幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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第172話 蛮族の狂宴 翡翠 vs 黄金

 世にも珍しいシャ。捕まえるのはかなり難しいであろうレインボーなフィッシュを咥え、ゲーミング発光するひよこを従えたその姿はまさに熊、多分クマ、きっとくま、メイビーベアー。そして恐らく森ガール。いや、俺は何を言ってるのだろうか。

 

『早速翡翠がやらかしてくれましたが、エキシビジョンマッチ6回戦!

 みぃぃどりコーナー!

 入場ゲートを見ろ! 熊だ! シャケだ! いいや、奴こそ我が爆裂を耐えきった好敵手! 【頂点捕食者】翡翠の入場です!!!』

ひょっほはっへふははい(ちょっと待ってください)

 ほのほはははのひゃへひゃはりはへん(この子はただのシャケじゃありません)

『ぴよ』『シャケェ』『ぴょ』

 

 喉が復活したらしいにゃしい先輩のコールに、何か不満を持ったのかモゴモゴと翡翠さんが反論していた。その周りを楽しそうに歩き回るゲーミングひよこはともかく、七色に光りつつ半分死んだような目をしてビチビチ跳ねているあのシャケは何なのだろうか。まるで意味がわからんぞ。なんか喋ってるし。

 

『……いや、本当に何なんでしょうねあのシャ。貴女は何かしりません?』

『知らないわ……考えたくもないわね。それ以前に、貴方一体どうやって喋ってるのよそれ?』

『気合を入れるんです。やってみたら出来ますよ?』

『それで出来たら苦労しないわ。シャなんて……なんか違うけど出来てたわ!!??』

 

 声が点滅していたり七色に聞こえたり、さっき限界を突破したせいで遂に頭がおかしくなったのかと思ったが違かったらしい。いや、うん、理屈も意味もまるで理解できない。UPO、恐ろしい子・・・!

 

『気を取り直して。続きまして、あ、黄色コーナー!

 物理防御極振りを斬り捨て、同類たるセンタすら超えた鋼の英雄! その手に宿した破滅の光は、翡翠の濁りをも掻き消すのか! でも実は好物がモンブラン、【裁断者】アキのエントリィィィィです!!』

「おい待て、にゃしい。なぜ貴様が俺の好物を知っている」

『負けた腹いせにってことで、意気揚々とセンタが教えてくれましたよ?』

 

 しっかりとサムズアップまでかまして言い放ったにゃしい先輩に、片手を額に当てるようにしてアキさんが大きなため息を吐いた。今度ギルドホームの喫茶店に、モンブラン追加の要望でも出しておこう。

 

「まあいい。準備は万端ということで相違ないな? 翡翠」

「ええ。もひほんひゅんひはんはんへふ(もちろん準備万端です)

「そうか。ならばこちらも、遠慮なくいかせてもらおう」

『ぴよ!』『シャケェ!』

 

 シャランと、涼やかな音と共に引き抜かれる双刀。鈍い鋼の反射を作る刀身は、光を反射して眩く澄んでいた。対する翡翠さんは普段身に付けている短剣や短杖を持たず、何故か両手にゲーミング発光するひよこをにぎにぎと握り、口にはレインボーシャケを咥えた野生解放(ワイルドブラスト)スタイル。

 これからどんな展開で戦闘が進むのか、全く予想すらできない中両者の間に浮かぶカウントだけが数字を刻み始めていた。

 

「ユキくんは、どっちが勝つと思う? 私は多分アキさんが、あの光でズバーッ!ってやって終わりだと思うんだけど」

「正直、翡翠さんが未知というか、想定外すぎて何がどうなるか分からないかなぁ」

 

 アキさんの猛威を目の当たりにし、競い合っていた以上普通ならセナのように考えることも分かる。だけど同時に翡翠さんの意味不明な行為のせいで、予想が本当に捻れてしまっている。

 両手でピヨピヨパタパタ楽しそうにはしゃいでいるゲーミングひよこに、口元でビチビチ跳ねながらシャケシャケ叫ぶレインボーシャケ、そしてにゃしい先輩を食べた謎の第3の口。戦闘中は俺以上のオワタ式であるアキさんに、それらが何か致命的な一撃を叩き込む気がしてならない。

 

「じゃあ、私は、翡翠さんを、応援、します、かね?」

「ん!」

 

 逆に藜さんとれーちゃんは、比較的常連さんである翡翠さんを応援するらしい。ランさんとつららさんは観戦の構え。これだと2対1だし、俺はアキさんを応援しておこうか。

 

 戦闘の幕が切って落とされるまであと3秒

 

 シンと静まり返った空気の中、両者が刀と拳を構えた。ひよこですらゲーミングカラーで発光するだけで無言、空気を読まないレインボーなシャケのみがビチビチしている。

 

 あと2秒

 

 恐らくこの前の試合を見るに、試合の決着か趨勢は最初の一撃で決まる。アキさんが翡翠さんを討ち取るか大きくダメージレースで優位に立ち試合の流れを握るか、或いはそれを翡翠さんが回避して何かをするか。

 

 あと1秒

 

 決して瞬きの許されない一瞬に、誰もが息を呑み──

 

特化付与(オーバーエンチャント) : 閃光(ケラウノス)!」

「【頂点捕食者】」

「シャケヲクエェッ!?」

 

 0秒。予想通り試合開始直後、無数の動きが連続した。

 だがその全てを端的に表すのであれば、たった一言で全てが説明できる。即ち、アキさんの武器が弾かれ本人は吹き飛ばされ、そのHPが0になったという衝撃的な現実だった。

 

「か、は……」

「しゃけしゃけ」

 

 満足そうにもごもごと口を動かす翡翠さんの手元には、例の見えない口で食いちぎったであろうアキさんの喉元が存在していた。

 

「素朴な栗の味、旬は過ぎましたが美味しいですね」

 

 起きた動きの順番としてはこうだ。

 まず初めに、試合開始直後アキさんの刀に黄金の爆光が宿った。デュアルさんですら斬滅させたその光は相変わらず健在で、間違いなく翡翠さんも直撃すれば一撃で斬滅せしめたのは間違いない。

 それと全く同じタイミングで、翡翠さんは咥えていたレインボーシャケを捕食した。目を見開いたシャケの轟かせた断末魔と共に、アキさんに向け発射されるレインボー・スプラッシュ(イクラ)。それに対抗するために、アキさんが左の極光斬で迎撃。

 その圧倒的な光量とダメージ範囲から逃れるように、身を低くして凄まじいバフを背負った翡翠さんが疾走していた。現在進行形で発生しているその圧倒的な量のバフは、間違いなく今も地面で力なく跳ねているレインボーシャケの能力だろう。

 

「クリスマス、シャケ、サモーン……」

 

 やっぱりシャケは見なかったことにする。

 兎も角、1度目の極光斬が通過した後には、既に刀の間合いの遥か内側に翡翠さんが滑り込んでいた。しかしそこはアキさんも()る者で、右の極光斬を手放し握りしめた拳で翡翠さんを迎撃。しかしいかなる術理か、翡翠さんは無傷でその拳を受け流しきった。

 最後のトドメとして見えない口が、咄嗟に飛びのこうとしたアキさんよりも早くその喉笛を食い千切る。一瞬後にアキさんの踏み込みが間に合い、後方へ下がるも時既に遅し。特化紋章の反動で1になっていたアキさんのHPは0へと叩き落とされた。

 

『これは……決着、でいいの、かしら?』

 

 訪れた静寂の中、戸惑うようにして女性運営の言葉がアナウンスされた。戦闘開始僅か1秒、刹那の見切り。たったそれだけで、勝負がついたように()()()この戦いは、それ程までに実況殺しでもあった。そう、これがもしも、本当に翡翠さんがアキさんを倒して見せていたのであれば。

 

『いいえ、まだです。アキはこの程度では終わりません!』

「おかか。まだです、食べ切れませんでした」

「やっぱり来ますよね、伝家の宝刀が」

 

 にゃしい先輩と翡翠さんと、言葉が重なった。この戦闘に決着が付いているのであれば、【WINNER ○○】という表示が出ていなければおかしいのだ。なのに今、何処を探してもその表示は存在していない。つまりまだ、何も終わっていない。

 

ああ、()()()。ここまで美しい無拍子を見せられて、倒れてなどいられるか」

 

 瞬間、飛び退いた際の震脚で舞い上がっていた埃が晴れた。今までよりも明らかに極太の極光斬が、ただの一撃で全てを浄滅させていく。

 

「全ては"勝利"を掴むために、今こそ俺は創世の火を掲げよう」

 

 そうして顕になった、35、34、33と減少し続ける数字を頭上に浮かべたアキさんの姿。だがしかし、その姿は数秒前までのアキさんとは異なったものだった。長く伸びた髪を一まとめにした金髪、顔から傷は消え、何処となく高くなったような声。そして何より、軍服然とした格好から変化した、太陽のような鎧具足。間違いなく、俺と同様黒アスト装備による変身が行われていた。

 それは既知の能力である以上不思議ではない。だが、だがだ。食い千切られた喉笛から夥しい量のダメージエフェクトを溢しながら、HPが0のまま、しかし何故か戦闘を続行する態勢で炎の様な黄金を宿した双刀を握っている。それがまるで意味不明だった。

 

特化付与(オーバーエンチャント) : 烈光星(アルカディア)!」

「やはりこうなりますか」

 

 頭上に減少し続けるカウントを浮かべながら、1/3爆裂程度の炎を巻き上げアキさんが飛翔した。俺がやった変身とは違って、恐らくやっていることは黒ボス装備による単純な能力増強。Str極振りの全力の踏み込みによる、自傷ダメージが発生しなくなったことに由来する超加速。そして恐らく、何かしらの特化紋章術が重ね掛けされたことによる異次元の火力。

 それらの要素が相まって、一歩踏み込むだけでスタジアムに大穴が空き、それでも収まらない火力が火焔として撒き散らされる異常自体が起きていた。

 

「【アポルオン】【終焉の杖】【精神結界】」

「ぴよ!」

 

 展開された【終末】が、振われた焔光刃に両断され天候として消滅する。

 発生したダメージフィールドが、さも当然の様に踏み込みで砕け散る。

 関節の動きを遮る様に展開された多重結界が、気合一つで粉砕される。

 ひーこーにより降り注ぐ無数の流星群が、たった2刀に全て切り刻まれる。

 何も何も何も、立ちはだかる全てアキさんの進撃を止めることが出来ない。両手の刀が何もかもを両断して消滅させている。

 

「ヤキジャケェ」

 

 シャケはこんがり焼けていた。

 




・特化付与 : 烈光星
 属性付与 : 炎・光・獄毒
 詠唱時間 : なし(自動)
 効果発動前提条件 : 特化付与 : 閃光発動後20秒以内に敵の攻撃で死亡
 効果時間 : 2秒(37秒)
《メリット》
 物理攻撃威力上昇3000%
 自身のHPが少ないほどクリティカル威力上昇(最大200%)
 クリティカル確定
 超過ダメージ計算適応(残機貫通)
 環境効果破壊
 装備制限撤廃
 HP全損無効
《デメリット》
 HPスリップダメージ発生(1s/2000)
 Vit・Min・Int値をマイナス計算
 被クリティカル確定
 遠距離攻撃不可
 特化紋章術・(任意の武器スキル)を除いたスキルの効果消去・発動不可
 効果時間終了後死亡(残機含む)
 デスペナルティ効果10倍
 デスペナルティ時間10倍
 効果時間終了後2日間《服》カテゴリ装備のみ防具装備可能
 効果時間終了後2日間《天候》効果1.5倍
 痛覚減少深度低下 Lv5(最大10)
(Lv4= ダメージ発生時カットされる痛みの感覚が、タンスの角に全力で足の小指をぶつけたくらいの痛さに変更)プレイヤーが操作可能な範囲は5まで

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