幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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クリティカルフェンサーを大回転させてボスの首を刎ねてたので初投稿です。この手に限る(この手しか知りません)


第175話 Champion Time is over

 アキさんの残り戦闘可能時間は15秒。たったそれだけの、僅かな時間しか残っていない今使われた特化紋章。それはアキさんの切札宣言を証明するように、圧倒的な力となって吹き荒れた。

 左腕を削り取られたレンさんから察するに、新たに展開された紋章の効果は──天候の展開と攻撃範囲の増強。通常攻撃がダメージ(即死)の人には、ダメージ発生遅延や射程延長同様に持たせちゃダメなタイプの能力だった。

 

「本来であれば【装刀オリハルコン】を改造した【調界星刀ヘリオスフィア】で使う技ゆえ、少々荒削りになるが許せ」

 

 14秒。

 アキさんの右手に構る蛇腹剣が解け、風に乗って螺旋状に姿を変える。同時に蛇腹状に解けた金属片1つ1つに、収束され漆黒に染まった炎ではない青白い光が灯る。セントエルモの火……なのだろうか、普通の天候【嵐天】では見ることのないそれが、数十の破片全てに灯り──

 

「天神の雷霆よ!」

 

 13秒。

 メインテーマのタイトルコールと共にその全てに墜落した雷轟が、夜空に描かれる星座のように空間自体に焼き付いた。アキさんの束ねられた金髪を黒く染めながら、一瞬ではなく電子回路の様に雷が走る道が空間に刻まれていく。

 

「応ともさ! そっちこそ、私の両手を奪った程度で満足してないよな!」

 

 12秒。

 対するレンさんの動きも、両腕を失ったとは思えない異常性に満ちたそれだった。何せそう、持続時間は僅か1秒のみだったとはいえ、レンさんは8人に分身したのだから。そう、分身したのだ。幻影による実体を持たない見かけ倒しのそれではなく、実体による実体を持った本当の意味での分身に。

 本来それは、セナの持つユニーク称号【舞姫】の特権であるはずだ。だというのに、ペットの持つ1体だけ分身を作るスキルと合わせ、システム限界速度を完全に制御し切るという無理難題を土壇場で実現させ、有り得ないを現実にしていた。

 

「無論、そうだとも!」

「そういうと思ってたぞ、アキならな!!」

 

 11秒。

 7体の本人+分身による8人が、アバターを形成するポリゴンを一部崩壊させながらもその両脚で雷電を撃ち砕く。

 それを捉えんとアキさんは闇に染まった極光を纏う蛇腹剣を振るい、対の手で暴風雷雨の波濤を切り拓く。

 交わされる蹴りと刃、暴風と暴風、雷雨と雷雨、極限速度の天地鳴動と極限収束の天地両断。アキさんの全力解放から僅か3秒、たったそれだけの時間で戦場は形容し難い混沌とした状況へと陥っていた。

 

 スタジアムはもう形さえ残っていない。システムに破壊不能オブジェクトとして設定されている建物の基礎を除いて、スタジアムとして設置されていたある物は蒸発し、またある物は瓦礫となりゴミのように風に舞っている。黒い旋風が渦巻くそこは、敢えて言葉にするなら天災と天災が覇を競う聖戦じみた空気さえ醸し出していた。

 

「これが限界を超えたお前の力か、アキ! だが、まだ足りない! 足ァりないぞォ!」

 

 10秒。

 アキさんの双刀と蹴り結んだ後、レンさんは後方へ宙返りしながら間合いを離脱。着地した瞬間に今度は10体へ分身し──

 

「お前に足りないものは、それは!」

「速さだろう。己の不得手くらい、自覚している!」

 

 9秒。

 燃え上がる炎が翼のように、アキさんへの反動を無視して弾き飛ばした。当然、振われる双刀の行き先は9体の分身。飴細工を砕くように分身が途絶え、制御を失ったレンさんがスタジアムの壁に着弾する。同様に制御できる限界速度を超えていたのか、アキさんも反対側のスタジアム壁に着弾した。

 

「速さが足りないッ!!」

「まだだッ!!」

 

 8秒。

 直後、スタジアムの中央だった場所から衝撃が轟いた。見ずともわかる原因は、鍔迫り合う満身創痍の先輩の姿。意趣返しとばかりに左腕を吹き飛ばされ、刀を咥えるアキさん。そしてついに両脚の装備を砕かれ素足となったレンさん。その2人が、雷を足場にするという意味不明な方法で連続して激突していた。

 

「脚の指ってのは、便利だよな!」

「見事だ。だがまだだ、止まりなどしない。必ず俺が勝つ!」

 

 7秒。

 あろうことか、蛇腹剣のワイヤー部分をレンさんが脚の指で絡め取った。当然そんなことをすれば、武器に生身で触った判定となり即死は免れない。けれどほんの一瞬、展開するバリアを貼り直し続けるという絶技を持ってすれば触れることは理論上可能で、実際アキさんの右腕から刀を弾き飛ばすという快挙を果たしていた。

 しかしその程度でアキさんは揺るがない。即座に右刀を手放し、咥えていた左刀へ持ち替え。装備破壊の能力が宿った暗黒の極光斬がレンさんに向け放たれた。

 

「1発きりの魔弾、使いどきはここだ! 【タイム・ジャンプ】!」

 

 6秒。

 闇の波濤がレンさんを飲み込み、その残り僅かなHPを刈り取る直前。レンさんの姿が描き消えた。それは超スピードや催眠術みたいなチャチな偽物とは違って、正真正銘本物の転移。話にだけ聞いたことのある、3秒前に自分の状態を巻き戻すというペットのスキル。それにより、アキさんの死角から3秒前の加速度とダメージを保持したまま、一条の流星の如くレンさんが襲撃する。

 

「EXCEED CHARGE! 沈みやがれ!」

「否、否だ!」

 

 5秒。

 攻撃直後のアキさんは、その唐突な襲来へ対しても振り抜いた極光斬を余分に放射することによって迎撃。しかし、流石にこの一撃に限ってはレンさんの方が何枚も上手だった。

 すり抜けるように極光斬は紙一重に回避され、代わりに渦巻く風と紫電、ダメージエフェクトで作られた半透明で赤い円錐状のマーカーがアキさんの周囲に無数に出現。同数まで瞬間的に分身したレンさんが、マーカーを打ち抜くようにしてライダーキックを放った。

 

「クリムゾン・スマッシュ!」

「まだだぁッ!!」

 

 4秒。

 レンさん渾身のライダーキックが直撃する直前、アキさんの最後の足掻きのように極太の落雷がアキさん本人を巻き込む形で天墜した。そしてあろうことが、残り数秒は無敵なのをいいことにアキさんが選んだのは迎撃。落雷でレンさんのルートを絞り、復活していたブーツごと頭突きでライダーキックを粉砕する。

 

「もう、1発!」

「遅い!」

 

 残り3秒。

 顔の半分を吹き飛ばされることを代償に、レンさんの片脚をアキさんは頭突きで吹き飛ばした。威力は相殺、双方のHPゲージは変動しない。アキさんは0のまま、レンさんも1割を切っているレッドゾーン。だというのに、双方のギアは最高速すら置き去りになっている。

 キックを破られた反動すら利用してレンさんが離脱、そして即座に反転して第二撃を叩き込もうと再度マーカーが出現する。しかし同時に、アキさんも新たな剣を使った抜刀術の構えを取っている。

 

「【サターンエンジン】起動!」

 

 残り2秒。

 片足となったことで揺らいだ極限速を、どう考えても自爆が待っていそうなスキルで補いレンさんがライダーキックを敢行する。残った片脚には素足とは思えぬ程の力が渦巻き、螺旋の軌跡を描いている。

 

「──ッ!」

 

 残り1秒。

 対して、まるで明鏡止水といったような静けさを湛えたまま、刀に手を掛けアキさんはそれを見据えていた。残った片目では距離感が掴みづらいのか、あるいは最後の一撃必殺を狙っているのか。

 

 残り0.9秒

 ライダーキックが突き進む。

 

 残り0.8秒

 アキさんはまだ動かない

 

 残り0.7秒

 鯉口が切られた

 

 残り0.6秒

 刀が閃き──

 

 残り0.5秒

 螺旋を纏うライダーキックと()()()()()()一刀が直撃した。

 

「なッ──!」

「シィッ!」

 

 それは正真正銘、最後の一振り。アキさんがこれまで一度も見せてこなかった、エナジードレインの剣。俺も取得に協力した【呪怨剣ヨルムンガンド】が、これまでの戦闘で削れた他の剣達とは違い万全の状態で、その性能を十全に発揮させた。

 

 残り0.4秒

 アキさんの刀がバリアとポインターに深く食い込む。

 レンさんの速度が落ちる。

 

 残り0.3秒

 バリアとポインターが砕け散り、必殺の一刀が剥き出しの脚に迫り──レンさんが慣性を一切感じさせることなく静止した。

 

 残り0.2秒

 必殺の一刀が余波を残し、けれどレンさん本人に掠りながらすり抜けた。同時に遂に0コンマ数%の値にまでHPバーが削れていき、レンさんが再始動。爆発的なバリアと暴風雷雨のカーテンが再展開される中、ライダーキックが再加速して撃ち出される。

 

 残り0.1秒

 そして、2人とも何処となく満足そうな笑顔を浮かべ──

 

 残り0秒

 スタジアム全てを巻き込む、大爆発が発生した。

 ズズンとお腹に響く重い衝撃音。巻き上がった砂埃が戦闘が終わったことで解除されたフィールドから巻き上がり、スタジアム全体を覆い尽くす。

 

『決着、の筈ですが。軍配が上がったのはどっちです!?』

『分からないわ。実況席(ここ)からでもまだ何も見えていなもの』

 

 咄嗟に障壁でここら辺一帯は覆ったけれど、砂埃のせいで視界が悪い。頭上に浮かんでいるはずの勝利者の名前も、実況席からも見えないときた。

 

「ユキくん。どっち!?」

「ユキさん。どっち、でした?」

「……ごめん。俺も最後までは」

 

 でも、分かることが1つだけある。それは──この砂埃が晴れた時、立っていた方が勝利者だということ。

 

「俺の方が、速かったな」

「ああ、私の方が遅かった」

 

 誰もが息を呑んで結果を見守る中、静まり返ったスタジアムにそんな2人の言葉が響き──

 

「だからこそ、私の勝ちだ!」

「ああ。見事だ」

 

 後に続いたのは、高らかに勝利を歌い上げるレンさんの声だった。瞬間、スタジアム中央から吹き荒ぶ一陣の風。砂埃を攫った風が吹き抜けた後には、快晴の空が広がる。

 

Congratulations!

【Champion レン】

 

 青空に映し出されるは、このエキシビジョンマッチで優勝した証明。運や相性差があったとはいえ、極振り最強を示す唯一無二の証。それを仰向けに見上げながら、力と速さの勝負に勝ったレンさんはやり切ったような、満足した笑みを浮かべ横たわっていた。

 両腕と片脚の部位欠損で撒き散らされるダメージエフェクトは痛々しいが当の本人は満足気で、運営が気をきかせたのか数値化されたHPバーの残りはHP 2/4050。正真正銘、紙一重での勝利だったことを示していた。

 




The people with no nameだったかもしれない
1フレーム差で勝利です

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