幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

200 / 243
そして祝200話です。いえい、びーすぴーす。
感想も嬉しいし、ここ好きボタン連打も嬉しいですね!


第161話(裏) それっぽい実況っぽい何か

 舞台上で起こった大きな動き。それはザイルの放った振動攻撃がユキの残機を砕き、苦し紛れにばら撒いているように見える爆弾や銃弾すらも薙ぎ払う一方的な光景だった。ユキもバイクの上に立ち上がり可能な限り手数を増やしているが、どう見てもザイルに追いついていない。

 

「おおっと、ここでユッキー大ダメージです!」

「どうにも防戦一方ね。何もかもを利用して紋章を描いている辺り、十二分にトンチキだけど。自分の撃った銃弾が跳ね返された結果の軌跡を利用するなんて、まるで意味不明だわ。でもやっぱりあの子、受けよね」

「ユッキーは受けですね」

 

 その一言に、観客席は沸き立った。同じ極振りという同類と、その対応をサービス開始時から続けてきた人物によるお墨付きである。ユキは受け、その情報は確定的に明らかだった。

 

「っと、ここでなんか大量に沸きましたね。Hey!運営、アレの説明お願いできますか?」

「多分、ユキが使った魔法陣に誘発されて出てきたmobね。死界の方はアンデッド系列が、百鬼夜行は名前の通り妖怪が一定条件で無限湧きする天候なのよね。

 本来ならどちらも死ぬほど厄介よ。死界に関しては、第2回イベントで実装されていたし、超高難度でもユキが設定してたから知ってる人も多いんじゃないかしら?」

 

 事実この手の特殊天候の中で、死界はイベントに参加しているプレイヤーなら大体知っている程度には知名度が上がっている。最近はお店を構えてなりを潜めているお陰で、翡翠の展開する【終末】よりも有名な程度には。

 

「あんな天候を個人のプレイヤーが使えるなんてチートだ!」

「運営なんかやめちまえ!」

「極振りはチーター、狡い手を使ってイベント報酬を独占してる!」

 

 そんな中、観客席から口々にそんなヤジが飛んだ。こうして大々的に、運営としては不本意ながらもあからさまな特別扱いをした以上、避けようがない問題だった。極振りとして有名なプレイヤー達は、必ずといっていいほど素行が悪い。多くのものが事前に告知や警告を行なってからアクションを起こしてはいるが、それでも不平不満は溜まるものだ。正当なものも、そうでないものも。

 

「五月蝿いわね。これだから実況なんてやりたくなかったのよ」

 

 そして明らかにただの私怨でしかない罵声に、運営に属している女性がよく聞こえるようにマイクの前でそう言った。

 

「あなた達は本当にしつこい、飽き飽きする。心底うんざりしたわ。口を開けばチート、チーター、垢BANしろと馬鹿の一つ覚え。あなた達は運営が更新する垢BANリストも見れないのかしら? そも倒せると判明しているのだから十分でしょう。相手が特別だから何だと言うのかしら。自分達だって、特別を目指してゲームをプレイし続ければ済むことよ」

 

 舞台上で起こっている出来事は置いてけぼりに、明らかにキレた様子の運営の言葉は続く。

 

「いつまでもそんなことを喚いてないで、最前線にでも行って経験値やスキルを稼いだり開拓したり楽しめばいいでしょう。殆どのプレイヤーがそうしているわ。なのに何故あなた達は、不平不満を垂れ流すだけでゲームを楽しもうとすらしないのか。理由は1つ、極振りアンチは異常者の集まりだからよ」

 

 最早一部の高レベルプレイヤーしか目で追うこともできず、理解も出来ない混沌とした戦場には目もくれず。大多数のプレイヤーは、極振りアンチと運営の言葉の殴り合いに夢中になっていた。

 

「異常者の相手は疲れたわ。いい加減終わりにしたいのは運営の方よ。ええそう、貴方達に言ってるの。プレイヤーネーム、ぎりぎりギリー、赤巻青紙黄神、†暗黒皇帝†」

 

 その名前は、何時ぞやの姫プレイヤーと同じようにある界隈では知られた名前だった。所謂、迷惑プレイヤー。実害こそ多くはないものの、所謂俺TUEEEEの為ならマナーもモラルも知ったことじゃないと文字通りなんでもする連中だった。

 

「批判することが悪とは言わないわ。けれどせめて、自分達も極振りになって、同じようにやらかしてからクレームをつけることね」

「あんなの使い切れるか!」

「そうだ! チートで動かしてるに決まってる!」

「黙りなさい、発言権を与えた覚えはないわ」

 

 そんな話を聞くことすらなく身勝手な文句を囀るプレイヤーを、切り捨てるようにピシャリと運営は言う。

 

「でもそうね、使い切れないものを使い切ってるからこんなことになるの。それを理解しなさい。そして至って正常なデータで全てをぶち壊される、運営の気分も理解してから言葉を言いなさい。

 あなた達、言葉の意味は理解できなくても、考えることすら出来ないお猿さんではないのでしょう?」

 

 そうして指し示した先には、展開している龍首を1つ落とされたのにも関わらず、弾幕の密度が全く見劣りしないザイル。そしてあいも変わらず、弾幕の密度からするとあり得ないレベルの低被弾数で善戦を続けるユキの姿。

 

「そもそもの話、このUPOというゲームは他者の真似をしても大した意味はないの。仮に同一人物が全く同じ行動をしたとして、似通ってはいても完全に同一のスキルは生まれないわ」

 

 その一言が流れ弾となって、検証班スキル派生検証部は死んだ。彼らは耐えられなかったのだ。

 

「ああそれと。今だから言うけれど、ユキの持つ死界と幸運極振りによる実質的な無限残機に関しては、一時期運営でも問題になっていたわ。ただ貴方達と違って、手に入れても無闇矢鱈に使うことが無かったからお咎めなしだったの。序でに言うなら、今も経過観察中よ。分かるかしら? いえ、分からないわよね。

 NPCの殺害数No.1で全ての街が利用できなくなったことを、運営と他人に当たり散らすお馬鹿さん。それと、透明化スキルで盗撮とセンシティブな行為を繰り返して、スキルを剥奪されて透明化系統のスキルに縛りを作った変質者さん。最後に、気に入らないプレイヤーがいると、すぐに運営に通報するせいで逆に通報されているお子様じゃ、お里が知れるもの」

 

 くすくすくすと、笑顔で毒を吐く運営に何かが投げつけられた。それは剣であったり、槍であったり、魔法であったり、或いは爆弾であったり。何処かで見たことのある、しかし中身が伴っていない形だけの模造品だった。

 

「あらあらあら、私は事実を述べているだけよ。それにしても、垢BANを叫ぶ貴方達の方が垢BANに近いだなんてお笑いよねぇ。この数十秒で、あなた達に対する通報が数百件は溜まっているわよ」

 

 たおやかな笑みを浮かべて、しかしゴミでも見るかのような眼で言葉を続ける彼女に、一定数のファンが出来たことは言うまでも無かった。

 

「私が名前を出した手前この数百件は無視してあげるけど、それだけの恨みを買っていることを自覚なさい。ここはあなた1人のためだけのゲームじゃないの。楽しみ方は自由よ。けれど最低限、人との関わり方を学んでから出直してきなさい」

 

 実際、他2名は兎も角NPC殺害数No.1のぎりぎりギリーは、ゲームの楽しみ方として特に間違っているとは言えない。そろそろそういうダーティーなユニーク称号……【犯罪王】等も有りなのではと、一時は運営の議題に挙がったほどだ。

 事実NPC殺害数No.2のプレイヤーは、全ての街が使用不可能になった今でも、楽しく悪役ロールを続けている。故に仮に【犯罪王】が実装されたとして、ぎりぎりギリーではなくNo.2のプレイヤーに授与されるだろう。

 

「さて、実況に戻るわよ」

「ええ、そうですね! 舞台上は中々面白いことになっていますよ!」

 

 暇を持て余した結果、かっこいい爆裂のポーズを練習していたにゃしいがそう言った。目を離したのは、ほんの十数秒。なのに状況は一変していた。天には不気味に輝く奇怪な星辰、地には旋回する弾丸の群れ。

 代わりに戦闘自体は普通のプレイヤーでも認識できるレベルにまで落ちており、観戦しているプレイヤー全員に何かを予感させるには十分だった。

 

「へぇ、確かに面白い状況ね。お互いに次以降の戦いに備えて、一気に勝負を決めに来たってところかしら」

「そうですとも! 我らがザイルネキは恐らく【廃神招来】のスキルで一気に自己強化、ユッキーを捻り潰そうという魂胆でしょうね。幾らユッキーでも、10首のアレは耐えようもないでしょう」

 

 観客席で実際に体験したことのあるメイド服が、にゃしいがしみじみと言う言葉にしきりに頷いていた。この場において、スキルの性能を知るプレイヤーは多くない。正規版ではメイドコンビのみで、β版で接点があった人もそう多くないからだ。

 

「なら、誰も知らないであろうユキの方を解説しようかしらね。

 アレは狂気神話系呪文の【神格招来】、一定以上の格の魔導書を持っていれば誰でも使える呪文よ」

 

 莫大なMPとSANを消費するけれど、と運営の女性が続ける。

 

「勿論、魔導書を持っている数が多ければ多いほど召喚できる神の数は増えるわ。【廃神招来】は自身のステータスを短時間レイドボス級に引き上げる物だけど、色々と縛りはあるけれど【神格招来】はレイドボスそのものを呼び出すの。だってみんな見たいでしょう? 運営のレイドボスと、プレイヤーのレイドボスが殴り合う姿を」

 

 その言葉に、わあっと観客席が湧いた。大体このゲームをやっているような人は、怪獣プロレスは大好物だ。レイドボス同士の殴り合いなんて光景、見たくないことがあるだろうか? いいや、ない。

 実際に実行しようとした場合、同時に招来できる神格は1体のみ、招来のインターバルは60秒、そもそも招来した瞬間()()()()()()正気度を消しとばすなどの問題は山積みであるが。

 

『【神格招来】、来たれクトゥグア!』

『【廃神招来】、来たれ百鬼空亡!』

 

 そんな解説をしている間に、双方が大技を繰り出した。現れたレイドボスと、レイドボス級になるバフを受けたプレイヤー。ある種の到達点と言えるその姿に、スタジアムに歓声が巻き起こる。

 

「おや、ユッキーが消えましたね。幾らスキルの影響で探知出来るとは言っても、あの隠業は我々極振りでも見つけ難いですよ」

「抜かったわね、ザイル。恐らくユキの狙いは暗殺よ、逆転狙いの必殺ね」

『ぶっ殺』

 

 瞬間、激震するスタジアム。ザイルがスタジアムごと全てを蹂躙し、僅か十数秒でレイドボスを吹き飛ばした振動。そしてイベント出禁の片鱗を見せつけたザイルに対する歓声。その2つが合わさってスタジアムが揺れたのだ。

 

『信じてましたよ。この程度は突破してくると』

 

 だからこそ、そんな興奮に水を差すようなアンブッシュは非難轟々となったのだった。

 

「勝者、幸運極振りのユッキー! 我らがザイルネキをアンブッシュしてアゾったのは見事だったと思います。10爆裂ポイントを進呈しましょう」

「一体なんなの、そのポイントは。でもそうね、不意のつき方は良かったと思うわ。それまで同じスタイルで戦っていたところから、スタイルを切り替えて良いタイミングでの奇襲。あなた達の事だから二度目は通じないでしょうけど、違いを見せつける形での勝利だったわね」

 

 ユキがスタジアム内で刀を掲げている中、そんな形で感想戦は進んでいった。にゃしいも極振りとはいえ、爆裂さえ関係しなければ至って常識人。解説も当然出来るのである。

 

「さて、これで1回戦は終わり。2回戦は14時からね……あら」

 

 運営からメッセージを受け取ったのか、ウィンドウを開いた運営女性が目を丸くした。同時に、スタジアム状に展開されている対戦表が切り替わる。

 

「くくく、遂に私が爆裂を見せつける時間が来るようですね!!!!!」

 

 バサァと、かっこいい爆裂のポーズを決めたにゃしいの背後で切り替わった表示は──

 

『【爆裂娘】にゃしい

     vs

 【頂点捕食者】翡翠』

 

 どう足掻いても避けようのない、嵐と爆裂の予感が会場に吹き荒れ始めていた。




極振り対策室、にゃしい担当の女性(今回の実況者)
仕事中の姿。なんか妖精的なデバイスを数十個酷使しながら、死んだ目で働く銀髪ペタンロリ。裸足。
ゲーム中の姿も同じ。しかし靴を履いている。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。