必殺技と必殺技のぶつかり合いという、一番側から見ていて盛り上がる展開で決着のつけられた1回戦最後の勝負。それは歓声とともに幕を閉じられた。
『決着!! 最後は互いの必殺技をぶつけ合い、
『そうね、少し思うところはあるけれど素直に称賛するわ。現在のUPOの環境で言われる「防御よりも攻撃に特化した方が良い」という話が、よく現れてしまった戦いだったかしら』
まだ歓声も収まらぬ中、先輩と女性の運営が感想戦を始めた。先輩と翡翠さんの戦いの時も言っていたが、現在のUPOはタンク<回避盾という環境になっている。
正直アキさんとダンジョンアタックしたことのある身としては、20発もアキさんの攻撃を耐えたデュアルさんも異常だ。いったいどんな防御力をしているのか想像もつかないほどに硬い。そう、硬いのだが……相手が悪かったとしか言いようがないだろう。
『何度か調整を入れているのだけど、もう少しタンク型について何か考えなければいけないわね、これは。しっかりと上に報告させてもらうわ』
『そうですね。アキや私は規格外ですから除外するとして、平均的なプレイヤーやボス相手にも効果を為していませんからね。まあ、どんな強化がされようと、私は爆裂するのみですが!』
『それで済むのが極振りの強みで、同時に弱点よね』
そうして2人が解説している間に、頭上に浮かぶモニターの画面が切り替わる。
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ユキ━━━┓ ┏━━にゃしい
┣┓ ┏┫
ザイル━━┛┃ ┃┗━━翡翠
┣┻┫
レン━━━┓┃ ┃ ┏━━デュアル
┣┛ ┗╋━━センタ
ザイード━┛ ┗━━アキ
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映し出されたのは、これまでの戦績が書き加えられたトーナメント表。こうして見ると、戦闘回数は全7回。もう半分の地点を通り越していた。3位決定戦をやるのならもう1回プラスされるから、折り返し地点となるけれど。
『さて、幾つか予想外の結果もあったけれど、現状はこんな感じね。次戦はユキvsレン、その次が翡翠vsアキとなるけれど……にゃしいの予想はどんなものかしら?』
『そうですねぇ……翡翠とアキの戦いは、余程のことがない限りアキが勝つでしょうね。物理防御特化のデュアルが耐え切れなかった以上、中々に厳しいかと』
それに関しては、俺も同意見だった。それでも何かしでかしそうなのが翡翠さんではあるけれど、それをまだだ!と吼えて超えて征く気しかしないのもアキさんである。
「実際、ユキくんは勝てると思ってる?」
「全然。切り札を総動員すれば、勝ち目が0ではないかもしれない程度だと思う」
そんなアキさん相手に、本来だったら使う予定だった変身。1発の火力で勝負する為の抜刀術。紋章術による5秒続けばいい程度の超速度。そして既に使った魔導書による大呪文に、幸運頼りの銃の乱射。最後にいつも通りの爆弾を使い尽くせば、勝ちをもぎ取れる可能性は0じゃないと思う。
「ワンパンで、負けても、慰めて、あげます、よ?」
「それはなんか情けないので、頑張ってきますね……」
何だかすごく優しい目で、藜さんに言われてしまった。そんな風に言われて、ワンパンで負けたらそれこそ男じゃない。アンチやファン、知り合いの前ならともかく、好きな女の子の前では格好つけたいのが男という生き物なのだから。
そうひっそりと決意を漲らせつつ、今度遊ぶことを指切りして入場ゲートの方に向かう。先輩と運営の人が、詳しい説明を交えて何か話しているけど今は関係ない。どうやって一矢報いるか、そこから勝つか。頭の中はそれでいっぱいだ。
『対して、ユッキーとレンの方に着いては分からないんですよね。ユキはユキでどうやら隠し球があるみたいですし、レンがそれすらぶち抜いてくれる可能性もあります』
『へぇ、中々面白い戦いになりそうじゃない。ということで、次の対戦カードはこれよ』
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【爆破卿】ユキ
vs
【限定解除】レン
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やっとこさ辿り着いた入場ゲートから見上げる先、今回は前口上がなくモニターが切り替わった。あそこまで盛り上げてくれたのだから、割と楽しみにしていただけに寂しさを感じる。
『あら、あの気持ちのいい前口上は言わないのかしら? 隣で聞いていて、かなり楽しい部類の話だったのだけれど』
『喉が疲れました。もう少し休憩すれば、あんな大声も出せると思います。すみませんね、2人とも! げほっげほっ』
運営席から聞こえてくるのは、言われてみればどこか掠れたような先輩の声。咳き込む辺り本当にそうなのだろうけど、VR空間であるUPO内でそうはならんやろ。なっとるやろがいと、セルフでツッコミを入れながら深呼吸。
『そういう訳よ、サクサクと意地をぶつけて貰いましょう。
来なさい。1回戦では圧倒的な手数でザイルを上回った想定外。幸運極振りのユキ、自称最弱の力は期待しているわ』
凛と告げられたコールに、少し予想外に思いつつもスタジアムに足を踏み入れる。ザイル先輩との時は余裕があったから演出をしたけれど、今回は無しだ。
代わりに、使うと決めた切札の為に準備を始める。ずっと使う機会がなく放置していた11個目のスキル【運命のタロット】。何処かのゲームの4作目のように、回転しながら降ってくるタロットカードを握り潰すことでランダムな効果を発揮するスキル。
「
本来なら完全にランダムな効果を発生させるスキルも、3万という
正義が発生させるバフは基礎ステータスの平均化。正位置なら相手の物を、逆位置なら自分のものを。
教皇が発生させるバフは重複不可の属性防御・状態異常耐性強化30%。正位置なら自分を含めたPTの、逆位置なら相手を。
最後に愚者は次の戦闘終了まで任意のスキルを1つ、正位置なら取得し逆位置なら喪失する。獲得スキルによって、剣*1・聖杯*2・杖*3・硬貨*4のどれかが後ろに付く。
要約するならば、幸運極振りの特性を生かしたたった一戦限りのスーパーモードだ。この程度で勝てるとは、正直微塵も思えないけれど。
『そしてもう1人。システム限界に到達した速度極振り。その執念には称賛をあげるわ、レン。その速度を見せつけなさい。勝負の時よ』
一歩一歩ゆっくりと歩きながらスタジアムに向かった俺とは違い、つい数分前の焼き増しのように突然レンさんはスタジアムに出現した。
ほぼ瞬間移動のそれだったけれど、まだちゃんと影は捉えることができている。これなら勝機は0ではないかもしれない。笑顔に対抗して笑顔を浮かべつつ、そう心の中では思っておく。
「まあ、アナウンスはなかったけど。全力全開、楽しくやろうぜユキ!」
「そうですね先輩。ずっと隠しておくつもりだった切札を切るんです、そちらこそどうぞ楽しんで下さい」
言葉を交わした直後、先輩との中間地点にPvP開始のカウントが出現する。減少していくカウントの向こう側、笑顔を浮かべて先輩がサングラスを装着した。
「切札ねぇ。いいぜ、そっちがその気ならこっちも最初から最速だ。だが、速さが足りないお前に私が捉えられるかな?」
「そうですかね? ……そうとも、限りませんよ」
同時にこちらも、展開していた魔導書と武器を一旦背後に待機。真横に突き出した左腕に、意味を察してくれた朧が合体する。
「変身!」
『HENSHIN』
瞬間、眩い光(自前)を発しながらユキというアバター自体が解ほどけた。
《人外用コントローラー type:Size changeを起動します》
そしてそんな表示が目の前に流れ、アバターが組み直されていく。普段の自分より明らかに小さい小柄な女性型アバターへ。
まずはインナーのみを装備した姿に。そこからドレスアーマーが着装され、次にはゴツい籠手、ドレスアーマーの内部に仕込まれたスカート、翼の煌めきがあるブーツと続いてゆく。次に左腰に佩く形で純白の刀が、右腰に吊るす形で大型の砲が、そして背負う形で翼のデザインが可愛らしい杖が。そして最後に、頭上に浮かぶアストの物をダウンサイジングした光の輪と、セット装備の効果であるアストと同じ純白の翼が出現する。
最後に魔導書30冊と3種の仕込み杖を普段通りに展開すれば、平成後期仮面ライダーの最終フォーム然とした、全部のせフルアーマーの完成である。
『Change WAS……WASP? ……ANGEL!』
『え、は……はい?』
『女の子になったわね……?』
「え、ちょ、は……?」
朧が困惑している。実況が困惑している。レンさんも困惑している。そして会場全体が困惑している。どうせ戦闘は10秒程度しか持たないのだから、やるならここしかない。
「降臨、満を持して!」
「
ポーズもしっかり決めて言えば、笑いながらレンさんはそんな言葉を溢した。元ネタは伝わってくれてたらしい。いや、伝わったのかこれで。
「まあ、ちょっと見た目はアレですし、配役も真逆ですが。
蜂のライダーとその腕時計をしている人が出会えば、やる事は1つでしょう!」
「ハッ、そういうことか。いいぜ、付き合ってやる」
ゾワリと、背筋に悪寒が走った気がした。……気のせい気のせい、流石にこんなことで2人に何か言われる所以はない。それよりもなんというか、剥き出しになっている足とか肩、少し布の薄い胸元辺りに嫌な視線の方が気になる。見せ物じゃないぞ散った散った──いや、今に限っては見せ物だった。
『バ美肉おじさんなら安心してガチ恋できる……』『あれは爆破卿あれは爆破卿あれは爆破卿』『有識者ニキ、これは百合?』『……Not百合!』『合法!』『合法!』
周囲から聞こえる言葉には聞かなければよかった言葉も多数混じっているけど、一旦意識から全部締め出していく。そうしないと、相手にすらならずに即死してしまうだろうから。
「クロックアップ出来ないお前程度、敵じゃないぜ」
「付き合いますよ、10秒だけなら!」
とっくに終了していたカウントダウンを置き去りに、なぜか続いてしまっていた寸劇が終わる。そしてお互いに示し合わせることもなく──
世界が停滞しながら加速した。
忘れてはいけない……この作品はあくまで、ゲームとしての整合性をぶん投げたコメディだと(自戒の意味も込めて)