幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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爆薬令嬢……?
それはそうと、ここすきボタンなるものが実装されたんだとか。
閲覧設定からONにして、スマホだと好きな行をスワイプ、PCだとダブルクリックでボタンが出るみたいなので、感想書くのは……って人でも応援できるらしいですよ!


第161話 開戦!幸運極振り vs 器用極振り③

 妖怪、銃弾、骨、破片、爆弾、銃弾……要素を上げることすら大変な、混沌の坩堝と化した地獄めいたこの戦場。その見た目の派手さに反比例して、どこまでも地味なアイテムリソースの削り合いの様相を呈している。

 このままでは間違いなくジリー・プアー(徐々に不利)、ツキジめいた惨状をさらに拡大するだけで、これ以上続けてはお互い次の2回戦にも支障をきたすことは間違いない。

 

 だが、その程度で止まるようでは極振りなんてやってられない。しかし同時に、そういうリソース計算が出来なきゃゲームなんてやってられない。極振りなんて尖りに尖った構築(ビルド)なら尚更である。

 

 結果、訪れるのは小康状態。

 

 数瞬前までが十割での殺し合いなら、今は精々が3割から4割程度の殴り合い。止まらない《百鬼夜行》と《死界》のぶつかり合いによる余波と流れ弾を蹴散らせる程度に留まっている。

 

「どうしたんですか先輩。随分とお可愛い弾幕になってきましたけどぉ?」

「それを言うなら手前こそ、頭の火薬が足りてないんじゃねぇかぁ!?」

 

 結果、お互いに必殺を繰り出す準備を行いながら、自然な流れとして軽いレスバへと発展した。無論お互いに、というか観戦している人達も、これが嵐の前の静けさでしかないことは重々承知している筈だ。

 

「そりゃあ今は、どちらかと言えば“いあいあ”してますからね。アキ先輩じゃないですが、『創生せよ、天に描いた星辰を──』ってやつですよ!」

「煌めく流れ星どころか、正しい星辰を揃えてるあたり最悪だがなぁ!」

「そっちこそ、銃弾を粒子加速器ばりに回してるじゃないですか。そろそろ目で追えない速度になってきたあたり、もう馬鹿なんじゃないですか?」

「旧必殺スキルの手動再現のために、どうしても数と速度が必要なんでなぁ!」

 

 何せ現在進行形で、空には魔導書の軌跡による不気味な発光を伴った星辰が描かれて続けており、この闘技場の壁周辺には帯のように連なった無数の銃弾が跳弾を繰り返しながら旋回しているのだから。

 

 ただ先程までと違うのは、お互いに妨害を差し込んでも最早意味をなしていないところ。射撃で妨害されようが魔導書を操作するリソースが十二分にあるから星辰は砕かせないし、逆に周回する弾帯に障壁を差し込もうが良くて10発程しか落とせない。

 よって、それぞれの必殺技が成立するまでの時間を競う程度の妨害しか、お互いに行わなくなっていた。なにせ嗚呼、必殺技は必殺技で打ち破ってこそだろう。

 

「Look to the sky, way up on high……見上げてごらん夜の星を!」

「残念ながら、RP元が大地の化身なもんでなぁ! あと死ぬ程音痴だが、大丈夫か……? 真面目に」

「くっ」

 

 自覚は出来ているせいで逆ギレも出来ない。真面目に心配されるレベルなのか……辛い。まあ、うん。それはもう、どうしようもないことだからいい。だけど、微妙に集中が乱された。

 

「考え事する余裕があるなんて、随分余裕かましてくれるじゃねぇか!」

「それはそっちが……おのれ盤外戦術!」

 

 うっかり牽制射撃を封殺しきれず、1発被弾してしまった。朔月のお陰でダメージはないけれど許すまじ。しかも一歩リードしていた必殺技の構築に並ばれてしまった。

 

 舌打ちをしながら視線を向ければ、かち合ったのは『抜け駆けは許さない』と言わんばかりの鋭い眼光。手招きしてくるその姿は、あからさまな挑発だった。ええいままよ。不意打ちじゃなくて、やればいいんでしょうやれば。

 

「お互い、準備は整ったみたいですね先輩」

「随分待たせて悪かったなぁ、後輩」

 

 天には不気味な星辰が描かれて、地には龍のように蠢く弾の群れ。そんな状況の中、一瞬だけお互いに手を止めて言葉を交わす。

 

 それが、開戦の合図だった。

 

「神には神をぶつけるって、相場は決まってるんですよ!」

「β版最強が今でも健在だってこと、見せてやるよ!」

 

 お互いに、まるで鏡合わせのように手で印を結ぶ。ああやっぱり、そのRPをしてるならそうくるだろうと思っていた。

 

「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅぐあ ふぉまるはうと んがあ・ぐあ なふるたぐん いあ! くとぅぐあ!」

「オン・コロコロ、センダリマトウギソワカ──六算祓エヤ滅・滅・滅・滅・亡・亡・亡ォォォ!」

 

 かっこいい詠唱代わりに、お互いなんかそれっぽいものを叫ぶ。

 

「「終段顕象!」」

 

 そして最後、示し合わせたかのように同じ文言を口にする。いや、RPもしてない身としては烏滸がましいけれど、お互いに楽しむことが第一だから問題なし!

 

「【神格招来】、来たれクトゥグア!」

「【廃神招来】、来たれ百鬼空亡!」

 

 変化は一瞬、ソレは一気に形を表した。

 

 ザイル先輩の周囲、散らばる瓦礫や機械の破片、屍肉に骨片、そして周囲を旋回していた銃弾の群れを全て呑み込み合わさり組み上がって生まれていくのは、蛇の……否、龍の首。それも、腐敗したような肉に骨の様な外殻と所々に鱗が付着しているようなもの。俺自身が破壊した2本を除いた10本それぞれが橙色の目を光らせ、グパァという生々しい音を立ててその口腔を晒した。

 噂に聞く、【廃神招来】というスキルだろう。確か効果は『アイテムを任意の数消費しその数と質に応じたモノを召喚、自身に憑依させ使役する。その際付与されるステータス、状態異常、特殊効果等は呼び出したものに対応する』というもの。継続時間を伸ばすために、あの弾帯が必要だったのだろう。

 

 逆にこちらは、天に描いた紋章が大きく燃え上がった。そうして現れるのは、異界に通じる召喚門。一目で強大と理解させられる炎を背景に、()()()()中に三つの花弁状の炎を見せる宙に浮かぶ炎環が割り込むようにして現れた。表示された名前は【The Elder Thing Yomagn'tho】、確認できるHPバーが20段はあるレイドボスだった。

 紋章術の最高位である【コート・オブ・アームズ】というスキルは、ぶっちゃけるとアキさんの【特化紋章術】やれーちゃんの【召喚術】系列よりも遥かに弱い。バフやデバフでは特化紋章術に質で劣り、攻撃手段や手数は召喚術系列に叶うはずもない。ただその代わりに突出した、汎用性という点がこのスキルを他と同列にまで持ち上げていた。即ち、ミリ単位で正確に紋章を描くことによる【特化紋章術】や【召喚術】等の派生スキルの再現。スキルによる成功率の保証や結果の確定といった補正は0%、あるいはマイナスになるが知ったことか。そんなもの、幸運でゴリ押して無理やり成功させればいい。

 

「なっ、クソ。SAN消しとばしやがって」

「ヴァン、エンジンカット! 【ステルス】【存在偽装】!」

 

 後は現時点での全MPを捧げて召喚したレイドボスから、逃げ切りつつザイルさんが倒されるのを待つのみ。捧げたMPは約3500、召喚可能時間は17.5秒、当然制御は不可。こういう場合でもなければ使いたくもない切り札は、確実に意表をつくことが出来ていた。

 

「ぶっ殺」

 

 けれど、見誤っていたのはこちらもだったことを、次の瞬間に実感した。システム的に完全に正気を失ったザイルネキが、背負う龍の首から無差別に攻撃をばら撒き始めたのだ。隠れている俺も、無限に湧き出す妖怪や骨も、呼び出したレイドボスも関係ない。

 レイドボスを除いた全てが、一瞬のうちに砕け散った。有象無象、一切の区別なく、俺を含めて何もかもが地震のごとき振動に粉砕された。

 

「……えぇ。マジですか」

 

 毎秒毎に砕かれる中見えたのは、この数瞬でレイドボスのHPバーが10本キッカリ吹き飛ばされている異様な光景。この前のミスティニウム解放戦、正直ザイル先輩なら参戦しても問題ないんじゃ? と思ってたけど、やっぱり隔離されるべきなのかもしれない。

 というより、これは些か不味い気しかしない。予定変更だ。対ザイルネキはプランBに変更する。『ねぇよそんなもん』なんて事はなく、しっかりと考えてある。少しばかり蘇生回数が不安だけど──接近戦を行うしかない。

 

 残り12秒

 

『ENCs0MYurr!!!??!?!!』

 

 そんなことを考えている間にもレイドボス……クトゥグアと言いながら、想定通り召喚に失敗して出来たヤマンソはHPを削られ続ける。あっ、ヤバイ目が合った。ここで食われるわけには行かないので、いい感じにザイルさんに射線を重ねる。瞬間、プレイヤー換算でAgl2000ほどの速度で移動し一息にザイルネキを捕食した。

 

 残り7秒

 

 同時に空間が燃え上がり、奇妙な幾何学模様の軌跡を描いて行く。もはや結果は覆らない、確実にザイルネキのHPは吹き飛んで──

 

「────まだだァッ!!」

 

 初めて耳にする、気合いの入った咆哮。正気に回復したザイル先輩によって、よりにもよってレイドボスが内側から爆散した。10残っていた龍首のうち8本を犠牲に、燃え上がった空間ごと吹き散らしてザイル先輩が蘇る。

 20段あったHPバーは全て砕け散り、(プレイヤー)が呼び出した物とはいえ、単独でレイドボスを10秒で撃破するという偉業……或いは運営の修正案件を成し遂げていた。()()()()()

 

「《抜刀・蜜蜂》」

「ごふっ……!?」

 

 決着は、ザイル先輩の心臓にあたる部分を貫通した仕込み刀が示していた。召喚したレイドボスによる目眩し。スキル【存在偽装】による1回限りのアンブッシュまでの潜伏効果。握る仕込み刀は、極振りが握れば最強のダメージボーナス(装備者の最大ステータス)である一品。

 

「信じてましたよ。この程度は突破してくると」

 

 そして使った(アーツ)殉教(まるちり)*1を除いた抜刀術の全バフを込めた、ゼロ距離指定の代わりに蘇生効果を貫通するもの。最近、色んな武器に実装された蘇生貫通系*2の新技だ。これを直撃させた時点で、俺の勝ちは確定した。

 

「馬鹿、な……お前、何処から」

「本来の俺のスタイル、アンブッシュからの爆破なので」

 

 グリッと刃を捻ったことで、ザイル先輩のHPバーが完全に0へと落ちた。【存在偽装】に限らずスキルによる隠密状態は、いかな【空間認識能力】と言えど探知できない物が多い。それでも普段なら、不自然な風の流れや埃、草の動きなどで察知出来るけれど、このタイミングなら別である。全力を振り絞り、レイドボスを撃破した直後の気の緩み……それを利用させて貰った。

 

「まさか、アゾられるなんて思わなかったぞ……」

「元より飛行機の予約などしておりませんので……とか言えばいいですかね?」

「RPはガッタガタだが……まあ、いいか。汝、一切成就祓と成るやァァッ」

 

 最後に綺麗なRPをザイル先輩が決めたところで、こちらも礼儀として刀を引き抜き一欠のポーズを決める。直後、技の効果で発生する大爆発。

 頭上に燦然と輝いたのは《WINNER ユキ 》の文字。それが1回戦を勝ち抜いたことを、疑いようもなく証明していた。体感でリスポンは残り10回行かないくらい……まさか初手からここまで追い詰められるとは。

 ギリギリの勝利だったと噛み締めながら刀を掲げれば、ブーイング6割歓声4割の声がスタジアムを包み込んだ。

 

*1
自爆技。打点を3倍、防御と蘇生を貫通する代わりに自分が即死する

*2
大体ゼロ距離指定。蘇生後のHPにまでダメージを与える




実はれーちゃんの【召喚術(異貌)】は召喚術派生じゃなくて呪術師派生です。

《抜刀・蜜蜂》
 抜刀術専用技
 消費MP1+任意のHP
 射程はゼロ距離、属性は武器に依存する。蘇生効果貫通
 突き刺した刀身にエネルギーを流し込み対象を爆散させる
 使用条件 : なし

 抜刀術気味に放たれる突き技。
 要はリボルケイン。

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