幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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A.大惨事対戦だ


第176話 Q.何が始まるんです?

 極振りエキシビジョンマッチが終わった後、それはそれは盛大な表彰式が行われた。俺は総合4位だったから残念なことに表彰台に登ることはなかったけれど、確かな満足はあったのでそれで良しとする。

 その後は頭痛もしてきていたので普通にログアウト。沙織と一緒に買い物に行き、添え物は思いっきり手抜きしてシャケのムニエルで晩御飯にした。2人で食べる晩御飯は落ち着くなぁ、などと思いつつ家までちゃんと送り返して日曜日は終わり。

 

 そうして月曜、火曜と日時は過ぎて行き、11日の水曜日。ついにその日がやってきた。これまでが極振りエキシビジョンだったのに対して、諸々の予定が変更された末のユニーク称号持ちのトーナメント。高校生としてはテスト期間が始まったこともあり、早帰りであり早くログインできるという好条件だ。そう、学生には好条件だった、のだが……

 

「まあ、当然こうなりますよね」

 

 日時は12月という繁忙期?の企業も多い時期の頭、そして平日の水曜日だ。一般的な社会人であれば、当然その時間は会社にいる。もし超大規模な感染症が流行したりすれば話は別だが、過去現在ニュースでそんな話は見たことがない。故に、極振りエキシビジョンの時とは違ってユニーク称号持ちが全員参戦する、などという理想は実現しなかった。

 

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 ー昼の部ー

 《舞姫》セナ

 《オーバーロード》藜

 《ナイトシーカー》カオル

 《大天使》イオ

 

 ー夜の部ー

 《傀儡師》シド

 《ラッキー7》シルカシェン

 《牧場主》しぐれ

 《初死貫徹》Chaffee

 

 ー参加辞退組ー

 《マナマスター》コバヤシ

 《提督》ZF

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 その内訳は、大体こんな形になっていた。

 簡単に言えば、昼の部は学生組と夜勤のカオルさん。夜の部はそこまで仲の良い人がいないせいで判別つかないけれど推定社会人組だ。参加辞退組の2人は、PT戦でこそ真価を発揮する人たちなので今回は仕方がないという事らしい。

 

 また極振りエキシビジョンと違い、こちらはあくまでプレイヤー間で企画されたイベントだ。なんだかんだで賛同は得られているし、観客もそれなりに集まってはいるけれど運営の介入はない。

 だが、決まってしまったものは仕方ない。色々と伝手を辿って準備をしつつ、殺気立ってるセナと藜さんとの約束を果たしたりなんだりしつつ、漸くこの場に漕ぎ着けた。極振りエキシビジョンの時は立ち入ることのなかった、本来であれば運営がいるべき実況席。そこで(おれ)は今、小さなこの手でマイクを取った。

 

「さあさあ、やって参りましたユニーク称号持ちのエキシビジョンマッチ。残念ながら(おれ)達の時と違って運営の実況はありませんけど、その代わりに私しらゆきと!」

「Vtuberをやらせて貰っている大神ツミだ。どうしてか今回実況をさせてもらう事になった。至らない部分もあると思うが、よろしく頼む」

 

 今回実況席に座っている、白い長髪に明るめの水色の瞳を持つ眼鏡をかけた小さな女の子とは一体誰のことでしょう? そう、私です。

 因みに相方として、折角共演依頼も来ていたことだしヴォルフさんこと、Vtuberの大神ツミさんも呼んでみた。ウルフカットの青い髪に狼の耳と尻尾に、軍服と警察の制服を足して3で割ったような衣装。配信画面でよく見る姿が隣にいた。

 

「実際問題、(おれ)1人だけで実況するよりは、慣れている誰かが一緒の方がいいに決まってますもん。公式配信が行われない以上、Dutube上での配信があれば助かる人は多いと思ったのでお呼びしました」

 

 普段はアストとかのボスTA(タイムアタック)動画だけを上げている自分のチャンネルの登録者数が、なぜか無駄に伸びているのが良い証拠だ。大神さんの配信画面に至っては、こんな真っ昼間の時間にも関わらず数万人の視聴者がついている。ブランド力って凄い、改めてそう思った。

 

「理由は分かっている。ただ、1つ聞かせてくれ爆破卿。……どうしてTSしてるんだ? 下手しなくても炎上すると思うが」

「本当は(おれ)も男の状態でやりたかったんですけど、運営に実況席の使用許可をもらう時に言われたんですよ。『華がない実況など認めない、造花でもいいから作るべき』って。なので仕方なくですね……」

 

 いや、こんなもの(TSシステム)を実装して喜ぶ変態的な運営なので、頼んだ時点でそう言われる予感はしていた。でも実際にそうなるとは思わないだろう。

 あと炎上は既にしている。何故か(おれ)にいつの間にか生えてたファンが無差別に放火していた。んー????(懐疑)なんでこっちにファンが生えてて、そのうえ燃えてるんですか??? ここは本能寺じゃないんだぞ。

 

「なら、そのやけに凝った髪型と衣装はなんなんだ……?」

「うちのギルドメンバーにやられ──やってもらいました。でも本意じゃないんです、ほんと」

 

 髪は長さを生かしたリングを作る形のツインテールに纏められ、ひらひらのウェアの上にファー付きのアウターを装備させられた。短いスカートからは惜しげもなく生足が晒されているが、少しゴツいシューズが足先は守っている。実況席の床まで足が届かずブラブラしているせいで、見えそうなスカートの中を何とか防いでくれている形だ。

 普段の装備じゃあまりにも華も味気もないし、呪いの装備じゃあまりにもセンシティブだったので配信がBANされる。なるほど完璧なファッションスね──ッ、羞恥心という点に目をつぶればよぉ~~~!! 

 

「まあ、それはともかく。(おれ)達の時とは違って事前予告もないうえ、午前と午後とに時間が別れてるせいでマッチングが気になる所でしょう」

「というわけで、マッチングの発表だ!」

 

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 午前

 

 

 セナ━━━┓   ┏━━藜

      ┃   ┃

      ┣━┻━┫

      ┃   ┃

 イオ━━━┛   ┗━━カオル

 

 

 ==========================

 午後

 

 

 シド━━━┓   ┏━━シルカシェン

      ┃   ┃

      ┣━┻━┫

      ┃   ┃

 しぐれ━━┛   ┗━━Chaffee

 

 

 ==========================

 

 大神さんの掛け声で出現する、だいぶ数の少ないトーナメント表。それが出現したと同時、配信の画面のコメントは加速した。実際問題、(おれ)たち極振りの戦いよりも、よっぽど人間らしくて参考になるらしいし。

 

「まず説明させていただくと、(おれ)や極振りの先輩方もユニーク称号は持っていますが当然全員除外。非戦闘系の《大工場》ツヴェルフさんと《農民》ハーシルさん、《大富豪》れーちゃんはそもそも参戦していません」

「それに加えて、PTで戦闘機に合体することで本領を発揮する《マナマスター》のコバヤシさん、時間の都合で《提督》ZFさんは参加辞退ということだった。この中の誰かを楽しみにしていた人もいるだろうが、そこは全員人間だ。察して欲しい」

 

 極振りは人間じゃないのでは? とかのコメントも見えるけれど、今回は配信がメインではないため無視。あと掲示板にいた自称異世界エルフニキも考えないものとする。

 

「午前午後に別れてるのも同じ理由ですね。自由に使える時間も人それぞれ、この時期なら学生さんはテスト期間とかで全編リアルタイムできるかも知れませんね」

「もし無理だとしても、俺のチャンネルと公式の切り抜きアーカイブは残るから安心して欲しい。だから勉強はするんだぞ、ちゃんと」

 

 大神さんの深刻そうな忠告に何かあったんだろうなぁと思いつつ、一旦言葉を切る。そのまま何となく視線を落として配信のコメント欄を覗いてみれば、マッチングがアレなせいか【大惨事正妻戦争】などと呼ばれ始めていた。いくら昼の部の全員が【すてら☆あーく(うち)】の関係者だとしても、俺の数少ない友人と、全くそういう関係はないカオルさんを巻き込むのはやめて差し上げろ。

 

「さて、こうして(おれ)たちが延々と喋っているのは、見てる側も退屈でしょう」

 

 そう一言おいて、大神さんの足を軽く蹴って合図をした。たった今、入場ゲート前の控室にいる2人から、個人メッセージで準備が完了したとの連絡が来た。ならばもう尺稼ぎのトークタイムは不要、事前の打ち合わせ通り盛大にデュエル開始の宣言をするのみである。

 

「ああ。準備も整ったようだし、盛大に開幕を告げるとしよう!」

 

 一旦顔を見合わせ、頷き、ニカッと笑みを浮かべ揃って片手を突き上げる。その手に握られた、どう見ても爆弾の爆破スイッチにしか見えないだろうそれに注目を集めつつ──

 

「「これより非公式イベント、ユニーク称号エキシビジョンを開始します(する)!!!!」」

 

 にゃしい先輩を見習って、出来る限りノリノリで大きな声で開始を宣言した。同時にスイッチを握り込むことで、事前に配置していた全ての爆弾に着火。闘技場を囲む24地点を右回りと左回り、それぞれを一周するようにして花火が打ち上がった。

 ダメージを発生させないジョークボムの一種だけど、使い道はちゃんとあるのだ。我ながら綺麗に打ち上がった花火に満足しつつ、入場ゲートに人の気配を感じたことで一旦その思考を切り上げる。

 

「映えある第一試合の組み合わせはこの2人!」

「βテスト時代から、その実力は折り紙付き! 回避盾からメインアタッカー、遊撃手まで何でもござれ、舞い踊るように戦う全距離対応アタッカー! 率いるギルドは少数精鋭、誰が呼んだか銀の閃光、付いた字名は《舞姫》! ギルド【すてら☆あーく】ギルドマスター、セナ!」

 

 同じギルド所属である以上、公平を期すためにセナの入場コールは大神さんに任せた。因みに事前にセナに了解は取ってあるから、後からリアル凸を喰らうこともない。

 なんてことを考えている間に入場してきたセナは、普段最前線やボス戦を行う時同様のガチガチのフル装備。それで絵になるあたり、幼馴染ながら本当に美少女だ。更にリアルでもゲームでも慣れているのだろう、軽く手を振りながら笑顔を振りまいている。湧き上がる歓声からして、人気なのも納得である。

 

「午前の部メンバーにおける黒一点! けれど見た目は美少女メイド! セナが牽引した回避盾主流ブームに真っ向から立ちはだかる、デュアル先輩と同系統の数少ない直受けヒーラータンク! 率いるギルドは初心者支援を全面に、付いた字名は《大天使》! ギルド【空色の雨】ギルドマスター、イオ!」

 

 対するは、このPvPイベントが始まって最初の挑戦でタッグを組んだイオ君。数少ない同性の友人で、けれど見た目はいつも通りのメイド服。持っているモップの槍と銀トレイの盾が今日も眩しい中、綺麗なカーテシーを決めていた。こちらもセナに負けないくらいの声援と歓声が湧き上がる、UPO初期組以外は手助けしてもらった人も多いのだろう。

 

「「いざ、尋常に。始め!!」」

 

 そんなある意味ギルド対抗戦のような形で、ユニーク称号エキシビジョンは幕を開けたのだった。

 


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