幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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本作の二次創作が増えました。いえい。


第160話 開戦!幸運極振り vs 器用極振り②

 そんな極振り2人による怪獣大決戦が始まるほんの少し前。観客席……引いては実況をする筈だった運営の周辺で、一部のプレイヤー達による乱闘じみたことが発生していた。

 理由は、実況権の奪い合い。各所に中継、某動画投稿サイトでミラー配信もされているこのエキシビジョンマッチの解説をすれば、当然知名度も上がるし一躍有名人になれる。血気盛んなプレイヤーがそんなチャンスを逃すわけがなかった。

 

「と、言うわけで! 今回の実況は私が頂いた!

 我が名はにゃしい! 極振りを生業とし、爆裂魔法を操る者!」

「早く解説してくれない?」

 

 だが、それを平定してこその運営である。

 即座に自身もログインして遊んでいた極振り対策室の女性メンバーと、意気投合して遊んでいたにゃしいを見つけ中継コーナーへと放り込む英断を下したのだった。

 

「そうですね。折角面白い『爆裂プリン』なる屋台があったと言うのに、無理やり連行されて来ましたからね」

「チッ、折角の休暇をなんだと思ってんだよ上は……」

 

 どちらからも、怨念じみた怒りを向けられる羽目にはなったが。

 

「兎も角、状況が間に合わなくなる前に解説しましょう」

 

 そんな想いには一旦区切りをつけて、にゃしいが解説のマイクを取った。

 

「まずこの戦闘、先手を取ったのはザイルです。まあ、お互いが得意にする戦法の差なのですが。

 ザイルは天候《百鬼夜行》を展開して960門の銃口でのフルバースト。対してユッキーは《死界》を対抗展開し600門の銃口を紋章でリアルタイムに封じつつ、残った弾は爆弾で散らした形でしょうね」

「驚いた。何時もあれだけ気が狂ったように爆裂してるのに、ちゃんと説明できる頭があったなんて」

「失礼な! これでも私、頭いいんですからね!?」

 

 効果音を付けるなら、むきーッ!とでなりそうな態度でにゃしいが言った。運営とプレイヤーは、所詮意気投合しようと結局のところ敵である。アプデとバグの発見及び悪用という点で通常プレイヤーですらわかり合えないのだから、況してや極振りなら然もありなんということだ。

 

「まあ、いいです。ところでこの【百鬼夜行50% : 死界50%】とかいうフィールドの状況、運営として説明してくれます?」

優先度(プライオリティ)が拮抗している状態だとままあるの。偶にフィールドでもあるでしょう、大型ボスが縄張り争いとかしていると。きっと会場にいるプレイヤーならわかるんじゃない?」

 

 そう、この天候が拮抗する現象は、最近の最前線では割とよく見る光景でもあった。とは言っても、あくまでよく見るのは新大陸。まだそちらへ足を運んでいないプレイヤーにとっては、まだまだ物珍しい光景であった。

 

「因みに《死界》の効果は、範囲内全てに常時4つのバッドステータスを付与する形ね。腐食、獄毒、祟り、汚染……後ついでに、一定時間ごとにアンデッドのmobがポップした気がする。元がイベント限定の特別地形だから、簡潔に言って立ってるだけで死ぬね」

「ほうほう、ならばザイルの《百鬼夜行》はどんな天候なんでしょう?」

「効果は確か、腐食、吸魂、祟り、汚染……死界同様に、こっちは一定時間ごとに妖怪のmobがポップした気がする。純プレイヤー産の天候で、ここまで完成度が高いのは翡翠だけだった筈」

「成る程、ようはザイルとユッキーは戦型が同じということですか。ザイルは攻め、ユッキーは受け……私の爆裂には関係ありませんが、観客席では性癖が爆裂しそうですね」

 

 勝手に掛け算を始める観客席、彼らは誰もザイルが実は女性であることを知らなかった。

 

「おや、動くみたいですよ」

 

 会場の一部から凍てつく波動が発生している中、舞台上で大きな動きが起こった。

 

 

 お互いにジャブから始まった全力の戦い。

 器用度(Dex)幸運(LuK)という間違いなく最弱争いせざるを得ないステータスの極致は、何故か手数と手段を増やすという同一の方向性へ進んでいた。

 ザイル先輩は銃口の数と銃弾の数という手数を。対して俺は障壁の展開枚数と爆弾の投射可能数という手数を。その他にも双方、行える攻撃の種類も拡張を続けている。それが実用に耐えるかという点は、一先ず無視するが。兎も角だ。お互いにメインウェポンの特徴は数である。そしてザイル先輩は生産職の最高峰であり、俺も爆弾製作という一点のみは最高峰に近い……筈。能力値的には少なくとも。

 そんなプレイヤー同士が、(資金的に)後腐れなく、全力で(物を消費しながら)、戦ったらどうなるか? その結果が、ほぼ予想通りの形でここに具現していた。

 

「まん・まんぜろく。まんざらく。四方のヒクミを結ぶトコロは、気枯地にてミソギに不良(ふさ)はず」

 

 上機嫌のザイルネキが放ってきた攻撃は、器用度極振りの本懐を遂げたと言っても過言ではない異常攻撃だった。

 射撃を許した360門から放たれた弾丸は、全てが高性能の音響弾。音という振動を撒き散らすそれらは重なり合い、共振し、増幅され、まるで指向性を持った局所的な地震のようにこちらを揺さぶってくる。

 

「持ってけダブルだ!!」

 

 対抗してテンションのままに叫びながら、簡易ポーチを展開させ愛車の上に立ち上がり、1スタック分の爆竹を発射し起爆させる。そんなMEGAでDEATHなPARTYによって無理矢理に安全地帯を作りながら、右手で銃杖(新月)を構えて、受け続けたデバフが反転したバフによる幸運のゴリ押しに任せ、反動軽減の分だけ雑に紋章を展開して引き金を引き絞る。そうして吐き出されるホーミング付き手数の暴力を、1発1発正面から同じ銃撃で撃ち落としてくる挙句、跳弾に跳弾と跳弾を重ねて、こちらが放った銃弾をそのまま跳ね返してくるあたりマトモじゃない。

 どこの技のデパートか。

 内心そんなツッコミを入れながらもコンマ数秒で切り捨てて、予想通りの地点に跳ね返された銃弾も利用して紋章を描写。分類としては闇属性強化の範囲付与でしかないが、こと《死界》や恐らく《百鬼夜行》でに限っては別の結果を齎すそれを地面に叩きつける。

 

「グラズヘイムにご案内!!」

「滅・滅・滅・滅・亡・亡・亡!!」

 

 瞬間、大地(死界)からは無数の骸骨の群れが、天空(百鬼夜行)からは無数の妖怪の群れが、それぞれがそれぞれを目指して湧き出した。

 人の骨が、敵mobらしき鬼のような骨が、獣の特徴を持つ骨が、竜の特徴を持つ骨が、次から次へと天を奪うべく昇って行く。大百足が、山犬が、白骨化した馬が大蛇が、次から次へと火砕流のように天から逃げ地に殺到する。

 

 当然このmob達は、呼び出すだけ呼び出しはしたものの味方じゃない。倒して経験値が得られるかは知らないけど、ペットや召喚系のスキルとはまた別の独立したmobである。フィールドに出てくるものと何ら変わらず、基本的にプレイヤーにも敵意を向けてくる。が、

 

「良い壁が出来たなァ!」

「良い足場ですよねッ!」

 

 そんなもの関係ない。ザイル先輩は曲射や跳弾の壁として、俺は紋章なしに空中を走る為の足場として、全力で利用を始め戦場が拡大した。

 結果、辺り一面は更なる混沌の地獄絵図と化した。

 空から降るザイル先輩のペットである巨大な腕は敵味方問わず全てを叩き潰し、俺がばらまく爆弾も同様に敵味方問わず全てを吹き飛ばす。中空ではその間も銃弾と銃弾がぶつかり合う火花が散り、愛車(ヴァン)が描く軌跡で描く紋章は完成間近に崩される。逆にこっちはザイル先輩の必殺になりそうな動きは先読みして潰しているし、今正に爆破で12の龍のうち1つをなんとか吹き飛ばした。

 

「けど良いんですか? RP的には、俺が大切なものを差し出さなきゃ倒せない気がッ、するんですけど!」

「そりゃあ、拘りたかったがな。ここはゲームだ。一体どんなステータスを参照して、忠の心を判断すんだって話だ!」

 

 一気に80門銃口が減ったおかげで、数瞬前までと比べるとあまりにも全てがやり易くなった。こうして、まともな会話ができるくらいには。それに言っていることは一理も二理もある。RPは大切だけど、ステータスとして参照できない値なんてどうしようもない。

 

「だからこそ、俺自身が忠を置くものをトリガーにしてある」

「つまり?」

「そう、金だ!!」

 

 瞬間、跳ね上がる弾幕密度。銃口は80門確実に削ったはずなのに、さっきまでの、1.5倍程の銃弾が一気呵成に放たれた。いきなり加速した戦況に対応するのが一瞬遅れ、20発程の弾丸が直撃する。愛車(ヴァン)がダメージを引き受けてくれたおかげで死んでいないが、それでも爆発する弾丸のせいで大きく吹き飛ばされた。お返しで叩きつけたはずの爆弾は、近距離だったせいで龍首の1つに弾き飛ばされた。

 

「金はありとあらゆるモノの代用品になるからな、少なくとも俺にとっては一番大切だ」

「それ、別のRP混ざってません?」

「知るか。だが、よくやるなお前も。一定以上の金額がかかってない武器やアイテムじゃ、本来龍の首は落とせないんだぞ?」

「はっ、そりゃあ素材が全部ユニーク素材ですからね!」

 

 ただ、流石に反動があったのだろう。5秒ほど明らかに射撃の密度が低下して、遂にこちらのデバフが届いた。所詮極振り、状態異常への耐性なんてものは存在しないのだ。全ステータス-60%と命中率低下、そして暗闇の状態異常を掛ければ──

 

「みぃーつけたぁ、キヒ」

「ロールプレイの緩急ッ!」

 

 なんて予想は、当然の如く覆された。銃撃は逆に精度を増し、時に稲妻の様な軌道すら描いて飛来する。視覚に関しては、そもそも空間認識能力がある時点で期待していなかった。けれど、全ステータス6割カットの状態のはずなのに……いや、よく考えれば8000もあれば十分か。90度以上の角度で弾が曲がらなくなっただけありがたい。それだけで、この弾のカーテン(メタルストーム)の中での生存率は上がるのだから。

 

「とはいえ……流石に、厳しいか」

 

 そろそろ、決着を付けに行かないと不味い。爆弾のストックがかなり心許ない数になってきた。残りは大凡半分。一度ギルドホームかマイホームに帰れば補充出来るけど、割に合わない数値である。というかこのペースで消費していたら、もし勝ち抜けた場合に爆弾が使えなくなる。

 逆にMPとHPは常時高水準のリジェネが掛かっているのと同様だから、あんまり気にする必要はない。ただその消費先がほぼ銃の封じ込めに当てられているせいで、思うように一撃必殺が打てない。けれど封じ込めを疎かにしたら、リスポンの限界まで撃ち殺されるのは目に見えている。

 

 どう考えても長期戦ルートである。だかもしそうなれば、生産職としてアイテムの所持枠を拡大しているザイル先輩に分が上がる。これは……早速、後衛プレイヤーとしての切り札を切らざるを得なさそうだ。

 


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