もっと泣かせてもいいのよ……?
たった数十秒の攻防……いや、一方的な攻撃によって崩壊したスタジアム。瓦礫と残骸が散乱したその場所と、直前までの戦闘に誰もが圧倒されていた。
「蠢動しな、死棘の魔槍」
そんな空気の中、動くことが出来たのはたった1人。普段とは違う黒い装備を身に纏うセンタさんのみだった。デュアルさんの戦闘に割り込むことが不可能だと判断すると、即座に切り捨て自己バフを積み重ねて最大限に自己強化。システム的には継続中だが、戦闘終了後の隙を突いて必殺の一撃を叩き込んだのは素晴らしいと思う。
「貴様ならば、そう来ると思っていた」
だが当然のように、光刀がそれを迎撃する。絶光の放射こそないものの、真っ向から叩きつけられた攻撃の破壊力に必殺の槍は弾かれる。反撃で放たれる反対の刀による絶光を回避する為飛び退けば、それでもう仕切り直しだ。
「けっ、やっぱり当たらねえか」
「当然だ。同胞の中で最も警戒している人物を、戦闘中に意識から外すなど有り得ないだろう」
「へぇ……? 随分と期待してくれてるじゃねえか」
凛と二刀を構えて告げるアキさんに、ペロリと唇を舐め上げ必殺の魔槍を構えセンタさんが言う。
「ああ。我々極振りの中で、完成した場合の最強は俺ではなくお前だろう。今でこそ俺やレン、にゃしいのような一点特化が冠を頂いているが、所詮俺たちはそこまでの存在だ。1つを極めているが故に強く、同時に単純で非常に脆い」
「付け込み易い穴があるってか? それこそお前、針に糸を通すような話だぜ」
「だがそれで実際、にゃしいは爆裂ではない魔法を手にした。新大陸に現れ、今後も出現し続けるであろう【炎属性無効】という特性持ちの敵が出現したことによってな」
「俺がいつか、極振りにとってのソレになるってか?」
「ああ、間違いないと断言しよう。今はまだだが、既に速度はザイードの半分、力は俺の半分、そして攻守支援回復全対応の魔法系スキルまで使えるとあれば、最早疑いようもない」
「イイねぇ、笑える話だ。浪漫とやりがいがある」
呵呵大笑して、センタさんが槍を持ち直す。その横顔には、三日月形に裂けたような獰猛な笑みが浮かんでいた。知性や武威といったよりは獣の雰囲気を漂わせる、原点である獣が牙をむく行為を彷彿とさせるオリジナル笑顔。
「──うし。それじゃあ殺し合うとするか」
「是非もない。この場で競うべきは力量と、どれだけゲームを楽しめているかのみ──ならば雄々しく貫こう」
そうして
「シャァッ!!」
「ハァッ!」
剣閃と槍の閃きが、Agl極振りにも劣らぬ速度で唸り飛ぶ。
斬撃と刺突が、空を引き裂き震撼する。
交錯と激突を繰り返し、互いの攻撃を互いの攻撃で相殺しながら、漸くまともな戦闘が成立していた。
「アキ、手前の馬鹿げた放射光の威力はあくまで威力補正。基礎Strの増強じゃねえ!」
「それがどうした!」
「さっきの通り、そこが付け入る隙と見た!」
乱れ舞う斬撃乱舞、圧倒的な暴威を誇る2人が刃を交わし始めてから僅か30秒。それだけの時間で、戦場となっているスタジアム内部は余りにも無残な残骸を晒し始めていた。
「あくまで手前のStrは、力の求道Ⅲによる固定3万。ぶっ飛んだ数値だが、俺も固定値1万。少しばかり無理すれば、短時間であれば追いつける!」
「だろうな。紋章を使う以上、代償さえ釣り合いその気になれば、追いつかれることくらい理解している」
「だったら味わっていきな、呪いの朱槍の切れ味をな!」
一合どころか、一歩毎に崩壊していくスタジアム。ただそれとは対照的に、2人の先輩のHPには一切の変動が見られない。何せどちらも、当たれば即死の必殺撃。互いに互いの攻撃を躱し、ズラし、相殺させることで戦闘を成立させている。
そんな2人の戦闘スタイルは、同じ筋力極振りであっても、素早さ極振りの2人同様全く異なるものだった。
「力は逼迫、速度はそちらが上手、手数も多い。だがその上で言おう。俺は負けん」
「だったら無理矢理にでもぶち込んでやるぜ、光に憧れる英雄サマぁ!」
その全てがHPを全損させる即死攻撃として働き、衝撃と防御貫通性能による削りを、極振りした筋力によって叩きつける圧倒的な剛剣のアキ。そのスタイルは間違いなく、異形の抜刀術を成立させるとてつもない技量からなる丁寧な力押し。昔ながらのオワタ式だがあたれば勝つという、赤い彗星理論の体現者。
対するセンタさんは、それと比べれば些か技術を駆使する方向にある。剣道三倍段という言葉にもある剣と槍の相性差。それを確と示すように、一撃一撃を全て丁寧に捌き撃ち込み続ける。決して剣の間合いに入り込むことなく、放射光の射出を妨害しながら、しかし自分の刺突だけは急所を狙って放ち続ける。時には魔法を交えることで緩急を描く、堅実と確実性を追求した戦闘方法。
魔法が叩き斬られる。緩急のリズムが光刀に斬り裂かれる。槍の攻撃も鋼を叩くような音を響かせ弾かれる。手数を消費させることで致命打は受けないが、代わりに何1つとして攻撃が決め手にならない。
「全く手前って奴は! 以前までのお前になら確実に当てられる密度で攻撃してるってのに、お得意の覚醒でもしてんのか!」
「いいや、ただの実力だ。以前までであれば確かに、何度か攻撃をもらっていたであろう場面はあった。だが、ユキと共にボスのTAレコードを刻んだお陰でな。随分とキレが増した」
「おいユキテメェ!」
スタジアム内から罵声が飛んできたが、顔を横に逸らして見て見ぬ振り。聞こえてない振りを決め込む。アキさんがあの結果超強化されていようが、知ったことではないのだ。いつか我が身に返ってくる気がしないでもないけど。
「だが確かに、このままでは膠着状態もいいところだ。故に1つ、趣向を変えるとしよう」
そんなことを考えている間に、絶光を投射しアキさんが距離を取る。態々刀の間合いからも槍の間合いからも外れるような行為に、センタさんが好機と突撃し──
「装填 : 神罰剣スティグマ。正義の味方の威を示せ」
「チィッ!」
舌打ちと共に、即座に進路から外れて逃亡した。直後その直前に向け放たれる極光斬。しかしその攻撃は、つい数瞬前までとは違って一切の破壊を生まない。光が通り過ぎた後には、何も変わらぬ瓦礫の道があるのみだ。
「ダメージの発生遅延武器とかおま、お前! 手前が一番持っちゃいけないタイプの武器だろうがよそれは!!」
「ダンジョンアタックの成果だ。中々にいい物だろう?」
次いで放たれる、第二第三、それに重ねて放たれる第四第五の極光斬。先程と同様それは致命の破壊を刻み……センタさんの言葉が正しいのであれば、そしてアキさんの宣言通りの代物であれば、刻一刻とセンタさんの首を絞めているに等しい一手を打ち続けていく。
「冗談じゃッ!?」
「上限10回。では、さっそく行こう」
光刀を1本鞘に納め、パチンとアキさんが指を弾いた。瞬間、スタジアムの大地から発生する必殺の絶光。合わせて起こる震の波動と即死圏から逃れるために、鮭が飛ぶようにセンタさんが空へ跳ぶ。
次いで逃げ場を無くすように、センタさんの着地場所から放たれる光の刃。まるで全てが計算づくとでも言うかのように、片手で絶光を投射しながら地雷を設置、起爆を繰り返して行く。
「ッ、チクショウ! こんな序盤で出すつもりはなかったが、やるしかねぇ!!」
そんな悪態を吐きながら、センタさんが更に更にと上空へ跳んで行く。そうして数歩でスタジアムの限界高度にまで達し、そこで反転。手に持った朱槍をまるで、オーバーヘッドキックの要領で下へ向けて蹴りだそうと動き始める。
「ああ、この程度ならば突破されると予想済みだ」
しかしそこはギルドメンバー。そう来るであろうことは予想済みであり、故にこそ対抗策も準備が完了していた。何せアキさんは7刀流。特別な刀は一振りでなくて当然なのだから。
「装填 : 邪竜剣ダインスレイフ。光の顎門で闇を喰らえ」
「
上空から無数に分裂しながら、蹴りで撃ち出されるセンタさんの朱槍。どの破片1つが掠っても即死する広範囲攻撃に対し、アキさんが選択したのは迎撃。新たに装填した刀を大地に突き刺し、有り得ないことに魔法が行使される。
記憶が確かなら、それなりに高位の《土石竜》という魔法。使用者本人を中心に竜の顎門が形成し、土石流のブレスを放つというもの。それが帯電するように絶光のバフを纏い、ドラゴンブレスとして放たれる。
空中で激突する互いの必殺。
その拮抗に競り勝ったのは、絶光のドラゴンブレスだった。
「
「ああ、幸運極振りの力を借りたドロップ品だからな。否定はできん」
「おいユキテメェ!」
本日2度目の怒りの視線。さっきとは反対方向に顔を逸らして誤魔化すけれど、少しだけここに居辛くなってきたかもしれない。
「ふーん。私たちとは滅多にダンジョン行かないのに、アキさんとは行くんだ。へー」
「今度、一緒に、行きましょう?」
「はい……はい……すみません……」
周りから『完全に尻に敷かれている』とか、『浮気がバレた夫の図』とか聞こえてくるけど、まさにその通りだから何も言い返せない。言い返すつもり自体無いとはいえ。
「いざ、鋼の光輝は此処に有り───浄滅せよ、ガンマレイ!」
「焼き尽くせ、ウィッカーマン!」
そんな風に、わずか数秒目を離しただけで、試合は終局へ移っていた。空から振り下ろされる木組みの巨人の鉄拳ならぬ木拳に対し、地上から天へ昇る光輝の柱。何度目になるかも不明な極大火力の衝突に、スタジアムが激震した。
「はぁぁぁぁぁッ!」
「オラァァァァァァッ!」
数秒の拮抗の果て。競り勝ったのは光輝の柱だった。木組みの木拳を光が蝕み、接触している面から順に崩壊させてゆく。初めは拳が、次は掌が、次は前腕が、順々に光に飲まれ崩壊していく。
「後でそのダンジョン教えやがれッ!!」
直後、光が全てを呑み込んだ。
そうして出現した、頭上に燦然と煌めく【WINNER アキ 】の文字。圧倒的な強さを見せつけ、堂々として勝利を収めたその姿は、RPを楽しめたからから、どこか清々しく晴々としていた。
ランサー(バーサーカー)(キャスター)(アサシン)が死んだ!