幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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もう一作の方書いてて遅れました。だが私は謝らない。

極振り最弱 vs 最弱です


第159話 開戦!幸運極振り vs 器用極振り

 そんなこんなで、多少のいざこざはあれど終わった12/7、イベント1日目。そして訪れた翌日は……そう、極振りエキシビジョンマッチの日である。

 本当ならこういう時、ギルドのみんなから送り出されたりするものなのだろう。だけど、今回ばかりはそうは問屋が卸さない。何せ第1回戦。何せ相手は器用極振りのザイルさん。俺に唯一まともな勝ち目がある相手とはいえ、集中を切らした瞬間負ける相手なのだから。

 

「装備の耐久度よし、爆弾はフル装填、みんなの調子は?」

『良』

 

 話しかけて見れば、ペットのみんなは全員問題ないと返事をしてくれた。それならよし。俺自身も10分くらい瞑想したお陰で頭も冴えている。これなら、きっといい勝負をすることくらいなら、きっと出来るはずだ。

 あと今届いたメールを見るに、セナと藜さん達は観客席の最前列にいるらしい。元々ただで負けるつもりはないとは言え、ますます無様な戦いは出来なくなった。

 

「さぁて、気合い入れていきますか!」

 

『さぁさぁ、やってまいりましたエキシビジョンマッチ!』

 

『どうせお前らも見たかったんだろう? お前ら自身が最強だと、気狂いだと、見上げた先にいる奴らのガチバトルが!!』

 

『極振りの野郎どもの本気の戦いが!!!』

 

 パシンと両頬を叩いて、再度気合を入れなおす。

 そうして見つめる入場門の先から、わあっと広がり聞こえくる歓声と運営の煽り。

 

『第1回戦は器用度(Dex)極振りのトリガーハッピーザイル vs 幸運(Luk)極振りの爆破卿ユキ!

 どちらも圧倒的な手数が特徴の、本来ならば非戦闘組に属する奴らだ!!

 実は昨日の時点で挑戦して挫折した50人くらいのお前ら、見て見てえよなぁ!?』

 

 こんな戦いづらいどころか、ほぼ戦えない構成にそんなに人気があったのか。まるで訳がわからんぞ。けど折角なのだから、ここまで煽られておいて、それに答えなきゃゲーマーじゃない。予定とは違うことになるけれど、火薬を使って、いい感じにド派手な登場をかまそうと考えを巡らせていた時だった。

 

「かーごめかーごめ」

 

 運営の解説を叩き斬るように、普段のザイル先輩からは到底聴こえるべくもない、幼子のような声が会場中に響き渡った。

 

「かーごのなーかのとーりーは」

 

 次に聞こえたのは、逆に低く唸るような男性の声。やばいぞ、あの人此処一番の晴れ舞台だからって、RPに本気を出してきた。

 

「いーつ」

「いーつ」

「でーあーう」

 

 しかも原理が全くわからない。TS変身なんて切り札は抱えているけれど、ボイスチェンジャーとかで出せる声音ではない。それに最後の出会うの部分に至っては、男女の声が混成だ。

 

「よーあーけーのーばーんにー」

 

 そして幼子のような声とともに、闘技場の空に紅の月が浮かび上がった。

 

「つーるとかーめがすべった」

 

 問答でもするかのように男性の声が答え、黒い雲が空に立ち込める。

 

「うしろのしょうめんだーあれ」

 

 そんな不吉極まる鉛の空が、縦にパックリと割れていく。生物的なぬめりを感じさせながら開いたそれは、巨大極まりない怪物の瞳。同時に視界に表示された【天候 : 百鬼夜行】という文字が、これがただの演出なんかではないことを明瞭に表していた。

 

「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ」 

「きゃァァきゃっきゃっきゃきゃァァァ――!」

 

 そうして、12の龍のような物を周囲に浮かべながら、ザイルさんは空から現れた。いつも通りのボロ切れのような服に、仮面代わりの無数の呪符、長く伸び荒れ果て放題の赤い髪。そしてそこから覗く、空に浮かんでいるのと同じような、怪物染みた瞳。

 明らかに徹夜明けかそれに等しい、ノリノリのテンションでRPを行いながら闘技場にザイルさんは降り立った。

 

『勝手な演出を出しながら、ザイルの入場だぁぁぁ!!』

 

 困惑と動揺に満ちていた観客席から、その運営の言葉によって歓声が上がった。だがプレイヤーがやるには良くても、公式が言ったら終わりだからなのだろう。RP元は一切触れていないし、ざっと見た限り観客席で理解してる人もほぼいない。まあVR全盛のこの時代に、わざわざPCで何十年も前のゲームをやる人の方が少ないから仕方あるまい。

 

 そんな僅かな寂しさはともかく、この状況は些かまずい。すぐに登場しなければ冷めて萎えてしまうし、かといってこういう特殊天候は使った側に必ず利があるものだから。だから仕方ない、こちらも初手より切り札にて仕る。

 

「装備変更してっと」

 

 パチン、と指をひと鳴らし。それをキーにして、入場ゲートから所定の位置までのルートが順々に爆発を始めた。その爆発の中を、全ての装備を展開したまま、()()()()()歩みを進める。その度に、今着替えた呪いの装備によって再度天候を塗り替えていく。

 

 黒雲の立ち込める鉛の空を、殆ど黒と言って問題ない濃紺の空に。

 怪物の目の向こうにある紅の月を、まるで皆既日食でもしてるかの様な真っ黒な太陽に。

 おどろおどろしい雰囲気と気配の闘技場を、暗いのにある程度見通せる静謐な闇に。

 

 ただ、流石に後出しでは分が悪かったらしい。普段ならすぐに切り替わる天候の表示は【百鬼夜行50% : 死界50%】という見たことのない表示になっている。実際空には黒雲は立ち込めたままだし、月は黒と紅で太極図のように染め上げられている。気配感もどちらにも染まりきってない曖昧なものだ。

 

『ザイルの演出に負けず劣らず、爆破卿の名に恥じぬ爆破の中から派手にユキの入場だぁぁぁ!!

 だからなんでお前ら勝手に登場シーン演出するの!!?』

 

 そんな司会と観客席からの声を背に受けながら、大物っぽく見えるように歩きザイルさんと向かい合う。

 

「態々こうやって環境を塗り替えるなら、キリスト教の聖歌でも歌った方が良い気がしたんですけどね。流石にアレを真似できる気はしませんし、やりたくもなかったので」

「いいや、いいさ。俺の演出(あそび)に付き合ってくれただけありがたい」

 

 なんて会話を交わした直後、俺とザイル先輩との中間地点にPvP開始のカウントが出現した。昨日のパーティ戦では司会の運営の掛け声で始まっていたはずなのに、10、9、8、7と減少していく様子は普段のPvPと代わりない。個人戦だとそうだったのだろうか?

 

「ところで、さっきの二重音声ってどうやるんです?」

「アレか。お前も良く知ってるだろうが、黒アストの素材を使えば作れるぞ」

「なるほど。俺には作れそうにないですけど、今度依頼しますね」

「毎度あり」

 

 カウントダウンが進む中、それはそれとして気になっていたことを問いかけてみる。予想外の出費が出ることになったけど、100万くらいならポンと出せるし平気だろう。

 

「では」

「ああ」

 

 そうして、カウントダウンが0になり──

 

「「いざ尋常に、勝負!!」」

 

 双方の全力が激突した。

 

 

「オン・コロコロ。センダリマトウギソワカ──」

「朧!」

 

 最初に動いたのは、瞬き一回にも満たない差ではあれどユキだった。

 ザイルの周囲に蠢く12本のそれは、蛇のように動くが柄を有している。意思を持ったように波打つそれは、銃身のみとも言える銃が、フレームで幾つも繋がれ、玉簾状になっているものだった。またその先端部の銃身のみが、精緻な龍の顔となっている。

 ザイル自身が作り出した【銃蛇鋼鞭ヨルムンガンド】というその武器は、かつてはその一本一本に搭載されていた銃口は50個。ただし今回はペットとの共闘を前提としたおかげで、1.6倍の80にまでその銃口の数を増やしている。

 つまり、()()9()6()0()()()()()()()()()。当然普通のプレイヤーがそんな武器を持ったところで、使いこなせないどころかまともな射撃すら行えるか怪しい代物だ。ただしザイルは器用度(Dex)極振り、普通のプレイヤーと違い威力の追加補正はない代わりに、弾道の補正能力は異次元の域に達している。

 

「六算祓エヤ、滅・滅・滅・滅・亡・亡・亡ォォォ!」

「ヴァン、全開で!」

 

 対しユキが展開することのできる障壁数は、こと銃口を塞ぐような精密動作に限れば未だ600個が良いところだ。つまり、360門分の射撃はフリーにせざるを得ない。少なくとも生存率を上げる為に、搭乗者を護ることの出来るヴァンに乗り込むが──もう遅い。

 

 Q.試合相手はあなたのメインウェポンである銃火器を対策して、完全に無力化してきます。どうしますか?

 A.銃火器で勝つ

 

 そんな何処ぞの霊長類最強じみた問答を、対処できる限界を突破するという答えそのままに旧極振り最強(ザイル)は貫き倒したのだった。

 

「《障壁》!」

『爆』

 

 ただ当然ユキも、ただそれを成されるがままでは終わらない。何せこうなること程度、ほんの少し考えれば想定できる範囲内なのだから。

 当然のように600門の銃口からの射撃を無力化しつつ、特製の爆弾を抱えた朧が発射された銃弾の群で爆発し、それでも爆風を当然のように突破し、自動追尾の如くホーミングして飛来する射撃を手元の杖で弾く。

 

 反撃として無数の爆竹を、腰部の簡易ポーチからアイテム射出装置を操作し発射しつつ、最大数まで分身した朧がザイルに向けて突撃する。

 

「旨そげな夢をくれろ。その爆弾をわいにくりゃしゃんせ、なんてなぁ!」

 

 それに対して、ザイルを守るように空から巨大な腐敗した腕が降ってきた。人間1人程度なら鷲掴みにできそうなそれが、ユキの朧と同様ペットの分身であると誰が信じよう。青黒く変色している腕が爆弾や朧の分身と激突、地面に叩きつけるたびにひしゃげ、粘っこい液体をデバフとともに撒き散らす。

 

「お買い上げありがとうございまぁぁぁす!!

 何ダースお買い求めで?」

 

 そのデバフを積極的に引き受け、爆弾の投射速度を上げていくユキ。対応するザイル。それに対応するユキ、対応するザイル……と次の次の次の次のと、最初のジャブから段々とギアを上げていく極振りの2人。

 

「1グロスお買い上げだぁッ!」

 

 確かに戦力は拮抗し、見た目は派手で、運営の筋書き通りの展開がそこにはあった。観戦するプレイヤーとしての問題点を強いて挙げるとすれば、一定のレベルを超えたプレイヤーからすれば動きが遅いこと。しかしそれも、見易さという点において問題にはなっていなかった。

 

 故に運営のマッチングは、間違いなく成功であったと言えるだろう。ただ。そう、ただ1つ問題があるとすれば、()()()()()()()()()()3()0()()()()()()()()()()()()()

 

『……』

『あー……えー……これは……』

 

 そして、情報密度が高過ぎるうえ高速で進行する戦闘展開に、本来であれば盛り上げと解説に徹するべき司会が、全てに微塵も間に合っていないところだった。

 




なお勝手にプレイヤーは盛り上がってます

ザイルネキのペット1号のマグナくんは、まだAdventもされてないのでお留守番中です。

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