幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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アストルフォとかモーさんとか、エル君とかエルフナインくんちゃんが可愛いので今期は満足です。

跡今更ですけど「君の膵臓を食べたい」ってなろう産だったんですね


第20話 ボスと機械とキチガイと

 僅かな浮遊感とともに、いつも通り飽きるほど訪れた霰の降るボスフィールドに俺は降り立った。昨日まではここで散々死んだけれど、今日は違う。

 

「そーれッ!」

 

 ギシャアァッ!?

 

 泥の中から【ヘイル・ロブスター】が現れた瞬間、俺が出力150%【投擲】で投げた2つの《パラライズボム》がボスの目の前で爆発した。前回のらんらんと違ってこのザリガニはこっちがフィールドに入ってから出現するタイプだったので、出現場所さえ把握しておけばこんな感じで起き攻めを……って、あまり時間がないんだった。

 

「《障壁》《障壁》《障壁》更に《障壁》!」

 

 ボスが麻痺で動けない10秒程度の間で、俺は可能な限りMP消費を減らした《障壁》で作り出した()()を駆け上がっていく。元々障壁が空間設置だからこそ出来た芸当だ。

 この時点で分かるだろうが、今回俺が考えた作戦は至って簡単。遠距離攻撃のないボスを、安全圏から爆殺しよう。これに尽きる。この世界で空を飛ぼうとするなら、バリスタ的なもので射出されるか魔法で吹き飛ばされるくらいしか方法はない。それ故に、ボスの対空性能は全く存在しないようだった。

 え、魔法? 銃? プレイヤー? 当てられるに決まってるじゃん(真顔)

 

「そーれ2回目!」

 

 麻痺の効果が切れたザリガニの目の前で、今度は4つの《パラライズボム》が爆発する。多分これで拘束できるのは6秒、まだハサミでの振り下ろしが当たる高度なので、もっと高さを稼がないといけない。

 

「これでラスト!」

 

 ハサミを振り上げこちらを威嚇し始めたザリガニの口元で、再び4つの《パラライズボム》が爆発する。最後のこれで拘束できるのは4秒。全く耐性というのは面倒なものである。

 

「さて、ここまで来れば十分だな」

 

 ギシャア! ギシャア!!

 

 遥か下でザリガニがハサミを振り上げ、振り下ろし降りてこいと叫び声をあげている。折角安全圏まで来たっていうのに、降りるわけないじゃないですかやだー。落ちたら落下ダメージで死ぬし。足場が直径100cmの円だから下手したら落ちるけど。

 だけどもう、ここまで来たなら後は作業だ。

 

「本日の天気は、霰時々爆竹。特に意味もない暴力に襲われたくない方は、該当地区に近寄らないようにしましょう。……自分で言っておいてないなコレ」

 

 腰の簡易ポーチから取り出した爆竹を、下に向けて放り投げる。ヒュ〜という気の抜ける音を伴い落下していった爆竹は、寸分違わずザリガニに命中し大きな爆発を引き起こした。よし、これなら適当にやっても十分に当たるだろう。

 

「たーまやー! うん、こっちはしっくりくる」

 

 どこぞのマフィアの10代目の右腕風に、簡易ポーチから取り出したフィリピン爆竹を下に向かい投擲する。不自然なまでの誘導で、全弾命中。

 

「さて、後何個で沈むのかな」

 

 簡易ポーチ内の10スタックが空になっても、本来のアイテム欄にまだまだ大量の爆薬は詰まってるからどの道終わりではある。MPが保てばの話だが。

 

 よし、切り替えて偶には派手に歌でもかけながらやろう。かけるだけで歌わないのかって? 歌うこと自体は好きだけど、色々と察してほしい。いやちょっと待て。別にここには俺1人しかいないんだし、歌ったって問題はないんじゃ……

 

「それじゃあちょっと失礼して。♪〜」

 

 ギシャァァァッ!!??

 

 流している歌に合わせて軽く歌い始めた途端、下から断末魔の叫びみたいな音が聞こえてきた。あーあー、そんな声爆音で聞こえませんー!

 

 ・

 ・

 ・

 

「っとと、終わったかな?」

 

 気持ちよくアニソンを歌うこと十数曲。フルだから大体1時間もしない程度の時間、変に誘爆しないよう注意して爆竹やら毒薬やらを落とし続けていると、気がつけば下からは何の音もしなくなっていた。使用したアイテム数は大体3スタック、森を焼き払ったのと同等の地味に痛い出費である。

 

 下を覗いて確認しても、そこには滅茶苦茶に抉れた地面しか残っていなかった。あ、いつの間にか霰やんでるじゃん。落ちたら死ぬのは確定的に明らかなので、登ってきたとき同様《障壁》で階段を作りながら地上へと降りていく。

 

 ボスを倒した割には、らんらんを出荷したときのようにメッセージが来てないと思っていたが、地面に降り立った時点でピロンという受信音が鳴った。俺の行動がイレギュラーだったのか、システムがガバガバなのか……

 

「まあ、別にいいか」

 

 内容は前回と同様、討伐に成功したから第3の街に進めるようになったこと。そして、なんかレアスキル取得チケットを貰った。スキルかぁ……今はそこまで必要じゃないから扱いは保留ってことで。

 

「それじゃまあ、とっとと第3の街……なんだっけ、ギアーズ? に行くとしますか!」

 

 第3の街は、地理的にはここから西南西……始まりの街の、真西に位置している。辿り着く方法は、このまま湿地帯を進むか、始まりの街西部奥に存在する謎の遺跡を踏破すること。無論俺はここから南下する。無理に時間をかけたくないし。

 

 MPはあんまり残ってないけど、多分到着はできるだろう。小さな川を1本渡る必要があるし、ガチな沼地もあるけど……まあいけるいける!

 

 

 行けませんでした。

 

 沼地を越え小川を渡り、背の低い草が生え、街道が整備されている場所に出た瞬間、何か途轍もない衝撃を横からくらい、回転しながら吹き飛び頭から着地して普通にリスポンと相成った。

 そして、再び時間をかけて第3の街付近まで来たのは良いのだが……

 

「さっせんしたぁぁぁ!!」

「えぇ…? いや、その、とりあえず頭を上げてくれません?」

 

 なぜか俺は、軍服っぽい装備の人に土下座されていた。土下座している人の隣には大きなバイクがあり、頭を上げてくれる気配が一切ない。こ、これが本物のDOGESA……

 

「とりあえず、何がなんだかわかりませんけど話は聞きますので……というかあなた誰ですか?」

「あざっす!」

 

 何だろう、体育会系のにおいを感じる。苦手なんだよなぁ……こういうタイプの人。沙織(セナ)だけで俺のキャパシティはいっぱいです。

 そんなことを思っていると、彼?は土下座から立ち上がりビシッと敬礼をして言った。ん? ちょっと待って。この人の性別、どっちだ? 骨格で判別とか無理なんで。声も……うん、どっちとも判断できる。よし保留。

 

「オレはリシテアっす。ギルドは――」

「もしかして、モトラッド艦隊の?」

「なんで分かったんすか!?」

 

 いや、だって名前がまんま同型艦のアレだし。あのイベントで3位入賞してるギルドだったし。まあ、覚えてたのは個人的な部分もあったりするけど。

 

「まあ分かり易かったので。それで、いきなり土下座をしてきた理由はなんですか?」

「それはさっき、オレがあなたを轢いたからっす」

「ははぁ」

 

 なるほど、さっき吹き飛んだのはそれが原因か。現実じゃなくてよかったなぁ、本当に。魔法込みならともかく、身体能力だけでバイクを躱すなんてことさすがにできないしね。

 

「……怒ってないんすか?」

「まあ特には。死んでリスポンとか慣れてますし。だから気にしないでもらって大丈夫ですよ?」

「いえダメっす! 意図しないPK(プレイヤーキル)をしておいて、何もしないままだなんて色々とダメっす!」

 

 律儀な人だなぁ。正直今更1回轢かれた程度じゃなんとも思わないし、大丈夫って言ってるのに気にしてくれる。良い子だなぁ……(謎の年寄り並感)

 まあそれはいいとして、なんか適当なことをお願いしてチャラにしてもらおう。

 

「あー、じゃあアレです。ちょっと乗ってみたいので、街までバイクで送ってもらうことはできますか?」

「お安い御用っす。でも【騎乗】スキルがないと、ちょっと速度を出しただけで振り落とされるっすよ?」

「それなら一応持ってるので大丈夫です」

 

 よかった、【レンジャー】のスキルがあって本当によかった。元々俺が考えていた高速移動の手段は、ギアーズで手に入る()()()だったのだ。バイクがこうという事は、恐らくその全てが【騎乗】のスキルがないと十全に扱えないのだろう。この巡り良さは、確実にLuk極振り。

 

「珍しいっすねー。よっと、それじゃあ乗ってくださいっす。えっと……」

 

 そう言いながらリシテアさんはバイクに跨り、背後のシートをバンと叩き、そのまま言葉に詰まってしまった。そういえば、俺自己紹介してなかったじゃん。

 

「あ、俺はユキって言います。短い間かもですが、よろしくお願いしますね」

「よろしくっすユキさん!」

 

 それで得心がいったようにリシテアさんは頷く。そして、俺がシートに座ったことを確認するとバイクのエンジンをかけた。途端に腰に大きな振動が伝わり、耳には心地の良い排気音が聴こえてくる。

 

「それじゃあ行くっすよ!」

「っ、《障壁》!」

 

 予想を超えた加速で吹き飛ばされそうになる上半身を、初対面の人に抱きつくわけにはいかないので《障壁》で支える。それから数秒は身体を支えることに集中するはめになったが、それが終わったときに見えた風景は圧巻の一言だった。

 

「速い……」

 

 全身に響く振動、目まぐるしく変わる風景、うざったいほど押し寄せてくる風。そのどれもが、今までの俺のUPOには存在しないものだった。

 今までのプレイも十分楽しかったが、これはヤバイ。嵌りそうだ。こういうのを一粒で二度美味しいとかいうのだろうか? 元々考えていたことだったが、今決めた。買おう、バイク。

 

「すみません! ギアーズで、バイクを扱ってるお店で良さげなところ知りませんか!?」

「それならウチのギルドに寄るといいっす! 店売りより割高で手間もかかるっすけど、その分性能は段違いっすから!」

「それは良いですね!」

 

 走行中なので声が大きくなってしまったが、それもまた醍醐味的なものだろう。いや、本来はヘッドセットとかが必要なんだったっけ? そもそもヘルメット被ってない時点で比較に意味はないか。

 というかそんなことより、ウチは喫茶店、支部はバイク屋、元極振りさんたちのところは露店販売だし、上位ギルドはどこも副業とかをやってるんだろうか?

 

 そんなことを考えながら乗っていること数分、あっという間にバイクは第3の街に到着していた。徒歩とは比べたらいけない速さだねこれ。

 

「それじゃあ、送ってくれてありがとうございました」

「いえいえっす! これからも機会があればよろしくっすよ!」

 

 そして機械仕掛けの街に入ってすぐ、俺とリシテアさんは別れることになった。なんかギルドの方でやることがあるらしい。バイクに乗って凄い速度で去っていくリシテアさんは、フレンド欄で確認したらちゃんと男の人だった。ギルメンと元極振りの人達を除いたら、二人目のフレンドという悲しさ。

 

「さってと」

 

 そう言ってコートを羽織り直し、俺は手元に浮かべた地図に表示されているひとつの施設に足を向ける。

 その施設の名はカジノ。普通のプレイヤーにとってはただの娯楽施設やロールプレイの場所程度の価値しかない場所だろうが、俺にとっては十分に主戦場たり得る。

 

「目標金額まで、一先ず稼ぐのを目指しますか!」

 

 移動中に聞いたバイクの値段は、現実を基準に色々と調整しているらしいが馬鹿みたいに高い。その中でも大型の部類の物を買うには財布が心もとないし、運が勝負を握る場所に行くことを強いられているんだ!(集中線)

 

「目指せ100億!」

 

 極振りしたLukが一番輝くのは、そういう場所に他ならない。それじゃあ一丁、本気でやりに行くとしようか。




ユッキーの歌の下手さ? レイン上将軍くらいかなぁ(分かる人にしか分からないネタ)

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