にすれば、その3種類のアイテムを基本にしてまだ無数のアイテムが存在していることが認識できる。
充実感と刺激される冒険心、そしてこんなんじゃ満足できねぇぜ!と吼える爆破心をグッと抑え込み、息を潜めてガッツポーズを繰り返す。やっぱこの……爆破って、最高やな!!!
「すぅぅぅぅぅ………あ、メール来てる」
火薬の香りを嗅ぎ、語彙力を燃料に爆発していた思考回路を現実に引き戻したのは、あまり聞くことのないゲーム内でのメール受信音だった。
内容は……セナから、配信も終わったし一緒にイベントやらない? とのこと。一緒に遊ぶのは当然だけど、まだ暫くはここに居たいし、夜ご飯食べた後でいいならと返信しておく。
「いざ、プレイヤーホーム建築!!」
『助力』
であればやることは1つ。また一からここまで来るのは面倒極まりないし、取り敢えずセーブポイントの建設に取り掛かろう。場所は燎丘と燎森の境目がやっぱり良い。
高い買い物だったのだ、無駄にしてはいけない。そんな建前の元、この場所を独り占めする為、鼻唄を歌いながら物件の物色を始めたのだった。
カットされた諸々
ーゲームストーリー考察組ー
ユキは始まりの街での活動をブッチしてボス討伐に行ったので、これっぽっちも触れていない為本作でも触れてないが、一応存在するUPOストーリーの攻略最前線を走る奴ら。
下手をしたら検証班より正確な敵情報を挙げている。
ギルド的には、モトラッド艦隊UPO支部、クロイカラス、イオ君のところ等が大規模かつ考察組となっている。
ーゲーム自体を楽しんでる組ー
ストーリーを追ってる人もいれば、追ってない人もいる。単純に友人や知り合いと、超技術で作られたUPOを遊んでいる組
主にバグや不具合はこっちから発見される。
ギルド的には、すてら☆あーく、極天、しぐれさんのところ等が主だったもの。
ーカジノ編ダイジェストー
ユキ「俺は速攻魔法、ダブルアップチャンスを発動!(10連)」(1億ほどに資金が回復)
カジノ「カエレ! やっぱりお前出禁な(2度目)」
そして本文には載せなかった現時点での朧ちゃん
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Name : 朧
Race : ドミニオンワスプ・クイーン
Master : ユキ
Lv 55/55
HP : 3000/3000
MP : 2400/2400
Str : 200 Dex : 200
Vit : 130 Agl : 650
Int : 70 Luk : 70
Min : 130
《ペットスキル》
【状態異常攻撃 : 壊毒】
HPスリップダメージ(極大)
確率でVit減少(極小)
【状態異常攻撃 : 足枷】
移動速度減少(大)
確率でAgl減少(極小)
【状態異常攻撃 : 祟り】
状態異常耐性低下(大)
【状態異常攻撃 : 畏怖(中)】
確率で行動不能・確率で自傷
確率でStr・Int減少(極小)
【儚き栄華の灯火】
HPを0にし、現在HP×1.5分の倍のダメージを与える。範囲は(半径威力/100)×1.5mまで(任意選択)
【ドミニオンⅡ】
自身の最大MPを半分にし、自身のステータスと同等(HPMPは半分)の実態を持った分身を自身のLv体作り出す。
効果時間 : 分身が全滅するまで
【分身体上限+1】
分身体の上限を+50体する
【分身体上限+2】
分身体の上限を+50体する
《スキル》
【真・影分身】
自身のMPを1割消費して、自分の半分のステータス(HPMP含む)の実体がない分身を5体作り出す。
効果時間 : 戦闘終了まで
冷却時間 : 20秒
【ドッペルゲンガー】
自身と同じステータスを持つ扱いの実態のある分身を作り出す。分身の維持には毎分100のMPを支払う。
また、分身出現中に受けたダメージは全て分身が受ける。分身のHPが0になったとき、このスキルは解除される。
冷却時間 : 20秒
【多重存在】
攻撃のヒット数を3増加する(1ヒット辺りの威力は4分の1に減少)
【状態異常攻撃 : 裂傷】
HPスリップダメージ
【状態異常攻撃 : 最大HP減少】
【状態異常攻撃 : 最大MP減少】
【状態異常累積化】
同じ状態異常が被/与ともに累積するようになる。ただし状態異常攻撃による付与率を50%低下させ、効果時間を一律180秒へ変更する。
【蜜集め(女王種)】
配下の蜂を常時5体呼び出す。ステータスは自身の1/6(小数点切り捨て)で、自身のスキルに連動して同スキルを発動する(同名スキル再発動時間は一律60秒)
自身の巣(設置オブジェクト)から一定時間毎にアイテムが採取可能になる。アイテムは周囲の環境によって変化する。
現在の採取可能アイテム : 2種
・高純度液体爆薬『
・高性能可塑性爆薬『
《装備枠》
アクセサリー : 沈黙の呪印 改
・状態異常攻撃 : 沈黙(中)
確率で呪文の行使を失敗する