流石に何度も表彰式を行うなんてことはないらしく、決勝戦後に表彰台に上がったりなんてことはなく、決着と同時にアッサリと初回トーナメントは終わりを告げた。あったものと言えば、ちょっとしたファンファーレと、観客席からの声くらいだった。
「いえーい!」
「イェーイ!」
それでも、極振りじゃない状態でここまでやれたのは嬉しい。称号も【PvPパーティ部門優勝者 1st】と簡潔でいい。込み上げる感情のままに、ピシガシグッグッとイオ君と互いに手を打ち鳴らす。そのまま勢いでハグまでいって、なんか顔を赤くしたイオ君を見て今はTSしていたことを思い出す。
「どうします? もう少しアピールしますか?」
「あ、いえ、も、もう大丈夫です」
明らかに照れてるし、顔も赤くなっている。確かに
『さあてここで、優勝者カップルにインタビューだ!
イチャイチャてぇてぇはもういいぜ、コメントかもーん!?』
なんてことを考えていたら、テンション高めの司会をしていた運営の人が言ってきた。中継モニターはどアップ、多分マイクも既にONだから下手なことは言えないか。
「えっと、その、私は後ろに立ってただけなので、凄いのは全部イオ君だと思います」
「はぁ!? ちょっと待っ──」
『可愛い彼女さんを守りきったメイドさんから一言どうぞ!』
「彼女じゃないですけど!?」
観客席側から無数に聞こえる指笛と歓声。そして背筋に走る悍ましいレベルの悪寒。ダメだこれ、やばい、ふざけ過ぎた。
「それにそもそも、後ろで突っ立ってただけなんてでまかせも良いところじゃないですか! 皆さんも見てましたよね!? あの精密射撃とエグいデバフに補助魔法!」
そうだそうだ、もっと言ってやれと沸き立つ野次。反比例するように増加していく悪寒。あかん。それでもとりあえず、嬉しそうな、困ったような笑顔を浮かべて、観客席には手を振っておく。
美少女流、困った時にとる対応その1。取り敢えず可愛い女の子は、困った時は笑顔を浮かべれば何とかなるのである。
「そう、ですね。ほんの少しは私も役に立ってたと思います。あ、でも、私は心に決めた人がいるので、彼女ではないですよ?」
だが残念だったな、微妙に露出が多めの衣装に粘っこい視線を向けてきたおっさん達。手前らの脂ぎった視線は見慣れてるんだよ。こっちは、何年セナと一緒にいると思ってる。今は空間認識能力も全開な以上、顔とプレイヤーネーム覚えたからな〜? 要注意客のリストにぶち込んでやるぜ。
あとそれとは別に純粋な視線を向けてきた、半ば巻き添えの人たち。そっちは夢を壊してごめん。でも可愛い女の子には大体彼氏がいる、それが摂理なのだ。少年よ、これが絶望だ……
「イオ君とは、理解があってかつ予定も無かったのと、戦法の相性が良かったので出てみただけですから」
ここまで言って、ようやく背筋に走る悪寒は消えた。ただ、こう言ってしまっては何だが、この発言は燃えるだろう。だからこそ、まだ自分に流れがあるうちに先手を打つ。
「それでも、こうして勝ちあがれたことは本当に嬉しいですし、運も良かったと思います。映えある第一回を戦ってくれた皆様、それに応援してくれたみんな、本当にありがとうございました!」
丁寧丁寧丁寧に頭を深く下げて、顔を上げたら満面の笑みを浮かべて大きく手を振る。このままイベントをエンディングに連れて行く……正直、12時まで割と押してきてるし。
『ということで、優勝パーティ【百合花ァ!】の2人のコメントでした! 次回以降も盛り上がってくれよな〜!!?』
「「「「「Yeah!!!」」」」」
そんな意図は運営も読み取ってくれたらしい。良い感じに締め、綺麗にイベントを終わらせてくれた。ほっと一安心しつつ、内心ガッツポーズを決め、それら全てを外には出さずに闘技場から退出する。
無論、隠れ蓑としてしらゆきちゃんの評判を悪くしない為に、笑顔とサービスは忘れずに。序でに危険そうな奴らの目星もつけておく。優勝してしまったのはこの際いいとして、本来の参戦した目標は偵察なのだから。そんな当初の目的を思い返しながら、闘技場から脱出する前にイオ君を細い通路に連れ込んだ。
「さて、イオ君。これ装備してください。逃げますよ?」
「え? あ、出待ちですか」
「そうです。なんたって優勝者ですからね」
そして、普段ユキとして装備している外套を渡す。空間認識能力が全開な今、出待ちされているのが嫌でも理解できるのだ。わざわざそんなことで時間を取られたくはない。
「こうなるから、ユキさんには付き合いたくなかったんですよ……でもそろそろお腹空いたので、分かりました。装備すれば良いんですよね?」
「愛用品なんで性能はお墨付きです」
しかも服装備だから誰でも装備できる。やっぱりれーちゃんは最高だ。なんてことを考えていたら、イオ君が見慣れた草臥れたコート姿に変わる。よし、案の定結構サイズがぶかぶかだ。
「失礼しますねっと」
「ひあっ!?」
そしてそのまま、背中側に潜り込む。一回れーちゃんと検証した時に、この状態でステルスすれば巻き込んでステルス出来るのは実証済。これが脱出のための最善手である。
「このままフード被るとステルス状態になります。あんまり出てくるのが遅いと、逆に怪しまれるので早めに」
「え、あ、あっ、あの。凄い近いし、なんか女の子の匂いがするし当たってるんですけど!?」
「なにテンパってるんですか。元は俺ですよ?」
なんか反応が面白かったのと、隠れ場所的な問題で囁くように言う。と言うかこのあと、二人羽織状態じゃ動けないからおんぶしてもらうつもりなのに、これでは困る。
「やめて下さいよ!? 僕をTSっ娘でしか勃たないようにするつもりですか?」
「……してあげましょうか?」
だがしかし、そちらがそんなことを言うのならば、こちらも抜かねば……無作法というもの……元男ということは、相手のして欲しいことが分かるということ。ならば後は、それを実行する尺度の問題だ。それも本気でやれば解決する。つまりTS娘は最強、Q.E.D証明完了。
ただし俺の場合は……気の許せる男子の友人より沙織の方が距離感近いし、藜さんにはストレートに好きって言われてしまった以上TS娘は刺さらないが。でも確か、TSした自分って理想の相手らしいし5本の指には入るんじゃなかろうか。知らないけど。
「くっ、ふざけるのも大概に……さっさと脱出しますよ!」
「引っかかりませんか……つまらないですね。じゃあ、二人羽織では歩けないんでおんぶお願いしますね」
「ええ分かりましたよ! 連れてってあげますよ! どうせ後戻りはできないんです、連れてけばいいんですよね!」
因みに無事脱出には成功したが、後日イオ君の性癖は見事に捻じ曲がっていることが確認できた。TSっ娘×女装男子とか業が深いと思います(他人事)ただまあ、流石に悪ノリでやらかした気がするから……責任を取って、そういう同人誌を書く人の作家さんを数人紹介しておいた。存分に沼に沈むといい。
◇
そんなことはありつつも、取り敢えず街の外にまで脱出して爆弾を飲みこんで自爆。火薬の香りを漂わせながらリスポンして、状態異常とTS状態を解除しつつ気分良くセナと藜さんに合流した。そう、合流したのは良いのだが……
「ねぇユキくん。さっきのパーティ部門の優勝してた女の子なんだけど。あれ、ユキくんだよね?」
「それも、多分、私とセナさんっぽく、振る舞って、ました」
「はい、はい……弁明の余地もございません」
絶賛、頭を下げていた。勝手にトーナメントに参加してたことに対しては特になにも言われなかったけれど、やっぱりあの変身はダメだった。多分ギルドメンバーには一発でバレると思っていたけど、案の定である。
「装備はれーちゃんの協力だと思うけど……まさかユキくんにTS願望があったなんて」
「どうりで、私たちに、靡かない、訳です」
弁明しかできない。でもあれは半分れーちゃんとの悪ふざけで完成しただけであって、TS願望は……ないこともないけど違うのだ。というか男子なら一度はそういう願望はあるはずだ。ではなくて。
「でも、最後に心に決めた人がいるって言ってくれたから許す!」
「多分、私たちの、こと、でしょう、から」
2人して仲よさげに「「ねー」」と笑い合う姿は、つい昨日までバッチバッチと火花を散らしていたとは思えない。多分この光景も、動画に纏められるんだろうなぁ……この前、某動画サイトで見たもん。【UPO】浮気がバレた極振りシリーズ part3まで。多い、多くない?
「とはいえ、今度久々にユキくんのリアル女装みたいかも?」
「あ、それ、私も、見たい、です」
「じゃあ今度、3人で出かけよっか!」
拒否権はなかった。まあ、うん、諦めよう。レディースデーだったり、服とかのショッピングじゃないことを今から祈っておく。流石にレディースデーですよねと言ってくれる人に、面と向かって男ですと言うのは辛いし。あとナンパと痴漢とセクハラマン。どうしてセナだけじゃなくて俺にも来るのか。
「それはそうと、私は、しらゆきちゃんとも、一緒に、冒険、してみたい、です」
「んー……あんまりユキくんはバレたくないみたいだし、そっちは私は遠慮しようかな。ユキくんもそれで良い?」
「え、あ、うん。それで良いよ」
良くも悪くも、セナは影響力が強すぎる。β版からやってて、昔も今もトップギルドのギルマスかつ、UPOの回避盾最強理論の体現者。目立ちたくないしらゆきとしては、正直一緒に行動はあまりしたくないのが本音だ。
逆に藜さんの場合、なんだかんだで有名ではあるものの、すてら☆あーく唯一の本サービス開始後の参加メンバーである。もし一緒に行動しても、昔の知り合いで誤魔化せる。しかもその後なら、すてら☆あーくに入り浸っていても……あれ、逃げ道潰された?
なおこの後ギルド全員で参加したパーティ戦トーナメントは、少数精鋭ギルドの面目躍如と言ったところか。特に一切印象に残るシーンもなく、ただただ圧倒的な蹂躙で終わったのだった。6人に勝てるわけないだろ!
【PvPパーティ部門優勝者 2nd】、序でにゲット。
作者はTSしてみたいです