幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

201 / 243
第162話 極振り戦インターバル

 精神と集中力を鑢で削り続けるような、楽しかったが地獄のような第1回戦だった。戦ってる最中は脳内麻薬でも出ていたのか気にならなかったけれど、終わってみればドッと疲れが襲ってきた。

 

「お疲れ、ユキくん」

「お疲れ様、です」

「おつかれサマー……」

 

 明らかに脳にエネルギーが足りていない。そんなことが自覚できるくらい疲弊していたせいか、観客席で観戦していたギルドのみんなの席に戻ってもそんな返事しかできなかった。

 頭が回らない。多分一昔前なら、リアルで鼻血を出していたくらいには脳を酷使してしまっている。あ゛ー、う゛ー(ゾンビのポーズ)

 

「そんな変なポーズしてないで、少しは休んだら? ほら、私の膝貸してあげるから」

「あー……」

 

 耐え切れず席に座り込むと同時に、有無を言わさぬパワーで頭をセナの膝の上に持っていかれてしまった。何故かリアルと同じセナの匂いがする。例えられないけれど微かに甘い、ずっと小さな頃から知っているあたたかい匂い。なんなら頻繁に潜り込まれているせいか、俺のベッドからも結構な頻度でする匂い。

 

「凄く落ち着く……」

「うそ……!? とーくん、普段は私が何しても靡かないのに」

 

 やっこい、ぬくい、いいにおい。なんか頭を撫でられてるし、思考が溶けてゆく。リアルの方の呼び方をされたことも、今は注意する気すら起きなくて……ぐぅ。

 

「うへ、えへへ……」

「独り占めは、禁止、です」

 

 意識が夢の世界に旅立ち掛けたその時、奪い去るように真逆の方向へ身体ごと頭を持っていかれた。そのままボスンと別の場所に着地するマイヘッド。This is the ふともも。Ooh! Majestic!

 

「告白、先にした、権限です」

「ぐぬ……確かに藜ちゃんに、その点では劣ってるのは事実……!」

 

 未だトップギアに入り続けて戻ってこない思考が、何かを喚いていたけど無視しておく。話の内容からして、多分今俺がいるのは藜さんの膝の上なのだろう。というか頭を抱え込まれてる。金木犀のようないい匂いがする。リアルと同じかは分からないけれど、多分同じなのだろう。

 ……これもしかして、俺もリアルと同じ匂いがしているのだろうか。身綺麗にはしてるけど、微妙に心配だ。

 

「──」

「──!」

 

 なんて、まあ悪いようにはされないだろうと、黙って身を任せていたのが悪かったのだろう。ギッタンバッタンと動くシーソーか何かのように、俺の上半身は有無を言わせぬパワーで取り合われていた。

 

「あいあむメトロノーム……」

 

 思わず口にしたそんな言葉に、どこかから吹き出す音が聞こえた。そんなに面白かったのだろうか。ではなくて。流石にこんな歯車の狂った頭のままでは、色々と不都合がありすぎる。

 

「……すみません、一旦ログアウトしますね」

「「あっ」」

 

 時刻は張り切って戦ったお陰か、予定よりも早い1時に入ってほんの少し。ならば一旦リアルに戻った方が早いと、メニューを操作して即座にログアウトする。

 

「ふぅ……」

 

 電脳空間から抜け出しても、思考は未だトップギアに入ったままだった。収まってくれることを期待しつつ、取り敢えずVR器具であるヘッドギアを外し、パキパキと骨を鳴らしながらベッドから立ち上がる。服は汗で嫌に湿気ってるし、これは着替えて今から洗濯かなあ。

 そんな家事の予定を頭の中で組み立てつつ、適当な服に着替えて汗を吸った服を洗濯カゴに叩き込む。糖分……エナドリ……いや、その前にどうせならお昼ご飯も食べておきたい。外にわざわざ出掛ける気にもなれないし、両親用に買っておいたシリアルとドライフルーツあたりで済ませよう。

 

「あっ」

 

 そんな風なことを思っていたせいか、シリアルとドライフルーツの混合物にエナドリを混入してしまっていた。緑色の液体に沈むシリアルとドライフルーツ……何とも言いがたい、久し振りにかなり不味そうな物体が目の前に出来上がっていた。

 

「……これは、そこまで不味くは、ない?」

 

 まず感じたのはエナドリの香り、その後口に溢れるシリアルの食感。何故入れてしまったのだろうという後悔が、段々と染み出してくる甘さのせいで強調されていく。序でにドライフルーツのフルーティーな成分も段々と染み出してきて……そういう食べ物だと思えば、食べられなくもないけれど、積極的に食べたい訳ではない味だ。

 

 とはいえ、生み出してしまった手前捨てるのは忍びない。気合いで掻き込み、なんとか胃の中に落とし込む。不味かったおかげか、普段通りの頭に戻ってくれたことだけは幸いかもしれない。

 

 なんて思っていた時だった。ピンポーンと、この時間になるはずもないインターホンが鳴った。

 

「はいはーい」

「心配だったから来ちゃった」

 

 誰だろうかとチェーンは念の為かけたまま玄関を開ければ、何となく申し訳なさそうな雰囲気の沙織がそこにいた。その手にはコンビニの袋が握られている。

 

「今開けるからちょっと待って」

「はーい」

 

 特に断る理由もないので迎え入れれば、いつもの様にセナはリビングに直行していった。玄関を施錠し直してから俺も向かえば、テーブルの上にはセナが買ってきてくれたらしいサンドイッチが並べられていた。

 

「これは……なんで?」

「あんなに疲れ切ったとーくん、すごく久し振りに見たから。あと私もお腹空いてたし、折角だから一緒に食べたくて」

 

 そう言ってくれるのは嬉しいけど、食べかけのサンドイッチを向けてくるのはやめてほしい。さっきまでなら危うかったけど、もう齧り付いたりはしないから。

 

「んー……あわよくばって思ってたけど、そう簡単にはいかないか。でも、もうとーくんも回復してて安心したよ。あ、これ食べる?」

「食べる。まあ治ったのは沙織が来るほんの少し前だけどね」

「むぅ、ならもうちょっと早く来た方が良かったかも」

 

 貰った卵サンドを食べながら、そんな他愛もない話をする。それだけでなんというか、とてもしっくりくるような。安心している自分がいた。

 

「台所見たけど、多分お昼シリアルとエナジードリンクで済ませたみたいだし。流石にあれじゃ、身体壊しちゃうよ?」

「その分、夜はしっかり作るつもりだったから。だって今日泊まりにくるでしょ?」

「うん。その為にVRデバイスも持ってきてるよ?」

「夕方、買い物付き合ってね」

「とーぜん!」

 

 ほぼ週一で沙織が泊まりにくる生活にも慣れたものだ。お陰で料理スキルも随分と成長したと思う。それでも凝った料理は滅多に、それこそ空さんが来た時くらいしか作らないけど。

 

「そういえば、俺がログアウトしてからどうなった?」

「取り敢えず、みんなお昼休憩だってログアウトしてったよ。2時までまだ時間あるしね」

 

 俺とザイル先輩の戦いがそんなに長引かなかったお陰か、時計の針はまだ午後の1時を指したばかり。ゲーム内で時間を潰そうとすれば、2時間以上ぶっ通しでやらなきゃいけない。エキシビジョンマッチが今日はメインなのに、それは疲れてしまうということだろう。

 

「運営も案外それを見越してたりして」

「かもね。じゃないと、わざわざこんなに時間空けないと思うなー」

「だよなぁ。と、それで思い出した。最初からずっと必死だったとはいえ、出来る限り派手に色々やったけど盛り上がってた?」

「んー……半々? うちのギルドとか、最前線にいる人たちは見えてたけど、結構な人が途中から何やってるか分からない感じだったよ。途中で……ほら、妖怪みたいなのが沢山出てきた辺りから」

 

 そこら辺から見るのを諦めた人が結構出てきて、観客席は観客席で相当面白いことになっていた話を聞いた。実況がまさかそんな状況になっていたなんて。動画サイトを探せばアーカイブみたいな物が残ってないだろうか?

 

 そうこう話している間にサンドイッチも食べ終わり、何となくテレビをザッピングしながらダラける時間に入ってしまった。この時間、やっているのは大体が再放送番組かニュースのみ。特に目新しい話もなく、ぼーっと過ごせる日常がそこにはあった。

 

「ねぇ、とーくん。今はもう素面だよね?」

「沙織が来てからはずっと素面のつもりだけど……」

「なら良し」

 

 反対の席からいつのまにか隣に来ていた沙織が、わざわざ改まってそんなことを聞いてきた。何だろうと重ねられた手を握り返せば、わざわざ恋人繋ぎで握り直された。

 

「私も、藜ちゃんと同じでとーくんのことが好き」

「知ってる」

 

 幾ら何でも、ずっとこうして過ごしてきて気づかない方が有り得ない。それ以前に、好きでもない奴の布団に夜な夜な潜り込んだり、寝込みを襲ってファーストキスを奪ったりしないだろう。

 

「因みに本音は?」

「今すぐにでもとーくんを襲って、既成事実を作って逃げられなくしたい。とーくんに嫌われたくないし、藜ちゃんにも不義理だからやらないけど」

「流石寝込みを襲ってるだけはありますね……」

「女の子にだって性欲はあるんだよ!」

 

 胸を張って堂々としたその態度に、何かもう一周回って納得してしまった。もう諦めていたけど、布団に潜り込まれるのは本当に貞操の危機かもしれない。

 

「……待ってとーくん。今、私の一世一代の告白がスルーされた気がするんだけど?」

「まあ、改めて言われると意識こそすれ、ずっと前から分かってることだし……」

 

 それでおいて、答えずにのらりくらりとしてた自分が本当に良くないと思う。簡単に好きとはいえないし、というか2人とも俺には勿体無すぎるし。

 

「でも、藜ちゃんはとーくんに告白したんだよね?」

「返事は……まだ、できてないけど」

「恋敵が告白したなら、取り敢えず私も言葉にしておかないとって」

 

 アドバンテージを取り戻すのだー、なんて言いつつ背中からしなだれかかるのはやめて欲しい。ここ椅子の上だから。危ないから。

 

「それで、やっぱり返事は保留?」

「頑張って結論は出します……」

「なら良し。今はマーキングするだけで許す!」

 

 うりうりと頭を押し付けられるたびに、部屋に甘い香りが広がっていく。精神的には落ち着くけど、心臓がまるで落ち着かないんだよなぁ……鉄の意志と鋼の強さで保ってる自制心が揺らぎかねない。こういう時は、三十六計逃げるに如かずである。

 

「さて。じゃあそろそろ俺はゲームに戻るかな」

「むー、逃げられた。でもまだ時間あるよね?」

 

 どことなく不満げな沙織の目線を追えば、まだ時計の針は1時半を指している。確かに今ログインしたら、ゲーム内で1時間は待つ羽目になるけど……

 

「さっきの戦いで爆弾使い過ぎたから、新大陸まで取りに行かないとなんだよね」

「大盤振る舞いしてたもんね。ね、それ私も付いてっていい?」

「いいけど、特に何もないと思うよ?」

「それでもいいの! ログインは何時もの場所使うね!」

 

 行って帰ってくるだけなんだけど……とは思いつつ、パタパタと荷物を持って走っていった沙織を見送る。まだ皿を洗ってないけど……まあ、水に浸けとけば大丈夫だろう。

 

「さて、あんまり遅れないようにログインするかー」

 

 家の戸締りよし。洗濯物よし。天気も崩れる予報はなし。最後に軽くストレッチをして──リンクスタート。先輩の本気(ガチ)バトルを楽しみに思いつつ、UPOに帰還した。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。