幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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後半はセナさんの回想シーンです(判定強化)


第180話 惨劇の予感

 カオルさんと藜さんの決着がつき、歓声に包まれたスタジアムから藜さんが退場する。そうしてスタジアムの修復が始まった結果、生まれたほんの少しのインターバル。

 

「さて、暫くスタジアム修復にもかかりそうだし、感想戦と行きたいんだが……あんなに強かったんだな、《ナイトシーカー》」

「あれ、そうですか? 深夜帯にログインしてる人なら、大体知ってると思ってたんですけど」

 

 何故だか感慨深そうに呟いた大神さんに、思わずそんなことを言ってしまった。深夜帯にログインして最前線にいる人ならば、結構な割合でカオルさんと遭遇してそうなものなのだが。

 

「でも大神さんでそのくらいの認識なら、ちょっと遅いですけど解説前に《ナイトシーカー》についても少し触れた方が良さそうですね」

 

 コホンと一度咳払い。

 

「改めて説明すると、称号【ナイトシーカー】は日中には特化した部分のない極振りと同じ程度にまで弱体化する代わりに、夜間はステータスを基礎ステータスの部分から強化する特殊称号です。あと、運営が優しいのかイベント中も強化の適応時間になります」

「確か、深夜10時から朝6時まで限定だったか。具体的にはどれくらいの数値ステータスは上昇するんだ?」

「流石に(おれ)も詳しくは。でも、本人曰く全ステータスが平均的に3〜5割強化されるとかなんとか。通常のプレイ時間を捨ててるだけはある強化値ですよね」

 

 まず前提として、それくらいの情報を共有しておく。手元のチャット欄のコメントは加速しているし会場にざわめきも広がっているが、会場に見にきているような人でも知らなかったのだろうか? やはりログイン時間と第一印象か。

 

「なるほどな。それを踏まえて解説していこう。まずはお互いの戦闘スタイルを図る序盤の小手調べの時間だった。

 牽制とバフデバフの魔法、絡め手と妨害の鋼線、1発のでかい抜刀術と杭打ち、《ナイトシーカー》は全部が高水準で纏っていた。

 対する《オーバーロード》は攻撃全振りだったな。多分完全回避スキルは積んでなくて、回避率上昇系だけなんじゃないか?」

「スキル構成は秘密です。えーと、後その説明に付け加えるなら、カオルさんは索敵と防御も出来ますし、事前準備があればデカイ魔法も使えるガチの万能手(オールラウンダー)です。ただ今回はその強みを、藜さんの強みが潰してました。あっ、索敵はステルス使いでもなければ意味がないので割愛します」

「防御を許さない破滅的な攻撃力と、高速の連撃によって準備時間を取らせなかった点だな。確かにあの動きをされると、大技は打てそうにないな。索敵は……《舞姫》か《大天使》相手なら意味があったかもな」

 

 こくこくと、伝わっていたことに安堵しながら頷いた。その度に跳ねるツインテールがなんだか楽しい。今なら犬が自分の尻尾を追いかけて、無限にくるくるしている理由が分かるかもしれない。まあ、気を取り直してだ。

 

「序盤について、爆破卿は他に何かあるか?」

「んー……と、お互いが勝負を決めに行くのが早かったおかげで、戦場が横軸基準の2次元戦闘じゃなくて、縦軸も前提にした3次元戦闘に決まったことですかね? 空中戦ができる人ってまだそんなに多くないので、ちょっと珍しい部類かもしれません」

「確かに、言われてみればそうだったな。極振りがほぼ全員空を飛んでたせいで、空中戦が特別だってことを忘れていた」

「あー……」

 

 予想外の答えが返ってきて、こちらも答えに困った。言われてみればその通り。思えば自分を含めて、ほぼ全員が飛んだり跳ねたりで空中戦をしていた。因みに翡翠さんもデュアルさんも、今回は行わなかったが空中戦は出来たりする。障壁で跳んだり、強化外装のスラスターを噴かしたりで。

 

「なら、もう大技の撃ち合いの解説でいいです……かね?」

「ああ。多分そっちの方が気になってるやつも多いだろうからな」

 

 大神さんの言葉に呼応するかのように、スタジアムからは野次が、配信のコメント欄にも同意の意見が溢れ出した。なら、そういうことにして進めよう。

 

「さて大神さん。近接系の最前線組として、どう見ましたか?」

「即死攻撃しか飛び交ってない地獄だったな。《オーバーロード》の方は単純に、スキル全部載せで最高速最高火力をアーツ込みで連続して叩き込む開幕20割。単純が故に弱点が明白で脆いが、突破力の強い手だな。逆に《ナイトシーカー》の方はどうなんだ? 抜刀術以外、俺には読み取れなかったが」

(おれ)が読み取れた限りですが、自己バフを積み上げて、蒸気系の装備で更に能力を底上げ。本来睡眠中の相手にしか使えない幻影の魔法を自分にかけて、分身する荒技をやってのけてました。そしてトドメに抜刀術。コスト管理と身体制御が難しいですが、柔軟な対応が出来る堅実で強い手ですね」

 

 鋒矢の陣と鶴翼の陣というには、単独だから適さないか。だがこう、そんな感じのイメージである。或いはカードゲームチックな例えになるが、一点突破のワンショットキル狙い vs 制圧とパーミッションの組み合わせというべきか。

 

「後衛、しかも支援型としちゃどうなんだ?」

「近接戦を考えて動きながらバフとかを考えて発動するなんて、かーなり大変だと思います。器用さが光りますね」

 

 実際、この姿(しらゆきちゃんモード)で本気を出すにはそう言ったリソース管理が必須だ。特にタロット関係の効果がなければ、変身したところで無力なこの体。コツを掴むまで割とバフを途切れさせがちだったのだ。だから分かる。自己バフを管理し続けながら戦うのはほんと辛いと。前衛で気持ちよく戦うなら、リソース管理してくれるバッファー系の後衛が切実に欲しい……いたわ、ここに1人。

 

「そしてその器用さを生かして、まずカオルさんは藜さんの火力を削りに行きました」

「あのド派手なパイルバンカーの撃ち合いだな。ここで6機中4機もビットを落とせたのはでかいと見た」

「実際デカイです。ここで攻撃の手数兼飛ぶ時の足場を削られたせいで、ビットがあんまり積極的に使えなくなりました」

 

 これに関してはカオルさんの方が上手だったと言えよう。後の完全回避を成功させる必要こそあれ、どう転んでもカオルさんに利が出るようになっていた。

 

「ふむ、なら次の鋼線バラバラ事件についてだが」

「保護色で空間に溶け込ませた鋼線に、直前のビット破壊で焦っていた藜さんを誘い込みましたね。復活が食いしばりか、スキルの効果発動時間を使って隙を窺ってましたけどバレバレでした」

「普通、1秒や2秒の隙を隙とは言わないと思うぞ……?」

「フレーム速度単位で障壁貼ってる(おれ)に言います……?」

 

 逆を言えば、カオルさんは既にそんなレベルに対応しかねないということで。割とマジで、天敵かもしれない。ほんと。

 

「で、その後の広範囲即死抜刀術だが……あの時、何があったんだ? 気が付いた時には、もう《ナイトシーカー》がボロボロになっていたが」

「藜さんが何かしらの反撃をしたみたいなんですが、蒸気の雲で視界不良だったのと、空間認識の範囲外だったので(おれ)も何だか。でも多分、魔法か何かを投げたかだと思います」

 

 確か槍があの状態なら、風系の魔法は使えたはずだし。

 

「爆破卿でも見えなかったならお手上げだな。となると、観客席からは見ていて分かりやすかった最後の一騎打ちまで飛ぶな。そういえば読唇しているって途中で言っていたが、どんな内容だったんだ?」

「結構個人的な部分も多かったので言いません。でも、カオルさんが藜さんに発破を掛けてる形でしたね」

 

 男の子なら皆大好きな、剣戟とか蒸気の音に紛れていてよかった。あれが漏れていた場合、色々と面倒なことになっていただろうから。俺が炎上するのはいいとしても。

 

「最後の一騎打ち前、何かしらの口上を言いたくなるよな。俺も一度はやってみたいからよく分かる」

「合わせてくれる相手が必要ですから、なかなか難しいですけどね。して、最後の一騎打ちについてですが」

「いやぁ、軽戦士系のトップ勢ってみんな分身出来るんだな……」

「合わせての土壇場での残像先行突撃は、流石に見間違いそうです。とはいえ、カオルさんの技が《奥義抜刀ーー唯閃》……HPMPコストを支払わないで済む代わりに、攻撃範囲が刀の届く範囲のみの超火力技じゃなければ怪しかったですね」

 

 そこは抜刀術の弱さが露呈した結果だろう。HPかMPコストを払えない場合、納刀系や一部の特殊技を除いた9割の技が使えなくなる。攻撃系のアーツの場合はHP、防御系はMPがコストになる場合が多い。奥義抜刀? あれは両方をコストで消費する。

 

「と、一通り解説してこれくらいですかね?」

「スタジアムの修復も終わった。頃合いだろうな」

「はーい。ということで、次はいよいよ午前の部決勝戦。ちょっと身内贔屓に聞こえちゃうかもしれませんけど、凄いのが見れると思うので楽しみにしてて下さいねー!」

 

 なるべく明るく、楽しそうにそう演じてみるが……正直なところ、胃がキリキリと痛む幻痛が走っていた。いや、この、こう、アレなんですよ。今の気分はそう、まな板の上の鯉。

 

 

 初めは、大したことでは無かった。

 

 ちょっとだけ可愛い洋服を着させてもらって、ちょっとだけ頑張って茶色がかった髪を整えて、ちょっとだけ言葉に気をつけて、勉強をして、そんな小さい努力の積み重ね。それに加えて、ほんの少しだけ友達付き合いが苦手だったことが、小学校でのイジメの始まりだった。

 

 最初は小物が無くなった、それでも頑張っていたら次はノートがなくなった。それでも頑張ったら机と椅子が教室の外に投げ出されて、上履きには画鋲が入れられた。それでもそれでも頑張れば、雑巾を絞った汚い汁を浴びせられ、読んでいる本は取り上げられて破かれた。有る事無い事噂を建てられて、給食は面白半分にゴミや虫を混ぜられたり、量を変に少なくさせられる。学校の先生は役立たずで見て見ぬふり。友達だった子たちも見て見ぬふり。誰に言っても見て見ぬふり。

 

 ほんの少し、周りと比べて違っていた。

 

 そんな程度の理由で行われたいじめ。パパやママに心配だけはかけまいと、毎日身嗜みを整えて帰宅する地獄のようなら学校生活。それから救ってくれたのが、とー(ユキ)くんだった。

 あの時はまだクラスも別で、幼稚園が一緒だった程度の関係しか無かったのに。ずっとずっと、とー(ユキ)くんは私を守ってくれた。小物が無くなればボロボロになってでも見つけてくれて、机や椅子の落書きを消すことも手伝ってくれて、自分もいじめの対象になったのにずっとずっと、隣で私を守ってくれた。それは絵本で読んだ、騎士様か何かのように。

 

 きっとそれが、今も続く私の初恋の始まりで、お互いに依存にも近い関係性の始まりだったのだと思う。

 

 その次の年からは学校ではなぜか不思議と、いつもとー(ユキ)くんと同じクラスで過ごすことが出来た。いじめは無くならなかったけど、これまでとは比べ物にならないほど幸せな時間だった。

 パパやママにも相談する勇気をもらった。

 泣くだけじゃなくて対抗する覚悟をもらった。

 1人じゃないことの幸せをもらった。

 それ以外にも何個も何個も、かけがえの無い物を私は貰い続けてきた。

 

 そうして夫婦だなんだと、小学生にありがちな揶揄われかたをされ始めた辺りから、だったと思う。どうせなら見せつけてやろうと、一緒に家でご飯を食べたり、お風呂に突撃してみたり、お泊りをしてみたりなんてことを始めたのは。

 

 結果として、中学校に進学する頃には()()()いじめはパッタリと止み、代わりにとー(ユキ)くんへのイジメが始まった。

 私に手を出す勇気もないくせに、たかだかとー(ユキ)くんの両親が学校へ来ないことを理由に、私の時と同じようにして行われる冷たい迫害。仮にも女の子だったことで守られていた私とは違って、日ことにとー(ユキ)くんはいじめと喧嘩でボロボロになっていった。

 

 そんな日々が続けば、当然のように心が壊れる。初めてとー(ユキ)くんが私の前で泣いた日、自分の腕の中で泣く儚く弱い姿を見て……背筋に走ったゾクゾクとする感覚と独占欲が、きっと第2の始まりだった。

 

 これまで作っていたクラスのコネを使って、とー(ユキ)くんが体調を崩して寝込んだ日のうちに全てを決行した。

 

 これまで手当てしていた怪我から流していた噂、いじめの主犯格の弱み、見て見ぬ振りをしていた第三者の良心。今思えば余りにも拙いながらも、それら全てを起爆させてクラスのカーストトップをすげ替えた。徹底的に尊厳を踏み躙って、1週間くらい不登校にさせたと言ってもいい。

 私の立ち位置は変わらぬまま、数人の勘がいい同級生を除いて誰も何も気がつかないまま。トップが委員長タイプになったクラスにイジメをしづらい空気を作ることに成功した一年後。そこでようやく、いじめは無くなった。

 

 とー(ユキ)くんとー(ユキ)くんとー(ユキ)くんとー(ユキ)くんとー(ユキ)くんとー(ユキ)くんとー(ユキ)くん、もう逃さない、離さない。

 

 けれど、今度は私が校外で変質者にストーカーされるようになる。それをどうにかするために、一緒に下校という名のデートを繰り返した。

 

 故にソレは、きっともう甘酸っぱい恋なんかじゃなくて。

 

 けれど愛と呼ぶには、ソレは余りに醜くて。

 

 甘く甘く何処までも堕ちていく、互いを蝕む毒のように。

 

 ソレは、ずっと汚い言葉で表されるべき優しい何かだった。

 

 気がつけば私の隣にはとー(ユキ)くんがいるのが当たり前で、その逆もまた然り。けれど私の周りには見知らぬ友達が沢山いて、逆にとー(ユキ)くんは1人ぼっち。それを気にして離れていこうとするから、逃したくなくて色々と手を尽くした。

 普段は頼り甲斐があって守ってくれるのに、心の奥はボロボロで弱っている人。悲しいくらいに不安定に揺れていて、ふとすれば壊れてしまいそうで目が離せない人。だからこそ寄り掛かるだけじゃなくて、支えてあげたい人。だからこそ、絶対に1人になんてさせないように。最低でも私だけは、何があっても隣にいられるように。

 

 UPOをプレゼントしたのだってその一環だった。

 

 学校なんて関係ない場所でまた一緒に遊びたい。なんの(しがらみ)もない場所で楽しんで欲しい。あの頃みたいな、笑顔が見たい。私が好きになった、大好きな人の大好きな笑顔を見せて欲しい。

 

 

 いつかは解消しなければいけない関係だと分かっていた。

 

 

 今の"これ"が普通の関係じゃ無いことも知っていた。

 

 

 だからその時が来た、きっとそういうことなのだろう。

 

 

 結論から言って、ユキくんは笑ってくれるようになった。昔と同じように、楽しそうに、私の大好きな笑顔で。それはあの娘、藜ちゃんが現れてからより顕著になったと思う。

 

 ユキくんのことを好きだと、私以外で初めて言ってくれた女の子。最初は邪魔な存在だと、居なくなればいいと思った。けれどすぐに放って置けないに変わり、今ではユキくんが藜ちゃんを選ぶならそれもいいかと思えるようになってきた。だって藜ちゃんと出会ってから、ユキくんの笑顔は格段に多くなったから。楽しそうに笑ってくれるようになったから。当然、譲る気なんて毛頭ないけど。

 

 だからこれはある種のケジメであり、とー(ユキ)くん本人は一切知らない私と藜ちゃんの間だけの約束だ。ゲームで始まり、ゲームで変わった関係性なのだから、ゲームで決着をつけるのだ。

 

 既にお互い告白していて、あくまで私と藜ちゃんのどちらが好かれているのかはユキくん次第。だからこそ私と藜ちゃん、どっちの方がユキくんのことを好きかは白黒付けさせてもらう。

 

 それは酷く個人的な思いで、こういうお祭りや決闘の場には相応しくない邪念で、けれど私と藜ちゃん双方のこれからを変える、これまで目を逸らし続けてきた大きな大きな不発弾。

 それを爆発させ決着を付けるために──

 私は、謝らない。

 




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