幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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本当は明日次話投稿予定だったけど、総合評価が10,000超えたのでこっちを優先して投稿。

時期的には73話以降なのでご注意を


記念番外編 れーちゃんと翡翠のどきどき☆くとぅるふくっきんぐ

 時間の針は少し巻き戻り、極振りがその力を見せつけたレイドボスバトルから数日後。貸切の表札が掛けられた【すてら☆あーく】のお店の中では、極めて珍妙な空間が広がっていた。

 

「ん」

「ん!」

「「ん、ん……ん!」」

 

 れーちゃんと翡翠。何が共鳴したのか「ん」一文字で会話することの出来る2人が、お揃いのエプロンを着けてキッチンを占領していた。その他にこの場にいるのは俺とザイルさんのみ。

 セナは料理の内容を知って藜さんを巻き込み逃げ、ランさんとつららさんは予定が合わず【すてら☆あーく】組は俺だけに。【極天】組はそもそも付き合おうという雰囲気すらなく、見届け人としてザイルさんだけが。そんな感じの組み合わせだった。

 

「なあ、今のなんて言ってたんだ?」

「最初に翡翠さんが『クトゥルフ』、次にれーちゃんが『3分クッキング!』、最後に2人揃って『ギルド【すてら☆あーく】と、【極天】の提供でお送りします』って言ってますね」

「マジか……」

「マジです」

 

 運ばれてくるであろう料理に戦々恐々としつつ、とても楽しそうな雰囲気の2人を見てまあいいかと納得する。なに、たかがSANが減るだけなんだ。trpgと違って週末にはMAXまで回復するんだし、どうってことない。

 なんてことを考えながら、銃の強化案と俺の専用装備のような物の設計案を組んでいく。れーちゃんが匙を投げた加工難易度の素材があるので、あとでザイルさんに送りつける予定だ。

 

「ん!」

 

 『今日の食材はこれ』と翡翠さんが言って取り出したのは、タイトルコール通り明らかにヤバイ物体だった。

 

 ドロリとした粘液を纏う、よく見てしまうと吸盤が存在することのわかる触手。未だ死ぬことが出来ていないのだろうか? 時折大きくビグンと動く小さくうねる触手が、翡翠さんの小さな手の上に出現した。

 

「ん」

 

 れーちゃんの『鮮度がいいですね』というツッコミに、はやくもこちらの精神は追い詰められる。現にSANの値がもう1減った。目を曇らせるこちらとは対照的に、目を輝かせるあちらはなんなのだろうか。コワイ。

 

「訳します?」

「いや、大体分かるからいい」

「さいですか」

 

 何か大変なものを引き合わせてしまったという後悔を他所に、目を輝かせる2人は調理に入っていく。

 といっても、触手とはいえ多分タコ足。最初は刺身にするようで調理自体は簡単なものだった。茹でて、どす黒く濁ったちょっと甘い香りのする液体から赤く茹で上がった触手を取り出し、れーちゃんが包丁でいい感じにカットする。

 

「ん!」

 

 れーちゃんがこっちに手を振ったので、象牙色の魔導書を1冊飛ばし、お皿と醤油と箸を2膳置いてもらい持って帰ってくる。2人はキッチンを離れずに済むし、こっちは動かないで済む素晴らしい手段だ。

 そうして手元まで運ばれてきたシャークトゥルフの刺身は、恐ろしいことに普通のタコの刺身にしか見えなかった。おかしい……何かきっと裏があるはずだ。同じ考えに行き着いたのか、醤油を垂らした小皿を持ち箸を構え、ザイルさんと俺の視線が交錯する。

 

「お先にどうぞ」

「いやいや、お前のギルドの看板娘が作ってくれたんだぞ? そっちが先なのが道理だろう」

「いやいや、材料提供はそっちじゃないですか」

 

 そう、始まるのは押し付け合い。どちらが先に人柱になるかという、醜い争い。勢い余ってAC(アーマード・コア)の新作が出てもいいくらいの静かな闘争。けれどそれは、俺の禁じ手によって決着が着いた。

 

「最初はぐー、じゃんけんぽん!」

 

 結果は当然、俺の勝ち。ははは、5000オーバーの幸運を舐めるでないわ。ついじゃんけんに応じてしまった時点で、勝ち目などザイルさんには存在しないのだ。

 

「くっ、謀ったな……!」

「それでも勝ちは勝ちですから、どうぞどうぞ」

 

 笑みを浮かべて俺が言うと、ザイルさんは震える箸でシャークトゥルフの刺身を摘み、醤油を潜らせ、口元に運ぶ。食べる直前一時停止し、けれどすぐに再起動して目を瞑り意を決したように口に含んだ!

 

「うっ」

 

 瞬間、胸を押さえて机にザイルさんは倒れ込んだ。ほらやっぱりだ、基本的に虚弱な極振りが耐えられる訳がなかったんだ。だけど、食べないわけには……

 

「嘘だろ、なんでこんなに美味いんだ……」

 

 そう葛藤している中ザイルさんが放った言葉に、動かなかった箸が僅かに動くようになった。嘘かもしれないが……その時はその時だ。刺身を食べて死ぬか、食べずにランさんに殺されるか俺にはその2択しかないのだから。

 

「ふぅ……」

 

 意を決して、シャークトゥルフの刺身を口に入れた。瞬間、味覚を圧倒的な情報が駆け巡った。そんなに高級品を食べたことのない俺でも分かる程の、圧倒的な新鮮さと濃厚な味がするタコ足。俺の貧弱な語彙では到底表現できない、圧倒的な味の暴力。気がつけば俺も、机に突っ伏していた。

 

「ん!」

「ん!」

 

 意図せずザイルさんと共鳴し、溶鉱炉に落ちるターミネーターの如くサムズアップすると、キッチンで2人がハイタッチしている姿を見ることが出来た。あれは良いものだ……

 

「ん!」

 

 なんて事を思っているうちに、『次は私が』と今度はれーちゃんが料理を始めた。卵(レア泥)を割り、よくかき混ぜたのち小麦粉(レア泥)、水(レア泥)、砂糖(レア泥)、塩(レア泥)、醤油(レア泥)などを入れ更にかき混ぜて行く。そしてどこからかたこ焼き機にしか見えないものを引っ張り出してきて、油(レア泥)を引き生地を流し込んで行く。そこに紅生姜らしきもの、ネギ(レア泥)が入り、天カスと桜海老(レア泥)が入り、シャークトゥルフが投入される。

 

「んー、ん!」

 

 そう、完成したのはたこ焼き。しかもレア度の暴力のおかげか、遠目にもかなり美味しそうに見える。それを先程と同じように魔導書で運び、今度は押し付け合うことなく食べる。そしてまた先程のリピートのように、極振り(虚弱)体質では耐えられない旨味の暴力に撃沈した。

 

「ゲテモノっぽい癖に……」

「うめ……うめ……」

 

 外はカリッと、中はトロッと、レア度と料理スキルの相乗効果によって恐ろしい程の旨味が口の中で暴れまわっている。料理漫画の主人公であれば違ったのだろうが、ヤベエ美味えとしか表現できない。

 

 そんな余韻に浸っている中、禍々しい邪気を感じて急ぎキッチンの方を見る。俺とザイルさんはこういう非常時のためにいるのだ。自分で言うのは恥ずかしいが、超反応超精度防壁の俺と、超精密弾幕のザイルさんがいれば大抵どうにかなる筈だ。が、その心配は杞憂に終わった。

 

「ん」

 

 邪気の原因と思われる翡翠さんの取り出した肉厚の鮫部分の切り身は、『邪魔するな』と翡翠さんが数秒展開した【終末】の天候により、その邪気を消し飛ばされていた。

 

「ん」

 

 『これでよし』と満足げな翡翠さんのアクションは速かった。かなり手慣れた動きで包丁を動かしシャークトゥルフの切り身をスティック状に。生姜を卸し、絞り汁と醤油(レア泥)、酒(レア泥)にその切り身を漬け込んだ。そして片栗粉をまぶし、カラッと揚げる。それで、シャークトゥルフの唐揚げが完成した。

 

 れーちゃんと翡翠さんが向こうで食べる序でに作ってもらっているのだが、これまた美味しい。カリッとした衣の下の身は柔らかくてふわふわ、臭みもなく淡白な白身の感じが本当に美味しい。現実世界の一部の地域でサメを食べることがあるのは知っていたが、こんなに美味いんだ食べないわけがない。

 

「「ん!」」

 

 再びハイタッチしたれーちゃんたちは、もう既に一品作り終わっていた。メインディッシュであると思われるシャークトゥルフのフカヒレの姿煮。黒くとろみのある餡の中に浮かぶフカヒレは非常に美味しそうで、美味しそうな匂いがし、食べれば確実に美味しいことは確実の筈だ。そう、筈なのだが……

 

 食べたら死ぬ

 

 ゲームの世界であるが故本物なのかどうか知らないが、生存本能のようなものが全力で警鐘を鳴らしているのだ。それは目の前のザイルさんも同じなようで、この料理から感じる圧に冷や汗が流れる。

 

 シャークトゥルフなんか目じゃないプレッシャーに、箸を持つ腕が震えた。ちょっとテケリ・リなんて音が聞こえた気がするが幻聴だろう。美味しそうな匂いと、湧き上がる恐怖心に唾を飲み込む。

 

 喰うか、喰われるか

 殺すか、殺されるか

 食べるか、食べないか

 

 グルグルぐるぐると思考が空回りする中、どこからかフルートのような音も聞こえ始め、薔薇のような香りも漂い始めた。あっこれあかんやつだ。というか、一体何をどう料理したらこんな神格を招来しそうな劇物が錬成できるのだろうか。

 

「ん!」

「ん」

 

 なんて戦々恐々としていると、美味しいものを食べた時によく聞こえる声が聞こえた。青い顔をしてそちらを見れば、れーちゃんと翡翠さんがお互いにあーんをしていた。あれはなんだろうか、聖域かな? あれを見てるだけで、このプレッシャーも忘れられる。

 

 けれど、食べなければいけないという現実は変わらない。冷めてしまったら確実に悲しまれる、序でにランさんとかに殺される。ああ、そうだ。やるしかないのだ。例えピギュッとなったあとキボウノハナ-することが分かっていても、止まるわけにはいかないのだ。きっとその先に何かがあるから……!

 

「ああ、安心した。アイツらは、私やお前がいなくてもやっていけるな……」

「答えは得たんですね、ザイルさん。なら俺も、もうゴールしてもいいんですよね」

「そうだな」

 

 最早一周して、プレッシャーは通り抜け清々しい気分を感じる。ああそうか、この視界の端に写るSAN05/99とかいう数値も最早意味がないんだ。もうこの美味しいものを食べたいという衝動に身を任せ、一時の享楽で身を滅ぼしてしまおう。

 

「「いただきます」」

 

 箸でフカヒレを切り、口に運ぶ。そうして広がるのは、予想通りの素晴らしさ。

 口の中に広がる宇宙的な旨味は最早人知を超越しているのではないかと錯覚させ、鼻に抜ける香りは料理の深淵から溢れ出ているようだ。五感を冒涜的なまでに凌辱したのち、それは喉を通り、胃に辿り着き、それでもしかしそこに在ると存在を主張し続ける。嗚呼、これほどの料理は、もう未来永劫2度とない。食べることが出来ないだろう。

 

 満足だ

 

 そんな感想が思い浮かんだ瞬間、視界の端に表示されていたSANが0になり、決して広くない店内にカシャンというガラスの砕けるような音が2つ響いた。

 

 その日の【すてら☆あーく】には、女の子の笑い声が夜遅くまで響いていたという。それを覗いていた者は漏れなくSANが消し飛び、大変なデバフに襲われたのだとか。また、不気味な影や不可思議な光、風、音などが聞こえていたという噂もあるが、真実は2人以外誰も知らないのであった。

 

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