【すてら☆あーく】フルメンバーで挑んだパーティ戦トーナメントを、大まかに表すとこうなる。
試合開始
→遠距離武器殺し(俺)と足止め(つららさん&ランさん)
→味方バフ・デバフ、敵バフ・デバフの解除、妨害(後衛組)
→藜さんとセナが出撃
→試合終了
あくまで今回のイベントはポイント制。だから出場して高順位に挑戦する事自体は吝かではないのだが……そう、ないのだが……相手がユニーク称号持ちでもなければ、張り合いがないのも実情だった。
実際、何も悪いところはないのだ。遠近物魔強化弱体回復固定ダメ特殊ギミック対応性にメタをぶち抜く特化性……自画自賛じみてるけど、全部が高水準に整った少数精鋭パーティ。6人中4人がユニーク称号持ち、残り2人もやらかした行動的に次回ユニークがほぼ確定しているのだ。であれば、大規模イベントの時の様な物量戦なら兎も角、パーティ単位の競い合いではNo.1であってもおかしくない。
そんな自他共に作られているっぽい評価のせいで、全力で挑んでくる相手と敬遠球でも投げるように適当する相手しかいないのだ。しかも割合としては、後者の方が圧倒的に多かった。
長々と理屈は付けたけれど、つまらなかった。その一言に尽きる。
半分自惚れも入るけど、多分モトラッド艦隊の人たちとしか勝負にならないんじゃないだろうか。あそこはギルマスのZFさんがいる限り、Luk以外のステータスが通常バフと別枠で常時1.5倍になってるし、バイク戦術で強制的に乱戦にさせられるから辛い気がする。
ただまあ、そんな相手を待つよりは別に楽しんだ方が、圧倒的にゲームとして楽しいわけで。
「ねえユキくん! こっちの屋台、 ヘイル・ロブスター*1のフライが売ってる!」
「あっちは、ペット屋、みたい、です。正直、キメラ、みたい、ですけど」
個人戦に出たりなんだりはあるものの、まずはイベントそのものを楽しもうということになった。自然と全員で回るのではなく、つららさんとランさんれーちゃんのグループと、セナと藜さんあと俺の2グループに分かれることになったのは幸いか。或いは、明らかに関わらない様に、巻き込まれない様に、哀れみの目を向けてきたランさんを恨むべきか。絶対何か事情知ってたってあれ。
「「ユキくん(さん)はどっちに行きたい!?」」
「エビフライ食べながらペット屋見たいですね」
左腕はガッツリと藜さんにキメられて、右手は繋がれたセナの手が万力の様に固定している。被捕食者の気分。柔らかい、つまりこれ藜さん側にはハラスメント警告出てる筈。こっちにも出てるし。助け亭助けて。身動きが取れないんです。ヘルプ。抵抗権は、抵抗権は……ない? あ、無理ですか? そう……
なんて、脳内に浮かんできたツインサムズアップクソ親父に全力で中指を立てながら、なんだかんだで楽しく街を回っていたそんな時だった。
「ざっけんじゃねェよクソ運営が! 金と時間返しやがれ!」
能力の別
「別の機会にしますか」
「だね。わざわざ関わりたくないし」
「別の所、行った方が、楽しそうです」
全員一致で、目的地に背を向けた。当然、手を繋いだりなんだりも既にしていない。面倒ごとに巻き込まれるのは慣れているが、好き好んで巻き込まれたわけでもない。
「もういいだろ? さっさとチケット買い直して、ビルド元のやつに組み直そうぜ、な?」
「うるせぇ!」
だからさっさとトンズラしようとしたのだが……どうにも、そうは問屋が卸さないらしい。言い争う男の声。ズドムと響いた音は、アキさんのそれと同様の衝撃音。そして空間認識能力によれば、よりにもよってこちらに、何か人型の物体が超高速で飛んできていた。
「多分面倒ごとに巻き込まれるから、セナも藜さんも離れてたほうがいいかも」
「ん、りょーかーい」
「了解、です」
衝撃音と会話からして、多分極振り関係のことなのだろう。ならとりあえずは自分だけ、セナ達と一緒にいて余計な火種を作る必要はない。そんな考えが伝わってくれたのか、人混みに紛れるようにして2人の姿が消える。これなら、よっぽどの相手じゃなきゃ巻き込まないだろう。
「《減退》《障壁》」
念のため杖を装備して、減退で速度を殺したあと障壁で飛んできたものを受け止めた。やっぱりこれ、少し前までのアキさんと同じくらいの威力だなーと思いながら、一斉に避けた人混みの中を進んでいく。
「すみません、手荒な受け止め方になって。大丈夫でしたか?」
「ああ、ありが……極振り!? 悪い、今は隠れたほうが──」
珍しく純粋に心配されたことに驚いていると、割れた人混みの向こうからそれは俺を見ていた。
「どうして、お前達だけ!」
そして怒りの表情を浮かべ、非常にゆっっっくりとした速度でこちらに向けて歩き始めた。まるで爆弾が暴発しないように気をつけているような、或いは言動に微塵も合ってない情けない姿。そんなある意味見覚えのある姿を見て、大体の事情に察しがついた。
「なるほど、極振りにしちゃったんですねあの人。しかも多分
「確かに合っているが……どうして、こんな一瞬で?」
「あの歩く速度、どう見ても
これでも、未だに黒アストRTAをアキさんと更新し続けている仲である。最近、遂に80秒の壁を破ったばかりだ。10万再生行ってて地味に嬉しい。
それはともかく、そういうこともあって
「
「そう言われても、もうどうにもロックオンされちゃってますし……」
「幸運の、極振りィ……!」
なんかこう、もう手遅れな気しかしない。フルフルニィって感じのオーラまで出ちゃってる。まさに今にも暴発しそうな感じで──あっ、
「《減退》×30《障壁》×10」
盛大に力加減を間違えたのだろう。足元を大爆発させ、勢いよくこちらに向けてカッ飛んできた。速度的には……アキさんの5分の1以下程度だろうか? 正直あっちに慣れた身としては、あまりに遅過ぎるので苦もなく目の前で停止させる。
「通常ステから極振りにするとこうなるんですね……まあ、筋力極振りならやり易いでしょうし、頑張ればいいと思いますよ?」
まあ、戻らないものは戻らないのだ。自分のしでかしたことだし、受け入れるしかないと思う。極振りとしてのやりやすさは、多分一番やりやすいのが
「お前達は、お前達はまともに戦えるから! ボスみたいに強いからそんなこと言えるんだ!」
そう思っての最低限の慰めだったのだが、逆ギレされてしまった。障壁の効果時間が切れてなければ叩かれてたかもしれない。解せぬ。
「まともに戦えるって言われましても……俺の場合、全身を最前線装備にして最上位スキルで攻撃してやっと、レッサーラビットを一撃で倒せる程度ですよ? 逆に攻撃が直撃したら、HP2〜3割消し飛びますし」
取り敢えず目線を合わせて、今度は事実だけを言ってみる。実際のところ、極振りなんて言われても俺はその程度なのだ。正直凄く嬉しかったのだけど……聞いてないかぁ。
「爆破卿なんだから、爆弾使えばいいだろ!」
「あれ全部手作りなので……コスパ最悪ですよ?」
爆弾は本当に、少し前まで全部手作りだった。今は朧のお陰でかなり楽になったけど、まだ手作りしなきゃ消費に生産が追いつかない。
「あの刀も! 銃も! 魔導書だって!」
「イベント限定装備こそあれ、誰でも手に入るものですね。称号を除けばスキルも」
今回のイベントでも、魔導書以外は大半の装備が交換できる。あとは素材と練習あるのみな気がするのだが。
「敵だって、全部1発で!」
「一撃で倒せるのは全部自爆技ですね」
「どうかしたのか?」
関わったことに若干後悔しながら、懇切丁寧に説明していた時だった。人混みを割って、その人は現れた。軍服に7本も佩いた刀、顔に大きな傷がある金髪のプレイヤーといえば1人しかいない。言わずもがなアキさんである。
これ幸いと、知り合いらしきプレイヤーと一緒に事情を説明すれば、なるほどとアキさんは頷いた。
「──理解した、ならば先達として仔細教授しよう」
どうやら今は、RPのスイッチがガンギマリらしい。よくよく観察すれば、うっきうきのままアキさんは極振りに成ってしまったプレイヤーを担ぎ上げた。
「例え極振りを続けるにしろ、元に戻すにしろ、多少の役には立てるだろう。こんな塵屑のようなビルド、勧めはせんがな」
極振りに攫われる哀れな被害者の図。1ヶ月後、この連れ去られた男の子が炎を纏って自爆特攻する輩になることを、この時点ではまだ誰も知らなかった。
「すみません、なんか巻き込む形になってしまって」
「構わんよ。少々予定は崩れたが、俺たちのような運営に負担をかける輩が無駄に増えるよりは良い」
それもそうですねと頷いておく。実際、今も先輩方のクレームを付けられたりしてるのに、増えたら溜まったもんじゃない。
「ではな、爆破卿。明日のトーナメントで相見えること、楽しみにしている」
「勝ち進めれば、ですけどね。こちらも期待してます」
お互い切り札はあるとはいえ、相手も極振り。勝てる保証なんて全くないが、それでもそんな約束をしたのだった。
※この後めちゃくちゃデートした
次回、極振り対戦開戦です