幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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エターナル・愚ッには一才ツッコミがなかった前回のほぼ解説会です

感想・評価ありがとうございます!


第170話(裏) 実況っぽい物、しめやかにエントリー

「変身!」

『HENSHIN』

 

 極振りエキシビジョンの第二回戦。女性運営のアナウンスにより始まったその第一試合は、戦闘開始直前にユキがやらかしたことで大混乱に陥った。

 

 回転する無数の魔導書の中心で解けるユキのアバター。それが光に包まれながら、全く別のボディへ再構成されていく。(ひかがみ)辺りまである、サラサラとした長い白髪。明るめの水色の瞳。おててと評するのが正しそうな小さな手と、まっさらなおみ足。インナーのみに包まれた身体は、元のユキとは似ても似つかぬ幼気な少女だった。

 当然それだけでは終わらない。くるりと回転したユキの身体に、光が弾けるようにして、ボスが纏っていた物と同質の生地が僅かに透けたドレスアーマーが。ゴツくメカメカしい籠手が、うっすらと透けたスカートが、翼の煌めきがあるブーツが順々に装着されていく。

 

『Change WAS……WASP? ……ANGEL!』

「降臨、満を持して!」

 

 そうして最後に無数の武装が出現し、頭上には天使の輪っかが、開けたデザインから覗く肌が眩しい背中には機械と生体とが合一したような純白の翼が。極め付けに無意識なのか可愛らしい変身完了ポーズまで決められてしまえば、完全なる魔法少女モノの変身シーンに他ならない。()()()()()()()()()()()()()某対策室の所長も、会心の出来に満面の笑みを浮かべていた。

 

『え、は……はい?』

『女の子になったわね……?』

「え、ちょ、は……?」

 

 普段の魔王然とした装備の中心で、天使然とした装備で花が咲いたような笑みを浮かべるユキ。それは実に、実に絵になる光景だった。

 だがそんなもの、事情を知らない者たちにとっては関係ない話だった。観客席に潜んでいた百合スキー達以外、あまりに突然の蛮行に頭が追いついていない。

 

『せ、説明してもらいましょう運営!』

『ちょっと待って頂戴。私も突然過ぎて何がどうなっているのか──メッセージ?』

 

 観客席同様、目を白黒させていた実況席。そこに大元の運営から一通のメールが飛んで来た。いつものように50倍速の世界で運営をしている彼らにとって、その程度は容易なことであり──ぐしゃりと女性運営の手もとで、展開されていたホロディスプレイが握り潰された。

 

『……あの、大丈夫です?』

『ええ。あれは所謂黒化アストのドロップ品で作成できる、骨格から別物に変える性転換アイテムよ。男性が女性専用装備を、女性が男性専用装備を装備することを可能にするための物ね。一応あの装備に関して男性状態と女性状態、両方を使い分けられるような設定がされてるらしいわ』

『革新的な技術だと思うのですが、何か問題が? やはり厄介な輩の──』

『極振り対策室のチームの室長が、自分がTSしてみたいから作ったらしいわ』

 

 にゃしいの言葉に割り込むように呟かれた真実に、会場に衝撃が走る。両手で顔を覆う女性運営とは対照的に、観客席が沸き立った。

 お腐れ様も、百合スキーも、TS願望を持つ一般的な男性も。目の前でここまで完璧に組まれたシステムを見せられて、興奮しないはずもない。理想を抱いて溺死する前に、最新の希望が訪れた。

 

『ま、まあ色々と問題はあるようですが。私としては、今すぐに描写速度変更システムを最大出力で稼働させることをオススメします』

『面白い絵が撮れると思って既にしているけど……何故かしら?』

『ユッキーが戦闘開始直前に使っていたスキル、その効果がステータスに出ていますよね? その内訳が属性ダメージ軽減と魔法スキルの一時取得は良いのですが、最後の一つ。自身の基礎ステータス平準化が大問題です』

 

 神妙な顔で呟くにゃしいの言葉に、ハッと気が付いたように運営が顔を上げた。そして同時に、そんなまさかと思いながらも恐る恐るといった様子で予測を口にする。

 

『求道スキルの効果で極振りの値は保存されながら、他のステータスが軒並み上がって極振りのペナルティが消える……そういうことかしら?』

『全基礎ステータス140、そこに恐らく我々極振りの装備制限が無くなった強力な装備を加算。そして何より、ユッキーは爆弾魔ですが、本来は極振りの中でも異端なバフ・デバフ特化型です』

 

 音楽性の違いならぬ、爆破と爆裂の違いこそあれどにゃしいとユキは極めて近い思考回路をしている部分が多々ある。故にこそ、先程ザイル相手に見せなかった切札を切った以上何が起こるか……それが、朧げながらも予測できる。

 

『そんなスキル構築をしているユッキーが普通のステータスを得て、1vs1で、自分と相手にだけ普段ばら撒いている力を集中させたらどうなるか。きっと、面白いものが見れますよ』

 

 そうにゃしいが言い切った瞬間、戦闘領域全域を『減』と印された紋章が覆い尽くした。()()()()()()()()()()()()()()()レンに追い縋ろうとするユキは、対照的に全身を『加』と印された紋章が包み込んでいる。

 

「衝撃の──」

「ライダースティング」

「ファースト・ブリットォォ!」

『Rider Sting!』

 

 暴風雷雨を纏う脚撃と、拳で以って放たれる蜂の一撃が須臾の間に交錯する。その際にユキが無理な軌道で直撃を避けたのも、レンの蹴りが避けられたのも、ユキのペットが引き起こした自爆の連鎖にレンが包まれたのも、その全てを全てのプレイヤーが認識出来ていた。

 

『これは、凄まじいわね。そして何より、私にも実況が出来そうだわ』

 

 女性運営が言うように、凄まじい程にレンは速度を減退させられ、ユキは速度を加速させていた。未だその速度差は凄まじいものがあるが、対応できている時点でそんなものは考慮の外にある。

 

『ええ、流石はユッキーです。ですが……これは、時限式の強さですね』

『どう言うことかしら?』

『ユッキーのMPゲージを見ればわかると思いますよ』

 

 着々と飛翔する魔法陣が謎の紋章を描く中、会場の全員が頭上に表示されてるユキとレン2人の状態を示すアイコンに目を向けた。

 そこに存在しているのは、空中歩行を除いたコストを一切必要としないが故にMPが数%削れているのみのレン。そして回復し続けているのにHPが既に7割程度まで削れ、MPに至ってはバグっているのかと思う挙動でギリギリ6割を維持しているユキの状態だった。

 

『先のタロットスキルが一戦のみしか保たないことも前提とした、謂わば超々短期決戦フォーム。しかも見た限り、自分でも完璧に制御が出来ていないようです。ザイル戦で使わなかったのは道理ですね、ザイードやレンには有効でしょうが、ザイル相手だと嵌め殺されて終わりです』

『……私の解説する部分がないじゃない』

『HAHAHA! ユッキーが紋章を描き終わりました。来ますよ!』

 

 不貞腐れる女性運営に発破をかけるように、にゃしいが声を張り上げ──

 

「【神格招来】、いあいあハスター!」

 

 ユキの状態がまた変化する。外見的にはフルアーマー装備の上から、黄色く足先を大きく超えるほどの衣が装備され、顔の半分を蒼白い仮面が覆った程度。だがその変化の本質は、HPMP以外のステータスの極大強化だ。繊細さは放り捨てながら、出力だけがまた増大する。

 

『ユッキーの時間制限が縮まりましたね。勝負をかける気でしょう』

『クトゥルフ系魔導書の必殺技ね。まあ、あれだけ持っているならクトゥグア以外も使えて不思議ではないけれど……』

 

 そして当然の代償として、ユキのHPMPの拮抗ラインが低下した。7割であったHPは4割に、6割はあったMPは2割に。加えて全身を触手で拘束されるという年齢指定のかかりそうな光景は、自己バフではなく敵の妨害と考えた方が正しいような……素体が爆破卿であれ美少女ボディな今、どこか淫猥な雰囲気すら見てとれた。

 

えっちですね! 私にはあんな真似、到底やれません。蛙に丸呑みとかなら兎も角』

『それはそれでどうなのかしら……? 取り敢えず男ども、スクショタイムよ。アレくらいならフィルターは作動しないわ』

 

 当人達が死闘を演じている中、女性態のユキは大人気だった。

 

「鉛玉と爆薬の大バーゲンです!!」

 

 多数の残念そうな溜息を置き去りに、触手を力尽くで引きちぎり、巷で全身火薬庫と言われているユキの最大火力が解放された。フルオートで弾き出される無数の追尾する弾丸に、軌道を予測してばら撒かれる特製の爆竹、極め付けに天使らしい光線の弾幕までが幕ではなく壁として吹き荒れる。が──

 

『ザイードとの戦いが戦闘機のエース同士が行う超速のドッグファイトだとしたら、これは所謂サーカス軌道の方に分類されるハイスピードバトルね』

『側から見ている分には、この場面相当映える気がしますね! ユッキーの資金もレンの精神もゴリゴリと削れる音がしてますが!』

 

 そう実況している間に、次第に目で追い難いほど加速を始めたレンが遂にユキを捉えた。砲撃を受けた筈なのに何故か無傷のままユキの武装を蹴り壊し、追撃の爆竹すら無理矢理に道をこじ開けて突破する。

 

『……ああ、これはもうダメですね。ユッキーの勝ち目はありません』

 

 そんな決死の足掻きを見て、にゃしいがユキの勝ち目を否定した。これではもう手遅れであると、深紅の慧眼が光る。喉がやられたことで爆裂を封印した結果生まれた、時限式の超頭脳は戦闘の終了を既に脳裏に描いていた。

 

『それは、何故かしら? 私にはまだユキの勝ち目は少ないけれど、あるように思うのだけれど?』

『だからですよ』

 

 そう、まだ勝ち目が残っているから。だからこそユキに勝ち目が存在しなくなったと、にゃしいは断言する。

 

『ここまでレンを追い詰めて、かつ詰め切れてないからユッキーはダメなんです。あぁいえ、寧ろよくここまで保ったと言うべきでしょうか?』

『もしかして、切り札でもあるのかしら?』

『ええ、()()()()。瞬き厳禁です』

 

 にゃしいの予告と共に、スタジアム上からレンの姿が描き消え──一陣の風が吹いた。

 舞うは嵐、奏でるは最速の調べ。誰もが瞬きすることなく見つめていたスタジアムには、既に蹂躙され尽くした光景しか残っていなかった。舞い散る魔導書で作られた紙吹雪に、四肢と翼を蹴り捥がれた哀れな少女が1人。スタジアムに残っていたのはたったそれだけだった。

 

『うーむ……やっぱりこの速度、私の爆裂では捉えきれそうにないですね。残念ですが、私でも勝てない相手に分類されるでしょう』

『え……は……え……? どうしてあの子、システム限界速度に──ッ、もしかしなくてもペットかしら?』

『はい。減速された分を自力で加速してぶち抜いたみたいです。いやぁ、こんな根性論アキといい勝負ですよ!』

 

 ハッハッハと段々調子を取り戻した笑いを溢しながら、レンが無理難題をそのままに実行したとにゃしいが言う。一体いつからUPOは根性論がまかり通るようになったのか? そう言いたくもなるが悲しいことに、レンのスキル構築はユニーク称号と求道を除いて、全てが一般スキルで構成されていた。

 

 そうすれば後は、淡々と予定調和の如く戦闘は進む。実質無限復活という鬼札にして悪手を切ったユキの突撃は、レンのHPを削りこそすれ仕留めるまでには至らない。

 

【WINNER レン 】

 

 故にこそ、レンの勝利という結果で第2回戦初戦の幕は閉じたのだった。最後まで足掻き続け、一矢どころか二矢三矢と抵抗したのちの敗北で、速度が最後までものを言った勝利だった。

 

『決着ぅ!! 最後の最後まで、勝利を求めて足掻いたユッキーに拍手を!!』

『下馬評を覆す……とはいかなかったけれど、とても見応えのある30秒だったわ。とはいえ運営としては、色々と調整すべき案件が見えてきて憂鬱でもあるわね……私の肝臓、保ってくれるかしら』

 

 その哀愁漂う言葉からは、哀しいほどにデスマーチとエナドリの香りが漂っていた。

 

『気を取り直して、次の対戦カードはこれよ!』

 

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  【裁断者】アキ

     vs

  【頂点捕食者】翡翠

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 頭上で切り替わるモニターの画面。

 最強の盾 vs 最強の矛、その第2回戦が幕を開けようとしていた。

 


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