【スキル】→紋章術とか銃剣術とか
持ってると対応する技《アーツ》が使える様になる
あと武器威力にちょっと補正が入ったりする
《アーツ》→スキルを取ってることで使える技
たまにユキが使う《抜刀・○○》とか
MPやHP消費・再使用までの時間が設定されてたりする
ユキと大神により試合開始宣言がされる少し前。ステージ上で対峙したイオとセナの間には、極めて奇妙な空気が流れていた。本来ならばギルドマスター同士の雌雄を決する一触即発、ひりつく様な空気が満ちているはずのそこでは──
「あれは爆破卿あれは爆破卿あれは爆破卿でもしらゆきちゃん可愛いなぁ笑顔が眩しいし小ちゃいし戦い方の相性もよかったしまた一緒に冒険したいけどやっぱりその為には強さを見せた方がいいだろうしやっぱりかっこいいところは見せておきたいカッコイイって言われたいし……この戦い、負けるつもりはありません!!!!」
「うわぁ」
セナはドン引きしていた。幸いにしてかなりの小声であったお陰で、マイクに音声は拾われていない。だとしても、直前まで完璧なカーテシーを決めていたとは思えないほど手遅れだ。
ゴウランガ! アワレ
「ユキ君も、随分と罪作りだよね……」
アレだけの激戦だった以上仕方のない部分もあったのだろうけど、こんな深刻な被害者を生み出してしまったあたり自分達の注意不足だったのかもしれない。そんなことを考えるセナの手に、相棒たる黄金の銃剣が構えられる。ガン=カタ用の拳銃に刃の付いた《舞姫》専用アイテム、その名を【サウダーデ/ドミンゴ】という。
「大丈夫、目を覚まさしてあげる!」
そろそろ、決着をつけるべきだ。ユキくんのことを。そんな内心を秘めつつ、セナは目の前にいる超変則的な恋敵に銃を向けた。
「至って僕は正気なので! 勝たせてもらいますよ!」
『『いざ、尋常に。始め!!』』
そうして、戦いの幕が上がった。
◇
『《ジェットスラスト》!』
『【
あまり触れたくない会話をしているのを聞き取ってしまいながらも、何とか幕開けた初戦。最初の動きはイオくんが槍のアーツによる速攻をかけ、当然の様にセナがそれをジャスト回避するところから始まった。
「ああっと! 《舞姫》の準備が整う前に速攻を仕掛けた《大天使》だが不発、回避されてしまった!」
「しかも回避盾御用達の【水月】ですから、ジャスト回避による諸々も発動してますね。イオ君の武器がモップなのも、ちょっと相性が悪いですね」
ステージ上、表示されている2人のHP・MPバーの変動は明らか。セナが数%のMP消費しかしていないのに対して、イオ君のHPは1割ほど減少し高い筈の状態異常耐性を打ち抜いて《幻惑》の状態異常が3つほど点灯していた。
「あれはネタ武器だと記憶してるが……違うのか?」
「そうですね。知ってる人も多いとは思うんですけど、布モップ系統の武器は水に濡れてる状態だと多段ヒットします。本来なら結構、威力の代わりに有効な能力なんですけど……」
「なるほどな、今回はジャスト回避のカウントが無駄に進んでしまうと言うことか」
大神さんの言葉に頷いた。
実際、モップはデバフなどを載せれば相当面白い使い方が出来る(本人談)武器だけど、ハッキリ言ってセナとの相性は最悪だ。
『《ファランクス》くっ、この!』
『堅実に詰めさせてもらうよ!』
状態異常とHPの回復を図るイオ君に対して、タタタン、タタタンと綺麗な3点バーストのリズムでセナが無数の弾丸を撃ち込んで行く。それに対しイオ君は、反撃はぐっと堪えて攻撃を加えない様に防御を固めていた。
「HPレースでは、タンク職としてのリジェネがある《大天使》が有利だな。最初の傷を含めて既に全快している」
「でも、MPレースと全体的な戦局ではセナの有利ですね。拳銃系射撃アーツの《呪陰弾》と、拳銃の強みである特殊弾頭で着実にアドを稼いでます」
与えたダメージの半分の威力をMPにも与える拳銃のアーツ、それは明らかにイオ君のリソースを着実に削っている。同時に、セナがずっと撃ち込んでいる特殊弾頭も中々に渋い活躍をしていた。
まず最初に撃ち込んでいたのは状態異常耐性を低下させるデバフ弾、耐性が下限まで下がったところで毒弾と燃焼弾といったDoT*1系統に変更。状態異常を回復されるとデバフ弾→DoT弾に切り替え、着実にリソースを削っていた。
「だが、それにしても《舞姫》の攻撃の威力は《大天使》を突破出来ていないようだが?」
「そうですね……やっぱり常時被ダメ9割カットが効いてるのと、単純に拳銃の威力が低いのが原因でしょうね。銃系統の武装は他の遠距離武装と違って、ステータスの威力補正が載らないんです」
そう、それが戦局が動き難い原因だった。
「銃でステータスが影響するのは、装備制限に関する部分を除けばDexのみ。威力は全て
「俺たち前衛組の素攻撃力が凡そ2000くらいなことを考えると、随分控えめな威力しかないんだな」
「その分、長い射程と安定した連射、使う為の要求値の低さに特殊弾頭や特殊マガジン。色々とカスタム要素が多いですからね」
では何故、セナがDexには最低限のステータスしか割り振らず、StrとAglに集中して能力を割り振っているのか。それについては、近接攻撃という銃剣の特権が関係しているのだけど今は割愛する。
『《バレットシャワー》』
それよりも、現在セナが並行して進めている行為の解説が先に必要だろうから。振り切り弾丸の雨をくるりくるりと、踊る様にしながらダメージにならない攻撃を重ねている意味を。
「ところで爆破卿、さっきから《舞姫》がやってる弾の雨を自分も対象に含めて降らしている理由を説明出来るか?」
「んっと、そうですね。すごーく簡単に説明するとバフ積みです」
そらきたと、少し考えてから
「《舞姫》の取得条件がジャスト回避回数が1位というところから分かるかもしれませんが、セナの戦闘スタイルはジャスト回避が実は結構要です。しなくても強いんですけど、回避すればするほどバフを積みながらデバフも撒けます、便利ですね」
「その上、回避スキルがガン積みで攻撃性能も十分、速度があるから距離も離されるし近接も出来るんだろう? 近接型からしたら、悪夢みたいな能力してるな……」
とても嫌そうな顔をして大神さんは言った。
何せ攻撃したらバフを積まれ、チクチクとデバフも撒かれ、かと言って何もしなければ勝手に自分でバフを積みながらデバフを撒き、最後にはトドメを刺しにくる。近・中・遠距離物理・魔法、ペットを含めればその全てに対応できるのだから厄介度は倍率ドンさらに倍。
そんな解説をしている間に、戦況に致命的な変化が訪れていた。
『くっ、事実上一戦使い切りだから切りたくはありませんでしたが──仕方ないですね。来て下さいアズール、トラロック、クラミツハ!』
MPが1/3を切った辺りで、イオ君のがペットを召喚したのだ。現れたのは水色の燕、半分透けた蛇、半分透けた刀の3種類。そして、天候が【嵐天】へと書き変わった。
「おおっと、ここで《大天使》天候を書き換えた! ぶっちゃけ俺は極振り特有の技だと思っていたが、実際そこんとこどうなんだ?」
「専用のアイテムか、或いはイオ君の様にペットの能力か。安心して下さい、条件さえ揃えば誰でも使えますよ」
そして【嵐天】によるデバフと【メイド流槍掃術】なる技による相手の行動妨害コンボは、決まればかなり強力だろう。恐らく対人戦であれば、殆どの相手を封殺出来るくらいには。更に加えて必殺のコンボも揃っていることは、イオ君のモップに槍状の水が纏わりついていることからも推察できる。
しかしその考えにはたった1つ、致命的な問題がある。
折角なので天狗の面を被って、せーの。
『「判断が遅い」』
全く意図していなかったのに、ステージ上のセナと言葉が重なった。
同時にステージ状で閃光弾が瞬き、誰もがその目を眩ませる。そうして次の瞬間には、セナの姿はスタジアム上から忽然と消えていた。
「うおっ!? 一体何が……天狗面!? ッ……あ、ああ、そう言うことか」
「そういうことです。ちょっと遅いかも知れませんけど、折角だからやってみたくなっちゃって」
両手でお面を持って外しながら、覗く様にステージを見る。目を凝らしても、イオ君以外何も見えない。荒ぶる雨風に紛れて、完全にセナの姿は消え去っていた。
『くっ、一体どこに……』
2、3個【空間認識能力】系統のスキルでも発動しない限り、今のセナは見つけられない。そう思える程、潜伏に徹したセナの存在感は消えている。静かな暴風雨の中、止まってくれているから辛うじて探知できるけど、動かれたら多分
「ステージ上は……《舞姫》の姿が消えているな。爆破卿、どこにいるか解説できるか?」
「出来ますけど、やったらイオ君に有利過ぎるのでしません。まあ後10秒くらい待ってくれたら構いませんけどね?」
人差し指を立てて口に当て、しーっというポーズを取りながら言った。
「それは一体、どういう?」
「フルパワーではないですが積んだバフは十分。掛けたデバフも十分。そして何よりスキル【ガン=カタ】は、拳銃と短剣系の複合スキルです」
瞬間、空気が揺らいだ。風の中にセナが消え──
「短剣スキルで、潜伏状態からのみ使える特徴的なスキルは何か。前衛を張ってる大神さんなら、知ってますよね?」
『《アサシネイトⅢ》!』
答えを聞く前に、ステージ上で答えは示された。
背後から、首と心臓を両手の銃剣で一突き。装備効果によるステルス状態と、発生している潜伏ボーナスが剥がれる前に追撃の銃撃。頭と胸に3発、
それは実際に計上するダメージ計算式としては僅かに足りずとも、アーツの効果である【即死】を誘発するに十分なダメージ量を叩き込むことに成功していた。
「暗殺、スキル……」
「そゆことです。正攻法で削り切れない相手に対しては、結構メジャーな手段ですよね?」
天候が通常通りに戻ったステージから手を振るセナに、笑顔で手を振りかえしながら言う。頭上に浮かぶ【WINNER セナ】の文字が眩しく輝いていた。
「それでは、
そう促せば、やはりちゃんと見えると言う点と、馴染みあるスキルが使われていたという点が大きかったのだろう。大きな歓声と拍手が巻き起こった。
「なんだかいまいち釈然としないが……爆破卿は今回の戦い、どう感じた? 俺からすると、阿弥陀籤の結果とは言え相性差が酷かった様に感じたが」
「それ、極振りで相性差しかない環境でプレイしてる
とは言え感想戦。大神さんが近接側から見た感想を言うのであれば、後衛側から見た意見を流していきたい。こんな風に実況をするのも悪くない、そんなことを思いながらステージの清掃が終わるのを待つのだった。普段と比べて遊びがない、ちょっとだけ普段と違うセナに、何となく嫌な予感を覚えながら。
ヒロインズの決着編です