幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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レクリエイターズの世界に獣殿とコズミック変質者が降臨して、アルタイルが「ナニコレ」ってアホ面にズレた帽子で固まってる夢を見た…


第14話 第1回イベント

 同級生の男子の恐ろしい視線を背に、部活が休みになったらしい沙織を送り届け、ようやく帰宅し落ち着いた月曜日の大体午後4時頃。イベント開始から既に4時間、はやる気持ちを抑えてログインする。

 

 見慣れた店内に到着した俺の手元で、勝手にウィンドウが展開した。

 

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《!開催中!『灰の魔物と失われた王冠』》

 現在のpt

 個人 : 0

 ギルド : 57420

 順位 : 12位

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 春の大暴走についての詳細は、

 

 ☆期間中「灰」と名のつくモンスターが出現する

 ☆特定の敵を倒す&そのドロップ品をゲットするかで、敵の強さやドロップ品のレア度に応じたポイントをゲット

 ☆ドロップ品は色々なものと交換可能

 ☆個人ポイントは、貯めた数値によって色々なものと交換可能

 ☆ギルドポイントは、ギルメン全員の獲得ポイントによってランキング

 ☆ランキングによって、特別報酬あり

 ☆特別なモンスターもでるよ!

 ☆第2の街に到達してる人のみ参加可能

 

 流し読みした公式ページの内容を纏めると、大体こんな感じだ。5つ目のヤツから察するに、既につららさんとかが本当に頑張っているようだった。カウンター辺りにいつも居るれーちゃんすらいないのも、多分そういうことなのだろう。

 

「さて、確認も終わったしそろそろ行くか」

「そだねユキくん。それじゃあれっつごー!」

 

 そんな声とともに、右手に生まれた小さく温かい感触。あ、これダメな(吹き飛ぶ)やつだと覚悟完了し……

 

「どしたの? ユキくん。行こ?」

 

 予想とは違い、軽く手を引かれるだけで終わった。流石に予想外すぎて頭の回転が追いつかない。

 

「えっと、大丈夫かセナ? 変なものでも食べたとか、熱とかあったり? なんなら作りに行こうか?」

 

 手をほどきしゃがんで、自分とセナの額に手を当て……あ、ここVRだから意味ないや。そう少し後悔してると、ちょっと赤くなった顔のセナに目を逸らされた。

 

「い、今から急いでもそんなに意味ないし、ゆっくり行こうかなーって思ってただけなんだけど……来てくれるのは嬉しいけど」

「そっか、それなら良いんだが」

 

 自分の言ったことを誤魔化すように、セナの頭を撫で立ち上がる。セナやれーちゃんが怒らないからいいものの、この癖っぽいものは治さないといけないな……

 

「も、もう! 早く行くよ!」

「はいはい」

 

 さっきセナが自分自身で言ってたことと矛盾してるけど、揚げ足取りになるので黙っておく。あんまり長く話して、参戦が遅れるのも嫌だしね。

 

 

「到っ着!」

「ごふっ」

 

 そんな声とともにリアカーが急停止し、運ばれて(んでもらって)いた俺は、慣性の法則か何かでバランスを崩し頭を打った。そして、当たり前のようにHPが3%ほど削れる。これはさすがに、セナに頼らない高速移動手段を考えなくちゃいけない。

 

「それにしても賑わってるな」

「そうだねー」

 

 バチャリと、跳ねる水を感じながら降り立った湿地帯。リアカーをアイテム欄に戻しつつ見渡したそこには、普段と比べて3割り増し程度人が増えており賑わってる……気がする。そしてそれぞれ灰色のモンスターと戦っており、それが特定の敵なのだろうと推測できた。

 

「それじゃあ俺たちも」

「始めよっか!」

 

 その声を合図に2つの破裂音が響いた。

 1つは上空から降下してきた数匹の灰色の鳥(アッシュコンドル)の一体を、セナの銃剣から放たれた弾丸が撃ち抜いた音。もう1つは、泥沼から飛び出してきたハゼっぽい敵(灰鯊)を俺が爆破した音。いや、それっぽいじゃなくてやっぱりハゼだった。

 どっちも【サバイバル】のスキルで感知できてたから、特に奇襲でも何でもない。鳥は完全にセナに任せて問題ないだろうし、安心して錫杖を足元に突き入れ灰鯊に手をかざす。

 

「《エンチャントサンダー》」

 

 その特徴的な腕で飛んでこようとした灰鯊の全身に、バチバチと電撃が走った。減ったHPは《フルカース》に届かないまでも、かなり高い。何だか魔法使いっぽくて良いなこれ。

 この魔法のタネは、【付与魔法】の熟練度的なものが上がり使えるようになった《属性付与》。普通はこんな短期間で使えるようになる代物ではないらしいのだが、数日前あっさり解放された。

 

「《エンチャントウィンド》」

 

 電撃から抜け出した灰鯊を、今度は緑色の風が(うっすらと)切り刻んだ。

 この《属性付与》の効果は名前の通り様々な属性を味方や敵に付与する魔法だ。発動を失敗させると、勿論その属性が対象を襲う。そして、このスキルが解放されたのはきっとアレだろう。一般的なプレイヤーと比べて、【付与魔法】の使用回数が段違いだからだろう。9割が失敗させての爆発だけど。

 

「そいや!」

 

 そんな考え事をしているあいだに、空から降ってきたセナの攻撃が、灰鯊のHPを1割弱まで持っていった。レベルを上げて物理で殴ればいいとはこのことか…(違)

 

「《フルカース》!」

 

 そして最後に、俺の爆発がHPを削りきった。パーティを組んでるので経験値は同じだし一人のときより時間もかからないし、いやぁ本当にやりやすい。

 錫杖を手に取り感心している俺に、泥を跳ね飛ばしながら着地したセナが聞いてくる。

 

「ここら辺の敵、凄い弱いけどどうする? もっと奥行く?」

「まだ見切れるし、それが良さげだな。今の敵、ドロップもそんなに良くないみたいだし」

 

 俺のアイテム欄に表示されてるアイテムは、灰の欠片×5・灰の鱗×1・灰の翼×1となっている。最後の物がそこそこレアなだけで、他は二束三文なアイテムだ。灰の〜〜がイベントアイテムらしいし、折角ならもっとギリギリまで攻めてレアドロを狙いたい。

 

 そういうことで意見が一致し、今度は徒歩でフィールドの奥……つまりボスが待ち構える方向へ向かって進んでいく。リアカー? さっきはほぼ入り口までだから平気だったけれど、今は乗れるわけがない。何せここは湿地帯、何かの弾みに俺が荷台から発射されて死にかねない。

 

「そういえばセナは【紋章術】ってスキル知ってるか?」

「んと…確か全体バフがかけられるやつだったっけ?」

「そうそれ」

 

 会話の途中で飛び出してきた灰鯊に、錫杖を突き出しそのまま内側から《フルカース》で爆散させる。今の攻撃の反動でHPが半分をきったので、足元にポーションを落とし踏み砕いて回復する。

 

「調べた限り、今の俺の状態だといつ進化してもおかしくないはずなんけど、なんかいつまで経ってもそんな兆候がないんだよ。そういうスキルが進化する条件とかヒントみたいなの知らないか?」

「私としては、ユキ君が戦えてることの方が分からないよ…」

 

 俺の一連の流れを見て大きくため息を吐いたセナは、けどまあと前置きして続ける。

 

「βテストのときに【召喚術】ってスキルがあるって噂されてて、そのときに初めてスキルをゲットした人の方法が、ひたすら地面にそれっぽい法陣を書き続けることだったんだー。だから、案外紋章っぽいものを書いてれば、進化するんじゃないのかな?」

「不確定だけど、教えてくれてありがとうな沙織」

「ふふん」

 

 上機嫌なセナの隣を早歩きで進みつつ、俺はメニューのオプション欄からメモを起動する。このメモ欄は、携帯にメモアプリがあるのと同等の理由で実装されてるんだろうと思う。というか、ネット通せば音楽を流しながらプレイもできるし、自由過ぎるだろこのゲーム…

 サバイバルの気配感知を全開で使い警戒しつつ、俺はその真っ白なメモ欄に指で線を走らせる。

 

「何描いてるのー?」

「紋章っていうから、ちょっとスワスチカを」

「なんでそんな物騒なの書いてるのさ…」

 

 まあいいじゃんと返事して、別の場所に線を走らせる。因みにスワスチカっていうのはアレだ、簡単に言えば逆卍だ。初めに書いた理由はお察しである。

 次に書き出してみたのはジオン軍のエンブレム。けれど、流石に2個じゃ何も起きないようだ。がっかりしつつも、とりあえず探知圏内に降りてきた鳥に《エンチャントサンダー》を浴びせる。そして、落下した鳥は即座にセナの銃剣の錆になった。

 

「お見事」

「ユキくんの迎撃の方が凄いよ…」

「いやいや、俺は足止めくらいしかできないし」

 

 紋章を描きながらだからセナの姿を追わないと歩いていられないし、それでも気をぬくとバランスを崩す。加えて半径5m圏内でしか反応できないうえに、火力はお察しである。たかが三つ程度の並行作業……現実ならともかく、ゲームでなら無茶じゃない。嘘ですごめんなさい、前回の教訓を活かしてるだけですはい。

 

 壊滅的なAglの速度で進行しながら、紋章を描くこと十数個目。不定形な五芒星形の内側に炎の目を描いた物を完成させたとき、それは起こった。

 

 ピロンという小さな音が耳に届く。それは何かを受信した音。この状況でそれが示すことは限りなくひとつに近く……

 

「…まじかよ」

「どしたのー?」

「いや、本当に進化可能になった」

 

 一旦メモを閉じたメニュー欄。そこで①という数の付いていたステータスの欄を開くと、こんなメッセージが届いていた。

 

 ====================

 条件を満たしました

 【付与魔法】が進化可能です

 候補

 ・呪術

 ・紋章術

 ・多重付加術

 ・召喚術?

 ====================

 

 個人的には、非常に一番下のヤツが気になるし興味も引かれる。だけど、?マークがそれを上回るほど不安を掻き立てる。なんか召喚するたびにSAN値チェックが入る気配がする。

 

「それで何にするの?」

 

 いつの間にか足を止めていたセナが、こちらの画面を覗き込むようにして聞いてくる。何が起こるか分からない最後の進化先については、わからない以上考えても仕方ない。だったら選ぶのはひとつしか残っていないだろう。

 

「やっぱり【紋章術】かな」

 

 なんせ俺は対抗ロールなんて自動失敗になる貧弱ステータスだ。好奇心を優先して戦えなくなったら、最悪としか言いようがない。

 そっかー、というセナの声を聞きつつ俺は【紋章術】を選択し、【付与魔法】を進化させた。

 

「さて、これで準備も終わったし……え?」

 

 【紋章術】の説明を読んでいた俺の耳に、セナのそんな驚いたような声が届いた。その声につられて目線を上げると、そこには明らかに場違いな存在がいた。

 

「お姫…様?」

 

 セナの言う通り、そこにいたのはお姫様だった。

 ただし全身が灰色一色で、顔にあるだろう部分はマネキンの様にノッペリしている。身に纏うボロボロのドレスも、跳ね放題の髪の部分も、灰色に染まっている。灰に染まってない部分といえば、頭に飾られた王冠のティアラとーー

 

「アレがお姫様なら、随分と物騒な……いや、日本じゃ普通か」

 

 足……いや、脚部に存在する半透明の大型ブレード。舞踏会じゃなくて、武闘会にでも出席するんじゃないだろうかってレベルの、攻撃的なデザインだ。

 

 見てわかる通り、現れた敵の名前は『灰被り姫』

 分かりやすく言えば、シンデレラだった。

 そして情報を加えるならば、このお姫様(戦闘民族)が、公式広告にシルエットが載っていた、目玉のレアモンスターだった。

 




威力
大なり小なりの向きを間違えてたので修正

Before
カース=エンハンス<ユキの通常攻撃<(極振りの壁)<一般の通常攻撃<エンチャント<<フルカース<一般の下級魔法

After
ユキの通常攻撃<(極振りの壁)<カース=エンハンス<<一般の通常攻撃<<エンチャント<<フルカース≦一般の下級魔法

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