幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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血の(雨が降っている)バレンタイン


第182話 ヒロインズ・コンバット②

「《ゲイボルグ》!」

 

 セナの胸を貫いた呪いを纏う聖なる槍。刺し穿ったり突き穿ったりするものではなく、単にカタカナ5文字のシステム内(アーツ)。それは先輩のような理不尽や不条理こそないものの、代わりに安定性と正確性が確立した殺意の塊だった。

 ガッと力強く掛かるヒットストップ。槍が纏っていた赤黒いオーラがセナの身体に吸い込まれ、全身を内側から食い破るように()()()()()()29の赤黒い血飛沫にも見えるオーラが噴出した。

 

「デカイのが決まった! が、見たことない(アーツ)なんたが、爆破卿は知ってるか?」

「このイベントが始まる数日前に実装されたものですね。簡単に言うと、UPO版刺しボルクです。今回のは、ヤバいですよ」

 

 ガクンと、Wi-Fiからクソ回線に落ちたように、あるいはVRでは滅多にないフレームレートの低下が起きたように、ステージ上がフリーズした。それ程までに、この一撃での判定処理回数が多かったことを示している。

 恐らく今回はゲイボルグが30ヒットの技であることに加え、十六夜の衣による威力半減の16連射、そして【天元(窮)】のスキルによるヒット数倍化を称号効果によって強化したことによる超々々多重判定。

 

「(30×16)×〈2(10×10)〉……に、多分処理をそのまま表すとなるかと。つまり、理論上この攻撃は96,000ヒットします。だから刺しボルクなのに当たってるんですね」

「きゅうまんろくせん……?」

「はい。多分何処かで運営のストップが掛かりますし、(おれ)の知ってるシステム処理の場合、と枕詞がつきますけど」

 

 と、言葉にした瞬間だった。ステージ上のフリーズが解除されると同時に、満タンだったセナのHPバーが消滅した。減少なんて生易しい減り幅ではない。蒸発、消去、何でも構わないがそうでしか表現出来ない速度でのHPの消滅。そしてその辻褄を合わせるように、セナが赤黒いオーラに包まれて爆散する。

 

『このっ!』

『無駄、です』

 

 当然、セナのペットには復活系のスキルが積んである。9本だった尾が1つ消え、代わりに1割程のHPでセナが蘇生。フリーズは解除されてもフレームレートの落ちた世界でセナが飛び退こうとし、対する藜さんが翼を羽撃かせて踏み込もうとした瞬間、再度赤黒いオーラが弾けセナのHPが消し飛んだ。

 

「あ、あれはまさか……」

「知っているのか爆破卿!?」

「ええ、風の噂で聞いた程度の話でしたけど、まさか本当になるなんて」

 

 曰く、いつか(おれ)が第4の街を爆破解体した時と同じように、サーバーに激烈な負荷を与えるような状況を作り出せれば、イレギュラーな動作をこのUPOでも見ることができるのではないか。そんな推測から始まったらしい検証スレを読んだ記憶がある。確かあそこでの結果は──

 

「ほんの少しだけ、サーバーに過負荷が掛かった状態で追加で新たな行動をすると、判定が残留するらしいです。仕様なのかバグなのかグリッチなのかは知りませんが」

「結果として、このリスキル状態が成立するのか」

 

 こくん、と素直に大神さんの言葉に頷いた。確かにこれなら、一撃当たれば決着がつけられるかも、しれない。推定96,000ヒットの必中リスキル攻撃 vs 回避率300%overの推定9回蘇生持ち回避タンク、どちらも意味不明なことを言っている。既に攻撃が命中している以上、一見前者の方が有利に見えるがしかし……

 

「ええ。でも、実際のところはまだ五分五分な気がします」

 

 セナの尾がまた1本、赤黒いオーラと弾けて消し飛んだ。

 これで7尾、しかしその爆散までの時間にはバラつきがある。基準値が何処かは分からないけれど、少なくとも最初の死亡より2回目の方が短い時間で爆散しているし、たった今爆散した3回目のリスポンは逆に1回目よりも長く生き残っている。記号で表すと3>1>2の順に長い生存時間になっており、その間に重ねられている判定を考えるとサーバーの悲鳴が聞こえてくるようだった。

 

「やはり《舞姫》の残機と回避率の問題か?」

「それだけじゃなくて、藜さんの方にも問題があります」

「そうなのか?」

「なにせ、この一撃に持てるリソースの全て突っ込んでます。セナにバフを積む時間を与えたら終わりなので、何も間違ってませんし現状成功していますけど……逆にそれは、この一撃を耐え切られたら後がないことと同義です」

 

 セナの尾が今度は2本、赤黒いオーラと弾けて消し飛んだ。

 これで5尾、一気に復活回数が分からなくなった。けれど藜さんの方にも焦りの表情が濃い。多分、相当ヒット数からくる手応えが薄くなってきているのだろう。付かず離れず、セナの間合いであり藜さんの間合いより内側の距離感を保ち続けている以上、既にこのまま勝つか反撃で負けるかの2択しか藜さんには残っていないのだ。

 

 などと考えている時、メッセージの受信音が手元の画面から響いた。またこの姿(しらゆきちゃんフォーム)を晒してから無限に送られてくるセクハラ&下心見え見えメッセージかと思い、嫌々ながらも確認してみれば差出人は運営。すわ何事かとメッセージを開いてみれば、槍系武器の(アーツ)である《ゲイボルグ》についての詳しい仕様が記されていた。あと、ちゃんと説明して下さいとも。

 なら合わせた方が良いかと、大神さんの服をちょいちょいと引っ張り手元の画面を見せる。最後の説明して欲しい旨が書いてある部分を指差し強調すれば、こちらの意図が伝わったらしく頷いてくれた。

 

「あー、いま運営さんから情報が来ました。ちょっと予想外の挙動はしているものの、このリスキル攻撃は仕様上正しい動きでバグではないそうです」

「元々は隣の爆破卿や複数のペットを生存特化しているプレイヤー、或いはそういった蘇生持ちのモンスターをターゲットにした技だそうだ。もし復活したとして、残っているヒット回数分のダメージを直後に与えることで再殺するコンセプトらしい。それが、ヒット数を跳ね上げる《オーバーロード》との相乗効果でリスキル攻撃と化したようだ」

「そのダメージ判定残留は、相手に槍が刺さっている間のみ有効だそうです。不具合が起きてるのはそこで、あんまりにも攻撃と回避の判定が重なりすぎて、描画速度とダメージの発生が遅れてるそうです。あっ、運営のサーバーは(おれ)たち極振りが散々やらかしたお陰で、まだまだ余裕があるそうですよ。やったね!」

 

 いい感じに配信の画角に収まるように決めた笑顔とピースサインに、コメント欄がまた加速した。あー、この画角ならもうちょっとこう、こんな感じで頑張れば可愛く見えそう。よし、ヨシッ! 決まった。

 

「何をしてるんだ爆破卿……」

「かわいいポーズですけど?」

「そうか……爆破卿、お前もVtuberにならないか?」

「ならない」

「隣にいれば分かる。お前の拘り、相当だな? その性癖、練り上げられている。至高の領域に近い」

「正直、猗窩座と藜さんとで呼び名も被るから反応しにくいんですよね」

「すまん」

 

 などとふざけている間に、ステージ上の動きは変わらないがセナの尾は遂に3尾。残機(ストック)を着実に削る攻防に、終わりが見えてきたその時だった。

 

 

「あっ……」

 

 これまで手に重く感じていたヒットストップが、遂に消滅するのを藜は感じた。乾坤一擲。確実に仕留めるつもりで放った、最初で最後の全リソースを注ぎ込んだ一撃必殺。当たれば確実に仕留めることができるはずの槍は、虚しくも恋敵をすり抜けた。

 

 耐え切られた。

 

 そんな最悪の想定が現実となった事態に、今度は藜の思考がフリーズする。霧散する(アーツ)の赤黒いオーラ、元に戻り始めているカクカクになっていた空間。今動かなければ反撃を貰ってしまう、そう頭では理解していても身体が追いつかない。

 

「散々やってくれたし、お返しだよ!! 【狐の絵筆】!」

 

 藜が放心していた時間は僅か数秒。けれどセナが動きを起こすには、それだけあれば十分すぎる時間でもあった。藜とすれ違うようにして一歩踏み込み加速。7人に再分身した後に、それぞれの分身が更に4人に分身した。

 そうしてステージ上に現れたセナの人数は合計28人。空間認識能力の深度が低い藜には気付きようもないが、そのうち最初の7人以外は全て幻影。7人の本体の誰かと動きを完全に同一とする幻影だ。当然その攻撃にも、ダメージなんてものは発生しようもない。

 

「《バレットシャワー》、【狐火】!」

 

 だが、だからこそ。突如スタジアムに立ち上がった28本の火柱と、空を埋め尽くす炎海から降り注ぐ弾丸の豪雨に、藜は無理をしてでも対応する必要が生まれてしまった。

 乱立する火柱をバレルロール並みの緊急回避を行いながら、過剰な火薬を詰めたことで破損しているビットを傘に、辛うじて握りしめた槍で道を開く。セナが即席で作り出した、必殺の間合い(キリングゾーン)目掛け一直線に。

 

「追いついたよ、藜ちゃん」

「──ッ!!」

 

 更に更に、下手に時間を与えたことでセナのバフが最大値まで累積完了。全ステータス+550%、Str7,000over、Agl14,000over、その他のステータスは1,000〜3,000程度に収まっているが、それでも1プレイヤーとしては比類なき力の塊がそこには顕現していた。

 その能力値がどれほどの物かは、かつてミスティニウム最終戦で出現したラスボスのステータスがOver7,000程度であったことを知っていれば想像に難くない。そしてステータス14,000というものは、極振りの【○○の求道Ⅰ】で固定される数値すらも上回っている。

 

「虚実混装。舞姫改め、乱れ舞姫!」

 

 そして、集中砲火が炸裂した。実弾が、特殊弾が、レーザーが、魔法の炎が幾重にも藜に飛来する。FF(フレンドリーファイア)が発生しないのをいいことに幻影部分を、幻影であるのをいいことに実弾部分をそれぞれ突っ切って、斬突打全てを兼ね備えたセナが流星雨のように襲撃する。飛行する藜と当然のように並走して、空を跳びながら銀色の嵐が吹き荒れた。

 

「こ、のぉッ!」

 

 苦し紛れのように藜が槍を振るうも、速度が違う。手数が違う。使えるリソースすら違う。目に見える攻撃の実に3/4が幻であると言っても、見抜けなければ意味がない。圧倒的な弾の物量と重過ぎる刃の一撃に、瞬く間に藜のHPが削られていく。

 一直線に突き進むだけでは意味がない、無数の面を知って受け入れ共に歩めるように。或いは、邪魔をしないでと相手を鳥籠に閉じ込めるように。そうして十数秒も経たないうちに──

 

「チェックメイト」

 

 セナがそう藜の耳元で囁き、銃剣が藜の胸を背後から貫いた。そうして背にあった翼が、藜のHPが無くなる代わりに砕け散る。捥かれた翼が齎していた飛翔の力がその身から消え失せ、不安定に回転しながら地に堕ちる。何とか地に足を付けて藜が着地するも、その見上げる先には無数のセナの姿。正真正銘絶体絶命、だからこそ藜の口から言葉が漏れた。

 

「どうして、セナさんは、そんなに──」

「好きな人が、いるからかな!!」

 

 ぐちゃぐちゃの感情で叫ぼうとした藜に、それ以上は野暮だとセナが突貫する。VR空間特有の感情がダイレクトに出力される性質上、どうしようもなく藜の目に浮かぶ涙を思い人以外に見せないように。

 

「そんなの、私、だって、ユキさんの、ことは──!」

「はー? 私の方がずっと好きなんですけど!!??」

 

 グラビティな重さの双銃剣が、重い槍の一撃を弾き返す。

 

「第一幼馴染がポッと出のヒロインに負けてたまるか!!」

「最近の、トレンド、は、幼馴染、なんて、負けヒロイン、なんです、よッ!!」

 

 弾丸の雨を槍が打ち払いながら、双銃剣と槍が激突し大爆発を起こす。

 

「言ってはならんことを! そんなこと言うなら、私なんてユキくんと一緒の台所に立ってるもん!」

「私は、ユキさんに、膝枕、しましたし、してもらい、ました、よ?」

 

 半壊しているビットがセナに降り注ぎ、爆発を引き起こす。そんな爆炎を切り裂いて、セナの放つビームが藜に直撃した。

 

「い、今更何か恥ずかしくて、態々お願い出来ないことを!」

「手作り、お弁当、美味しかった、ですし、美味しいって、言って、くれました!!」

 

 藜の手元に、今握っている槍と全く同一の形をした槍が出現した。本来戦闘には使うことができず、【すてら☆あーく】に来てからはれーちゃんのお陰で日の目を見ることがなかった【鍛冶】スキル。その一端であるアイテム複製。品質は数段落ちるものの、素材消費でアイテムを複製するという藜の隠し玉がここに開帳された。

 

「そんなこと言うなら、ユキ君と未だに同じ布団で寝てるし!!」

「語るに、落ちました、ね。セナさんに、連れ込まれて、私も、してます、よ!!」

 

 その使い道は、投擲。人間の持つ最大の力は物を投げることとも言われるほどに、そして投槍という競技が存在するほどに、そして槍の自壊を前提とした強力な(アーツ)が投擲ベースであるほどに、全てのピースが綺麗に嵌っている。

 

「だ、だったら、ファーストキスは、私が奪ってるもん!」

「ユキさんが、起きてる時は、私、です!!」

 

 そして何より、藜の槍は爆発する。何処ぞの弓兵ではないが、壊れた幻槍は桁違いの脅威になり得る。その証拠に、投擲と爆散、衝突と起爆を繰り返して段々とセナのHPも削れていく。両者HPは既に危険域(レッドゾーン)、超速で安全圏からは外れていた。

 

「私の、方が! 好き、なんです、から!」

「私の方が好きだもん!!」

 

 当然セナも迎撃するが、今度はこちらの火力が足りていない。回避盾兼物理アタッカーをメイン(ロール)としている弊害の、知力(Int)不足。例えペットと合一しても足りないそのステータスが、幻影は兎も角明確な火力の差として現れていた。

 

「昔のことを、何も知らないくせに!」

「これから、知って、いけば、いいん、です!」

「年下!」

「年増!」

「貧乳!」

「ぺったん!」

「ロリ体型!」

「くびれなし!」

 

 轟く爆音により、その会話が聞こえる人物は非常に限られている。例えばユキの様に空間認識能力をフルで活用している者、または読唇術で唇の動きを読んでいる者、或いは単純に耳が良い者辺り。

 

 そして、その全ての条件を見事に満たしているユキは──

 

「ほら爆破卿、お前の嫁だぞ。何かコメントはないのか?」

「いっそ殺して下さい……」

 

 実況席で、真っ赤な顔で撃沈していた。

 大惨事正妻戦争、その言葉に偽りなし。

 




感想評価&コメいつもありがとうございます! 
見た目が綺麗なので味を占めました
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